ココアのおいしい冬の出会いは。

御歳 逢生

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2杯目 2年目の夏

17 ラムネと嘘

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しばらく歩いて、ラムネの屋台を見つけた。

「わ!ラムネだ!飲みたい!」

入野さんが、目を輝かせる。
宝条が、入野さんの分と、僕たちの分もまとめて買ってくれた。
僕たちは、ラムネを片手に、少し離れたベンチに腰を下ろした。
ビー玉を押し込む音が、夏祭りの喧騒に響く。
入野さんが、楽しそうにラムネを飲んでいると、宝条が僕の頭をぐしゃっと撫でた。

「このへんのヤツら、言葉足りねぇからな。」

宝条は、ニヤリと笑う。
僕は、少しだけむっとした。
入野さんは、そんな僕たちのやり取りを見て、クスっと笑った。
その笑顔を見て、僕は少しだけ気持ちが和らいだが、宝条にからかわれたことと、素直に言葉を伝えられない自分に、ちょっとイラッとした。


ラムネを飲み終え、僕たちは再び屋台を巡ることにした。
僕は、宝条と入野さんの後ろを、少し離れて歩いていた。

「入野、あっちのたこ焼き、うまそうじゃね?」

「あ!ほんとだ!行こっか!」

宝条と入野さんの弾んだ声が、僕の耳に届く。
僕は、二人の楽しそうな様子に、ますます口数が減っていった。

「ねえ、平岡っち、どうしたの? さっきから、全然喋ってないけど。」

入野さんが、心配そうな顔で、僕に声をかけてくれた。

「別に…なんでもない。」

僕は、そう答えるのが精一杯だった。
入野さんは、僕の返事に、少しだけ眉をひそめた。

「…そっか。なんか、つまんないのかなって思って。」

「そんなことない。」

僕が、ぶっきらぼうにそう答えると、気まずい空気が二人の間に流れた。
入野さんは、少し不安そうな表情で、「別に何でもないよ」と、自分に言い聞かせるように呟くと、また宝条の方へ向き直ってしまった。


屋台通りの賑やかな喧騒から離れ、僕たちは花火がよく見える広場へと向かうことにした。
花火の開始時間が近づくにつれて、人混みが一気に激しくなってきた。
宝条は、入野さんの隣を歩きながら、何か楽しそうに話している。

僕は、二人から少し遅れて歩いていた。
その時、僕は、一瞬だけ、人混みの中に、知り合いらしき人影を見つけて目をやった。
一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、目を離しただけだった。
顔を正面に戻すと、僕の目の前に、入野さんの姿はなかった。

「入野さん?」

僕は、慌てて周囲を見回した。

人、人、人。

どこを見ても、浴衣を着たたくさんの人がいるだけで、入野さんの姿は見当たらない。
宝条も、僕の隣にはいなかった。

「宝条! 入野さん!」

僕が必死に二人の名前を呼んでも、僕の声は、お祭りの喧騒にかき消されてしまう。
僕の胸に、嫌な汗がじわりと滲み始めた。


夜空に、ドーンッ!と、大きな音が鳴り響いた。
花火が始まったのだ。
色とりどりの光が、夜空を彩る。
広場からは、歓声が上がっていた。
しかし、僕の心は、歓喜とは程遠い、焦りと不安でいっぱいだった。
僕は、人混みをかき分け、入野さんを探し続けた。

「入野さん! どこ!?」
「入野さん!」

僕は、必死に彼女の名前を叫びながら、人混みを走り回った。
時折、入野さんと同じ、藍と白の浴衣を着た後ろ姿を見つけては、慌てて近づく。

「入野さん!」

だが、それは、違う人だった。
遠くから聞こえる花火の音と歓声が、僕の心をさらにかき乱す。

どうして、目を離してしまったんだろう。
どうして、素直になれなかったんだろう。

後悔と、不安と、様々な感情が、僕の心を支配していく。
僕は、必死に、ただひたすらに、彼女を探し続けた。
夜空に咲く大輪の花火が、僕の焦燥を、鮮やかに照らしていた。
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