トンデモ公爵とブラコン令嬢の契約婚

すなたろう

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 敵の砦を奪って久々に体を休めた翌朝、フレデリクとカールはまず砦に残された汚物を掃除したあと、砦にあったかまどを使い、缶詰を開けて簡単なスープを作った。
「うへー、あったかいスープをもう一回食えるなんて、思わなかったな。」
「今まで生きてきた中で、一番うめえ。」
フレデリクが、少し冷ましたスープを、弱った兵士に飲ませだすと、皆が手伝いだした。フレデリクとカールは、捕虜にも飲ませ始めたが、それは誰も手伝わない。
「ではカール、今日一日持ちこたえられたら、夜に後方部隊へ砦奪取の報告と、補給を頼む。報告は、そうだな、『激しい撃ち合いの末、かろうじて敵軍を蹴散らし、砦を奪取』かな。」
「わかりました。」
「それから、捕虜の報告は今はやめておきたい。」
「その方が良いですね。」
カールがキラリと目を光らせて、
「王弟殿下が聞いたら、拷問にかけさせたり、ストレス発散のため自身で痛めつけるおそれがあります。虫の居所が悪いと部下にも暴力をふるっているとかいないとか。」

 交替で敵の攻撃を見張り続けながらも、フレデリクが、
「ルカム語を流暢に話せる方が昨日何人かいましたね。」
と尋ねると、ハンス含め6人が手を挙げ、一人が覚悟したように、
「元はルカム出身です。」
と言った。
「そうだったんですね。ルカムのどこですか?」
「エスドートとの国境に近いリート村だよ。食い詰めて一家でエスドート王国に密入国したんだけど、エスドートのルカム人嫌いは凄まじくて。エスドート人のフリしても一発でバレるし、バレるなり、石を投げられ鞭振り回して追い払われるし。夜ゴミ箱漁ってたら、オヤジが銃で頭を撃たれて死んじまって、おふくろと妹とで川の水飲みながら、フォルスフッド王国のローザン領に入ったんだ。」
「そうでしたか。」
「ローザン領はエスドート王国みたいに食べ物にあふれてはなかったけど、俺らに何か得意なこと無いか聞いてきたんだよ。で、俺が大工の見習いをしたことがあるって言うと、大工の所に連れてってくれて、はした仕事させてくれて、食べ物を分けてくれた。おふくろと妹は縫い物が出来るって言うと、綺麗な小物を作ってる所で雇ってもらえて、食べ物と少し賃金ももらえるようになった。それでローザンに落ち着いたんだ。」
「そうだったんですね。ローザン男爵領でいろいろな良い製品が出来ているのを知っています。陶磁器は実物を見ましたよ。」
「それ、俺が作ったやつかも。」
と、さっき手を挙げた別の兵士が言った。
「俺、ルカムの東の海沿いのヴェルト村ってとこで生まれて、親父が漁で波にさらわれて、残った俺らはすぐに食い詰めて、はるばるフォルスフッド王国を目指したんだ。生まれ育った村を出ちゃ捕まえられる決まりだから命懸けだったけど、親父の船使って流れ着いたのが上手いこと隠れられる森の近くだったから、家族みんなフォルスフッドに入れたんだ。親父が守ってくれるって信じてたけど、たどり着いた時は奇跡だと思ったよ。」
「そんなにルカムを出るのは難しいんですね。」
「なにしろ、村を出る時も見つかりゃ捕まるか殺される、国境目指すのも命懸け、最後の難関、見張りの多い国境近くで、ほぼみんな後ろから殴り殺されるんだ。撃たれることもあるけど、俺らに弾を使うのを惜しんでやがる、ルカムの国境警備の奴らは。」
「エーファさんも大変だったのかな。」
フレデリクがつぶやいた時、捕虜の一人が流暢なフォルスフッド語で、
「俺の兄貴も、あともう少しでフォルスフッドって時に殴り殺されたよ。そんで俺は捕まって、スパイ養成所ってとこに送られて、フォルスフッド語とエスドート語を叩き込まれて、どっちに行っても化けられるように仕込まれた。おふくろを人質にされてたから、俺は頑張ったよ。どうだ?俺のフォルスフッド語は?」
「完璧です。」
フレデリクが言う。
「お前、エルデンブルグ公爵か?王太子、王弟に次いで王位継承権3位の。」
「よくご存知ですね。しかし今は王位継承どころか平民です。」
「えーっ?!」
そこにいた兵士全員驚いた。
「やっぱりな。根っからの軍人でも無さそうだし、側近がカールだったのを思い出したんだよ。」
「すごいですね。私の元婚約者は貴族の娘だったけれど、全然知らなかったですよ。あなたは良く勉強されたんですね。」
「ああ、婚約者はツェリェ伯長女エレオノーラ・コンラインだな。元婚約者って、お前平民になって振られたか?」
「いえ、これは自慢ですが、エレオノーラはそんな狭量な人ではありません。私から婚約解消をお願いしました。婚約解消しておいて良かったです。王弟殿下は私をどうにかしてここで死なせたいのだと思うので。」
