なんとなく起業に付き合ったら、楽しい毎日だったお話

すなたろう

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新しい仲間

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 「おはようございます。社長、優、この子が昨日お話ししました、弟の友達、小田賢翔です。小さい頃からパソコンが得意です。」
 凛が、おとなしそうな高校生を連れて来た。社長が、
「へぇ、いつもパソコンで何してるの?」
と聞くと、賢翔君はちょっとホッとしたような顔になって、
「簡単なゲームを作ったり、それで対戦したり、そのデータを解析したりして遊んでます。」
「すごいね。言語は何を?」
「いろいろ使い分けていますけど、基本はCでパイソンとかも。あまり難しいことはできませんが。」
凛と私は目を見開いてしまう。
「また即戦力が来てしまったようだ。なんでこんなに次々素晴らしい人材が発掘できてしまうんだ?!」
社長の褒め言葉に賢翔くんがたじろいでこわばると、凛がすかさず、
「賢翔、社長の『素晴らしい』は『自分の世界を破壊しない』ぐらいの意味だから、怖がらなくて大丈夫。」
今度は社長と私が目を見開いた。
「そういうことか、僕の『素晴らしい』の意味は。」
と社長が自分で言っている。私も自分が社長に褒められる意味がやっとわかった。社長が、
「でも君、高校生だよね。やっぱり今は高校の勉強した方が良いと思うんだけど。」
「僕、あの、学校のこと考えると吐き気がするんです。」
確かに賢翔君は痩せてて顔色が悪い。凛は、
「小田君のご両親がずっと心配されていて、環境を変えたら状況が変わるかもしれないと、今朝早速、賢翔を私に託されました。」
「賢翔君。あのね、学校は、行かなくて良い所なんだよ。僕は小学校もろくに行ってない。」
今度は、凛と私、賢翔君も目を見開いた。
「僕は協調性が無くて。合わせようと思えば合わせられたと思うんだけど、幼稚園でも小学校でも合わせる必要を感じられなかったんだ。親が手をまわして小学校と中学校の卒業証書はいただいて、ずっと好きなことだけやって、大検を受けて大学には行った。大学はよく調べて自分が学びたい所を選んだから毎日通いました。」
「そうだったんですか。」
「賢翔君、それから広瀬さんも、勉強は続けて欲しいと思います。優さんは今、通信制の大学生ですよね。」
「はい、そうです。私は自分ができそうな仕事を調べるばかりで、社長のように学びたい大学が無いか調べることはしませんでした。」
「僕は高校までは行かなかったけれど、親が大学に勤めていたから、大学は調べてみました。そしたら、面白そうな地方の大学があったので、地方で一人暮らしをして、ちゃんと卒業まで通いました。」
「そうだったんですね。社長は発想が自由ですね。それに万能選手ですね。大検に受かるのも、行きたい大学に合格するのも、普通は苦労しますよ。」
と、凛が言う。
「いえ、できないことばかりなので、できることだけ頑張りました。広瀬さんや優さんのように、茨の道を切り開くようなことは、僕には無理です。」
「そんなことはないですけど。社長は大学で何を専攻されたんですか?」
優が尋ねる。
「地形学です。小さい頃から地形が好きで、だんだん火山や海底にものめり込んで。小学生の頃から両親が僕を心配して、山村留学やら離島に送りこんでくれて、それはそれは楽しかったんだ。君達にも地形学の楽しい世界を伝えたい!!」
急にテンションマックスな社長に、また三人で目を見開く。
「よし、社内学習をはじめましょう。僕も学びたい。会社の業務の一環です。わぁ、良いな、我ながら素晴らしいアイデアだ。賢翔君のおかげです。ありがとう。優さん、具体的にスケジュールを決めましょう。一日午前と午後30分ずつ二科目かな。最初はもちろん僕の地形学!あ、優さんの健康管理かな。物理基礎とか各国語とか、歴史も外せない。あぁ仕事全部キャンセルしたいっ!」

 ー社長が暴走している。穏やかでニコニコしているところしか見たことなかった、この人誰?


 その日から会社で授業が始まった。10時と3時に社長がノリノリで学校のチャイムを鳴らす。まず最初は『全ては健康な生活から』と言う社長の一存で、私の『健康管理』授業から。まぁいつも社長にガミガミ言ってたことを言うだけなんで、授業の準備要らないしね。
 ♪キーンコーンカーンコーン♪
「30分に一度軽い運動が良いのはわかっていても、実際にはなかなかできません。座っている所から遠い場所に、30分後にセットしたアラームを置くなど、意思の力を使わない確実な対策を取りましょう。」
こういう類は、しっかり社長に向かって声を張る。
「前向きにだの、自分を信じてだの、気分が落ち込んでいる時にはできません。とにかく思う存分自分を甘やかすことに専念します。自分を心配しているまわりの人への任務だと思って実行しましょう。具体的な内容は、寝る、休む、好きなことをする、美味しいものを食べる、旅をする、何でも良いんです。料金が発生しても、任務遂行のための必要経費と考えましょう。また、いついつまでと、期限を切らないことも重要です。いつまでもいつまでも自分をひたすら甘やかす任務を忠実に実行しましょう。」
これは賢翔君向け。
 あとは、規則正しい生活にする工夫や、乱れた生活がもたらすおぞましい未来を主に経済的観点から具体的数値を挙げていたら終了のチャイムが鳴った。社長がまたノリノリで「起立」「礼」と号令をかける。社長、楽しそう。
「優さん、大変勉強になりました。この授業は定期的にお願いしたいです。」
「これ以上なんにもないですよ。最初で最後、30分に水増しするのが大変だったくらいです。」
「今の最善の方法が、研究が進むともっと良い方法が見つかるものです。常に新しい情報を仕入れ、アップデートしてもらいたいです。」
「え、そこまで求められても。」
少し眉をしかめて見せる。
「ご、ごめんなさい!優さん、僕の地形学と一緒にしていました、優さんは健康管理が好きで好きでたまらないってことはないですもんね。先ほど言ったことは撤回します。大変失礼しました。」

