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第二章 極寒の王国~ハイランド王国編~
第二十八話 白の砦は崩れず、ただ揺らいだまま
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影が静まり、空間が元に戻る。
エルドリックはその場に膝をつき、剣を地に突き立てたまま動かない。
生きている。ただ、戦意を、そして固定された意思を失っただけ。
ヤゴリ、ナコビ、メザカモは息を飲むようにその光景を見つめていた。
「終わったのか……?」
ナコビが呟くと、オべリスは振り向かずに言った。
「……彼は、ここに残るよ。」
「え?」
「自分がどう在るべきか、ようやく考え始めたようだからね。」
そのままオべリスは歩き出す。
空間が再び裂け、彼の身体を飲み込もうとする。
「君たちは、彼を殺すな。あとは……彼自身が答えを出す。」
その言葉と共に、黒き影が彼を包み込みオべリスの姿は消えた。
静寂。
残されたのは、エルドリックと、見守る魔族たち。
冷えた空気の中、どこか、ほんの僅かに風が暖かかった。
エルドリックは崩れず、ただ揺らいだまま。
——翌朝。
戦の傷跡を、風が静かになぞる。
瓦礫と血のにおいが残るハイランド城に、淡い光が差し込んでいた。
衛兵たちは一夜にして壊滅。
討伐部隊も、魔導兵も、再編すらままならぬほど打ち砕かれた。
しかし“白の砦と称されたエルドリック王だけは、死ななかった。
否、殺されなかった。
それは、圧倒的な勝者である魔王オべリスが下した、見逃しではない。
“選ばせる”という、より重い裁きだった。
「……本当に、いいのか?」
メザカモが、かつて敵と呼んだ男を見下ろす。
エルドリックは未だ膝をついたまま、剣を握り続けていた。
目を閉じ、口を閉ざし、ただ沈黙の中にいる。
ナコビが苦々しげに言う。
「放っときゃまた戦場に戻ってくるかもしれねぇ。次こそ殺しに来るさ。」
だがヤゴリは静かに首を横に振った。
「……違う。迷ってる奴の目をしてる。俺たちがどうこうする問題じゃない。」
「…………。」
“動かぬ砦”が、初めて動きを止めた夜。
魔王の一撃ではなく、言葉の問いによって。
地下の牢にて、ようやく解放された雪豹族たちが集まりはじめていた。
シヴァルは、幼い子を背負いながら外の空気を吸っていた。
あの凛とした瞳に、疲労と静かな怒りが滲んでいる。
「……助かったのは奇跡。けど、これで終わったと思うなよ。王国。」
誰に聞かせるでもない独り言だったが、その言葉に周囲の目が応えた。
解放された魔族たちは恩赦を望んではいない。
彼らの心にあるのは、誇りと、深く根付いた怒りだ。
けれど今は、それより先に、戻る場所を取り戻さねばならない。
「さぁ、帰ろう。まだ、終わっちゃいない。」
ヤゴリが最後に見たのは、未だ沈黙を守るエルドリック。
その姿は、かつてのように絶対ではなかった。
だが、不思議と哀れとも思わなかった。
「……また会おう、エルドリック王。」
エルドリックは、何も言わなかった。
けれど、その手から、少しだけ、剣の力が抜けていた。
魔王オべリスが姿を消してから、半日。
王国の“白き戦線”は大きく揺れ始めていた。
報告書には、「砦、撤退」「ハイランド城、陥落」
そして「魔王、現る」の文字。
この事件は、魔族への見方をも変えるかもしれない。
ただ一人で現れ、ただ一人で砦を屈服させ、誰も殺さずに去った魔王。
その行動は、畏怖ではなく、概念の更新だった。
魔王とは何か?
敵とは何か?
そして、正義とは誰のものなのか?
