男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん

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一章

3話 やはり異世界

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「やっぱ夢じゃないよな。」

 どうやら俺は一日中寝ていたらしい。冷たい空気と明るさ、多分はもう朝だ。
 俺はベッドの上に寝かされており、全く見覚えのない部屋とベッドを見て昨日のことが夢ではない事を知る。
 ぐっすりと眠ったおかげか疲労が抜けるどころか調子がいい。あれだけ俺を苦しめた体に纏わりつく謎の空気は殆ど感じなくなっていた。
 ベッドから身をおこし体調を確かめているとアンジが部屋に入ってきた。

「起きたか。体調はどうだ?急に倒れたから驚いたぞ」

「はい。体調はむしろいいくらいで大丈夫です。心配かけてすいません。ベッドまで運んでくれたんですね、何から何までありかとうございます」
「ならいい、まずは食事にしよう。その後に鍛錬の時間だ」

 食事は女性達は先に食べ終えてるらしく、アンジ、昨日出迎えてくれた少年、俺の3人のみで食卓についた。
 狩猟衆ではない女性達が近くに控えており、給仕をしてくれる。 
 食事は肉中心で香辛料で味付けされている。昨日の獣の肉らしい。

「お前はまだ戦士の試練は受けていないのか?」
「戦士の試練?すいません…それはどんなものなんでしょうか?俺の国では存在しない風習だと思うんですが……」
「ミナト戦士の試練を知らないの?変なの!」

 食事を勧めながら会話を勧めていると、さも当たり前のように戦士の試練という言葉が出てきた。
 その口ぶりからして戦士の試練というのは受けて当然のような物らしい。
 名前からして物騒な匂いしかしない。

 ちなみにこの物怖じしない少年の名前はボロといい、アンジとアイラの息子で、歳は10歳。
 髪色は燃えるような鮮やかな赤色で、くりくりとした瞳には強い好奇心に溢れている。

「戦う訓練を積んだ男が一人で森に入り、ケシャを仕留めてくる試練の事だ。その試練を乗り越えた者は戦士として、真の男として認められる。仕留める獣は村によって違うがな」
「俺は昨日初めて剣に触れたくらいで、狩りとか訓練とかした事がありません。それにケシャっていうのは初耳で……」
「なに?その年齢でか? ケシャは昨日のあの獣ことだが……今まで何をして生きてきたんだ?」

 俺はアンジの疑問に、俺は今まで勉学に励んでおり、狩りや戦いの訓練をする必要がなかった旨を説明した。
 アンジは男が戦士にならないなど、信じがたいと言っていたが一応は納得はしてくれたようだ。

「その戦士の試練は男なら誰でも受けるようなものなんですか?」

「そうだ、男は例外なく5歳から訓練を始め、15歳になると戦士の試練を受け乗り越えることで一人前の男として認められ、女を娶ることが許される」

 あの尋常ではないタフさと怪力を備えた化け物と呼ぶにふさわしい獣は、少なくともこの村の男なら誰でも一人で狩らないといけないらしい。
 あんな化け物倒す様な訓練とは一体……

「そういえば昨日はなんで女性だけで森を彷徨いていたんですか? 昨日は戦士が来るまではとか言ってましたが……」
「この村の戦士は俺を含めて5人しかいないからな、狩猟衆とは別れてケシャを探していた。ケシャを見つけ次第、笛で戦士を呼ぶことになっている。」

「え? 五人? 男は皆戦士になるんじゃないんですか?」
「そうだが?」
「それじゃ五人って少なすぎませんか? やっぱりそれだけ試練が危険て事ですか?」
「勿論試練は危険なものだが、そうやすやすとやられる程このサンの村の男は弱くは無い。それに少なすぎるとは?」

 俺はここでこの村に訪れてからずっと感じていた違和感の正体に気付いた。
 この村に来てから見かけるのは女ばかりだ。今まで見かけた男といえば目の前にいるアンジとボロの二人だけ。
 もしかしてこの世界は男の夢の一つである、あのジャンルの世界なのかも知れない。

「あの……もしかして子供って男のほうが女より産まれにくかったりします?」
「お前は何を言ってるんだ?」
「あ! すいません俺変な事言いましたよね!」
「そんなの当然だろう?」

 この世界は、俺がチート能力授かって暴れまわるような事は、今の所、力に目覚める様子もないし、もしかしたらできないのかもしれない。
 だが、男女比が崩れているとすれば、俺がこの世界でやるべき事はこの瞬間決まった。

(ハーーーーーーレム!)