 ーあれれれ?社長がしょんぼりしてる。

「私、怒ってませんよ。社長が楽しんでいたので、私もふざけて怒ってるフリをしただけです。」
「ほんと?優さんの怒ってる顔を初めて見たので、動揺してしまいました。」
社長の一喜一憂に、凛が、
「賢翔、私が言ってた、あなたを呼んだ理由がこれよ。二人が仲良し過ぎるから、私、いたたまれなくなってしまって、賢翔をここに引き摺り込んだの。ごめんね、巻き込んで。」
「凛姉が言ってた状況、今のでほぼ把握した。」
「私二日もよく耐えたでしょ。偉いよね。」
「凛姉、よく頑張った、偉い。これからは俺もいるから、二人ならなんとか耐えられるよ。」
私は顔を赤くして、
「そんなことは」
とボソボソつぶやいた。

 賢翔君が入って社内学習が始まり、社長がマニアックに海底の地形の面白さを熱く語ったり、高校物理基礎の教育ビデオをみんなで見たり、古典を読んだり。アットランダムな内容の社内学習を、みんなそれぞれ楽しんだ。
 時間を取られるかと思いきや、すごく脳が活性化するというか、毎回頭がニュートラルに戻るような感覚で、業務にもすごく良い刺激になった、と断言できる。賢翔君が即戦力で加わったのもあるけど、凛が得意先に打ち合わせに行くと、どんどん依頼が増えてくるんだよね。社員が増えて、それ以上に仕事が増えて、なのに前より余裕。すごい!これ何効果?


 賢翔君にコンピューターの基礎を教えてもらったことを、また自分なりに学習したり、通信制大学の勉強が溜まってきたりで、家に帰る時間が無くなって、また会社に寝袋で何日か泊まっていたら、母から連絡があった。『優、元気?変わりない?』と書いてあり、いつもと違うような気がしてちょっと不安になる。

 「凛、お母さんから来たメールが、なんか変なんだけど、これ読んでどう思う?」
「え?普通じゃない?でも変な気がしないでもない。優、私に聞いてないで、とっとと家に帰りなさいよ。大きなお子様の見張りばっかりやってないでさ。」

 何も異変は無いはずと思いつつ、いそいそと家に帰る。
「ただいま。4日も帰らずごめんなさい。」
「優、お帰り、元気だった?」
「姉ちゃんお帰り!」
「お姉ちゃんお帰り。」
「優、お帰り。」
家族全員でお出迎えされてしまった。
「仕事が楽し過ぎて、やりたい勉強もいっぱいあって、夢中になってたの。」
「夢中になれる仕事と勉強ができて良かったね。」
と母が言えば、弟と妹が、
「でもこの頃姉ちゃんが勉強見てくれないから俺成績落ちたんだけど。」
「私も、ちょっと低迷してるよ。」
と、私に甘えてくる。
「あーごめんごめん。でもお母さんに教えてもらいなよ。私はずっとお母さんに勉強見てもらって、ずっと良い成績だったよ。」
「親に教われっかよ。」
「だよね。みんな親に教わるの無理って言ってるもん。」
「ちょっと何?私の弟と妹のくせに、反抗期なんてやめてよね。まぁでもこれからはもっと勉強を見てあげる。厳しくするけど、あんたたちが望んだことだから泣き言は無しよ。」
「うわ、やば、お手柔らかに。」
「お願いします、お姉ちゃん。」

 ーうーん。会社でも家でも愛されてるな、私。

 美味しい晩ご飯をみんなで食べてからも、会話を楽しんでいたら、母が、
「優、ちょっと話があるんだけど。」
と何やら複雑な顔で言う。
「なぁに、お母さん?」
「私から話そう。」
お父さんもなんか妙な顔だ。

 「あなた達は部屋に入ってなさい。」
あまり聞いたことがない母の声に、弟妹が戸惑いながら従う。
 居間で両親と向かい合わせで座って、お父さんがふた呼吸ほどしてから、
「実は、優の実の母親がこの前訪ねて来たんだ。13年と5ヶ月ぶりに。」
「へ?」
「涙を流しながら優に会わせてくれと。」
「はぁ。」
「何を今さらと思いながらも、優の意向を聞かなければいけないと考えた。しかし散々泣いた後、私に、お金を貸してくれと頼んできたので、お前に会わせることも借金も断って帰ってもらった。なかなか帰ろうとせず困ったので、警察を呼ぶと脅かして、やっと帰ってもらったんだ。」
思わず母に抱きつく。
「お母さん、怖い。そんな女に育てられてたら、私、今頃どんなになってたか考えると怖い。恐ろしいよぉ。」
「優だったら大丈夫よ。どんな親でも賢く元気に育ってたわよ。」
「そんなことない!あの人がこの家にいた頃、私毎日すごく嫌な気持ちだった。お父さんもずっと困った顔してたし。あの人がいなくなって、やっと安心して息ができるようになって、お母さんが来て、お母さんのこと大好きになって、拓真と結が生まれて、可愛くて、毎日楽しくて。今もね、会社で褒められたり感謝されたり。さっき帰った時もみんな喜んでくれて、私幸せだなぁとしみじみ思ってたの。これは、お母さんが私のお母さんになってくれたからだと思う。ありがとう、お母さん。お父さん、お母さんを私のお母さんにしてくれてありがとう。」

