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3. アリスと催眠術
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アリスは今しがた言われたことをよく飲み込めなくて、一旦頭の中で整理しようと考えた。
(研究が終わるまでこのお城に住むってことは、実質住み込みで働くってことよね?家がそもそもここになるってことは……つまり)
「つまりあなたと同棲しろって事ですか?」
「ど…………。同棲、とは少し違うかもしれません。研究目的での同居ですし使用人たちもいます」
同棲と言われて何やら少し気まずげな雰囲気を出しているノアに、ジンがすかさず質問をする。
「研究期間住み込みをすることになんの意味があるのでしょうか。研究員とはいえそこまでプライベートに踏み込むのは……一応女性なので」
「研究の時以外は何をしていただいても構いません。もちろん女性として不自由なく、不安要素なく暮らせるように準備させていただきます」
そう言うとしばらく何かを考えるような顔をしたノアは、何かを決心したのか真剣な口調で話し始めた。
「こちらが隠し事をするのもフェアじゃないと思うので、正直にお話させていただきますね」
ノアの話をまとめるとこういうことだった。まず、アリスとジンにはもとより城を訪れた際に催眠をかけるつもりであった。これは何か悪事を働こうとした訳ではなく、ただ単に吸血鬼に関する一切の情報を外部に漏らさないため。研究に協力をするために、ノアは特殊部隊ASTNの対吸血鬼班以外には情報を漏らさないよう催眠をかける準備をしていた。しかし実際に2人と顔を会わせたとき問題が発生した。通常の人間であればかかる催眠が何故かアリスにはかからなかったのだ。催眠を始める前には必ず目を見て相手の瞳に応答があれば準備は整うのだが、アリスの瞳は一切の反応を示さなかったという。
「ここで考えられる可能性がいくつかあります。アリスさんが特異体質の持ち主の可能性。または人間でない可能性。もちろん吸血鬼相手であれば催眠はかかりませんが、同種であれば必ずお互いにわかります。なのでこの線はありません」
ノアから語られる衝撃的な事実にジンは呆気にとられていた。どこから疑問を投げ掛ければいいのかまるでわからなかったのだ。最初からこちらを信頼をせず催眠をかけるつもりだったのか?アリスは何故催眠にかからないんだ?人間じゃない可能性?とんでもない。そもそも何故住み込みだ、何故こんなことをバカ正直に話す……ジンの頭のなかで疑問や疑念がまとまらず、何から話すべきか考えあぐねていると、横からさっぱりした声が聞こえてきた。
「いいですよ、わたし明日からここに住みます。わたしが何者かわからないからひとまず目の届く範囲に置きたいってことですよね?催眠もかけられないし」
「……アリス。考えることを放棄するんじゃない。話聞いてたのか?同居と言っても人間とは勝手が違う。結論を出すには早すぎる」
滅多に聞くことができないジンの冷ややかな声にも怯まず、何故か自信を持ってアリスは話し始める。
「ジン副班長。心配しなくてもわたしは大丈夫です。それに何故わたしに催眠が効かないのか研究者としても気になります。同居できるならもっと効率よく調べられるかもしれないし」
「それはそうかもしれないが……」
「……わたし吸血鬼に襲われたことが過去10回以上あるんです、実は。一般の人だったら一生経験しないようなものなのに。何か明確な原因がわたし自身にあるんだってずっと思っていました。吸血鬼の研究者になったのも原因が知りたい、ただそれだけの為なんです」
アリスから突如明かされた過去にジンは口を噤んだ。しばしの沈黙が部屋に訪れる。
「……怖く、ないのですか?吸血鬼が」
アリスがノアに目を向けると、ノアの澄んだグレーの瞳に視線が絡め取られた。どこか悲痛な色を含んだ瞳に「ああ、この人は大丈夫だ」と心の中でアリスは呟く。
「怖くないと言ったら嘘になるかもしれない。でもそれは人間に例えると犯罪者を恐れるようなもので、吸血鬼全員を理由なしに怖いとは思えません。むしろ今日吸血鬼に会えるのを心待にしてたくらいだし。バートンさんは少なくとも怖くない」
目を細めて笑ったアリスにノアは密かに息をつく。緊張していたらしい、と自分でも気づかなかった事実にノアは少し驚いていた。
「ああ、でもバートンさんが美形だからなのかな?吸血鬼は怖くない、ただしイケメンに限るってやつ。あははちょっと古いか」
「……」
「…………アリス。アリス。たぶんいまじゃない」
神妙な雰囲気をぶち壊しにしたアリスにジンから複雑な目線が送られると、耐えきれなくなったのかノアがふふっと顔を綻ばせた。
「それでは、契約成立ということでよろしいですか?研究内容はいまから説明していただけると助かります」
「はいもちろん!」
ハツラツなアリスとは対照的に、疑問や疑念が全く片付いてない状態のジンはモヤモヤと晴れない霧の中にいる気分だった。
(でもアリスにはアリスの事情もある、色々汲んでやって信じるのもいいのかもしれない)
