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第1章 ボーイミーツプリンセス
第1話 異世界プリンセス
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「……勇者様、勇者様!」
甘斗は意識を取り戻し、目を覚ます。
甘斗を勇者と呼ぶ声は、まるでアニメのヒロインのような声であった。
「……こ、ここ、異世界だよな!?」
がばりと跳ね起きて、周囲をキョとキョロと見回し、甘斗は確信した。
見慣れぬ空の色と、見渡す限りの赤茶けた荒野、見たこともない植物……。
それに、女神から異世界転移に関わる説明を受けた記憶が鮮明にある。
とうとう自分も異世界にやってきたのだと。
高校一年生男子、志望校への偏差値も釣り合わず、一学期を過ぎると陰キャに収まり、スクールカーストは徐々に下がっていった。特に、スポーツが全然できず、校内の球技大会でお荷物になってしまったのが最悪だった。
一度告白し、恋愛も体験もした。女の子と付き合えると喜んでいたが、「顔はかわいいんだけど……」みたいに言われ、低下するカーストと同じランクにいたくないという理由で、三ヶ月持たず消滅、フラれてしまうという苦すぎる結果に終わった。
だが、異世界というのは平凡な少年が勇者となって大活躍する舞台のはずだ。
テンプレートばっちこいである。
そう、これからは高木甘斗ではない、勇者アマトなのだ、と――。
実際、傍らで呼びかけていたアニメ声の女の子も、アマトを勇者様と呼ぶ。
しかも、淡桃色のドレスをまとう清楚で可憐な姿のお姫様だ。
透き通るような白い肌に薄い金髪、スラリとした腕。胸元は大胆に開いていて、ふわっとした丸い胸の谷間が見えている。
絵に描いたような美少女であった。
――いいぞいいぞ、これだこれ! こうでなくちゃ。
彼女は勇者の力を求めるお姫様に違いない、勇者アマトの冒険を見守るヒロイン。
その役にバッチリじゃないかと、アマトは嬉しくなった。
「神託によって、勇者様をお迎えにまいりました」
「任せて、チートスキルがあるから異世界の危機とかバシッと救ってやるからね!」
「ああ、やっぱり女神様のお告げ通りです! あなたこそ、奪われた宝珠を取り返してくれる勇者様なのですね!」
「そういう設定か、この異世界。勇者だもんな、聖剣とかなんかあるはず」
勇者アマトは、ふたたび周囲を見回す。
どうやら、魔剣やら聖剣やら、そういうものはないっぽい。
現代知識で無双する系チートなのかなと、アマトは思う。
「あの、キミは?」
「待って――」
アマトの声を、そのお姫様が制した。
不穏な気配がしたかと思うと、現われたのは黒いローブをまとった少年に見える。
十二歳くらいだろうか? ここでショタキャラとはあざとい、そう思う。
「そちらが、転生してきた勇者様ですか」
黒ローブのショタキャラは、ニッと微笑んだ。
どこか悪者っぽい感じの笑い方で、お姫様とは因縁のある雰囲気を漂わせる。
パーティインする生意気な少年魔法使いかな? などと勝手な妄想をする。
「追手はあなたですか、マイン……」
お姫様が、憎々しげにショタに言う。吐き捨てるようだ。
残念、パーティインのイベントではなかった。
外見は少年だが、鬼畜で非道な敵キャラという方向性で予想する。
その予想はわりと的中したらしい。
マインと呼ばれたローブのショタが、銀色の横笛を奏でる。
すると、緑の肌の小鬼や鼻のつぶれた豚鬼がずらずらと現われた。
「ゴブリンとオークじゃん!」
「ああ、そっちの勇者様はこいつらが何か知っているみたいだね」
マインは演奏を止めると、嘲るように言った。
ゴブリンとオークとか、勇者が初戦で無双して力を示すにバッチリな相手だ。
今のところ、勇者が何をできるのかまったく不明だが、女神が召喚したのだから初回ぶっぱで楽々勝てるだろう。そうでないと、初回切りされても文句は言えない。
「勇者様、ご安心を。ここはわたしが」