数日後。
砦は姿を消した。
王国軍に戻ることも、魔族に追われることもなかった。
ただ、風の噂の中にその名は残る。
白の砦は、まだどこかで立ち尽くしている、と。
壁ではなく、いつか誰かの剣になる日を待ちながら。
──オべリス。
この戦いは、序章にすぎない。
だが確かに、ここから風は変わった。
「……次は、言葉で決着をつけられる時代が来るといい。」
誰かが、そう呟いた。
それが、いつの日か“伝説”と呼ばれる始まりだった。
エルドリックはその場に膝をつき、剣を地に突き立てたまま動かない。
生きている。ただ、戦意を、そして固定された意思を失っただけ。
ヤゴリ、ナコビ、メザカモは息を飲むようにその光景を見つめていた。
「終わったのか……?」
ナコビが呟くと、オべリスは振り向かずに言った。
「……彼は、ここに残るよ。」
「え?」
「自分がどう在るべきか、ようやく考え始めたようだからね。」
そのままオべリスは歩き出す。
空間が再び裂け、彼の身体を飲み込もうとする。
「君たちは、彼を殺すな。あとは……彼自身が答えを出す。」
その言葉と共に、黒き影が彼を包み込みオべリスの姿は消えた。
静寂。
残されたのは、エルドリックと、見守る魔族たち。
冷えた空気の中、どこか、ほんの僅かに風が暖かかった。
エルドリックは崩れず、ただ揺らいだまま。
——翌朝。
戦の傷跡を、風が静かになぞる。
瓦礫と血のにおいが残るハイランド城に、淡い光が差し込んでいた。
衛兵たちは一夜にして壊滅。
討伐部隊も、魔導兵も、再編すらままならぬほど打ち砕かれた。
しかし“白の砦と称されたエルドリック王だけは、死ななかった。
否、殺されなかった。
それは、圧倒的な勝者である魔王オべリスが下した、見逃しではない。
“選ばせる”という、より重い裁きだった。
「……本当に、いいのか?」
メザカモが、かつて敵と呼んだ男を見下ろす。
エルドリックは未だ膝をついたまま、剣を握り続けていた。
目を閉じ、口を閉ざし、ただ沈黙の中にいる。
ナコビが苦々しげに言う。
「放っときゃまた戦場に戻ってくるかもしれねぇ。次こそ殺しに来るさ。」
だがヤゴリは静かに首を横に振った。
「……違う。迷ってる奴の目をしてる。俺たちがどうこうする問題じゃない。」
「…………。」
“動かぬ砦”が、初めて動きを止めた夜。
魔王の一撃ではなく、言葉の問いによって。
地下の牢にて、ようやく解放された雪豹族たちが集まりはじめていた。
シヴァルは、幼い子を背負いながら外の空気を吸っていた。
あの凛とした瞳に、疲労と静かな怒りが滲んでいる。
「……助かったのは奇跡。けど、これで終わったと思うなよ。王国。」
誰に聞かせるでもない独り言だったが、その言葉に周囲の目が応えた。
解放された魔族たちは恩赦を望んではいない。
彼らの心にあるのは、誇りと、深く根付いた怒りだ。
けれど今は、それより先に、戻る場所を取り戻さねばならない。
「さぁ、帰ろう。まだ、終わっちゃいない。」
ヤゴリが最後に見たのは、未だ沈黙を守るエルドリック。
その姿は、かつてのように絶対ではなかった。
だが、不思議と哀れとも思わなかった。
「……また会おう、エルドリック王。」
エルドリックは、何も言わなかった。
けれど、その手から、少しだけ、剣の力が抜けていた。
魔王オべリスが姿を消してから、半日。
王国の“白き戦線”は大きく揺れ始めていた。
報告書には、「砦、撤退」「ハイランド城、陥落」
そして「魔王、現る」の文字。
この事件は、魔族への見方をも変えるかもしれない。
ただ一人で現れ、ただ一人で砦を屈服させ、誰も殺さずに去った魔王。
その行動は、畏怖ではなく、概念の更新だった。
魔王とは何か?
敵とは何か?
そして、正義とは誰のものなのか?
数日後。
砦は姿を消した。
王国軍に戻ることも、魔族に追われることもなかった。
ただ、風の噂の中にその名は残る。
白の砦は、まだどこかで立ち尽くしている、と。
壁ではなく、いつか誰かの剣になる日を待ちながら。
──オべリス。
この戦いは、序章にすぎない。
だが確かに、ここから風は変わった。
「……次は、言葉で決着をつけられる時代が来るといい。」
誰かが、そう呟いた。
それが、いつの日か“伝説”と呼ばれる始まりだった。
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