 ーごめん、お母さん、泣かせちゃった。お父さんまで泣かせちゃってるし。私も涙出てくるし。

 「優、あの女がまた来るかもしれないが、大丈夫か?もちろん、なんとしても優とは会わせないつもりだが。」
父が心配する。
「大丈夫。もう怖くなくなった。絶対会いたくないとすら思わない、平気だよ。今までは、どうして家を出て行ったのか聞いてみたい気持ちもあったけど、お金貸してと言える人とわかった時点で、興味も失いました。」
 その後は、しばらく親子三人泣いて笑って、今度帰る日を聞かれたり、何が食べたいか聞かれたり、体の心配をされたり、いっぱい甘やかされて、私は大満足だった。


 実家に帰って家族団欒を楽しんだ翌日、私を産んだ人が会社にのりこんできた。凛が、
「優、今あなたの本当の母だと名乗る人が来たんだけど。どうする?そんな社員居ないって言おうか?」
凛がインタフォンを受けて、私に言った。

 ーはぁ、いつかは向き合わなきゃいけない人なんだろうけど、心の底から面倒臭い。が、気持ちを切り替えよう。元気いっぱいの今、いいタイミングで来てくれてありがとう。いらっしゃいませ、私を産んだ人。

 社長がとんでくる。
「僕が応対しましょう。」
「大丈夫です。私会います。もしあまりしつこいようなら助けを呼ぶので、警察に連絡してください。」

 応接室をノックしてドアを開けると、思ったより若くて可愛い感じの人が座っていた。
「私が春田優です。」
「優ちゃん!」

 ーうへっ、もう泣きだしたよ。勘弁してくれ。

 「優ちゃん、会いたかったわ。」
「なぜ今頃会いに来られたのですか?そもそもなぜ父と私を置いて何も言わずに何も書き残さずに出て行ったのですか?」
「ごめんなさい。あの時はどうしようもなかったの。あなたのお父さんにどんどん冷たくされて、そんな時私を本当に愛してくれる人が現れて、自分が引き裂かれて壊れそうになってしまって。」

 ー男ができたのだったんかい。あまりにありきたりでつまらんわ。

 「優ちゃん、大きくなったわね…」

 ー確かにこの人綺麗だわ。モテたんだろうな。今もモテそう。私が好きな顔じゃないけど。服も化粧も髪も計算されてて凝ってるな。悲劇のヒロインを演じてる?天然でやっちゃってる?自分が一番可愛いタイプ?とにかく私が絶対近寄りたくないタイプだ。

 「18才と10ヶ月です。あなたが出て行ってから13年と5ヶ月ですから。」
あえて微笑んでみせる。
「もうそんなに経つのね。」
「やった方は忘れても、やられた方は忘れないものです。」
「え?」
「あなたは今、その『あなたを本当に愛している』という人と一緒におられるんですか?」
「あぁ、あの人はとっても素敵で、とっても私を愛していたのだけど、お金が無かったのよね。すぐに愛だけでは生きていけないって思い知ったのよ。」
「何をされていた人なんですか?」
「あなたと行ったイタリアンレストランで働いてた人よ。覚えてないかしら。私に一目惚れしちゃって、その場でぐいぐい迫られて大変だったんだから。」
「では今はお一人なんですか?」
「そんなはずないでしょ。私はずーっと、それこそ物心ついた頃から私に夢中になる人がもう、さばききれないほどたくさん、たくさんいたのよ。今もよ。これからもよ。私は全然そんな気無いのに。」

 ー楽しく生きてるみたいで良かったです。私を産んだ人に興味は失ってたけど、あなたというような女性がホントに存在することを知れて良かったです。置いていった子供に、自分のモテ自慢ができちゃう心理は死ぬまでわかりたくないですが。

 「私を産んでくださったことには感謝しています。おかげで私は今ここにこうして楽しく生きています。ただ、自分の感情を優先して、幼い私に何もフォローもなく置いて出て行ったことには複雑です。置いて行かれた悔しさと新しい母に会えた幸せを比べると、もちろん圧倒的に今の母に会えた幸せの方が大きいのですが、捨てられた悔しさが消えることはありません。」
「あなたを捨てたんじゃないのよ、どうしようもなくなって。仕方のなかったことなの。」
「今の母が来てからの私は幸せです。私は心から今の母を尊敬していますし、大好きです。母も私を愛していて、私のやりたい事を全力で応援しています。」
「私だって、そうなってたはずよ。あなたの父親が私を大切にしなかったから、あなたのそばに居られなくなっただけなの。」
「あなたがあの家に居た時は、私は息苦しかったです。」
「そんなことはないでしょう!」
「あなたとお揃いの派手な服を着せられて見せびらかされて。邪魔なリボンを取ったら怒られて。私の父親と祖父母の悪口を毎日聞かされて。毎日キラキラしてるけど美味しくないレストランで食事させられて。」
「やめて!なんでそんなこと言うの?私はあなたを、お腹をいためて産んであげた母親なのよ!親に向かって、なんていう態度なの?良い加減にしてちょうだい!もう帰るわ!」

 ーあれっ帰っちゃったよ。警察呼ばずに済んじゃった。

 すぐに社長、凛、賢翔君まで心配そうな顔をして応接室に入ってくる。
 あ、お父さんとお母さんまで?!会社から駆けつけたの?スーツ姿ですけど?