 男女比が偏った世界に日本人が飛ばされる展開は、WEB小説ではよく題材にされている。
 そういう小説では得てして男は貴重なため、男は努力せずとも女にモテモテで酒池肉林を築くのがお約束だ。
 だが残念ながら、俺が踏み込んだこの世界では戦士の試練を受けないと嫁は取れないらしい。
 ならば目指さなければ男じゃない。戦士になることを。

「アンジさん一つお願いがあります」
「なんだ?」
「俺に戦い方を教えて下さい! お世話になりっぱなしで申し訳ないんですが、どうしてもアンジさんの役に立ちたいんです!」

 俺はなんとか戦う術を身に着け、あの化け物を倒してハーレムを作らなければならない。
 お世話になったお礼に、何とか役に立ちたいのもあるが、一番の理由は男の夢たるハーレムである。
 彼女いない歴=年齢の俺からしてみれば、彼女どころかハーレムが目の前に転がっていてやる気が出ない筈がない。

「全く戦う訓練をして来なかったとは思わなかったが、元々狩りを手伝わせようとは思っていた所だ。いいだろう、男手はいくらあってもいいからな」
「ありがとうございます!」

 その後、食事を終えた俺は訓練のため、木刀を持って家の横にある訓練場に立っていた。
 訓練場では30人程の女性達が、的に向かって矢を射っていたり、槍による組手などそれぞれ訓練を行っている。その中にはアイラもセツもいる。
 最初は狩猟衆の女達が使っていた剣を持たされたのだが、その肉厚の剣の重量の前に敢え無く断念。ボロが使っているのと同じ木刀の一本を借りる事になった。

「先ずはどの程度お前がやれるのか見極める。セツ! 来い!」

 アンジはセツの名前を大声で呼ぶと、丁度剣で訓練相手の槍を弾き飛ばしたセツがこちらに歩いてきた。

「なんでしょうか?」
「こいつの今の実力を見極める。相手してやれ」
「わかりました」
 相変わらず無愛想な顔のセツが、俺が木刀を持っているのを見て剣を木刀に持ち代える。
「よっ! よろしくお願いします!」
「……」
「本気でやれ。……始め!」

 俺の挨拶は無視されるが、アンジはお構い無しに試合の合図を出す。
 俺は慌てて木刀を剣道の構えを思い出し、見様見真似で正面に構える。
 対して、セツは足を開いてどっしりと腰を落とし、両手で木刀を握り脇に構えた。
 俺は木刀を構えたものの、どっしりと待ちの様子であるセツにどう攻めたらいいのかさっぱり分からない。

 しかも訓練しているとはいえ相手は女だ。思わず一目惚れしてしまうほどの美少女に、木刀とはいえ武器で攻撃をするのは躊躇してしまう。
 だが何時までもここで棒立ちというわけには行かない。俺はついに決心を決め、心を鬼にして木刀を振りかぶった。
 その瞬間セツは動き出し、俺の腹に向かって木刀を薙ぎ払う。
 俺はセツの木刀をただ見ている事しかできず、食べたばかりの朝食をぶちまけるのだった。

(痛い…苦しい……)

 俺は木刀で腹を殴打され、堪らず地面に蹲った
 鈍い痛みが全身を侵食し身動き取れない。
 容赦なく俺の腹を殴りつけた張本人は不機嫌そうに眉をひそめこちらを見つめている。

「なにしてんの?」
「なっ……何って……お前……」

 セツの全く罪悪感を抱いていない様子に、俺は苛立ちを覚え抗議しようとする。だがまだダメージが抜けないため続きの言葉を紡ぐことができない。

「早く立って」
「ちょっ……まって……」

 この女は一体何を言ってるんだろうか。俺は木刀を持ったのは初めてだし、朝食を吐き出すほどのダメージを受けているのが分からないんだろうか?
 俺は理不尽だろと心の中で悪態をつきながら震える足に力を込め何とか立ち上がる。

「立ったぞ……っ!」

 俺がなんとか立ち上がり、前を向いた時には既にセツが木刀を振り上げていた。
 咄嗟に自分の木刀を上に掲げてセツの一撃を受け止める。だがセツは最も破壊力の高い上段からの一撃、対する俺はスポーツ経験もない非力な男で、足はフラフラな状態。

 セツの一撃を受け止めきれず、木刀ごと押し込まれ、左肩を殴打される。
 その衝撃で俺の膝が地面に崩れ落ちた。セツはそのまま丁度いい高さになったであろう俺の頭に、長い足を撓らせた鞭のような蹴りを叩き込んできた。

「油断するな。獣は待ってくれない」

 俺は為す術無く地面に倒れ込んだ。頬に地面の感触と土の香りが鼻をつく。そして遅れて肩と頭に痛みが走る。
 意識こそ飛ばなかったものの、セツに言い返す余裕は無い。
 俺が立ち上がれない様子を見てアンジが口を開く。

「そこまで。ミナトはどうやら本当に戦士の訓練を積んでこなかったようだな」
「心構えが甘い」
「技もない」
「加護も殆ど感じられない」

 アンジとセツが代わる代わる俺を酷評する。
 訓練も口撃も、もう少し手加減してもらえないだろうか。女の人に力負けした上で酷評されるのは堪えるものがある。

「とにかくミナトが遠くから来たのは本当のようだ。俺の知る限り男が戦いと無縁でいられるような村は近くにはない」
「……信じて貰えて良かったです。」

 俺はボロ雑巾にされる代わりに悲しい形で少しだけ信用を得ることができたみたいだ。
 明らかに割にあわない気もするが、そう思い込むことで何とか理不尽に対する怒りを抑えるのだった。

「父様、もういい?」
「ああ、大体こいつの事はわかった。ここからは基礎訓練をさせる」
「え、あれ、父様って?」

 セツは俺の事を面倒くさそうな目で見ながら聞き捨てならない言葉を発する。セツはアンジの女では無かったのか?

