男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん

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一章

2話 初恋(挿絵あり)

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 男の一言により女性達の緊張が緩んだ。
 あれだけのタフさを見せていた獣を一瞬で叩き割った男の元に女性達が集まってくる。

「いや、よく来てくれたよ。むしろ思ったより早かったくらいさ」
「そうか、だがどうしたんだ?戦士のだれかが到着するまでは戦う事は禁じていた筈だが。」
「そこの男が丸腰で襲われそうになってたからね。仕方がなかったのさ。
 合図の笛は吹いてあんたが着くまでなんとか耐えてたんだ」
「男? ……確かに細いが男だな」

 男はこちらの顔をまじまじと見てくる。
 俺は別に女顔というわけでは全くなく、ただのフツメンで女に間違われるような事は今までなかった。
 疑問は残るが今はいいだろう。

「あの……助けてもらってありがとうございます。俺は原田湊といいます。本当に助かりました」
「無事で何よりだ。どこも男手は貴重だからな」
 男は俺の顔の次に体を見るとそう言った。
 どうやらよそ者に対して強い不快感を表すような人物ではないようでほっとした。
「それで……お前はどこから来た? 近くには俺たちの村しかない筈だ」

 だが全く警戒がないわけではない。
 問いかける男の目は、俺の瞬き一つ見逃さないと言っているように見えた。多分、中途半端な嘘は見抜かれる。
 元の世界の人間とは違う、どこか現実離れした、そう見える様な目を持っていた。
 落ち着いていた心臓が、また少し大きく動き出す。

「俺は日本という国から来たんですが、聞き覚えはありますか?」
「日本? 聞いたことのないな。ここはアズマ国の東のサンの村の森だが……? お前ら知ってるか?」

 男の問いかけに女達は一様に首を振る。
 俺は先程の見たことのない獣と、人間が扱うにはあまりにも大きすぎる大剣を振るう人間がいた事から、ここが異世界だという確信を強めていた。
 マイナー言語である日本語が通じているはずなのに日本を知らないわけがない。
 この問いかけで俺は、

「異世界だ……」

 ついに自分が異世界に来たのだと確信したのだ。

「いせ……? 大丈夫かお前……」

 俺の呟きに、男の感情が警戒から困惑とか心配と言った感情に変わった。
 憧れていたシチュエーションに体を震わせて感動していた俺の姿は奇妙に映ったようだ。
 異世界転移といえば能力を貰って好きなように生きるのがお約束である。
 それが今俺自身に起きたのだ。嬉しくない訳がない。

 男だけではなく周りの女も胡散臭そうな目で俺の事を見てくるが、つい喜んでしまったのも仕方がないだろう。叫ばなかっただけ俺は偉いと思う。
 とにかく、そうと分かればやる事は一つ。なんとか保護を求め、生活基盤を整えることだ。

「すいません。お願いがあります。俺をあなた達の村へ連れて行ってもらえませんか?
 俺はサンの村という名前に聞き覚えがなくて……帰り道がわからず途方に暮れているんです。」
「サンの村を聞いたことが無いだと? 一体どれだけ迷ったらこんな所にくるんだ……」
「怪しいとは思うんだけどあなた達しか頼れる人がいないんです!」

 どうやら俺の事を怪しんでいるようだが、ここで見捨てられたら本当に死んでしまう。
 さっきの様な獣がうろついている森に、武器も食料も無く置いていかれるわけにはいかない。
 俺は頭を下げてとにかく誠意をアピールする。
「図々しいのは百も承知です! 帰る目処がつくまであなた達の村にいさせてください! しっかり働きますんで!」
「仕方がない……仮にも男を死なせるわけにはいかんか。嘘をついてるようにも悪人のようにも見えない。 いいだろう。ついてこい。」

 以外なほどあっさりと保護を求める事が出来た。
 いい人なようで本当に運が良かった。

「っ! ありがとうございます!」
「俺はサンの村の戦士アンジだ」

 男は兜を脱いで脇に抱え、アンジ名乗った。
 身長は百九十cm程で、その体の分厚さから鎧の上でもその肉体が鍛え抜かれていることがわかる。
 髪は灰色で髪は短く刈り上げており、後ろだけ伸ばして編み込んでいる。
 精悍な顔つきに刻まれた皺からして歳は四十歳くらいだろうか?

