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3 バブーシュカとベンジャミン ~2匹の生い立ち(1)~
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*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
バブーシュカとベンジャミンの生い立ちについてお話ししておきましょう。
バブーシュカの産まれた場所はセント・ポピー村から遠く離れた都会の町中で、お母さんは生粋の野良猫でした。
廃墟ビルの一階に放置されていた樽の中で、お母さん猫はバブーシュカを含む5匹の子猫達を産みました。
皆白地にポイントカラーの、良く似た子猫でしたが、その中でバブーシュカが一番おチビさんでした。
お母さん猫に樽から運び出され、廃墟ビルの外に出てから間もなくすると、子猫が5匹から6匹に増えました。
突然増えた6匹目は灰色のフワフワした子猫でした。
目が開いて間もない灰色の赤ちゃん猫が道の真ん中で、危うく人間に踏まれそうになりながら、一人ぼっちで鳴いていたのをバブーシュカのお母さんが見つけたのです。
お母さん猫は、その灰色の子猫をバブーシュカ達がいる寝床に持ち帰り、自分の子供として育てました。
その灰色のフワフワした子猫がベンジャミンです。
バブーシュカもベンジャミンも、赤ちゃんの頃から一緒に育ったので、血の繋がった兄妹では無いことをお互いに知りません。
でも、本当の兄妹じゃないことは2匹にとって重要ではありませんでした。
2匹はお互いが大好きで、それは今も昔も変わりません。
ちなみに、どちらが先にこの世に生を受けたのかは分からないのですが、お母さん猫の
『身体の大きいほうが年上で、小さいほうが年下』
という取り決めによって、ベンジャミンはお兄ちゃん、バブーシュカは妹ということになりました。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
バブーシュカのお母さんは、安全な場所を求めて引っ越しを繰り返しながら子育てをしました。
都会で野良猫が子供を育て上げるのは容易なことではありません。
道路には車やオートバイや自転車が猛スピードで絶え間なく行き交い、交通事故に遭いやすいですし、人間もたくさんいます。
人間がたくさんいるのは良いことでも悪いことでもあるのですが。
なぜなら、猫に優しい人・無関心な人・意地悪な人、と人間にも様々なタイプがいるからです。
猫に優しい人に出会えば、食べるものをもらえる時があります。
さらに運がよければ定期的に食事をくれる人間に出会えることもありますが、いつまでもらえるかは分かりません。
猫に無関心な人に出会った時は、生きる手助けをしてもらえない代わりに、危害を加えられることもないでしょう。
しかし、猫に意地悪な人に出会った時が大変です。
『あっちへ行け』
と追い払われるのはまだ構いませんが、冬に水をかけられたりすると風邪から肺炎になったりして、命にかかわります。
退屈をもてあました人間の子供が猫をおもちゃ代わりにしようとすることもありました。追いかけるぐらいならまだしも、小石や大きめの石を投げてくる子供も残念ながらいるのです。
ですから野良猫お母さんは自分の子供たちへの教育として、車などの乗り物に気をつけることはもちろん、人間にも気をつけるように子猫達に言い聞かせなくてはなりませんでした。
この、『人間に気をつける』という教育がお母さん猫にとっては一番難しく、優しくしてくれる人にすぐ懐こうとする子猫たちに、お母さん猫はしじゅう気を揉みました。
子猫たちを撫でようとする人間には
『ハーッ』
と、威嚇の子音を出して、すばやく人間から子猫たちを遠ざけました。
人間に対する威嚇と防御を、バブーシュカ達はこの頃から教わっていたのです。
『触ろうと伸びてくる人間の手に、前足でパンチを繰り出す』
という技を、特に重点的に練習させられました。
ほんの少しだけ爪を出すのがコツでしたが、ベンジャミンはこれが苦手で、爪がうまく出せないことが多く、パンチ力もありませんでした。
バブーシュカは遠心力を利用した強いパンチを爪入りで繰り出すことができて、お母さん猫に褒められました。
ーーこれらはあくまでも人間に対する防御の授業で、猫同士のケンカの授業とはまた別でした。
猫同士のケンカはもっと難しく、噛み付いたり後ろ足でキックしたりと高度な技が出てきます。
ただ、あまりしつこい人間に対しては猫同士のケンカの技を使わなければいけないのですがーー
お母さん猫はこのようにして、人間に対して警戒心を持つことをバブーシュカたちに徹底的に教え込みました。
しかし、その一方で、
『優しくしてくれる人間に対して感謝の気持ちを伝えることは大切だ』
とも、お母さん猫から同時に教わりました。
やり方はこうです。
人間が手を伸ばしても届かない位置に座って、対象の人間と目を合わせた直後に両目をぎゅっとつぶるのです。
もし人間が同じことをしてきたら、もう一度両目をつぶる動作を繰り返します。
優しくしてくれる人間とは、この合図を使ってコミュニケーションを取っても良いと教えられました。
「恩義を大切にするのが、正しい猫の道」
野良猫お母さんは時々そう言っていました。
当時はバブーシュカもベンジャミンも幼かったので、『恩義』の意味が良く分かりませんでしたが、今では2匹とも理解していることでしょう。