 「優!大丈夫?」
お母さんが走ってくる。
「ごめん、つい、優のお母さんに連絡しちゃった。」
凛が謝る。
「私はたまたま近くにいて、ちょっと時間があって。」

 ーお父さん、それ嘘だね。わかりやす過ぎるよ、お父さん。

 「大丈夫です。もっとしつこいかと思ったけど、案外あっさり帰りましたね。いったいどんな手を使って、私からお金をせびるのか、楽しみ、じゃなくて、心配してたんですけどね。」
「優ったら。」
と、母が笑って両手を伸ばしてくれるので、やっぱりお母さんに抱きついてしまう。お母さんに背中をトントンされてホッとしてきた。私やっぱり緊張してたみたい。あぁ、お母さんまた泣かせちゃったよ。私もまだ興奮してるのか、涙が溢れてくる。お父さんはちょっと泣きながら笑ってる。また親子三人、涙、涙の場面にしちゃったよ。昨日同じことやったとこなのにね。あ、社長たち、部屋から出てっちゃった。ありがとね。ここは思う存分家族の絆に浸らせてもらいますです。


 私を産んだ人騒動はすぐ鎮火し、数日後。社内授業は午前が賢翔君レクチャーの『プログラミング入門』、午後が凛の選んだ『今一番儲かる投資先』をネット動画で勉強した。

 「社長、明日の授業に、割り込みで『投資で失敗するパターン』の勉強を入れたいです。
「なるほど、さすが優さん。危機管理が働きますね。警報が鳴りましたか?」
「はい。このところ、かなり賢い人でも、うっかり沼や罠にハマって人生を棒にふってますから。」
「良いですね。僕はぜひやって欲しいですが、広瀬さん、賢翔君、いかがでしょう?」
「やってやって。」
「僕もお願いします。」
「ところで皆さん、僕は常々この社内学習が、とても価値があるように思えるんです。そこで、より多くの人に伝えるために配信してみたくなってきました。」
「配信?」
「そう、たくさんの人に知ってもらえたら、より良い社会になるのではと思うのです。具体的にはまだ白紙なので、何かアイデアを思いついたら、その都度、教えて欲しいです。」
凛が賢翔君をチラ見する。
「あの、僕の友達が、動画配信のこと詳しいです。」
「賢翔、その子はもう友達とは言えないんじゃないの?」
「そんなことない、ずっと親友だよ。」
「でもその親友さんのせいで賢翔が悪者になったんでしょ。賢翔は学校に行けなくなったのに、親友さんは平気で毎日登校してるそうじゃない。海斗からはそう聞いてるけど。」
「それは海斗が勝手にそう思ってるだけで。動画が炎上してから、海斗とはちゃんと話せてないから。ごめん、海斗にちゃんと説明させて。今日家行って良い?」
「親友さんが動画の内容を全部決めてたんでしょ?」
「そうだけど、生配信で僕がうっかり個人情報を言っちゃったんだ。謙心は悪くない、むしろ被害者だ。僕のせいで謙心はもう動画、撮ってないんだ。」
「わかった、賢翔、海斗に言っとく。今日おいで。待ってるから。」

 「そのケンシン君は、動画を撮るのが得意なのですか?」
と社長が尋ねる。
「はい、すごい上手いです。と思います。機材も全部揃ってて、テンポ良くって、面白いし。それにすっごくみんなのためになるような、納得できる内容なんです。」
「それは、打ってつけの人物に思いますね。」
「謙心は顔が、ちょっと変わってて、て言うか、右目が、へこんでるんです。小さい頃病気して、手術して治ったんだけど、見た目がちょっと、初めて会う人は、あれ?って思うっていうか。その、だから僕に代わりに出演するように頼まれたんです。」
「そうだったんですね。賢翔君、僕がそのケンシン君に会うことはできますか?」
「あいつ、いつでも来ます。ここのこと、喋ってたら、すっげえ興味ありまくりだったんで。・・・あ、すみません、あの、俺、僕、謙心が僕のことずっと気にしてたんで、安心させようと思って、ここが楽しい面白いって、ついいろいろしゃべっちゃって。すみません。以後気をつけます。やべえ、またやっちゃった。あんな痛い目に合っておいて、なんで俺ってー。」
「大丈夫です。ケンシン君には、ここに来てもらうことになったんですし。」
焦る賢翔君を社長が落ち着かせようとする。