「私はサンの村のアイラだよ。狩猟衆の長をしている」

 続いて兜を取って名乗ったアイラは号令をしていたリーダーと思わしき女である。
 赤い髪色で歳はこちらも40歳くらいに見える。
 真っすぐ俺を見てくる目もまた赤色で、意志の強さと自信が伺える。
 ウェーブのかかった長い髪で、すこし目尻に皺があるが、若い頃はさぞ美人だっただろう。
 サンの村の女達が次々に兜を取り、自己紹介を始めた。

 青、赤、黒、皆色とりどりの髪色をしており、ここが異世界だという事を強く匂わせた。
 年齢はバラバラで、十代~四十代くらいまで。
 日本語が通じることから、黄色人種なのかと思ったが肌は白い。

 といっても、どちらかというと白人に近いが、きつすぎる印象はなく、日本人とのハーフというのがしっくりくる。
 最後に、剣で獣の動きを止めていた女が兜を脱ぐと、時が止まった。



「私はサンの村の狩猟衆の一人、セツ」

 髪はショートヘアで色は処女雪のような透き通る白。これ程汚れの無い色はないだろう。
 目はやや吊り目で色は純銀。その色は深く、何処までも吸い込まれそうだ。
 肌は顔しか露出していないが、きっとどんなものでも包み込む柔らかさをしているに違いない。
 歳は恐らくこの女性達の中では一番若い。俺とそんなに変わらないように見える。
 キラキラと輝くような神秘木的な雰囲気を纏った彼女に、口を閉じる事を忘れ、呆けるしかなかった。 

「……何?」
「えっ! いや! なななんでもないでふ!」

 セツの事を見つめる俺の視線が気になったのか、不機嫌そうな顔でジロリとこちらを睨んでくる。
 焦って目が泳ぎまくりの上、吃って最後には噛むという醜態を晒してしまった。

(やっちまった! キモいとか思われてんのかな? ヤバい! 顔が熱い! あ、なんかいい匂いが……)
「なんだ、セツの事が気にいったのかい?」
「うぇ?!」
 俺の様子を見てアイラが目敏く質問してくる。
「そっ! そんなんじゃ!」
「まあそんな細腕じゃセツはやれないけどね。」
「……はい。」

 アイラと俺のやり取りをセツは興味がないようで冷めた顔で明後日の方向を見ている。
 どうやらファーストコンタクトは失敗したらしい。

(死にたい……あっ横顔も美人だな)

「行くぞ」

 そうこうしているとアンジが出発を告げる。
 いつの間にか先程の獣の足にロープがくくりつけられ、アンジと3人の女性がそのロープの先を持っている。
 アンジと女性はそのまま獣を引き摺って持ち帰るようだ。

「あの! 手伝います!」

 体は疲労困憊で動くのも嫌な状態だったが、アンジに見捨てられないように少しでも役に立とうと思ったのだ。
 ロープの余りはそれ程余裕がないため、女性の一人と引く役を変わってもらう。
 残り少ない体力をかき集め、汗をだらだら流しながら獣を引き摺って行く。
 だが5分ほどしたところでアンジから待ったがかかった。

「頑張っている所悪いが狩猟衆と代わってくれ。非力すぎて役に立たん」
「え……すいま……せん……」

 セツが俺に近寄って来て手を差し出してくる。
 ハッキリと役立たず宣言をされた俺は素直にロープをセツに渡した。
 セツにロープを渡してからの獣を引く速度は、明らかに俺の時より速い。
 働いているみんなの後ろを歩くのは只々惨めだった。

 俺はアンジから代われと言われた時、内心喜んでしまったのだ。
 思い知らされた。自分の内面の弱さを、自分がセツより非力な役立たずという事を。
 気落ちした俺の足取りは更に重くなり、獣を引っ張っているアンジ達に着いていくのにも精一杯だ。