「? セツは俺とアイラの娘だが」
「でも昨日俺の女だって……」
「その通り。あの場にいた女は全て俺が守る女だ」
「えっと……すいません。ちょっとお聞きしたいんですが、親子で結婚とか言う風習とかあったりします?」
「そんなわけ無いだろう」

 どうやら俺は文化の違い故の勘違いをしていたらしい。セツがアンジの嫁ではないと聞き、砕け散ったはずの恋心が形を取り戻し始める。ついつい痛みも忘れて顔が緩む。
 そうなると不思議と今までの悪態を許せてしまった。
 顔が緩んでしまっているため、面と向かっては見れないが、横目でセツの顔をこっそり伺う。するとそこには超絶美少女が嫌そうな顔をしてこっちを見ている。

「私はお前の嫁は嫌」

 形を取り戻し始めていた俺の恋心は更に細かく砕け散った。
 その後セツは自分の訓練に戻り、俺は薪割りをする事になった。
 全身の力の使い方を覚えるのに丁度いいらしい。
 俺は薪にやるせない気持ちをぶつける。

「うおおお!

「気持ちのこもった良い振りだ。これは鍛錬だ。その調子で一回一回全てに手を抜くなよ」

 アンジは本日初の褒め言葉を俺に授けて自分の鍛錬に戻っていった。俺はアンジからの褒めに対して喜ぶ気になれず、セツへのイライラを薪にぶつけ続けた。
 俺が薪割りを始めて一ヶ月、四日に一度は休養に当て、それ以外はひたすら薪割りを続けた。
 最初、手はズル向けになり、全身筋肉痛で動く事すら厳しい状態になった。
 休ませてほしいとアンジに願いでてみたが、

「続けろ、大地の加護を身に賜る絶好の機会だ」
 と言われ、たまたま近くにいたセツからは、
「男がその程度で音を上げるな」

 と言われ、セツが俺の天敵だと再認識して斧を振るう事になっただけだった。
 ちなみにこの意見には他の女性も同意見らしい。
 大地の加護とはこの世界に満ちている力であり、鍛錬をする事でその身に力を宿すことが出来る。
 この大地の加護は肉体を酷使すればするほど、大きな力を宿すことができる。経験則として、効率のいいとされる鍛錬のサイクルが3日の鍛錬をした後、1日の休息を取る事らしく、休息の日はひたすら呼吸を深めて大地の加護を取り込む。

 そうしていると俺を悩ましていた謎の体にまとわりつく空気が一週間後には消えていた。
 また、この世界には魔法があることが分かった。
 アンジと女性達が訓練しているのを見ていると、木刀が体に当たるかと思うと触れる前に何かに木刀が弾かれていたり、涙ボクロの妙齢の美女が俺のズル向けの手に手を翳すと光を発し始め、皮膚が再生するといった魔法を目撃した。

 ちなみにこの美女もアンジの娘らしく、名前はクロエという。
 この魔法も身に宿した大地の加護を使って行うらしい。
 世界に満ちている大地の加護は人は干渉する事ができない。だが、一度体内に取り込んだ大地の加護は外へ出す事で形を変えて何らかの現象をもたらす。この力をマナと呼び、この時起こる現象は人それぞれで、ゲーム風に言うと人によって使える属性魔法があるという事みたいだ。

 薪割りを二週間続けると大分体に余裕が出てきた。余裕ができた分薪割りを早めに終わらせ、木刀の素振りをする。アンジと狩猟衆の女性達がどうやって剣や槍を扱っているのか観察し、見様見真似で木刀を振る。

 薪割りを始めて一ヶ月、呼吸から力が肺に入り込み、体内を行き渡るのを感じるようになった。
 力の使い方も大分わかるようになった。体の軸が振れると腕や足の先に負担がかかり、負荷の割に力が込められない。力とは体の中心から生み出すものなのだ。
 今日も薪割りをしているとアンジから声がかかった。

「そろそろいいだろう。模擬戦を再開する。ボロ!相手してやれ!」
「分かった!」

 相手は俺より遥かに体が小さい子供である。だが、俺はこの一ヶ月の皆の訓練を見ていたのだが、その中には当然ボロも入っている。この子供は確実に俺より強い。
 俺は油断することなく木刀を構えた。
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