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国境付近にて
しおりを挟む王宮でジグムンドは、フレデリク、カール、前王太子殿下、前王弟殿下を集めて今後を話し合った。
「今、エスドート王国では、更なる最新武器の開発を進めているようです。それを恐れて他の周辺国も、武器を貯め込もうとし始めています。私はフレデリクを王位に就かせ、我がフォルスフッド王国の主権を守るために万全の体制を作りたいのですが、皆様の率直なご意見を伺えますか。」
「私が国王などとんでもないです。私はジグムンド国王を出来る限りお支えする所存です。そのためにも、私には今やりたいことがあります。まずは、ルカム国境付近のご遺体、遺品を故郷に帰すお手伝いをしたい。それらをやり終えたら、地方の貧しい領地の経営の手伝いをして回りたいです。」
と、フレデリクは今後の希望を言った。前王太子と前王弟が、
「私もフレデリクと一緒に国境付近に行かせてください。」
「私も、フレデリクと行動を共にしたい。」
と口々に言った。が、フレデリクは、
「フェルディナンド様、あなたはまだ、ご両親に大切に守られながら勉学に励む時期だと存じます。」
それを聞き、前王弟は目を赤くしながら、
「フレデリクの言う通りです、フェルディナンド様。」
ジグムンドもカールも同意したので、フェルディナンドは、素直に、
「わかりました。」
と答えた。
フレデリクがジグムンドに、更に希望を伝えた。
「私は、メルドング子爵と共に、ご遺体を探してご家族にお返ししていきたいのですが、可能でしょうか。逃亡を防ぐための護衛をお願いすることになりますが。」
フレデリクの希望は通り、メルドング子爵に回した腰紐をフレデリクに固定して前王弟と三人で、フォルスフッド王国とルカム王国の国境付近の遺体遺品回収を始めた。
メルドング子爵は、遺体を触るどころか見ただけで体調を崩し、護衛たちによって早々に独房に戻された。聞くと、毎日恐怖で眠れず、食べることも怖がっているそうだ。
フレデリクと前王弟は二人で作業を続けた。
「フレデリク、私は、兄が君を可愛がるのが、嫌だったんだと思う。」
前王弟がフレデリクに言った。フレデリクは、
「前国王陛下に可愛がってもらって、私は、自分が特別な存在だと思い上がっていました。あなたに限らず、皆が私を見苦しく感じていたでしょう。ところで、官僚たちが今も前国王陛下のやってこられたことを称賛していました。前王弟殿下、あなたからそのことを前国王陛下に伝えてもらえませんか?喜ばれると思います。」
「フレデリク、一緒に行かないか?兄上はもっと喜ばれると思う。」
「そうですね、きっと、そうです。」
翌日、ヘンリエッテの相互援助ネットワークからたくさんの人が遺体の収集に参加した。参加者の代表が、
「国王陛下の依頼で、希望者を募ったら、こんなに集まりました。私たちは小さな領地の平民で、亡くなった兵士の仲間です。仲間にこんなに手厚くしてくださってありがとうございます。」
作業が一気に進んだので、ルカム王国に許可をもらって、国境を越えたルカム王国の領土でも作業を始めた。ルカム王国の人たちも参加し始めた。
その翌日、フレデリクのよく知る顔が増えた。前線で一緒に戦った元兵士たちだ。アレクサンデル、ヨーゼフ、ハンスも居る。
「隊長!新国王陛下に頼まれて来たよ。」
と、皆がフレデリクのまわりに集まってきた。アレクサンデルが、
「お前なんで、こんなところで一人苦しんでるんだよ。お前は何にも悪く無いだろ?」
とフレデリクの肩を抱きながら、
「少しは国王の仕事を手伝ってやりなよ。みんな言うこと聞かなくなって、ジグムンドが困ってるんだから。」
