9 / 36
第一章 クイナ
08.貪り喰らう黒い爪 ※
しおりを挟む散々に体液を交換した。
唾液、汗、精液、それでもお互いの熱はなかなか引かずに三日が過ぎた。
二人とも、いつイッてるのかも定かではない程に、何度となく絶頂を迎え、それでも完全に身体が醒める前に次の快楽に溺れる。そんな事を繰り返している。
過去何度も発情期を体験しているカジュリエスでも、まるで初めての時のように、震えがくる程の快感に襲われる。これと決めた相手と過ごす発情期とは、言葉で表すことは難しい程に良いものだと、この年で初めて知った。
今までを知っているカジュリエスからすると、発情期とはだいたい今頃がピークでこれから同じだけの時間をかけておさまっていくのだと理解しているし、普段から体力勝負の仕事でもあるのでまだまだ余裕だがレイルは辛そうだ。
体力的についていけないのだろう。
脚を開いてカジュリエスを正面から受け入れ気持ちよさそうにしているが、多少顔色が悪いように思う。
それでも抱き続けたいなんて。
むしろ、その快楽に歪む青白くも見えるレイルの顔の赤い唇、それからその色白の肢体を限界まで開いた太ももの鮮やかなオレンジ色の対比を見ているだけで自分の性欲を止めることができないなんて。
本当に、どうかしている。
発情期の間、自分勝手に相手を貪り続け楽しく過ごして終わってみたら、捨てられました、なんてシャレにもならない。全く楽しくない未来に恐れを感じて、ゆっくり、自身の陰茎を引き抜いた。
レイルは震える。
震えながら、なんでぬくの、と小さく囁くように声を上げる。
「ちょっと、……揺れるぞ」
「ん……」
この三日幾度も同じ事をされたために何をされるか理解し大人しくなったレイルを、横抱きにして持ち上げた。
「少しだけ、休憩。な。風呂行って、果物でも食おう」
「ん、……果物、いらない、だから、続きしたい」
「だめ」
「カジュリエス、けち……」
「はいはい、けちで結構、口の悪いお姫様だな」
「どうして……」
「ん?」
「医官の人がきたとき。どうして外から肩に担いで戻ったの、今みたいに横に抱いてくれたら、近くて顔が見えて良かったのに」
「……暴れられたら、困るだろ」
「暴れないけど……」
顔を見て運んで、少しでもレイルが自分を嫌がる表情を見つけてしまったら自分はきっと傷ついてしまうと思ったし、番だと思っていたのは自分だけだったなんて、そんな事実を受けて情けなさ過ぎて顔が見えるような抱きあげ方をする事が出来なかった。
とは、言わない。
言えない。
プライドが邪魔をする。
レイルを抱えたまま、湯に浸かる。
鳥は砂浴びも水浴びも好きだ。
そのせいかわからないが、西浮国では風呂事情には恵まれており、大抵の家では常に湯がなみなみと張られ循環し、いつでも使えるようになっている。
カジュリエスは長い事、西浮国の風呂事情を、基となった鳥の習性からきていると理解してきた。
しかし今になって、発情期がある種族だからという事情もあるのか、とも思い直した。
いくら身体がどろどろになろうと、すぐに洗い流せるのは便利だ。
湯に浸かったまま、レイルの後孔へと指をのばした。
ぴくり、と肩を震わせながら、レイルが上目で見つめてくる。
「自分で、だしたい」
「何度も言ったはずだ、これは俺がやる。そろそろ覚えろ」
「だって恥ずかしい……」
「だから……それも、そろそろ覚えろ、俺を煽るだけだ」
「……んん……」
目をぎゅうとつぶりながらこれから起こることを受け入れるために腕の中で恥ずかしそうに小さくなる存在に、また不埒な気持ちが沸き起こる。
今のところ七割ほどの確率でこのまま更になだれ込んでいるが、今回はどうか。
どちらでもいい。どちらであっても、少なくても残り三日は、お互いこの発情期に付き合ってもらわないといけないのだ。
カジュリエスはレイルの後孔に散々に出した自身の精液を指で掻き出しながら、掻き出す以上の動きをさせながら内壁を探った。襞を数えるように、やわやわと指を動かす。くぐもった喘ぎ声が聞こえる。自分の腕に唇を寄せてしがみつきながら、快感に耐えるレイルが見えた。悪くない反応だ。