優しいお母さんでしたが、別れはある日突然訪れました。
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バブーシュカとベンジャミンの生い立ちについてお話ししておきましょう。
バブーシュカの産まれた場所はセント・ポピー村から遠く離れた都会の町中で、お母さんは生粋の野良猫でした。
廃墟ビルの一階に放置されていた樽の中で、お母さん猫はバブーシュカを含む5匹の子猫達を産みました。
皆白地にポイントカラーの、良く似た子猫でしたが、その中でバブーシュカが一番おチビさんでした。
お母さん猫に樽から運び出され、廃墟ビルの外に出てから間もなくすると、子猫が5匹から6匹に増えました。
突然増えた6匹目は灰色のフワフワした子猫でした。
目が開いて間もない灰色の赤ちゃん猫が道の真ん中で、危うく人間に踏まれそうになりながら、一人ぼっちで鳴いていたのをバブーシュカのお母さんが見つけたのです。
お母さん猫は、その灰色の子猫をバブーシュカ達がいる寝床に持ち帰り、自分の子供として育てました。
その灰色のフワフワした子猫がベンジャミンです。
バブーシュカもベンジャミンも、赤ちゃんの頃から一緒に育ったので、血の繋がった兄妹では無いことをお互いに知りません。
でも、本当の兄妹じゃないことは2匹にとって重要ではありませんでした。
2匹はお互いが大好きで、それは今も昔も変わりません。
ちなみに、どちらが先にこの世に生を受けたのかは分からないのですが、お母さん猫の
『身体の大きいほうが年上で、小さいほうが年下』
という取り決めによって、ベンジャミンはお兄ちゃん、バブーシュカは妹ということになりました。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
バブーシュカのお母さんは、安全な場所を求めて引っ越しを繰り返しながら子育てをしました。
都会で野良猫が子供を育て上げるのは容易なことではありません。
道路には車やオートバイや自転車が猛スピードで絶え間なく行き交い、交通事故に遭いやすいですし、人間もたくさんいます。
人間がたくさんいるのは良いことでも悪いことでもあるのですが。
なぜなら、猫に優しい人・無関心な人・意地悪な人、と人間にも様々なタイプがいるからです。
猫に優しい人に出会えば、食べるものをもらえる時があります。
さらに運がよければ定期的に食事をくれる人間に出会えることもありますが、いつまでもらえるかは分かりません。
猫に無関心な人に出会った時は、生きる手助けをしてもらえない代わりに、危害を加えられることもないでしょう。
しかし、猫に意地悪な人に出会った時が大変です。
『あっちへ行け』
と追い払われるのはまだ構いませんが、冬に水をかけられたりすると風邪から肺炎になったりして、命にかかわります。
退屈をもてあました人間の子供が猫をおもちゃ代わりにしようとすることもありました。追いかけるぐらいならまだしも、小石や大きめの石を投げてくる子供も残念ながらいるのです。
ですから野良猫お母さんは自分の子供たちへの教育として、車などの乗り物に気をつけることはもちろん、人間にも気をつけるように子猫達に言い聞かせなくてはなりませんでした。
この、『人間に気をつける』という教育がお母さん猫にとっては一番難しく、優しくしてくれる人にすぐ懐こうとする子猫たちに、お母さん猫はしじゅう気を揉みました。
子猫たちを撫でようとする人間には
『ハーッ』
と、威嚇の子音を出して、すばやく人間から子猫たちを遠ざけました。
人間に対する威嚇と防御を、バブーシュカ達はこの頃から教わっていたのです。
『触ろうと伸びてくる人間の手に、前足でパンチを繰り出す』
という技を、特に重点的に練習させられました。
ほんの少しだけ爪を出すのがコツでしたが、ベンジャミンはこれが苦手で、爪がうまく出せないことが多く、パンチ力もありませんでした。
バブーシュカは遠心力を利用した強いパンチを爪入りで繰り出すことができて、お母さん猫に褒められました。
ーーこれらはあくまでも人間に対する防御の授業で、猫同士のケンカの授業とはまた別でした。
猫同士のケンカはもっと難しく、噛み付いたり後ろ足でキックしたりと高度な技が出てきます。
ただ、あまりしつこい人間に対しては猫同士のケンカの技を使わなければいけないのですがーー
お母さん猫はこのようにして、人間に対して警戒心を持つことをバブーシュカたちに徹底的に教え込みました。
しかし、その一方で、
『優しくしてくれる人間に対して感謝の気持ちを伝えることは大切だ』
とも、お母さん猫から同時に教わりました。
やり方はこうです。
人間が手を伸ばしても届かない位置に座って、対象の人間と目を合わせた直後に両目をぎゅっとつぶるのです。
もし人間が同じことをしてきたら、もう一度両目をつぶる動作を繰り返します。
優しくしてくれる人間とは、この合図を使ってコミュニケーションを取っても良いと教えられました。
「恩義を大切にするのが、正しい猫の道」
野良猫お母さんは時々そう言っていました。
当時はバブーシュカもベンジャミンも幼かったので、『恩義』の意味が良く分かりませんでしたが、今では2匹とも理解していることでしょう。
優しいお母さんでしたが、別れはある日突然訪れました。
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