「いや、君。お姫様でしょ? ……ああっ、攻撃魔法かなんか使ってくれてパーティインとか、そのパターンなんだね!」
いや、違った。
ファンローラは身を沈めるように立ち、顎を引き、腕を左右に開いて構える。
「……え?」
その構えは中国武術の九翻鴛鴦脚のものに近いのだが、アマトには格闘技の知識がなく、詳しいことはわからない。
とにかく何かの拳法の構えだとは、なんとなくわかった。
「呼ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……――!!」
お姫様は、深くゆっくりと呼吸を吐いて整えた。
アマトに知識があれば、調息と言われる呼吸法であることがわかっただろう。
戸惑うアマトをよそに、マインは銀笛を構える。
曲が奏でられるとゴブリン、オークたちも戦闘態勢に入った。
「“無双列姫”と名高いファンローラ姫のお手並、とくと拝見――」
「えっ? むそう……何、れっき? なに、それ……?」
戸惑う、勇者アマトを余所に。
調息を終えたファンローラ姫は、無数の敵を前にして微塵の揺るぎもなかった。
臍下丹田にMPを満たし、凛とした瞳で視線を結ぶ。
数は多い、姫は十から先を数えることを放棄した。
どうせ、蹴散らすばかりの雲霞と変わらぬと泰然と微笑んだ。
「悪鬼ども、勇者を始末したら姫は好きにしていい」
マインがいうと、途端に悪鬼どもが下卑た咆吼を上げる。
なんとおぞましい。可憐な姫を、悪鬼どもは慰みものにしようという。
だが、ファンローラ姫は恐れることはない。
「勇者様には一指も触れさせぬ。ほしいというなら、この操《みさお》を取りに来い! ――ただし、その代価、命で払ってもらいます!」
あろうことか、ファンローラ姫は悪鬼の群れに言い放った。
およそ紅顔可憐な姫君が紡ぐ言葉と思えぬ。
しかし、そうはならぬという絶対の自信が彼女に宿っいるのだ。
「ハッ、聞いたか悪鬼ども! ファンローラ姫のその身体、悶え死ぬまでことごとく犯し尽くし、往来に晒して辱《はずかし》めてやるがいい!」
こちらもまた、童子とは思えぬ言葉を応酬する。
そのやり取りに、すっかり勇者アマトは蚊帳の外だ。
マインが銀の横笛を構え、奏でる。たちまちに響く奇技淫巧の曲――。
奇抜にして不必要なまでに技巧を凝らしている、そういう曲だ。
小鬼豚鬼どもは、酔った笑みを浮かべて襲いかかる。
無論、酔わせているのは酒ではない。
妖しげな銀笛の調べ、そして獣欲と殺戮を思い浮かべて酔いしれているのだ。
「ゴブリン、オーク……! “無双烈姫”には物の数ではありません!」
何を思ったかファンローラ姫、あたらスカートの裾を跳ね上げた。
白のガーターベルトストッキングで覆われているものの、若鮎を思わせるふくらはぎからふとももまでが露わになる。
だが、それは居合の抜刀と同じ。ファンローラ姫は一陣の風と化す。
まずは一匹目、足を踏み折るような斧刃脚《ふじんきゃく》。
正面のゴブリンに、一発、二発と二起脚《にききゃく》を繰り出す。
背後に回ったオークは虎尾脚で仕留め、飛び上がっては空中でひねりを加えた騰空擺蓮脚で薙ぎ倒す。
着地と同時、流れるように掃腿からの旋風脚、撥条に跳ねての連環腿、体を横に開いての側端脚――。
上段下段、左右縦横無尽、くるりくるりと体を入れ替え、蹴り、蹴り、蹴りと、無数の蹴りを繰り出した。
そのうち、アマトに数えられたのは幾つもない。
悪鬼どもは、一合たりとも打ち合うことはできない。
まるで小鳥が地を跳ねるがごとく、ぴょんぴょんと、体重を失ったかのように飛び回るそれは、MPを消費して鴻毛《こうもう》のごとく身を軽くする軽功の妙技である。
「ええ……? な、何が起こってるの、この異世界……」
十を数える間もなく、それを遥かに超える数のゴブリン、オークが伏している。
頚椎、顎の骨を砕かれたもの、足を折られたもの、どういうわけか、斬られ、刺し貫かれたかのような亡骸も転がされている。
……で、勇者アマトは、何をすればいいのだろうか?
