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1章 超能力者の存在

9話 苦い記憶

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「んで、その案ってのは?」

「昔一度だけ試したことをもう一度やろうかなって思ってね」

  五時限目まであったオリエンテーションが終わって放課後を迎えた京雅きょうがたちは、近くのファミレスに来ていた。

  二人はドリンクバーだけを頼み、向かい合うようにして座っている。

「勿体ぶるな。どうせロクなもんじゃないだろ?」

  京雅のその問いに対して瑛翔えいとは、コーラを飲みながら少し考える素振りを見せた。

「一度だけ試したんだ。蹴りやパンチする時だけに能力を使えるかね」

  コップに入っている氷をストローでかき混ぜながら語り始めた。

「結果はこの通りさ」

  ストローを回すのを止めてコーラを飲んでいく。

  自嘲気味に笑っているその姿に京雅は全くの関心を抱いていなかった。

「つまり、失敗したんだろ?なのに、なんでまたやろうと思ったんだ?」

  その質問とは裏腹に、京雅はその質問に対する答えに興味が無さそうだった。

「チャレンジした時は……不器用だったから、かな?」

高校生大人になったから出来るかもって?はぁ……違うだろ?本当はお前一人じゃ解決できないから、俺に頼もうとしてんだろ?」

  図星だったのか、肩をビクつかせた。

  その反応を見た京雅はため息をついて、ウンザリしたよう顔をする。

  そのまま背もたれに背中を付けると、いつもの光の無い無機質な目になる。

「まぁ、案を出せって言ったのは俺だしな………手伝ってやるよ」

「っ……!本当かい!?」

  その言葉を聞いた瑛翔は反射的にテーブルから身を乗り出して京雅の手を両手で包むようにしてガッチリと握り、上下に揺らした。

  その行動に一瞬呆気に取られるも、すぐにいつも通りになり瑛翔の顔を睨みつけた。

  だが、そんな事などお構い無しにずっと嬉しそうにしていた。

「とりあえず俺の手を離して席に着け」

「あっ……ごめん、嬉しくてつい……」

  少し申し訳なさそうにするが、それも席に着いた瞬間には無くなり、また嬉しそうな顔を浮かべていた。

「そうだ。一つだけ言っておくが、能力を使うのは俺が近くにいる時だけな。あと、絶対に脳に使おうなんて思うなよ」

「え?うん、わかったよ」

  京雅の言っていることに対してあまりピンと来ていなさそうな顔をしているが、京雅はスルーした。

「善は急げだ。早速今日やるぞ」

「えっ?じゃあ、今からってこと?」

  京雅の発言に驚きを見せるも、京雅はお構いなく、有無を言わせぬ速さでコップの中にあったジュースを飲む干すと、会計に向かっていった。

  それにつられるように、瑛翔も勢いよくコーラを流しんでいく。

  慌てながら瑛翔が店内を出ると、既に行き先が決まっているのか、京雅は迷いなくどこかに歩いて行っていた。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ」

「遅いぞ、全く……」

「僕たちはどこに向かってるの?」

「俺ん家」

  そう短く言うと更に歩くスピードを上げていく。

  それに追いつこうと瑛翔は駆け足で後に着いて行く。

  京雅の家に向かう間、二人の空間に会話はなく、無言のまま京雅の家を目指して歩いていく。

「京雅の家って大きいの?」

「ちっせぇよ」

  その沈黙を破るように瑛翔は京雅に話し掛ける。だが、京雅は話をする気も続ける気も無いのか、簡潔にそう言って会話を終わらせた。

  さすがに京雅の態度に対して不快に思ったのか、顔を顰める。

「京雅ってあんまり人と関わりたくないの?」

「…………」

  先程まで早足で進んでいた京雅の歩みは急に止まり、顔は下を向く。
  
  京雅は瑛翔の何気ないその発言によって脳裏に一瞬だけ異世界過去の記憶が映像のように流れていた。

  京雅にとってその記憶は思い出したくもない記憶ものなのか、険しい顔をした。

  目には殺意すら宿り、顔は憎悪一色に染めていた。

  そして、無意識に放たれる京雅の殺気に瑛翔は思わず立ち眩みを起こしていた。

「……………人ほど信用出来ねぇもんはねぇからな」

  殺気を抑えた京雅はただ一言これだけ言って、再び歩き始める。

  瑛翔は京雅を追うと言う考えは一切浮かばず、その場で立ち尽くして遠ざかって行く京雅の背中をただ見つめていた。

  その遠ざかる背中は今まで見せてきた京雅の威圧的な態度と反してとても弱々しく、寂しそうなものだった。

  だが、その京雅の様子とは裏腹に瑛翔はなぜな嬉しそうな顔をしていた。

「…………そっか、そうだよね。君だっての高校生なんだもんね」
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