縄文の空の下でー星の記憶を継ぐ者

相楽庵

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第二十三話 アシリが時空の中心に

 六本柱建造物の上層へ駆け上がった蒼穹とアシリは、光球の前で立ち止まった。
 光球は激しく振動し、まるで苦しんでいるかのように光を乱している。 六本柱建造物の外では時間寄生体の進化型が村を襲い、村の人々の悲鳴と怒号が響いていた。
 
「アシリ……光球が危ない!」
「分かっているよ。“時の流れ”が乱れすぎている。このままでは村だけでなく、この地方一帯が消滅するかもしれない」
 アシリは胸元の翡翠を押さえた。翡翠の光は、光球と同じリズムで震えている。
「アシリ…… 君の体はもう限界だ。これ以上、光球と共鳴したら、とんでもないことになる!」
「ソラ、わたしには……分かっているの」
 アシリは蒼穹の恐れをなだめるように首を振った。
「何を分かっている?」
 アシリは光球を見つめていた。その瞳は、翡翠のように深く澄んでいた。
「わたしは“時空の中心”に選ばれたの。光球が沈黙した時…… わたしの中の“星の記憶”がその役目を引き継いだと分かった」
 恐れていた言葉を聴いて、蒼穹の胸が締めつけられた。
「アシリ…… それって、君が犠牲になるってことじゃないか!」
「犠牲ではないよ。これは……わたしが巫女として育てられた意味だからね。…… あなたが未来へ戻ったあと、わたしはずっと考えていた。あなたが守ろうとしている世界を私も守りたいと」
アシリは微笑んだが、その笑顔は、どこか寂しかった。

 蒼穹はアシリを抱きしめた。
「アシリ、君がいなくなったら……僕はどうすればいいのだ!」
「ソラ、悲しまないで」
 アシリは蒼穹から身体を離しながら、優しく言った。
「わたしは……消えるわけではないの。“時の流れ”の中に溶け込むだけ。わたしが風となり、星となり…… あなたの未来を、ずっと見守ることができるから」
 蒼穹の目に涙が滲み出した。
「そんなの嫌だ。やめてくれ!…… 君はいつまでも今のままでいてほしい」
「ソラ、…… あなたがそう言ってくれるのはとても嬉しい。でも――」
 アシリは光球に手を伸ばした。
「この世界を守れるのは……私だけだから」

 光球がアシリの手に反応すると、いっそう強く光った。
 蒼穹は思わずアシリの腕を掴んだ。
「アシリ、やめろ! 君が“時空の中心”になったら……この世界に戻れなくなる!」
 アシリは蒼穹の手をそっと外した。
「ソラ、あなたが未来を守ろうとするように…… わたしは、この世界を守りたいのです」
「アシリ…… 僕は、僕は……君を失いたくない……」
 蒼穹は震える声で叫んだ。

 アシリはソラの頬に顔を寄せた。
「ソラ…… あなたがこの三内丸山の地に来てくれて、とても私は幸せだった。あなたと過ごした時間は…… 風が運んでくれた奇跡だった」
 蒼穹の涙が頬を伝い落ちた。
「アシリ…… 君を守りたい」
「わたしも同じ気持ち……あなたの未来を守りたい」
 アシリは光球の前に立ち、深く息を吸った。
「ソラ…… わたしの決意は変わらない。“時空の中心”に立ちます」
「アシリ、待ってくれ!」
 蒼穹は叫んだ。

 アシリは振り返り、微笑んだ。
「大丈夫だよ。あなたがいる限り……私の存在は消えない。風になって……あなたのそばにいつでもいるから」
 光球が強く光り、アシリの体を包み始めた。
「アシリ、行くな!」
「蒼穹…… あなたを愛している」
 アシリは最後に、優しく言った。

 光が爆発し、アシリの姿が光球の中へ吸い込まれるように消えていった。
 蒼穹はその場に崩れ落ちた。
「アシリ……アシリ……!」
 すると、風が吹いた。優しく、温かく、懐かしい匂いを運んでくる。まるでアシリがそばにいるかのように。

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