 その日の夕方。賢翔のスマホが揺れて、
「あ、今、謙心、近くに来たんで連れてきます。」

 数分後。
「こいつ、じゃねぇこれ?この人?が謙心です。上田謙心君です。」

「上田謙心と申します。今日はお呼びくださりありがとうございます。」

 ー噂のケンシン君は、背が低めの可愛い顔で、言われてみれば右目のあたりが少しへこんでいるような。

 「ケンシン君が動画を撮るのが得意だと、賢翔君から伺いました。早速来てくださってありがとうございます。」
「僕が来たかったんです。賢翔が、死にそうに落ち込んでた賢翔が、一日で復活した会社に。来られて嬉しいです。」
「上田ケンシン君、良い名前ですね!」
「ありがとうございます。」
「上杉でないところが、またなんとも言えないですね。」
「へへ、よく言われます。父が上杉謙信が好きで、でも名字が上田なので信じるを心に変えてみたそうです。」
「あ、心なんだ、けんは上杉謙信の謙?」
「そうです。」
「すごい名前ですね!すぐ覚えられます。賢翔君の名前も良いですね。二人とも、漢字も音の響きも。」
「あ、僕は外国人にも覚えられやすい名前にしたって親から聞きました。」
「なるほど。」
「ジョージかケントかで迷って、『翔ぶ』って漢字が使いたいたいから賢翔にしたって。」
「賢翔君、ケント!良いですね。」
「ねぇ、社長って、どうして私だけ名字で呼ぶんですか?優さん、広瀬さん、賢翔君、謙心君って呼んでますよね。」
「え?どうしてって、えーっと、優さんは優しい優しい優さんって感じだし、広瀬さんは広い瀬って感じだし、音もヒロセでぴったりだし、賢翔君と謙心君はぴったりだし呼びやすいし。」
「それは説明ですか?全くわかりませんが。」
凛が鋭く言い返すと、社長はさらによくわからない説明を続けた。
「あれ?でも、優さんは春の田って感じもぴったりですね。広瀬さんは、そう言えば、凛、の方が合う。響きかな。」
「ですよね!私だけ名字で呼ばれると、私だけ目上の人みたいで、ちょっと嫌だったんです。これからは凛の方でー」
「そんなこと言うんでしたら、僕だって社長呼びはやめて欲しいです!君たちみたいな、真っ当に生きている人たちに、社長、社長と言われる度に、わがままで常識を知らない僕は、いつも恥ずかしくて、いたたまれないというか、責められた気になるんです。僕も名前で呼んでください。できれば僕は呼び捨てで。あなたたちの方が人としてずっと上なので。」

 ーあれあれ?面白いこと考えてたんだ。

 思わず私は、
「社長、常識を知らないといつも自分で言われている社長が、一番常識を気にしてるのではないですか?」
「そうです、優さん。僕は常識をあまり知らないけれど、知っているわずかな常識には、なぜか逆らいたくなるです。とてもこだわっています。だからみんな僕を『長』のつく役職で呼ばないで欲しいです。」
困っている社長に、凛が、
「じゃ、いっそみんな名前でいっちゃう?大樹さん、優さん、賢翔さん、謙心さん、凛さん?今更、賢翔さんって笑っちゃうけど『賢翔』より社会人ぽいかも。」
「社会人ぽい方が良いなら全員名字に『さん』付けでしょ?菅原さん、春田さん、広瀬さん、上田さん、小田さん。小学校でも最近はこれっすよ。」
賢翔君が言うと、謙心君が、
「音を重視するなら、ダイキ、ユウ、リン、ケント、ケンシンかな?」
「それだ!!」
みんなが一斉にうなずく。
「さすが謙心君、いやケンシン、動画のプロですね。音の響きやテンポの良さは大事ですね。優さん、広瀬さん、賢翔君も良いですか?ユウ、リン、ケントで?」
ダイキの問いに、三人声を揃えて、
「はい!」
「では、森企画は、ファーストネーム呼びで新たにスタートしましょう。」
とダイキが締めたところで、リンが、
「ねぇ、森企画の森はどうしてつけたの?」
「名前の大樹に樹がついてるからです。僕は、この会社を作る準備をしていた時、一人でやるイメージしか持っていなかった。起業する方法を勉強して、書類作って、ここ借りて、会社の名前を考えていた時、一人で寂しくやってる会社に、菅原企画、大樹社、自分の名前つけたら寂しいかな、でもカタカナ社名は僕には胡散臭く感じるから嫌だな。何やるか決めてないから、何でも手を出せる会社名は?富士山の富士?日本?令和?いろいろ考えて、大樹の樹は森にあるし、森かな、に落ち着いて、何やるか考えるのが一番楽しいから企画にしました。今からでも変えられますよ、もっと良い名前ないですか?」
「森企画が良いと思います。」
全員で言って、全員で拍手した。


 「ケンシン、今までやった社内授業を送るので、時間がある時、見てもらって良いですか?全部じゃなくても興味がある物だけでも。」
「え?社長?!勝手に撮ってたんですか?!」
リンが鋭く言った。
「すみません。最初、僕の授業を作る為に、ユウの授業を参考にしようと撮りました。ユウもリンもケントも、僕が撮っているのを知ってると思っていました。ここにこうやってスマホを立てて撮ってたんですけど。」
「知りません。講師になって話している時、そんなとこにあるスマホに気づくほど、余裕ないです。」
リンが厳しく言う。
「テーマのバランスを考えるためにも、撮りました。それに、皆さんがとても良い授業をするので、あまりに楽しくて、いつか寂しくなったら見ようと思って。」
「だとしても勝手に撮るのは良くないです、社長、強く抗議します。ね?ユウ?」
「リン、僕はダイキですよ。」
「しゃちょ、じゃなくて、ええい、めんどくさい、ダイキ!話をそらさないでください。今は隠し撮りの話をしています。」
「ごめんなさい、隠し撮りの認識は無かったです。もうしませんし、他にもしていません。社内授業だけです。これで全部です。リン、僕のパソコンとタブレットとスマホの中身をあらためてください。ケントとケンシンは、隠しファイルとかも探せる?リンと一緒にチェックしてください。心配なら専門家に依頼してください。」