「見事、さすが人呼んで“無双烈姫”。蹴り技のみで僕の鬼たちを倒すかよ」
「世辞はいりません、“魍鬼百計《もうきひゃっけい》”。退くか、命を懸けるか、です」
“魍鬼百計”、それが銀の笛を使う少年マインのふたつ名だ。
異世界の武林《ぶりん》で、そのふたつ名を聞いて怖気《おぞけ》が走らぬ者はいないという。
ふたりとも、背筋が凍るような殺気を放って睨み合う。
――プリンセスが可愛いのはいい、強いのもまあいい。でも、なんか違うだろ。
アマトはそう思うものの、これがこの《剣と魔法の異世界》の現実だ。
「……フッ、なら今日は退くのを選ぼう。そっちの勇者様は、いまのところ殺す価値もなさそうだ。じゃあね、ファンローラ姫――」
言って呪文を唱えると、マインは閃光とともに消えた。
どうやら、転移の魔法を使ったらしい。
ああ、ようやく自分の知っている異世界らしい展開だとアマトは安心する。
知っている異世界というのも、おかしな話だが。
「勇者様、ご無事で何よりです」
振り返ったファンローラ姫は、凄絶な殺戮の後だというのに、花がこぼれたかのように微笑む。
彼女がこの異世界のヒロイン、人呼んで“無双烈姫”ファンローラ姫。
またの名を、異世界武侠プリンセス――。
甘斗は意識を取り戻し、目を覚ます。
甘斗を勇者と呼ぶ声は、まるでアニメのヒロインのような声であった。
「……こ、ここ、異世界だよな!?」
がばりと跳ね起きて、周囲をキョとキョロと見回し、甘斗は確信した。
見慣れぬ空の色と、見渡す限りの赤茶けた荒野、見たこともない植物……。
それに、女神から異世界転移に関わる説明を受けた記憶が鮮明にある。
とうとう自分も異世界にやってきたのだと。
高校一年生男子、志望校への偏差値も釣り合わず、一学期を過ぎると陰キャに収まり、スクールカーストは徐々に下がっていった。特に、スポーツが全然できず、校内の球技大会でお荷物になってしまったのが最悪だった。
一度告白し、恋愛も体験もした。女の子と付き合えると喜んでいたが、「顔はかわいいんだけど……」みたいに言われ、低下するカーストと同じランクにいたくないという理由で、三ヶ月持たず消滅、フラれてしまうという苦すぎる結果に終わった。
だが、異世界というのは平凡な少年が勇者となって大活躍する舞台のはずだ。
テンプレートばっちこいである。
そう、これからは高木甘斗ではない、勇者アマトなのだ、と――。
実際、傍らで呼びかけていたアニメ声の女の子も、アマトを勇者様と呼ぶ。
しかも、淡桃色のドレスをまとう清楚で可憐な姿のお姫様だ。
透き通るような白い肌に薄い金髪、スラリとした腕。胸元は大胆に開いていて、ふわっとした丸い胸の谷間が見えている。
絵に描いたような美少女であった。
――いいぞいいぞ、これだこれ! こうでなくちゃ。
彼女は勇者の力を求めるお姫様に違いない、勇者アマトの冒険を見守るヒロイン。
その役にバッチリじゃないかと、アマトは嬉しくなった。
「神託によって、勇者様をお迎えにまいりました」
「任せて、チートスキルがあるから異世界の危機とかバシッと救ってやるからね!」
「ああ、やっぱり女神様のお告げ通りです! あなたこそ、奪われた宝珠を取り返してくれる勇者様なのですね!」
「そういう設定か、この異世界。勇者だもんな、聖剣とかなんかあるはず」
勇者アマトは、ふたたび周囲を見回す。
どうやら、魔剣やら聖剣やら、そういうものはないっぽい。