と言う。アレクサンデルがふと気づくと、小柄な男がフレデリクの腕をペチペチ触っていた。
「お前、何してるんだ、って、エレオノーラさん?」
「・・・エレオノーラ」
フレデリクが驚いた。
「ジグムンド国王陛下に頼まれました。私もフレデリク様の苦しみを少しでも感じたかったので参加しました。」
エレオノーラがフレデリクを見ないようにフレデリクに言った。アレクサンデルが、
「で、なぜ変装してんだ?」
「だってフレデリク様は私に会いたくないって聞いてたから。でもアレクサンデルさんがフレデリク様に触ってるの見たら我慢できなくなって。」
「やっぱり変な女。」
呆れるアレクサンデルは無視して、エレオノーラは今度はフレデリクをしっかり見ながら、フレデリクの腕をしっかり触って本物か確かめた。フレデリクは、苦笑いをしながら拳でエレオノーラの腕を軽く押した。皆が、前王弟も、その様子を嬉しそうに見ていた。
「本物のフレデリク様だ、夢じゃないよね。」
「カールが、片足を無くした。」
「うん。」
「砲弾が飛んできて砦が壊れて僕を庇って僕の上にかぶさって。」
「そうだったんだ。」
「一回くらい僕を責めてくれたら良いのに。」
「うん。」
「足が潰れてから、カールはずっと僕を笑わせようとするんだ。」
「でしょうね、目に浮かぶわ、」
エレオノーラが涙を流しながら何度もうなずく。
「たくさんの人が死んだ。」
「うん。」
「大切な人がいて、故郷に戻りたい人が、」
「うん。」
「たくさん、ここで、」
フレデリクが泣き出した。エレオノーラはフレデリクを抱きしめて、
「ツェリェの人も何人も帰って来れなかった。」
「うん。」
「父は、ルカムに、ルカム王がたらふく食べて贅沢三昧っていう噂を流しに行かせたの。」
「ああ、ジグムンドが言ってた。」
「マティアスたちルカム出身の5人が国境越えて行って」
「おかげでルカムでクーデターが起きて和平案が届いた。」
「4人は帰って来れたけどマティアスはむこうで殺された。」
「そうだったんだ。」
「マティアスは仲間に止められても、故郷に食べ物届けに行っちゃってバレたって。」
「そうだったんだ。」
「奥さんは『自業自得』って言うけど、父は仕方ないって言うけど、」
「うん」
「私も、母でも、慰められない」
「そうだね」
「もうマティアスのツィター演奏でダンスできなくなっちゃった。」
「もう二度とダンスなんてしたくないな。」
二人が抱き合って。
身長差があり顔がよく見えないので、エレオノーラはフレデリクの首に飛びついて、よじ登って顔を合わせた。エレオノーラはフレデリクの顔をしっかり見た、そう、こんな顔だった、もう忘れないぞ、なんかずいぶん老けちゃったね。
元兵士たちが二人のまわりで、
「エレオノーラ」
「隊長さん」
「俺をきれいさっぱり忘れることは許さんぞ」
「あたりまでございますわ絶対忘れませんわよ」
「他の金持ちには渡さない」
「私はあなたのものですわ」
「婚約解消撤回しよう」
「そうしましょう」
と、思い思いのセリフで隊長ごっこを始めた。エレオノーラはフレデリクから降りてきて、隊長ごっこに参加し、ルカムの歌を歌い始めた。アレクサンデルが、
「よく知ってるな。」
と一緒に歌い出すと、
「子供の頃から、この歌を聞いていたけど、戦争が始まってからルカム語を勉強して、歌詞の意味がわかったわ。故郷を懐かしむ歌でしょ?」
「ああ、故郷の風景ともう会えない人を懐かしむ歌だ。」
いつの間にか、歌があちこちから聞こえてきた。ルカム人、ルカムからフォルスフッドに逃れてきた人も、遺体を探しながら歌っている。元兵士たちも作業に戻り、歌い始めた。
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