 ダイキの、素直に捜査を受けようとする態度に、リンは、
「ユウはどう?他に隠し撮りするとしたら、ユウの着替えとか寝顔だと思うんだけど。」
「リン!僕そんなことできません!まさかそんなバチあたりなこと、僕にできるわけないです!女神様の笑顔を撮るために一日カメラを回そうかと考えたことはありましたが、やっていません。」
「ああそうですか。もう発想が犯罪者ですけどね。ユウ、気をつけた方が良いよ。ストーカー予備軍だよ、逃げたらどこまでも追ってきそう。」

 ーあらら、社長、じゃなくて、ダイキがへこんじゃった。

 「大丈夫ですよ、ダイキ。私は逃げないですから。それと勝手に撮らずに先にひとこと、おっしゃってくださいね。」
「はい。隠し撮りとか、ストーカーとか絶対しません。」
 
 ーあらあら、みんなどう反応していいか困っちゃってる。

 みんなの戸惑いには気づかず、ダイキはすぐいつものダイキに戻って、
「ケンシン、ケンシンは今までどんな動画を撮っていたのですか?」
「僕は、僕の動画を見て、辛い毎日を送っている人が辛いことをちょっとだけでも忘れられたり、息苦しい人がちょっとでも楽に息ができるようにと考えて作り始めました。テーマは特に決めず、その時思いついた、笑える話や役立つことをあれこれ撮っていました。」
「では、ケンシンのペースで、好きなように作ってもらっても良いですか?できた物は編集前でも失敗作でも見たいです。作る前に意図していたこと、作った後の反省点なども一緒に教えてください。ユウ、リン、ケントの意見もどんどん取り入れたいし、僕もいっぱい希望を言いたいです。ただ、あくまでも学業優先でお願いします。」
「わかりました。」
「ケンシンの作業時間は、メモで良いので、社のグループチャットに残してください。後からでも大丈夫。必要な機材、取材費、交通費、何でも社が負担します。レシートが無くても大丈夫なものもあるので、とにかく忘れないでメモに書いてください。」
「ありがとうございます!!」
「でも、あくまでも高校生なんですから、学業は大事ですよ。ケントも、リンも、ユウも。君たちまだ10代なんだから、まだまだインプットする年令なんだよ。なのになんで仕事ばっかりさせてるんだ?やっぱりおかしい、僕は子供たちから搾取してるんだ。」
「私は好きなことしてるだけでーす。」
「私も楽しいことだけやってまーす。」
「僕もでーす。」
「僕もそうします。楽しみます。そのために勉強もしっかりします。」
リン、ユウ、ケントとは違い、ケンシンだけ、まともに返事をした。
「そうしてください。お願いです。」
ダイキが真剣に頼んだ。

 さてさて、しばらくしてケンシンの作った動画が送られてきた。ケンシンがサングラスをしてプレゼンする、大人も子供も楽しく学べる健康管理講座だ。プロの仕事だわ、すごーい!
 ただね、どこかちょっと惜しいような。内容は良いのに。

 「どうですか?ユウ、リン、ケント。ケンシンの動画は?」
「素晴らしいです。言葉のチョイス。クイズを入れたり、長さも、もうちょっと見ていたいってタイミングで終わるので次に繋がりそう。ただ、この前会って話したケンシンとちょっと違ってて。ぎこちないというか。」
ユウが感想を言うと、ケントが
「ケンシンは自分を撮るのに慣れてないからだと思う。」
「ケンシンの姿にエフェクトかけて、キャラっぽくする?やっぱりケントも出演する?それともキャラを作って掛け合いにする?ご当地キャラみたいなのか、子供向け番組のキャラみたいな。キャラクターデザイン、誰かやってみません?」
とリンが提案すると、
「やりたい!」
ダイキとケントが手を挙げる。
「ケント、案ある?」
「うーん、二頭身。イケメン、かわいい子、ネコで2人と1匹とか?」
「僕は、癒し系男の子、できるお姉様、イケおじ、イケジジ、美魔女、美老婆、むっちゃ天使な幼児男女。」
「なるほど、老若男女作るんっすね。ネコも追加は?ネコ人気っすよ。」
「いやハムスターっしょ?いや、あえて爬虫類?」

 ダイキとケントがじゃれあってるのを見つつ、リンが
「ケント、今のやり取り、ケンシンに伝えてみたら。で、ケンシンが興味を示したら、ダイキとケントが推しキャラクターをケンシンにプレゼンすると。」
「ケントには負けられねー。」
「受けて立つなり。ダイキ。」

 ーこんなに遊んでて本業回るの?ところがところが回ってるのです。楽しいことすると、仕事もサクサク進むし、リンは元々作業も決断も早いし、ケントは基礎がわかってるから、ダイキに少し教えてもらうと、すぐになんでも一人前。私もやっとやり方がわかってきて、少しずつ任せてもらえるようになった。もちろんダイキが手直しするけど。リンとケントの仕事は、手直しすることにダイキは遠慮があるみたいで、私のを直すの、楽しそうなのです。私も自信ないし、ダイキに直させてあげてます、なぁんて。

 ケンシンが動画で、キャラクターに喋らせることに大賛成だったので、全員で推しキャラクターのプレゼンをした。ケンシンも自分の作ったキャラクターを私たちにプレゼンして、最終的にケンシンが10人3匹に決定。ケントは時々ケンシンの家に行って、動画作りもお手伝いするように。
 しばらくして、試作の動画が社内クラウドにアップされたので、みんなですぐに視聴。画面がほんわか可愛い雰囲気。ケンシン、ケントも、顔をちょっとデフォルメして出演。キャラが多くてごちゃごちゃするのかと思いきや、上手く仕上げていてスッキリ見やすい。よりテンポも良く、面白くて、内容も納得。さすがだわ。プロの仕事を見せていただきました。
「ケンシンもケントもすごいね、面白かった、ね、ユウ。」
リンと私で感想を言い合う。
「センス良いよね。そして内容が素晴らしい。技術だけではない、魂こもってるね。」
「絶対、学業おろそかにしてるでしょ。」
「そりゃこれ、かなりのめり込んでるよ。」
「キャラクターも良いよね。いっぱいいるのに、画面がすっきりしててホッとした。ねえ、このキャラクターのグッズ欲しくない?」
「ほんとだ、リン、私も欲しい。」
「どこかに発注して、お気に入り登録してくれた人の中から抽選でプレゼントとか?」
 リンとユウがグッズにまで話が飛んでいる横で、ダイキがケントに、
「本当に素晴らしかったです。このまま作り続けて欲しい。僕からケンシンにも伝えますが、ケントからもケンシンに伝えてくれますか。」
「了解!ありがとうございます!」

 数日後、
「ダイキ、ちょっとお話があるのですが。」
「え?!ケント?会社辞めるの?」
「え?まだ何も言ってないのに。」
「『ちょっとお話が』ときたら『会社やめます』かなと思って。」
「そうですか。いえ、辞めません。平日はリモートワークにしてもらおうかなと思いまして。」
「じゃ職種変えてもらって、好きな時だけリモートワークする契約なんてどう?高校戻ることにしたの?」
「え?また言う前から。」
「ケンシンと仲良くやってるから、学校行きたくなるかなと思って。」
「はい。ケンシンと動画作ってたら、無性に学校に戻りたくなりました。でも進級できないし、とにかく2年生の間だけ、3ヶ月ちょっとなんだけど学校に行ってきます。」
「明日から?」
「また言う前から。」
「ほら、思い立った時に行かないと、また行きたくなくなるかもしれないから。」
「はい。間をおいて考えだすと、また行けなくなりそうで、明日から行きたいです。昨日親にちょっと話したらものすごく喜んじゃって、今朝学校に電話してしまいました。」

 ダイキが、
「ユウ、ちょっと買い物付き合って。」
「はい、何を買うのですか?」
すぐ二人で会社を出る。
「大会社の社長に見えるスーツはどこで買える?」
「えー?知らないですよ、検索してみます、えーっと、こことか?こことか?もしかしてケントの学校に行くんですか?」
「そう。相手を、自分の思う方向に動かせるような人間になりたくて。とりあえず形から入ります。」
「なら、ここかな?」

 すぐお直ししてくれるか電話で確かめてから、何軒かのお店を見て回り、なかなかのリッチなブランドのスーツとシャツ、ネクタイにベルトをゲットした。
「かっこいいです、ダイキ。でも靴が違う気がします。」
「あ、忘れてた、靴、靴。」

 高級紳士靴もゲットで、若手イケメン実業家にへんしーん!

「ダイキ、素敵です。スーツ似合いますね。」

 ーダイキが照れて、嬉しそう。

 「では行ってきます。」
「え?一人で行くんですか?私も行くつもりでしたが?」
「ひどい目に合うかもしれないから今日は一人で行きます。先ほどそう連絡しましたし。」
「嫌です。連れて行ってください。ダイキが一緒なら私は何があっても平気です。」

 ーダイキ更に照れる。

「では、いざ!」

 二人で校長室に通された。

 「小田賢翔さんに、技術的なアドバイスをいただいております森企画代表、菅原大樹と申します。本日はお時間を取ってくださり、ありがとうございます。」
「経営者さんですか。それはどうもご足労いただきまして。」
と、校長先生。
「秘書の春田優です。」
私も名刺を出す。ちなみに私の名刺には肩書きがない。社長の横に立ってる人は秘書かなと思って言ってみた。