「泣けるね。あんた、自分の状況、良くわかってるんだな。俺は語学力も記憶力も人より優れてるってことで、メルドング子爵の通訳に抜擢されて、エスドート王国とのパイプを作ったのさ。メルドングはさ、王弟に、あんたや、あんたの婚約者の父親ツェリェ伯たちを敵だって王弟に吹き込んで、王弟のお気に入りになったんだよ。元々王弟はあんたのこと嫌いみたいだったからな。あんたを、国の敵って考えたかったみたいたぜ。」
「そうだったんですか。」
「お前、なに冷静に言ってんだよ。俺は言うなればお前の不幸の元凶だぞ。スープ飲ませてんじゃねえよ。」
「いえ、スープのおかげで、いろいろなことがあなたから聞かせてもらえました。昨日は意識が朦朧とされてましたよね。」
「ああ、腹が減り過ぎて、何日かの記憶が無え。昨日水飲まされて、パン食わされた時は、やっと天国に着いたと思ったぜ。俺なんか地獄に行くしかねえのにな。」
「なぜ地獄に行くと決めているのですか?」
「馬鹿かお前?さっき何聞いてたんだよ?俺は、エスドートの武器開発者を、ルカムに連れてって、効率良く人殺せるマシンを大量生産させた張本人だよ。」
「・・・でも、あなたが望んだことでは無いですよね。」
「ああ、メルドングの野郎とエスドートの偉いやつが、俺のおふくろの命をぶら下げて、手伝わせたんだけどな。でもあの時ルカムで武器製造が進んだのは俺のせいだ。」
「あなたがやらなければ、他の誰かがやらされていただけです。」
「あんた聖職者か?」
元通訳の捕虜が呆れてフレデリクに聞いたところで、誰かが吹き出した。
「あ、すみません、さっきからすんげえ話、聞かされてびびってたけど、『隊長は聖職者ですか?』って俺と同じ質問したのが可笑しくて。」
とヨーゼフが言った。
「私はただの甘やかされて育った元貴族です。あなた方のように、飢えた経験も無ければ、家族を殺された経験も無い。」
「あんたは何にも悪いことしてなさそうなのに、こんな所で人生終わらされるなんて、気の毒に。」
ルカムの元通訳が言うと、フレデリクは、
「あなた方が飢えで苦しんでいる時に、知らずにたらふく食べていたことは、万死にあたいするかもしれません。それに、私はまだ生きることを諦めてないですよ。」
「そうなのかい?王弟やっつけるんなら、俺も連れてってくれ。メルドングを道連れにしたいってのが俺の最期の願いだ。」
「そんな、最期の願いを気に入らない人に使うより、お母様に使いませんか?」
「おふくろは、はなっから死んでたよ。わかってたんだよ。次、上手くいったら会わせてやるって言いながら、一回も会わせてくれなかった。武器製造が軌道に乗って、俺が用済みになり、ここに送られる時『お前のババアは最初に殺しといたから』ってあいつら言いやがったんだよ。」
「それは、なんとも、すみません。言葉もない。」
「だから、お前、俺に同情してる場合じゃねえだろ。」
「こんなこと聞いていいかわかりませんけど、用済みと言うのは?」
「エスドートの偉いさんは、最新殺人マシンの作り方を、ルカムに最後まで教える気はなかったんだ。そんな物騒な物、大量に作らせて、いつエスドートに向けてくるかわかんねえからな。フォルスフッドを煽って、ルカムを焦らせて武器を途中まで大量に作らせ、フォルスフッドが戦争を始めたら、ルカムから中途半端にできている武器を安く買い上げて、エスドートで最新兵器に仕上げて、ルカムに少しずつ売るつもりだったんだ。戦争をコントロールするつもりだったのさ。でもルカムはエスドートの技術者を薬漬けにして、最新兵器の製造方法全部、聞き出したんだよ。だから最新殺人マシンが無事、大量に完成して、今、盛大にドコドコ撃ってるって話よ。」
「しかしこの2日は静かです。」
「最後の段階までの殺人マシンと弾はそれこそ何年でも戦争できる量を作ってたけどな。」

 「兵士足りない。食べ物足りない。」
と、今まで口を開かなかった別の捕虜がたどたどしいフォルスフッド語で話し出した。まだ子供に見える。
「私の父、無学。一度も村から出たことない。小麦を作ってた。父は頭が良い。家族にフォルスフッド語を学ばせる。私の末の妹が二歳になったら、家族で出国する。お腹すいた。畑仕事した。勉強した。家族、頑張った。でも、妹まだ一歳、家族全員、武器工場に行かされた。一日中作らされた。食べる物ほんの少し。工場に農民大勢いた。小麦獲れない。食べ物無くなる。1週間前、兵士足りない。私が兵士。弾をここに運んだ。砦に来ても食べ物無い。」
「昼食を作ります。」
フレデリクが言うと、あちこちでお腹が鳴った。
 カールが別の缶詰を開けてパン粥を作り始めると、味方の兵士が手伝い始めた。出来上がると、捕虜に食べさせる者も出てきた。
「一昨日まで俺らを殺そうとしてたけど、元はと言えば似たり寄ったりの生い立ちだもんな。」
「おいらの同郷を殺しやがったけど、後ろから殴り殺されるかもしれなかったんだもんな。仕方なかったんだよな。」
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