トンデモ公爵とブラコン令嬢の契約婚

すなたろう

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ローザン領国境付近にて

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 王都で、フレデリクとカールは手持ちぶさただった。国王と会えなくなり、国王関係者との連絡も遮断されたまま。フレデリクとカールは焦りだけが募っていた。
 「ルカム王国の新型兵器がどんどん製造されているという噂は、ずっと変わらないままだな。」
「他の情報は入らないのに、その噂だけはあちこちで聞くようになりました。」
「王弟殿下が意図的に流しているのかな。ペロトネル公爵とメルドング子爵が扱う武器がどんどん増えているという情報は2箇所から入った。それが事実なら、どこかに運んでいるのだろうか?例えば王宮の奥?」
「それはさすがに多くの者が気づいて情報統制できないでしょう。」
「では、ルカムとの国境かな。この目で確認出来れば良いのだが。ベルク先生に相談したいな。今から確実に戦争回避へ方向転換させるには、どうすれば良いんだろう。」

 フレデリクとカールはルカム国境を見に行くことにした。本当はペロトネル公爵領とメルドング子爵領の武器を扱っている場所を探りたいのだが、場所も探れず、場所がわかっても、そこへ行くのはかなり危険だろう。
 「アグネス殿に頼んで、ローザン男爵領に遊びに行くという名目を作りましょうか。」
カールが言うと、フレデリクが、
「いや、アグネス殿、エレオノーラ殿を巻き込むのはもう少し後にしたい。まずエーファさんに相談してみないか。」
「それは良いですね。」

 二人は護衛のヴィーレを連れて、目立たない馬車でツェリェ伯タウンハウスを訪ね、エーファに会った。
「私たちはローザン男爵領からルカム国境を探りたいのですが、エーファさんはどう思われますか?」
深くお辞儀を続けていたエーファは、ハッと目を上げた。
「私も万策尽きて、同じことを考え、準備をしているところでした。」
「そうでしたか。いつ出発の予定で?」
「今から借りた馬車を商会に取りに行き、荷物を積んで出かけるところです。」
「ぜひ一緒に行きませんか?うちの馬車は丈夫で、悪路に耐えます。御者もうちの御者の中で一番の者を連れて来ました。商会の御者より上手いと思います。」
「御者は私がやるつもりでした。」
エーファの言葉に、フレデリクとカールは、
「エーファさん、馬車の操作もできるんだ。」
と、また感嘆してしまった。

 馬車を借りるのを取り消す使いを出し、エーファが着替える間、フレデリク、カール、ヴィーレがエーファの荷物を積み込む。食料、水筒、医薬品。
「エーファさん一人でも、こんなに準備するんですね。」
フレデリクとカールが荷物をチェックしながら言っていると、素早く着替え終わったエーファが現れて、
「何があるかわかりませんから。無駄になればありがたいです。」
と言った。
「エーファさん、その格好は?」
「御者にも農民にも見えるようにです。」
「すごい、エーファさんとは誰にも気づかれませんね。」
エーファのどこにでも居そうな、痩せた男の姿を何度も見返しながら、フレデリクとカールは食料と水を追加で積み込み、出発した。

 公爵家の御者とエーファが交替で馬車を走らせ、半日かからずにローザン領に入った。まずは街道沿いに国境付近まで走ってみるが、
「ここは普段と何も変わらないように見えます。他に3箇所ほどルカムと行き来できる場所があるので行ってみましょう。」
とエーファが言った。
「エーファさんとご一緒できて良かったです。」

 エーファだけが知る道を行くため、御者がまた交替する。交替された御者は道を覚えようと小窓を細く開けて外を見ていた。それを真似て、フレデリク、カール、ヴィーレも窓にかじりついて外を伺った。
「さっきの街道より東かな。」
「細い道を何度も折れたからわからないけれど、太陽の位置からすると、あれ?あれ何かな。」
と、フレデリクが言った時、馬車がガクンと揺れた。
急に方向を変えて、もと来た道を引き返す馬車に、不測の事態が起きたと判断、
「エーファさん!」
馬車の前面の小窓を開けると、エーファが片手で馬車を御しながら、
「窓閉めて!」
とエーファが叫ぶ。
「御者交替、止まれ!」
と叫び返すフレデリク。
「あと少し!この先で交替する!」
エーファの声に、フレデリクは小窓を閉めた。