現代知識で無双する系チートなのかなと、アマトは思う。
「あの、キミは?」
「待って――」
アマトの声を、そのお姫様が制した。
不穏な気配がしたかと思うと、現われたのは黒いローブをまとった少年に見える。
十二歳くらいだろうか? ここでショタキャラとはあざとい、そう思う。
「そちらが、転生してきた勇者様ですか」
黒ローブのショタキャラは、ニッと微笑んだ。
どこか悪者っぽい感じの笑い方で、お姫様とは因縁のある雰囲気を漂わせる。
パーティインする生意気な少年魔法使いかな? などと勝手な妄想をする。
「追手はあなたですか、マイン……」
お姫様が、憎々しげにショタに言う。吐き捨てるようだ。
残念、パーティインのイベントではなかった。
外見は少年だが、鬼畜で非道な敵キャラという方向性で予想する。
その予想はわりと的中したらしい。
マインと呼ばれたローブのショタが、銀色の横笛を奏でる。
すると、緑の肌の小鬼や鼻のつぶれた豚鬼がずらずらと現われた。
「ゴブリンとオークじゃん!」
「ああ、そっちの勇者様はこいつらが何か知っているみたいだね」
マインは演奏を止めると、嘲るように言った。
ゴブリンとオークとか、勇者が初戦で無双して力を示すにバッチリな相手だ。
今のところ、勇者が何をできるのかまったく不明だが、女神が召喚したのだから初回ぶっぱで楽々勝てるだろう。そうでないと、初回切りされても文句は言えない。
「勇者様、ご安心を。ここはわたしが」
「いや、君。お姫様でしょ? ……ああっ、攻撃魔法かなんか使ってくれてパーティインとか、そのパターンなんだね!」
いや、違った。
ファンローラは身を沈めるように立ち、顎を引き、腕を左右に開いて構える。
「……え?」
その構えは中国武術の九翻鴛鴦脚のものに近いのだが、アマトには格闘技の知識がなく、詳しいことはわからない。
とにかく何かの拳法の構えだとは、なんとなくわかった。
「呼ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……――!!」
お姫様は、深くゆっくりと呼吸を吐いて整えた。
アマトに知識があれば、調息と言われる呼吸法であることがわかっただろう。
戸惑うアマトをよそに、マインは銀笛を構える。
曲が奏でられるとゴブリン、オークたちも戦闘態勢に入った。
「“無双列姫”と名高いファンローラ姫のお手並、とくと拝見――」
「えっ? むそう……何、れっき? なに、それ……?」
戸惑う、勇者アマトを余所に。
調息を終えたファンローラ姫は、無数の敵を前にして微塵の揺るぎもなかった。
臍下丹田にMPを満たし、凛とした瞳で視線を結ぶ。
数は多い、姫は十から先を数えることを放棄した。
どうせ、蹴散らすばかりの雲霞と変わらぬと泰然と微笑んだ。
「悪鬼ども、勇者を始末したら姫は好きにしていい」
マインがいうと、途端に悪鬼どもが下卑た咆吼を上げる。
なんとおぞましい。可憐な姫を、悪鬼どもは慰みものにしようという。
だが、ファンローラ姫は恐れることはない。
「勇者様には一指も触れさせぬ。ほしいというなら、この操《みさお》を取りに来い! ――ただし、その代価、命で払ってもらいます!」
あろうことか、ファンローラ姫は悪鬼の群れに言い放った。
およそ紅顔可憐な姫君が紡ぐ言葉と思えぬ。
しかし、そうはならぬという絶対の自信が彼女に宿っいるのだ。
