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なち

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可能性の話

種明かしをしよう

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 彼女、むっちゃんとの出会いはナンパだ。
  こういうと、俺は軽い男だと思われてしまうかもしれない。――いや、まあ今までの俺は実際、ケイハクな男だっただろう。
  大体俺は、お手軽な付き合いしか経験してこなかった。ちょっといいなと思えばすぐに告白して、軽い口調で相手を惑わして、あっちへフラフラこっちへフラフラしている間に、相手に愛想を尽かされてきた。でもそしたら、次にいけばいい。そんな感じで、ナンパも繰り返した。
  むっちゃんもそんな感じで引っ掛けたと言って過言じゃない。

  だけど。
  むっちゃんは、俺達の出会いを春先の事だと思っているし、多分、忘れてしまっているのだろうけど。
  本当は、それより前の十一月の終わりが、俺とむっちゃんの初遭遇だったりするんだ。
  来月にはクリスマスがやって来る。そんな中独り身なんて空しいと、野郎共とナンパしに街に繰り出した。所がどっこい、これ、と思う女が居なかった。友人連中は適当に相手を見つけてはけていったが俺はどうにも乗り切れなくて、気付いたらナンパ仲間には皆相手が居るような有様だった。
  最終的にとりあえずクリスマスだけはどうにかしよう、という、いい加減な結論に行き着いた先に見つけたのが、女子高生だった。
  その子はこのご時勢に珍しく、地毛でしかない黒髪で、お世辞にも可愛いとか綺麗とか、そういう飛びつきたいタイプの女の子じゃなかった。学校の帰りなのか、一人で、尚且つ声をかけにくいような早足で、ちょっと不機嫌にも見える顔――多分寒いからだろう――で、道路の向うを歩いていた。
  何故その子が目に留まったかと言えば、その子がある場所で止ったからだった。
  そこでは一人、ランドセルをしょった小学生が、ある店に続く階段に座っていた。その小学生は何時も、その階段で店を降りてくる母親を待っているのだ、別段珍しい光景では無かった。何時も退屈そうに本を読んだりしている女の子で、何度も見かけた事はあるけれど、ああまた居るな程度にしか思った事がなかった。
  けれど女子高生はその女の子の前に屈みこんで、何か話しかけた。小学生のぎこちない表情と警戒した雰囲気を見れば、知り合いでは無かっただろう。
  女子高生はすぐに立ち上がったから、多分小学生を心配したか何かで話しかけたんだろうな、とは思う。
  何にしても、目に入った時の印象とのギャップを感じて、何となくその女子高生の後を追いかけている自分が居て。
  後は何も考えないまま、何時ものようにナンパしたんだ。
 「お姉さん、暇?」
  って。
  俺の中の印象で、女子高生は少し「可愛い可愛い」と褒めそやせば、警戒心薄く付いて来るイメージがあった。ちょっと笑える事でも言って、ファミレスやマクドナルドみたいな危なげない所に連れていけば、後は割りと簡単で。
  その女子高生がそんな風についてくるようなタイプに見えたわけでは無かったけど、俺はその子をターゲットに決めてしまったわけで。
  なのに女子高生は「暇じゃない」とバッサリ切り捨てて、厳しい瞳で俺を睨んで足早く去ってしまって。
  そりゃあ、もう、引き止める為に伸ばした手さえ届かない程のスピードに、俺は呆気なく置いてけぼりを食らった。
  無視されることも少なくないけど、「暇じゃない」なんてわざわざ断わり文句をくれるのは律儀な気もした。
  まあ、第一遭遇での印象はその程度。

  結局その後のナンパも不発に終わって、俺はロンリークリスマス。その年はバイトに明け暮れて終わった。

  その後もちょくちょく遊ぶ女の子は居たけど、彼女は出来ないまま――気候は緩やかに上昇していった。



  ――そして。
  あの日。
  バイトの靴屋でふと視線をやった先、あの日の女子高生を見つけたのだ。
  思わず店を飛び出して、人波の中に彼女を探している自分が居たのに、自身で驚いた。
  整頓していた靴のかたっぽを握ったまま、自動ドアを出様にお客様にぶつかりそうになったりする位の必死さで、彼女の後姿に目を凝らした。
  あの日の、あの子。
  心臓が騒いで仕方が無かった。もう視界の何処にもいない、あの子。
  名前も知らない、あの子。
  途端意気消沈した俺を、バイト先の後輩が不審な目で見ていたっけ。
  何だか分からない脱力感を持ったまま終えたバイト。溜息をつきながら向かった駅。
  その途中で、またもや、彼女の横顔を発見する俺が笑えた。
  気分は一気に急上昇。
  やばい程ににやける顔を自覚して。
  駆け出した自分を客観的に見た時に、思った。

  ――ああ、これは恋なんだ、って。

  相変らず俺を素っ気無い態度で追い払おうとする彼女に、俺は必死さを隠して縋りついた。
  自分でも何を言っているんだか分からなかったが、彼女が堪えきれないように噴き出したのを見た時に、俺はもう完全に、彼女に落ちていた。



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