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1章 クズ勇者の目標!?

クズ勇者、魔王城を攻略する 1

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「………マ!………ーマ!」

 あぁ…耳障りな羽虫が俺の耳の近くを飛んでんのか?

 せっかく気持ちよく寝てたのによ。どうやら相当死にたいようだな。

  ゆっくりと眼を開けると、至近距離にフィールの顔があり、体をビクつかせた。

「あっ、やっと起きた」

  リョーマの反応など気にも留めずに笑みを零した。

  だが、フィールの奥にちょこんと縮こまって暗い顔をするファニの姿が映った。

「ゴミの分際で俺を起こすとはどんな了見だ?」

「これ、見てよ」

  フィールが指差す先には食料を詰め込んだバッグがあった。

 堅パンと水しかねぇバッグに用なんてねぇよ。

「私たちの食べ物をほとんど食べちゃったの」

「はっ?」

 何言ってんだ?こいつ、ついに頭だけじゃなく目もイカれたのな?

 あの量の食料が枯渇するなんて有り得ねぇだろ。

 残り一週間分の堅パンと水が入ってたんだぞ。

『本っ当に申し訳ございませんでしたぁ!!』

  リョーマがバッグの中を覗こうとすると、急に横から土下座をしたファニが現れた。

「おいおい。マジでねぇじゃねぇかよ」

 ギリギリ残ってはいるが、明日どころか、今日の一食分程度しか残ってないぞ。

「テメェが食ったのか?」

『はい!本当に、心から申し訳ないと思ってます!』

  はぁ、とため息をつきフィールを見やる。

「かなり前倒しになるが魔王城に行くぞ。今日中に魔王を殺す」

「殺すのは置いておいて、確かに魔王城に向かうべきかもね」

 俺一人ならばすでに殺していてもおかしくない。だが、ゴミが二つもあるためか、進みが悪い。

「お前らは腹ごしらえしてから来い。俺は先に行ってる」

「リョーマは?」

「要らねぇよ。勝手に食ってろ」

 腹は空いてなくもないが、そこまででもねぇしな。

「リョーマ。私、魔王を話し合いたいの」

  堅パンを水で流し込み、去るリョーマの背中に向けそう言った。

「だから、ちょっとだけで良いから時間が欲しいの」

「勝手にしろ」

 どうせ無理だろうしな。まぁ、成功したところで魔王は俺が殺す。出来ればファニとフィールも始末したいが。

 魔王と戦って二人が死ぬのが一番良いな。

「未来を知ったところで何も変わらねぇんだよ。あいつには未来を変えられるほどの力なんてない」

  思い通りにならない事が立た続けに起きたため、リョーマの心はすさんでいた。

「そろそろ魔王城だな」

 俺はそもそも元の時代に戻れんのか?

  魔王をやっと殺せると思った瞬間、そのことが頭をよぎる。

 そのことを今考えても仕方がねぇな。まだ夢の可能性だってあるしな。

「リョーマぁ!」

「別に来なくても良かったんだがな」

『ついに魔王を討伐する時が来ましたね』

  まだ、魔王城にすら到着していないが、三人は肌で感じ取っていた。

(ヒリヒリするような、肌を刺すような強烈な魔力がだいぶ近づいてきた)
  
  リョーマでさえ少し顔を強ばらせて先に進んでいった。

「これか今代の魔王城か」

 俺の時代の魔王城はもう少し城っぽいが、コイツはいくらなんでも頭おかしいだろ。

  リョーマたちの前に現れた魔王城は城というよりも塔に近かった。

「登るの面倒だしな。壊すか」

  リョーマは魔剣を生成し構えた。

「消え失せろ、ゲスの象徴が」

  リョーマはまるで木を切り倒すかのように剣を塔に対して振った。




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