トンデモ公爵とブラコン令嬢の契約婚

すなたろう

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ツェリェ領伯爵邸アルヌルフの部屋

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 ゲストルームで伯爵が、
「この後、下で歓迎会をしようと思っていたのですが、こう状況が変わると止めておいたほうが良いですね。」
とため息をつきながら言って席を立とうとすると、フレデリクが、
「いえ、伯爵家のスタッフの皆さんとも、またお会いできるのを楽しみにして来ました。」
「しかしどうしても、先ほどの話が話題になりますよ。」
「もちろんです。情報を共有してください。我が家でも古参のスタッフには、情報を詳しく伝えています。ここは代々家族で伯爵に仕えている方ばかりでしょう?」
「そうです。ただ、明日、アグネスさんとエーファさんが来られます。うちのスタッフは、知っていることを隠す習慣がありません。さすがに出入りの商人には、話を選びますが。」
「アグネス殿とエーファさんが来られるのですね。よかったです。一刻も早くエレオノーラ殿から伝えてもらおうと考えていましたが、手紙で知らせるには難しい内容だったので、どうしようかと思っていたところです。」
「そうですか。ではうちの古くからのスタッフと、アグネス殿、エーファさんには情報を共有するということにします。公爵家の皆様が旅装を解かれて落ち着かれたら、下で歓迎会といきましょう。」

 伯爵夫妻が階下に降りていくと、アルヌルフがフレデリクに、
「下に行く前に、フレデリクはエレオノーラの部屋で少し話せば?久しぶりだし、状況が変わってきてるから二人きりで話をしておいた方が良くない?」
「確かにそうだ。アルヌルフ、ありがとう。エレオノーラ、構わない?」
「ええ。私、混乱してるから、いろいろ確認したいわ。フレデリク様、廊下で待ってるわね。」
「上着を脱ぐだけで大丈夫。今行けるよ。」
フレデリクは、慌てて上着をカールに渡して、エレオノーラの部屋に向かった。アルヌルフは、フレデリクの服をワードローブに掛けているカールに、廊下へ手招きする。
「いやいやアルヌルフ、フレデリクはエレオノーラの部屋で二人きりになれると、身体が宙に浮くくらい今浮かれているから、そこに邪魔したら恨まれるよ。」
「もちろん。『好きな女の子の部屋で二人きり』は、僕からフレデリクへのプレゼントのつもりだからね。邪魔はしない、けど」
と、カールを連れて行ったのはアルヌルフの自室。アルヌルフは人差し指を口に当て、
「僕の部屋はエレオノーラの部屋の隣で、声は丸聞こえなんだよ。」
と、カールと忍び足でアルヌルフの部屋に入ってドアをそっと閉める。確かに壁からエレオノーラとフレデリクの話がほぼ聞こえる。