なだれ込む確率が八割に増えるな、そんな事を考えながらも更に指を奥へと進めた。
その後。
カジュリエスの予想通り、およそ三日程であの異常とも思える発情期の熱は去って行った。
発情期の間は仮眠程度にしか休んでいなかったので、熱が去った時には二人とも、倒れ込むように眠った。
眠る直前に聞こえたのは少し笑いを含んだ優しいレイルの声で「……有精卵産めそうだわこれ」と言うもので「あぁ、そうだな産め」と応えたつもりだったのだけど、果たしてレイルに聞こえたかは分からないままカジュリエスの意識は真っ暗な中へと落ちていった。
真っ暗な中へと落ちた後は、明るい所へ登ってくるのみ。
体感的に丸一日を睡眠に費やして、晴れ晴れした気持ちで起き上がったカジュリエスは、まだ隣で眠るレイルを起こさないようにそっと立ち上がった。
湯を使い、食料を仕入れてこなくては。
外に出て、真っ先にした事はバルチャーに連絡を取る事だ。
仲が良いとは言え、全てを任せて休んでしまった。
自分はまだ良い。言い方は変だが、発情期に理解のある職場だから。だけど、レイルは。彼は、彼の職場はどうだろうか。浮島亭に孵卵施設育ちの人がいるようには思えなかった。理解されるだろうか。
バルチャーへと、通信魔術を繋いだ。
『あ、カジュリエス? おつかれさま、どうでした、番との初めての発情期は』
「おかげさまで。それよりレイルの職場のことだが……連絡しておいてくれたんだよな? どうだった?」
『……それなんだけど……君のレイルは、今の職場に何か思い入れはあるかな?』
「知らん、何かあったのか」
『浮島亭の店主がねぇ……発情期のある人間は、どうもいらないと思っているらしくて。休むでしょう、定期的に。それが困るって言われまして、……とりあえず、発情期あけたら番と話をさせに行くって言ってあるから、辞める辞めないの話は一旦保留になってますけど……近いうちにあなた、一緒に行ってあげるといいですよ』
「……そうか、わかった。俺もなるべく早く出勤する。色々ありがとう」
通信を切って、やはりな、とため息を一つ。
レイルは、どう思うだろうか。
十八歳から勤めていると言っていたように思う。成人してから勤め続けている店を、こんな、まるで予期しない嵐に巻き込まれたような発情期で事実上解雇されても良いと思えるものだろうか。
レイルが好きだ、愛してる。他の人間なんて考えられない、俺の全て。
そんな事を常に思っているのに、カジュリエスはレイルの事を恐ろしい程に知らない、という事を改めて自覚してしまった。
好きな色、好きな季節、嫌いな食べ物や、嫌いな匂い、お気に入りの服、お気に入りの場所、どんな生い立ちで、どんな友達がいる、何をしたら喜んで、何をされるのは嫌なのか。
そんな、彼を形作るようなものを何も知らない。
知っている事と言ったら、好きな体位や、触られて気持ちが良い場所、舐められるのを喜ぶ場所、そんな事ばかりだ。
改めて思った。
やばい、レイルが睡眠からさめて冷静になったら、俺捨てられる。
レイルの目が覚めたら。
捨てられそうになる前にまずは湯に運ぼう。不埒なことはせずに身体をきれいにし、食べ物を与え、気分が良いところで改めて浮島亭の話しを教えよう。
その上で、レイルが浮島亭に残りたいと言うなら自分の……何か力添えができるかはわからないが、できる協力は全てしよう。
もしも浮島亭にこだわりがないと言うなら、一緒にこれからについて話し合おう。
その為には、さっさと食事を仕入れて帰らなくては。
カジュリエスは果物屋へと走り、レイルの好きそうなものを次々に買い込むと、レイルの家へ向かう。
脚の速さには自信があるのだ。
この先には、たくさんの楽しいことが待っているはずだ。
レイルに捨てられず、これから起こるはずの楽しい事全部を一緒に経験する為にカジュリエスは全力で走った。
23
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる