偽名の勇者、実は全職業をマスターしてました 〜世界の裏で転職無双〜

御歳 逢生

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第1章 最弱冒険者、辺境で転職無双

第1話 瘴気の森からの生還

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夜の闇が深まる瘴気の森。頼りない足取りながらも、俺は一歩、また一歩と森の奥へと足を踏み入れた。
全身を縛っていた縄は、あの能力が発現した際に、何らかの力が作用したのか、いつの間にか解けていた。
ボロボロの服の上に羽織った、王宮を追い出される際に渡された粗末な冒険者風のコートが、唯一の荷物であり、身を隠す防具だった。

【警戒】スキルが、森の奥から複数の魔物の気配を、そしてそれらが帯びる明確な殺意を、脳内に直接伝えてくる。瘴気で霞む視界の中、俺は直感的に、最も気配の薄い方向へと身体をねじ込んだ。
現代の身体では、異世界の森を全力で走ること自体が重労働だ。木の根に躓き、転びそうになりながらも、決して振り返らずに闇の中を駆け抜ける。

数分間、死に物狂いで走っただろうか。
肺が焼けるように熱い。全身に冷たい汗が噴き出す。瘴気の重い空気が、喉の奥からまとわりつくようだ。
まだ瘴気の森のまっただ中だ。いつまた魔物に遭遇するか分からない。このままでは体力が持たない。

その時だった。
前方から、草むらがざわめく音がした。
警戒スキルが、弱々しいながらも確かに存在する一つの命の気配を捉える。
戦闘は避けたい。だが、もし魔物なら……。俺は身構え、息をひそめた。

「キュ……キュルルル……。」

草むらから飛び出してきたのは、手のひらに乗るほどの小さなリスだった。
幻のような淡い光をまとった毛並みを持つ、幻影リスと呼ばれる魔獣だ。
だが、その可愛らしい姿とは裏腹に、体は痩せこけ、見るからに弱り切っている。
紫色の瘴気が、その小さな体を蝕んでいるのが見て取れた。
右の前足は、折れた木の枝のようなものに挟まれ、身動きが取れないようだった。

「お前も、苦しいのか……?」

【動物会話】スキルが、リスの体から発せられる苦痛と恐怖の感情をダイレクトに俺の脳に伝える。
瘴気の影響で、この森にいる多くの生物が同じように苦しんでいるのだろう。
自分をこんな場所に追いやった王国への怒りとは別に、目の前の小さな命を見捨てる気にはなれなかった。

「動くなよ。すぐ終わる。」

俺はそっと手を伸ばし、折れた枝を慎重に取り除いた。
リスが怯えて震えるが、俺の殺意がないことを感じ取っているのか、逃げようとはしなかった。
枝を取り除いた後、【簡易治癒(獣)】を発動した。温かい光が俺の手からリスの体へと流れ込む。
リスの体がピクリと震え、やがて瘴気に冒されていた部分の毛並みが、僅かだが輝きを取り戻した。
折れていたはずの前足も、魔法のように癒えていく。

「キュルル……!キュッ!」

リスは小さく鳴くと、俺の指先にすり寄ってきた。
そして、ちょこちょこと先導するように動き出す。
まるで「こっちだ、ついて来い」とでも言いたげに、森の奥へと進んでいく。

(もしかして……道案内をしてくれるのか?)

【動物会話】のスキルで、リスが「こっちに行けば、少しは安全だ」「水場がある」「あの場所には強い魔物がいるから避けるべきだ」と伝えているのが分かった。言葉ではない。感情と、地形や危険生物のイメージが直接脳に流れ込んでくるのだ。俺は、その小さな案内役を信じることにした。

リスに導かれるまま、俺は森の奥深くを進んだ。
リスは巧みに魔物の巣を避け、毒沼や危険な植物を迂回してくれる。
【警戒】スキルが、事前に魔物の殺意や罠の気配を察知し、リスの案内と相まって、危険を未然に回避することができた。通常の冒険者なら見過ごすような、地面にわずかに残る粘液の跡、あるいは木々のわずかな傾きから、隠れた魔物や毒草の存在を見抜けるのは、【警戒】とリスの知識、そして覚醒したばかりの【転職技能融合ジョブアーカイブ】がもたらした俺自身の知覚能力が向上した証拠だった。


数日間、リスと俺の奇妙な旅は続いた。
昼間はリスの案内で安全な場所を探し、夜は小さな洞窟や茂みに隠れて眠った。
俺は【動物会話】を通じて、この瘴気の森の生態系や、瘴気への耐性を持つ植物、利用できる水源などを学び始めた。例えば、瘴気の中でも育つが、少量なら毒消しになる紫色のキノコや、魔物が近づかない特殊な草の匂いなど、リスは詳細な情報を伝えてくれた。
獣使いのスキルが、想像以上にこの過酷な環境で役立つことを実感する。絶望だけだった心に、生き残れるという確かな希望が灯り始めていた。

道中、俺は【簡易治癒(獣)】で何度かリスの体調を回復させ、リスもまた、俺が食べられる木の実や飲める水場を教えてくれた。言葉は通じなくとも、俺とリスの間には確かな信頼関係が築かれていく。


そして、ある日のこと。
リスがぴたりと足を止めた。
そして、頭上の木々を指し示すように、しきりに鳴く。
その方向の木々の葉は、これまでと違い、鮮やかな緑色を取り戻していた。
瘴気の霧も、驚くほど薄い。遠くから、微かにではあるが、人の気配も感じられる。

「……ここが、終わりか?」

俺の問いに、リスは安心したように肩に乗って、首をこすりつけてきた。
その小さな温もりに、心が和む。

「ありがとう、お前のおかげだ。」

リスをそっと地面に下ろす。
名残惜しそうにキュルルと鳴いた後、リスは森の奥へと駆け去っていった。
再び一人になったが、あの時の絶望感はない。
俺は、ボロボロの冒険者風コートの裾を握りしめ、森の出口へと歩き出した。

木々の間を抜けると、まばゆいばかりの陽光が差し込み、目の前には細い獣道が伸びていた。
澄み切った空気が、肺の奥まで満たされる。瘴気の森を抜けたのだ。

俺は、広がる街道を前に立ち尽くした。

「ここから……俺の第二の人生が始まる。」

偽りの名「リオ」として、この理不尽な世界で生き抜く。
そしていつか、俺を「消された者」とした王国の愚かさを、世界に思い知らせてやる。
真の勇者として、いや、それ以上の存在として、世界に名を轟かせてみせる。

俺は、覚醒した【転職技能融合ジョブアーカイブ】という無限の可能性を秘めた力を胸に、街道への最初の一歩を踏み出そうと、強く大地を踏みしめた。
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