 ほどなく馬車はスピードを落として止まる。
「エーファさん!」
全員が馬車から降りて、エーファを引きずり落とし、皆で抱き抱えて馬車に乗せ、御者が馬車をまた走らせる。エーファは右腕を矢で傷つけられていた。
「国境のきわ、道の右前方に建造物を認め、慌てて方向を変えようとした時、数本の矢が飛んで来て、鞭で払おうとしましたが、次の数本が飛んで来て一本右腕にかすりました。建造物は、真新しく見えました。かなり大きい物です。人影は二人確認しました。」
「エーファさんありがとう。矢に毒が塗ってあったと思うから、もう喋らないで楽にして。」
フレデリクがエーファに話しかける間に、ヴィーレがエーファの右腕の服を脱がせて傷を出し、血まみれの傷に水をかけ、続いて自分の口を水ですすいで、エーファの矢傷から、血や体液ごと毒を吸い出し窓から吐き出す。3回やってから、もう一度自分の口をすすいで窓から吐き出した。カールがヴィーレの助手をして水を用意したり窓を閉めたり開けたり、と、その時、炎のついた矢が馬車の中に飛び込んで来た。

 ヴィーレ、カール、フレデリクが驚いて一瞬動きが止まった間に、エーファが燃えている矢を掴んで馬車の外に投げ捨てた。男三人は燃えうつったエーファの服、椅子とカーテンを上着やそこに落ちている物で叩いて消し止めた。ヴィーレは飲み水をエーファの服の上からかけ、フレデリクは全速力で馬車を走らせている御者の安全を確認し、馬車のまわりも見回した。ヴィーレが、
「カール、ナイフでエーファの服を切れ。」
「はい。ナイフでエーファの服を切ります。」
カールは復唱しながら、大きく揺れる馬車でエーファの肩から右腕にかけて燃え残った服を切っていく。ヴィーレはエーファの体を支える。ただれた皮膚が、エーファの細い細い腕、肩から胸近くまで続いている。
「水もっとかけます!」
フレデリクもカールも必死で水を探してかけたり、使えそうな物を探して医薬品も開けて行く。
「そんな必死にならなくても大丈夫です。もっと冷静に。ローザン男爵邸に入れば大丈夫です。道は大丈夫ですか?」
エーファが、オロオロするフレデリクとカールに呆れ声で指示をする。
「でも、もう水が無い、どこか井戸のある民家にでも」
フレデリクが言うと、
「ローザン男爵邸までとにかく行って。全員逮捕されてしまいー」
と、エーファが言いながら気を失った。
「エーファさん!」
「あそこに民家が!水もらって来ます!止めて!」
「熱が高い!毒が回ってるのかも!止まらないで!やっぱり男爵邸まで行こう!」
男3人があたふたしながら男爵邸に駆け込んだ。男爵邸からバラバラと人が出て来る。
「エルデンブルグ公爵フレデリク・カロマニッチです。エーファさんに怪我とやけどを負わせてしまいました。」
すぐにエーファを皆で屋敷に運び込む。ローザン男爵が現れた。
「エルデンブルグ公爵フレデリク・カロマニッチです。エーファさんが毒矢を受け、火傷も。追手が来ているかもしれないので、私たちは直ちにここを立ちます。ヴィーレ先生、エーファさんの状況を説明するために残ってもらえますか。」
「承知しました。男爵、私も邸に入らせてください。」
「はい、このまま奥に進んでください。」
「男爵、委細はそのヴィーレからお聞きください。お詫びはいつか必ず。今は申し訳ない、急ぎます。」
と、フレデリクとカールは御者に命じて走り去った。追手がいるなら、自分たちについて来る事を祈りながら。
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