1week 魔法少女の卒業試験

石嶺経

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金曜日

「キャスト・オフ!」(8)

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 さらに数時間が経過した。

 ナナは飽きもせず破壊活動に勤しんでおり、俺はその横で一心不乱に『俺は魔法が使える』と書き殴り、真っ新だったノートを無意味に汚し続けていた。まともな人が見ていなら現代の闇と言うに違いない。だが、ここまで派手なことをしていても、とくに苦情も無く、スペードが飛んでくることも無かった。何だか此処だけ世界から切り離されているみたいだ。
 序にさっきの二人もどこかへ行ったようだ。家からノートを持って、一応警戒しながら戻ってきたのだが、何処にも居やしない。まあ、魔法で隠れているならお手上げだ。

「ふー。さすがに疲れましたね。魔法少女ガス欠間近ってところです」

「ガス欠……」

 言いながら意識が何処かへ行ってしまっているのと、それでも手が動いているのに気が付いて驚愕した。人はこんなにも心を失くせるものなのか。

 いかんいかん。
 体の一部と化したシャーペンを切り離し、序に両の手で顔を叩く。
 痛みと共に、ほんの少しだけ意識が戻ってきた。

「ガス欠、ガス欠ね……。ん? エネルギー切れが近いってことか?」

「それ以外にどんな意味があるんですか。彰彦さん、だいぶ出来上がってますね」

 別に酔っぱらってなどいないが……そうでもないか。いやいや、それより。

「ガス欠って大丈夫なのか。明日の決戦で魔法が使えない、なんてことにはならないよな?」

「ならないですよ。寝て起きたら回復してます」

 そんなゲームみたいな。

「でもでも、疲れたのは事実なんで、気晴らしに彰彦さんに魔法でも教えましょうかね」

「何だその口調……」

 というか師匠呼びはやめたのか。別に俺も気に入ってないし、どうでもいいけど。

「何ですかその眼は。魔法ですよ? もっと楽しそうにしてくださいよ」

「そうは言っても、」

「ストップ!」

 うわっ、ビックリした。
 え、何でいま怒鳴ったの。滅茶苦茶ビビったんだけど。

「さっき言いましたよね、信じることが大切だって。楽しそうにはしなくてもいいですけど、『どうせ使えないし』みたいな突っ込みはいれないでください」

「はい」

「それからあたしのことは師匠と呼んでください」

「はい」

 あれ? おかしくね?
 立場が逆転してるんだが。

「まあ、いいでしょう。今からあたしの指示に従ってください。なるべく何も考えないで、もし何か頭に浮かんだら『俺は魔法が使える』で上書きしてください」

 いよいよカルト……俺は魔法が使える、俺は魔法が使える……。

「良い感じです。では声に出して」

「俺は魔法が使える、俺は魔法が使える」

「もっと使えそうに!」

「魔法が使える! 俺は魔法が使えるぞ!」

「もっと! もっとです!」

「ぅ俺は魔法が使えるぅう! 魔法が使えるぞぉおお!」

「完璧です! ではあたしの後に続いてください!」

「あたしの後に続いてください!」

「それは言わなくていいです! いきますよ、奥義!」

「ぅ奥義ぃいいい!」

「キャスト・オフ!」

「キャスト・オフ!」

 魔法少女と人間、二人の声が響き渡る。が、反響するようなものも別に無い(ナナが全部壊した)ために辺りは一瞬で静けさを取り戻す。

「……?」

 俺は自分の体を舐めるように見る。魔法少女のコスチュームに変わったりすることもなく、薄汚い寝間着のままだ。今気が付いたけど、ノート取りに行ったときに着替えておけば良かった。

 顔を上げて、周りを見渡すが、砂で出来た球も無いし、火柱とやらも上がってはいない。その他、吃驚するような超常現象も起きてはいない。

「なあ、これって」

 ナナの顔を見ても、表情以外に何も分からない。読心術も使えないみたいだ。

「失敗ですね」

「失敗か……」

 ほっとしたような、がっかりしたような。

「ちなみに成功してたらどうなってたんだ?」

 ナナは俺の胸辺りを指差し、そのまま垂直に指を下ろす。
 えっ、なに? このタイミングで服装にダメだしすんの?

「服が弾け飛びます」
 
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