愛していると言われても、頭上の数値は『殺意MAX』ですが?

セトガワ

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悪あがき

「同じ学生を、それもサブパートナーのソラリスを殺そうとするなど言語道断!」
 
 激憤したレオンが剣を抜く。
 慌ててバイスもそうした。

「ま、待つんだレオンくん。これには事情があって……」
「黙れ!」
  
 問答無用でレオンが斬りかかる。
 それでいい。
 バイスは言いくるめようとするはずだから。
 剣戟の音が夜の森に響く。
 体格、技術、センス。
 すべてにおいてレオンの方が上だ。

「さすが騎士団長の息子、すごい腕だね。ダメなのは偽物の正義感だけか」
「偽物だと?」
「君はただ、自分が正しくありたいと願っているだけで本当にそうかはわからない。何人か、君の行動のせいで泣いた生徒を見てきた」
 
 勝負は簡単につくかと思いきや、以外にもバイスが粘る。
 しかも正攻法じゃなく、メンタルを揺さぶる方法で。

「君がこの間、助けたいじめられっ子だってそう。あいつが元々、他人をいじめてたんだよ。それに見かねた奴らが、あいつをいじめるようになった」
「……嘘をつくな」
 
 心覚えがあるのか、レオンの動きが止まる。
 同じ学年で両方とも有名のため、互いにそれなりに情報を握っているのだろう。
 バイスはニヤニヤしつつ話す。

「嘘じゃないさ。君はそうやって現実を自分の都合の良いほうにねじ曲げる。あの後、あいつまた別の奴をいじめ始めたよ。君の後ろ盾があるって吹聴してね」
 
 一瞬、レオンの思考が停止する。
 そこを狙われて腕の一部を切られる。

「うっ……」
「ははっ。隙だらけだよ、偽善者くん」
 
 偽善者はあなたでしょうに。
 でもこのままでは、まずい。
 原作では二人が剣を合わせる場合、余裕でレオンが勝利していた。
 それなのに、いまは負けそうだ。

「レオン様、言い返してあげて。偽善者はお前だろうと。彼は評価をあげるために他人にいじめをさせたり、女子に告白させる男ですよ。本当にせこいんです」
「な……。気づいて、いたのか……」
「初めて笑顔を見たとき、ピンときましたわ。これは偽善者の笑顔だって。だから今回も、レオン様に尾行を頼んだのです」
「クッ……ただの馬鹿令嬢だと思っていたが」
 
 眉間に皺を寄せ、怒りを露わにする。
 それはいつもの爽やかさとはほど遠い。
 こっちが本性なのだろう。
 
「彼の作戦は、相手を動揺させて勝つ戦法です。正攻法では叶わないからです。つまり、レオン様は練習通りやれば、余裕で勝てます」
「練習通り……そうだな」
 
 レオンは息を整えて、冷静さを取り戻す。
 逆にバイスは焦燥感がすごい。
 必死に惑わそうと話しかけるが、レオンは一切受けつけない。
 一分とかからず、勝負はついた。
 バイスは剣を弾き飛ばされ、喉元に刃先と突きつけられる。

「観念しろ、悪党め」
「くっ、くそ……もう少しだったのに……」
 
 悔しそうに、バイスは夜空を睨みつけた。
 ザ、ザザッ——
 一人や二人じゃなく、大勢の足音が近づいてくr。
 これを聞いた途端、バイスの目に輝きが戻る。

「あははっ、ざまーみろ! 盗賊団が到着したようだ。形勢逆転だよっ」
 
 そういえば、後から合流すると言っていた。
 緊張が走る中、木陰からぞろぞろと人が出てきた。

「よくやったなレオン」
「ソラリスもだ」
 
 騎士団長であるレオンの父と、うちの父が兵士を引き連れてやってきた。
 
「……は? え?」
 
 状況が理解できない可哀想なバイスに、レオンが説明してあげる。

「そこの盗賊がさっき、戦いもせずに護衛が逃げたと言っていたが、そういう作戦だったんだよ」
 
 盗賊団と変に争って、怪我人や死人を出さないためだ。
 騎士団長が言う。

「そして油断しきった馬鹿な盗賊団を、俺たちが奇襲で捕らえた」
「……お待ちくださいノルディ公爵様。僕は無実です。むしろその箱を盗賊から守っていたんです。レオンが、勘違いして襲ってきただけで」
 
 この期に及んで嘘でまくれると思っている。
 冷静に話しているように見えるが、内心動揺しまくっているよね。
 私やレオンがいるのに、そんな話に意味はない。

「ほう、お前が我が家宝の帝国の心臓をな」
「ええ、ですから……」
「では箱の中身を見せてやろう。ソラリス」
 
 私はうなずいて、指先をナイフで少し切る。
 血を箱につけると、驚くほど簡単に開いた。
 中身を、バイスに見せてあげる。

「た、ただの石……!?」
「強欲なあなたは、まんまと引っかかった。魔石を輸送する予定なんて、ありませんでしたのよ」
「あの資料は嘘だったのか!?」
「嘘には嘘でお返しする。それが私の流儀ですわ」
 
 石をぽいと投げてみたら、バイスの頭にコツンと当たった。
 うわ、当てるつもりはなかったんだけど。
 ごめんね。
 バイスは観念するかと思いきや、最後のひとあがきをしてくる。

「……ソラリス様、確かに僕はダメなところもあった。でも君を思う気持ちは、すべてが嘘じゃない。やり直すチャンスをくれないか?」
 
 一流の演技力だけど、システムは誤魔化せない。
 
【復讐】-100
【憎悪】-100
 
 ダメな感情ツートップが上がってきている。
 
「チャンスですか……。牢獄の中で、転生の機会を神に祈ってみてはいかがでしょう?」
「うわぁあああああ——!」
 
 完全に取り乱し、泣きじゃくるバイス。
 いや、意外とチャンスあるかもしれないよ。 
 私だって、元は日本人なわけだしね。
 残念ながら、それを伝えることはできないけれど。
 父が冷めた目でバイスを見下ろす。

「国宝の強奪未遂。公爵令嬢の誘拐、暗殺未遂。盗賊団との癒着。シュリーマン家の三男らしい愚かさだ。今回の件で、家門ともども終わりだ」

「クソォォォオオオ——、絶対に許さないからなぁあああ——!」
 
 あのー。
 それって私たちのセリフなんですよね。
 特に私とか、殺されかけているんだから。
 連行されるバイスを見送り、私は隣のレオンに尋ねる。

「何時間も馬車を追いかけるの、大変だったでしょう?」
「日頃の訓練に比べれば、大したことはない」
 
 確かに、汗一つかいていない。
 羨ましぎる体力だ。

「レオン様を信じて良かったですわ。この度は、心から感謝いたします」
 
 頭を下げて感謝の意を伝える。

「こっちこそ礼を言う。君の声がなければ、俺はバイスに負けていたかもしれない。どうも俺は、メンタルが弱点なようだ」
「鍛えましょう。お手伝いしますわ」
「……そうだな」
「帰りましょう」
 
 私たちは歩幅を合わせて、帰路についた。
 

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