 「私、父がわざと質素なふりをして、わざと何でも話してきたことを初めて知りました。」
「そんなにがっかりしないで、エレオノーラ。お父様はエレオノーラを守るために、教えなかったんだと思うよ。」
「でも、私もう15歳よ。学院に入学もしているのに。貧乏な伯爵領を少しでも豊かにしようと、呑気な父に代わってこの私が頑張ろうと思っていたなんて恥ずかしい。」
「エレオノーラは他家に嫁ぐ身だからと、お父様はお考えだったに違いないよ。それに、エレオノーラの視点で伯爵領の改善点を考えるのは、有意義だと思う。」
「それはそうね。あともう一つ知りたいことがあるの。母の実家の、マーブルク侯爵家はひょっとしてベルク先生教え子国王陛下派ではなくて、好戦王弟殿下派?」
「わかりやすく分けたね。マーブルク侯爵家は、王弟殿下派ではないけれど、40年前の謀反疑惑事件で冤罪をかけられたツェリェ伯爵家から距離を置きたかったのかな。本気で疑っていたか、とりあえず危ないことに近づかないスタンスだったかはわからないけど。」
「母は、実家のことを、頭がかたい、わからずや、聞く耳を持たないと言っていたわ。」
「お母様は伯爵との結婚を反対されいたのに、どうやって二人は結婚できたの?」
「母は身一つで『妻にして』と、ここに駆け込んだそうです。」
「うわ、情熱的だな、少し憧れる。僕が王弟殿下にやっつけられたら、身一つでここに駆け込もうかな。」
「素敵。私たち二人の力で、下から国を良くして行きましょうよ。でも公爵家はどうするの。」
「ずいぶん前から弟の方が公爵に向いてるなと思ってるんだよ。」
「そんなことはないです。フレデリク様は誰よりも努力しているし、人を正しく導くことができる人だわ。」
「ありがとう。そうなれるよう頑張るよ。ああ、早く国王陛下が王弟殿下を落ち着かせて、我々の婚約を発表できるようになりたい。けど焦ってはだめだ。」
「フレデリク様は、私と一緒にいるところをたくさんの人に見られたから、王弟殿下派に余計に目をつけられたのよね。」
「違うよ。私は元々王弟殿下に嫌われていたんだ。国王陛下が王弟殿下の横暴を許していることが気に入らなくて、王弟殿下に絶対懐柔されるものかと頑張っていたから。」
「懐柔?」
「王弟殿下は、とても魅力的なんだよ。強引なところも魅力の一部と言えるくらい。男でもそうだけど女性は狙われたらひとたまりも無い。」
「え?そんな人、物語にしか出てこないわよ、現実に居るの?」
「高位貴族の美しい奥方や、絶対落ちなさそうな貴族令嬢の侍女が、何人か密室で王弟殿下と二人きりで過ごしたのを知ってる。私は噂は信じないので、この目で確かめたよ。」
「王弟妃殿下は?」
「ご存知ないはずはないと思うけど、王弟妃殿下も王弟殿下にぞっこんだから。」
「すごい人なのね。王弟殿下には絶対会わないようにしよう。」
「そうしてくれ、頼む。」
「わかった。じゃあ、そろそろ下に降りる?」

 アルヌルフとカールは、音を立てないように部屋から出て、ゲストルームに戻った。
「カール、済まない、盗み聞きをさせてしまって。この前オーダの領地のオーダの部屋に入らせてもらった時、ドキドキして感動したんだ。オーダが小さい頃から使っていた部屋だって。だからフレデリクもエレオノーラの部屋に入ってみたいだろうなと思って。」
「そうだったんだ。そんな話を女友達もいない私に聞かせることに、済まなさは感じない?」
「カールのまわりには常に美女がいるじゃないか。クラスでもそうだし、フランツィスカ様とはかなり親密そうに見えるよ。」
「フランツィスカ様と私はずっとフレデリクの親衛隊だからね。」
「そっか。僕が盗み聞きしたのは、ずっとエレオノーラだけ、我が家の事情を知らされてなかったから,ショックだったんじゃないかと思って聞きたかったんだ。声が丸聞こえなのは、我が家は来る者拒まずで、いろんな人が出入りするから、僕と護衛をエレオノーラの部屋の隣に配置して、エレオノーラに何かあったらすぐに対処できるように父がしたんだ。先ほどの盗み聞きにカールを巻き込んですみませんでした。」
「アルヌルフ、私もフレデリクがエレオノーラ殿と今後どうしたいか、知れて良かったよ。」
「フレデリクは危機感が足りないよね。」
「フレデリクは、あまり人を疑わず、楽観的なところが最大の武器だと思ってる。頭が良くて、観察力もある人は、すぐに疑ったり悲観的に見るものだけど。疑うのは私が担当してるんだ。」
「なるほど、フレデリクとカールが最強なのが良くわかったよ。でもカールは損な役回りだね。」
「それは違うよ。フレデリクといると、いつも面白い。アルヌルフだって、難しい伯爵家嫡男をやってるじゃないか。」
「俺はのらりくらりと上手く楽にやっていこうと思ってたのに。王弟殿下派には頭に来る。オーダと婚約するのはもっと後にすれば良かったな。オーダのレーゲブルク男爵家は、国王派でも王弟派でも無かったのに、俺との縁で国王派決定かな。しかしオーダの兄貴たちが、早く決めろとうるさかったから仕方なかった。俺に決定権は無いんだ。」
「あのデカくてゴツいお兄さん二人に迫られたら、拒否は無理だよ。」
「レーゲブルク男爵領に、オーダの弟二人が、同じサイズでいるんだよ。」
「怖え~。」
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