「ハッ、聞いたか悪鬼ども! ファンローラ姫のその身体、悶え死ぬまでことごとく犯し尽くし、往来に晒して辱《はずかし》めてやるがいい!」
こちらもまた、童子とは思えぬ言葉を応酬する。
そのやり取りに、すっかり勇者アマトは蚊帳の外だ。
マインが銀の横笛を構え、奏でる。たちまちに響く奇技淫巧の曲――。
奇抜にして不必要なまでに技巧を凝らしている、そういう曲だ。
小鬼豚鬼どもは、酔った笑みを浮かべて襲いかかる。
無論、酔わせているのは酒ではない。
妖しげな銀笛の調べ、そして獣欲と殺戮を思い浮かべて酔いしれているのだ。
「ゴブリン、オーク……! “無双烈姫”には物の数ではありません!」
何を思ったかファンローラ姫、あたらスカートの裾を跳ね上げた。
白のガーターベルトストッキングで覆われているものの、若鮎を思わせるふくらはぎからふとももまでが露わになる。
だが、それは居合の抜刀と同じ。ファンローラ姫は一陣の風と化す。
まずは一匹目、足を踏み折るような斧刃脚《ふじんきゃく》。
正面のゴブリンに、一発、二発と二起脚《にききゃく》を繰り出す。
背後に回ったオークは虎尾脚で仕留め、飛び上がっては空中でひねりを加えた騰空擺蓮脚で薙ぎ倒す。
着地と同時、流れるように掃腿からの旋風脚、撥条に跳ねての連環腿、体を横に開いての側端脚――。
上段下段、左右縦横無尽、くるりくるりと体を入れ替え、蹴り、蹴り、蹴りと、無数の蹴りを繰り出した。
そのうち、アマトに数えられたのは幾つもない。
悪鬼どもは、一合たりとも打ち合うことはできない。
まるで小鳥が地を跳ねるがごとく、ぴょんぴょんと、体重を失ったかのように飛び回るそれは、MPを消費して鴻毛《こうもう》のごとく身を軽くする軽功の妙技である。
「ええ……? な、何が起こってるの、この異世界……」
十を数える間もなく、それを遥かに超える数のゴブリン、オークが伏している。
頚椎、顎の骨を砕かれたもの、足を折られたもの、どういうわけか、斬られ、刺し貫かれたかのような亡骸も転がされている。
……で、勇者アマトは、何をすればいいのだろうか?
「見事、さすが人呼んで“無双烈姫”。蹴り技のみで僕の鬼たちを倒すかよ」
「世辞はいりません、“魍鬼百計《もうきひゃっけい》”。退くか、命を懸けるか、です」
“魍鬼百計”、それが銀の笛を使う少年マインのふたつ名だ。
異世界の武林《ぶりん》で、そのふたつ名を聞いて怖気《おぞけ》が走らぬ者はいないという。
ふたりとも、背筋が凍るような殺気を放って睨み合う。
――プリンセスが可愛いのはいい、強いのもまあいい。でも、なんか違うだろ。
アマトはそう思うものの、これがこの《剣と魔法の異世界》の現実だ。
「……フッ、なら今日は退くのを選ぼう。そっちの勇者様は、いまのところ殺す価値もなさそうだ。じゃあね、ファンローラ姫――」
言って呪文を唱えると、マインは閃光とともに消えた。
どうやら、転移の魔法を使ったらしい。
ああ、ようやく自分の知っている異世界らしい展開だとアマトは安心する。
知っている異世界というのも、おかしな話だが。
「勇者様、ご無事で何よりです」
振り返ったファンローラ姫は、凄絶な殺戮の後だというのに、花がこぼれたかのように微笑む。
彼女がこの異世界のヒロイン、人呼んで“無双烈姫”ファンローラ姫。
またの名を、異世界武侠プリンセス――。
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