そんなことを思いながら、研究内容を説明するアリスをジンは眺めていた。
(研究が終わるまでこのお城に住むってことは、実質住み込みで働くってことよね?家がそもそもここになるってことは……つまり)
「つまりあなたと同棲しろって事ですか?」
「ど…………。同棲、とは少し違うかもしれません。研究目的での同居ですし使用人たちもいます」
同棲と言われて何やら少し気まずげな雰囲気を出しているノアに、ジンがすかさず質問をする。
「研究期間住み込みをすることになんの意味があるのでしょうか。研究員とはいえそこまでプライベートに踏み込むのは……一応女性なので」
「研究の時以外は何をしていただいても構いません。もちろん女性として不自由なく、不安要素なく暮らせるように準備させていただきます」
そう言うとしばらく何かを考えるような顔をしたノアは、何かを決心したのか真剣な口調で話し始めた。
「こちらが隠し事をするのもフェアじゃないと思うので、正直にお話させていただきますね」
ノアの話をまとめるとこういうことだった。まず、アリスとジンにはもとより城を訪れた際に催眠をかけるつもりであった。これは何か悪事を働こうとした訳ではなく、ただ単に吸血鬼に関する一切の情報を外部に漏らさないため。研究に協力をするために、ノアは特殊部隊ASTNの対吸血鬼班以外には情報を漏らさないよう催眠をかける準備をしていた。しかし実際に2人と顔を会わせたとき問題が発生した。通常の人間であればかかる催眠が何故かアリスにはかからなかったのだ。催眠を始める前には必ず目を見て相手の瞳に応答があれば準備は整うのだが、アリスの瞳は一切の反応を示さなかったという。
「ここで考えられる可能性がいくつかあります。アリスさんが特異体質の持ち主の可能性。または人間でない可能性。もちろん吸血鬼相手であれば催眠はかかりませんが、同種であれば必ずお互いにわかります。なのでこの線はありません」
ノアから語られる衝撃的な事実にジンは呆気にとられていた。どこから疑問を投げ掛ければいいのかまるでわからなかったのだ。最初からこちらを信頼をせず催眠をかけるつもりだったのか?アリスは何故催眠にかからないんだ?人間じゃない可能性?とんでもない。そもそも何故住み込みだ、何故こんなことをバカ正直に話す……ジンの頭のなかで疑問や疑念がまとまらず、何から話すべきか考えあぐねていると、横からさっぱりした声が聞こえてきた。
「いいですよ、わたし明日からここに住みます。わたしが何者かわからないからひとまず目の届く範囲に置きたいってことですよね?催眠もかけられないし」
「……アリス。考えることを放棄するんじゃない。話聞いてたのか?同居と言っても人間とは勝手が違う。結論を出すには早すぎる」
滅多に聞くことができないジンの冷ややかな声にも怯まず、何故か自信を持ってアリスは話し始める。
「ジン副班長。心配しなくてもわたしは大丈夫です。それに何故わたしに催眠が効かないのか研究者としても気になります。同居できるならもっと効率よく調べられるかもしれないし」
「それはそうかもしれないが……」
「……わたし吸血鬼に襲われたことが過去10回以上あるんです、実は。一般の人だったら一生経験しないようなものなのに。何か明確な原因がわたし自身にあるんだってずっと思っていました。吸血鬼の研究者になったのも原因が知りたい、ただそれだけの為なんです」
アリスから突如明かされた過去にジンは口を噤んだ。しばしの沈黙が部屋に訪れる。
「……怖く、ないのですか?吸血鬼が」
アリスがノアに目を向けると、ノアの澄んだグレーの瞳に視線が絡め取られた。どこか悲痛な色を含んだ瞳に「ああ、この人は大丈夫だ」と心の中でアリスは呟く。
「怖くないと言ったら嘘になるかもしれない。でもそれは人間に例えると犯罪者を恐れるようなもので、吸血鬼全員を理由なしに怖いとは思えません。むしろ今日吸血鬼に会えるのを心待にしてたくらいだし。バートンさんは少なくとも怖くない」
目を細めて笑ったアリスにノアは密かに息をつく。緊張していたらしい、と自分でも気づかなかった事実にノアは少し驚いていた。
「ああ、でもバートンさんが美形だからなのかな?吸血鬼は怖くない、ただしイケメンに限るってやつ。あははちょっと古いか」
「……」
「…………アリス。アリス。たぶんいまじゃない」
神妙な雰囲気をぶち壊しにしたアリスにジンから複雑な目線が送られると、耐えきれなくなったのかノアがふふっと顔を綻ばせた。
「それでは、契約成立ということでよろしいですか?研究内容はいまから説明していただけると助かります」
「はいもちろん!」
ハツラツなアリスとは対照的に、疑問や疑念が全く片付いてない状態のジンはモヤモヤと晴れない霧の中にいる気分だった。
(でもアリスにはアリスの事情もある、色々汲んでやって信じるのもいいのかもしれない)
そんなことを思いながら、研究内容を説明するアリスをジンは眺めていた。
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