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3章 それぞれの特訓

3話 大変な一日 1

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「──であるため、この公式を使って──」

   現在は数学の授業中だ。だが、教室内は授業中とは思えないほどのザワつきだった。

   その理由は窓側の席に座る二人の転校生……リベルトとミリフィアだ。

   偶然か必然か、二人は見事京雅きょうがたちと同じクラスになった。

   瑛翔えいとしょうも少なからずリベルトたちの方を気にしている中、京雅はただ一人、黒板を眺めていていた。

「………これが中学レベルだと?有り得ないだろ」

   約十年もの間一切勉強をしてこなかった京雅の頭には既に中学校で習ったもののほとんどが残っていなかった。

「因数分解……?聞いたことあるが…………なんで、そんな答えになるんだ?」

   授業がどんどん進む中、京雅はただ一人、必死で最初の一問目の問題を解いていた。

「ん……?お……?ふっ、解けたぞ。少しずつ思い出してき………あの問題はなんだ?」

   嬉々とした様子で顔を浮かべた京雅だが、それも一瞬のこと。黒板には既に新たな問題があった。

「ははは……ふざけやがって」

 ~~~~

「大変そうだな。まぁ、リベルトがいれば大丈夫だろうが……」

「そんなに不安なら京雅がフォローにでも行ってみたら?」

   クラスの人たちがリベルトたちの方へ集まるなか、瑛翔と蒋は京雅のところへと来ていた。

   特に瑛翔の机の場所はリベルトたちの前なので、人に囲まれまいと一目散に京雅のところへと来ていた。

「そうだよ。キョーガのイトコだし、あの場に行っても違和感無いよ」

「俺はそういうのが苦手なんだ。勘弁してくれ」

「けど、京雅にあんなイトコが居るとは思いもしなかったよ。今までイトコが居るなんて話、一回も聞かなかったもん」

「話しておく必要が無かったからな。でも、あの二人がコッチに来るって言うから、蒋ぐらいには紹介しようと思ったんだ」

   クラスメイトに囲まれてアタフタとするミリフィアと無駄に自信満々な様子のリベルト。

   そんな二人に不安を抱きつつも、どこか暖かい視線を向けている京雅を見て、瑛翔の顔が綻ぶ。

「それはそうと……瑛翔はさっきの問題、解けたか?」

「うん、解けたよ。まぁ、久々でちょっと時間掛かっちゃったけどね」

「なら良かった。実はあの問題解けなくてな」

「あぁ。まぁ、京雅はアレだもんね。良いよ」

   京雅の事情を察した瑛翔は京雅の提案を快諾した。

「ありがと。あの二人はどうなんだろうな」

「じゃあ、みんなで勉強会しない?僕も不安なところあるし」

「そう?まぁ、その方が楽しそうだし、良いと思うよ。京雅もそれで良い?」

「あぁ」

 ~~~~

「うぅ……学校は怖いところですね」

  現在、昼休み。学生が自由に過ごす時間。リベルトとミリフィアは、クラスメイトたちの誘いを断り、今は京雅、瑛翔、蒋の三人と共に昼食を教室で食べていた。

「大変だったな。あと二時間耐えれば下校だから頑張れ」

「そう言う京雅だって滅茶苦茶授業辛そうだけどね」

「まぁな。でもいつかは慣れるだろ」

  京雅は弁当をカバンにしまい、机を立った。

「どうした?腹でも下したか?」

  唐揚げを頬張りながらリベルトは京雅の方を見た。その発言で瑛翔たちからジト目で見られる始末だ。だが、当のリベルトは一切気にしてる様子は無い。

「授業で分からなかった所を先生に聞きに行くんだ」

「おぉ。真面目だね。良いと思うよ」 

「そうだったのか。俺はてっきり腹を──」

「セーヤは一回静かにね」

「ふふっ。では私も先生に用事あるので一緒に行きましょ」

  そういうと、食べかけの弁当を片付けてミリフィアも立ち上がる。

  リベルトはその様子を見て何かを惜しむような顔をミリフィアに向けた。

「弁当……要らないのですか?」

「今の私には敬語じゃなくても良いですよ?お弁当は食べたいならあげますよ。では京雅さん、行きましょうか」

「あぁ、そうしよう」

「……お弁当、有難くいただきます」

   
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