 謎の体にまとわりつく空気が憎らしい。
 この事を聞こうとしても疲労のあまりそれどころじゃないし、言い訳をしているみたいで小さな自尊心がそれを許さない。

 だから俺は無言で歩き続けた。
 そうしてしばらく歩き続けていると、丸太をそのまま地面に突き刺したような壁が見えてきた。
 周りは依然として背の高い木に囲まれた森の中で、その壁の横幅は木に邪魔されて見ることができない。

 壁の高さは六mほどだろうか。
 二階建ての建物ぐらいの高さのある丸太が隙間なく並べられている防壁は、近づいてみるとかなりの圧迫感を感じる。
 防壁の裏には足場があるらしく、防壁の上から見張りらしき女性が体を半分ほど出しており、こちらに向かって手を振っている。

「アンジ達が帰ってきた! 門を開けろ!」

 壁の上で見張りをしていた女性が内側に向かって声を上げると、防壁にはまった門が開き始めた。
 丸太をそのままつかっている防壁とは違い、木を加工した板張りの両開きの門だ。
 門自体は防壁に比べてそれほど大きくなく、高さは2mちょっとだろうか。
 アンジ達は見張りの女性に手を挙げて帰還を報告しながら門の中へと足を進めていく。

「ここが俺たちの住んでいるサンの村だ」
「ここが……」

 門をくぐるとそこには村があった。
 サンの村の家は見渡す限り木造だ。
 窓にはガラスが嵌っておらず、木の蓋をつっかえ棒で持ち上げている。この世界にガラスは存在しないか高価な存在のようだ。
 ドアノブは金属でできており、建物の所々に丸い錆びた鉄のような物が見える。恐らく釘を使っているのだろう。

「こっちだ」

 獣を引き摺って歩くアンジについて村の中を歩いていると、

「あ! アンジだ! お帰りなさい!」

 追いかけっこして遊んでいた少女達。

「おおアンジ、お帰り」

 それを見守る老婆。

「無事で良かったわアンジ」

 家の窓から顔を出した女性。アンジに気付いた女性全員がアンジにお帰りなさいと声をかけてくる。
 このアンジという男は村で相当信頼されているようだ。

「ここが俺の家だ」

 アンジの家はこの村の中でも一際大きな家だった。
 やはり今までの立ち振る舞いや、大きな家からしてサンの村でも中心人物のようだ。
 アンジはそのまま家の横にある屋根と台だけで壁のない東屋に獣を引き摺って行く。
 東屋の台にはいくつかの種類が違う刃物が置かれていた。 

「「父様お帰りなさい!」」

 東屋の床に獣を置くとアンジの家の中から子供がワラワラと出てくる。一人を覗いて全員女の子だ。
 続いて涙黒子のある黒髪の妙齢の美女がアンジを出迎える。

「解体しておけ」
「はい、承知いたしました。あなた達手伝いなさい」

 妙齢の女性は少女達と共に獣の解体作業を行うようだ。
 東屋を妙齢の女性に任せて家の中に入る。
 アイラとセツを含めた狩猟衆の内5人も一緒に家の中に入り、残りの五人の狩猟衆とは分かれた。
 俺はセツ達の後に続いて家の中に入ると、更に8人の女がアンジを出迎える。

「こいつはミナト。森で迷っていた所を拾った。暫くは泊めてやることになったから面倒見てやれ」
「はい、旦那様」
「湊といいます。アンジさんには森で助けてもらいました。暫くお世話になります」

(あれ?さっきの黒髪の女の人は奥さんじゃなかったのかな?)

 家の中で出迎えてくれた女性の一人の言葉に疑問を覚える。だがその疑問は直ぐに解消される。
 アンジは鎧を女に脱がせながら疑問の答えを話した。

「紹介しよう」

アイラとセツを含めた狩猟衆と出迎えてくれた女性達が並ぶ。

「こいつ等が俺の女だ」

 俺は初恋が終わった事を知り、疲労が限界を迎え意識を失った。
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