 校長と教頭先生、担任の佐藤先生が並んでいる。

 「今日、お邪魔させていただいたのは、小田賢翔さんが進級できるかを確認するためです。」
「あぁ、それはもうちょっと難しいですね。」
と教頭先生。
「そうなんですか?!そんなこととは知らずに、あまりに優秀で親切な小田さんに、頼りきっていました。御校生徒の広瀬海斗さんのお姉様が、弊社の社員でして、弊社がインターネットのトラブルに見舞われ困りきっていた時に、小田賢翔さんに助けていただきました。小田さんは問題点を全て洗い出してくださり、修正にもご指導くださいました。弊社が窮地を脱するために小田さんは全力で当たってくれておりましたので、わたくしどもは、小田さんの主席日数が足りなくなるということに思いが至りませんでした。私は小田さんに取り返しのつかないことをしてしまいました。いったいどうしたら小田さんは進級できますか?今から課題を与えていただくとか、特別に試験をしていただくわけにはいきませんか?」
「いえ、出席日数が足りないのはどうしようもないんです。」
と、教頭先生。
「では校外活動はいかがですか?弊社での彼の実績はすぐにご準備できます。」
「そういうのは受け付けられません。」
と、教頭先生。
「では冬休みや週末などに自治体や政府の臨時の仕事は?優秀な彼なら休んだ数ヶ月分の穴埋めくらい、数日でこなすと思います。」
「ちょっと、そういうのも。出席に換算するのは無理ですね。前例が無い。」
と、教頭先生。
「では、この学校のホームページを作るのは?それこそ彼の得意中の得意分野です。まぁ、得意分野が多過ぎて、こんなことになってしまったんですけど。彼の倫理観も信頼できますから、ネットのセキュリティ関連にも適任です。」
「セキュリティに適任って、そもそも小田君は動画配信で個人情報を漏らしたのですよ。」
と、また教頭先生。
「それこそ彼の倫理観が信頼できる所以です。16才の高校生がうっかり話した内容で、同級生を傷つけたと悩み、登校しようにも体が拒否したんです。普通の高校生なら、まず、人のせいにしたり、言い訳をして嘘くらいつくところです。でも彼は一緒に動画を作っていた親友をかばい、一人で苦しんでいました。私は年下の彼を尊敬しています。そして全面的に信頼しています。」

 「そうなんです。うっかり話したことも、全然大した話じゃないんですよ。言われた方が騒ぎを大きくしただけで、その子も今、後悔しているようです。よく事情を知らない生徒たちがどんどん違う話にしちゃったから。」
と、担任の佐藤先生が言ってくれた。ケントにも味方がいることがわかってホッとした。
「では小田賢翔さん、上田謙心さん、騒ぎを大きくして後悔している生徒さん、違う話にしてしまったみなさんを救うために、なんとか小田さんが進級できる方法を考えていただけないでしょうか?この通り、お願いいたします。」
かすかに流れが変わりそうなこのタイミングを逃さないように、ダイキが勢いよく最敬礼をする。私も並んでやってみる。
「頭を上げてください。確かに我々も困っていました。成績も申し分ない優秀な生徒を、進級させないことで、このまま退学になってしまうのは、忍びなかったんです。前例は無いのですが、来年の春休みと夏休みに何か出席に代わる活動をしてもらって二年の出席日数に代えられないか検討してみます。」
と校長先生。
「ありがとうございます!!なにとぞ!!なにとぞよろしくお願いします!!」
また二人で最敬礼をする。なんか先生方がヒソヒソ頭を寄せて、あーだこーだ言ってるので、腰がだるくなってきた。お腹に力を入れ直して、頭を下げ続ける。最敬礼より土下座の方が楽だったんじゃないかな?見た目にインパクトあるし。
「では、その方向で進めます。小田君には進級してもらいましょう。成績優秀で、生活態度も、騒ぎまでは申し分なかったですからね。」
校長先生のご英断、いただきました!!
「ありがとうございます。小田賢翔さんが進級できることに決まって心からホッとしました。校長先生、教頭先生、担任の佐藤先生、感謝します。本当に小田賢翔さんにはお世話になったので三年生に進級できることになり、胸をなでおろしております。校長先生、教頭先生、佐藤先生、小田賢翔さんへのご配慮、本当にありがとうございます。」
ダイキは、何度も何度も言って、何度も何度も頭を下げ、何度も何度もしつこく念押しした。

 校門を出るとダイキはすぐにケントに連絡し、二人で急いで会社に戻った。ケントはすぐに両親とケンシンに連絡していて、リンも感激して弟に連絡していた。みんなでガッツポーズをしながら雄叫びをあげる。何回も。え?なんかスポーツで優勝した感じ?
「話変わるけど、ダイキ、スーツ似合うね!毎日着れば?」
リンが言うと、
「でも偉い社長のフリ疲れた、早くスウェットに着替えよ。あぁ腰が痛い。」

 ーやっぱり土下座の方が良かったね、ダイキ。

 「ケント、ケントとケンシンは、動画だけ作る請負契約にしてもらおうと思います。」
「え?でも動画はほとんどケンシンが作るので僕、やる事無くなっちゃいますよ。」
「ケントは春休みも夏休みも無いんだよ。暇なら行きたい大学を探したり、受験勉強でもしたら良いと思うよ。それでも暇なら遊びに来て。」
「来ますよ、こんなに楽しいとこ他に無いっすから。ケンシンも『来る用事無くても顔出して良いかな』って言ってました。」

 ニコニコ聞いていたダイキが突然、
「ちょっと待て、それどころじゃない。僕、校長と教頭と担任の佐藤先生に、君のこと、ちょい盛っちゃったから、すごく忙しくなる可能性が!ケントは、ネットのセキュリティ関連のエキスパート?」
「え?なんすか?セキュリティ?ま、一応自分守るためにひと通り押さえてるくらいっすけど?」
「まずい!今からセキュリティ上級編の講義開始!ユウも、リンも良い機会だから聞いててね。」

♪キーンコーンカーンコーン
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