中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo

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 冒険者ギルドが用意している『ランクアップ申請書』へ書き込みをし、内容を確認すると俺はそれを受付に提出した。


「あ、カイさん、お疲れ様です。……おおおお! ついに、やっと、ランクアップですね!」


「ああ、そうだな」


「カイさんが冒険者登録してから十年! DランクからCランクへ! やっとですよぉ!」


「あ、ああ、悪いけど、手続きを頼む」


「はい! すぐに手続きしますので、お待ちくださいッ」


 椅子から勢いよく立つと、受付担当者はバタバタと音を立てながら奥にある事務室へと消えて行った。


 書類に不備はないはずだし、昇格に必要な経験も十分クリアしているはずだから、十五分から二十分くらいで手続きは終わるだろう。


 俺は待合用の椅子に座り、窓から外を眺めた。


 昼間の街は大勢の人でにぎわっている。


 隣国から王家の血を引くご令嬢が、領主の息子の元へ輿入れすることが決まったと噂で聞いたのは一年前のことだ。そして今そのご令嬢が領主子息と共に輿入れする領地をあちこち周っていて、今日この街へやって来る。


 大通りは隣国のご令嬢と領主子息を歓迎するため花が飾り付けられており、見物人でひしめき合っているのだ。おかげでギルドの中は殆ど人がいない。


 パレードの見物人は人間、エルフ、獣人、ドワーフ、ホビットなど他種族が入り乱れているが、背が低い種族の者は前列に、高い種族の者は後列にと自然に分かれていく。他種族が共に生きるってことは、思いやりが大事なんだとしみじみ思う。


 この世界には魔物がいて、人間以外の種族がいて、魔法や錬金術なんて奇跡みたいな技術もある。最初は驚いて声も出ず、ただただ呆然と眺めるだけだったが……今はもう馴染みの景色だ。


 年が明ければ、日本で生きた時間よりもこちらで生きた時間の方が長くなる。十八歳の小僧が三十六歳のおっさんに。馴染みもするってもんだ。


「カイさーん! お待たせしました、手続きが終わりましたよ」


「お、早いね」


「今日は暇なんです。パレードの方にみんな行っちゃってるから」


「なるほどね」


 俺は受付カウンターに向かい、首から下げていたタグを外した。俺のタグを受け取ると、書き換え専用の魔道具に入れる。この魔道具の中に入れることでタグに記載される内容が変更されるのだ。


 タグには名前と所属ギルド名と階級が記載されていて、Cランクまでは鉄製、Bランクは銀製、Aランクは金製、Sランク以上は黒曜石製だ。Cランクまでは条件をクリアすれば書類審査だけであがる。


 CからBにあがるところで書類と実地試験があり、冒険者としての壁があるのだと聞く。人柄だとか、才能だとか、今までやってきたこと全てが関係してきて、Aランクになるためには人としての資質や心構えまでが関わってくる、とか、こないとか。


 万年Dランクで、今日ようやくCランクになった俺には関係のない話だ。


「……はい、できあがりました! カイさん、おめでとうございます。一応、紹介できるお仕事の幅が広がるのですけど……カイさんのことですから、今まで通り、ですよね?」


「ああ、その通りだ」


 俺はタグのランク名がCに変ったことを確認すると、それを首にかけて服の中に仕舞い込んだ。


「ありがとう、また来るよ。マスターにもよろしく伝えておいて」


「は、はい! またお待ちしています。あ、ちょうどパレードが始まったみたいですね」


 表から大きな歓声が聞こえてくる。


 ギルドの大きな窓からは両手を挙げて振ったり、口笛を吹いたり、紙吹雪や花弁を撒いたりする見物人たちの姿と、巨大な馬とそれに騎乗している騎士たちの姿が見えた。きっとあの騎士がパレードの先頭だ。


「うわ、始まっちまった」


 パレードが始まる前に帰りたいと思っていたのに、想像以上に速い時間にパレードがスタートしたらしい。


「カイさん、従業員用から出ますか? 裏通りに出られますよ」


「た、助かるよ」


 ギルド従業員が出入りするのだという裏口から出ると、細い裏路地に出た。右手側に進めば大通りに繋がり、左手側に進めば裏道だ。


 迷うことなく左手側に進み、裏道を歩いて街の西側出口へと向かう。


 俺は街から出て一時間ほど歩いた場所にある、小さな村に住んでいる。


 この世界に来て十八年。


 その間、日本人としてはあり得ない経験をしてきた俺の体はボロボロだ。体には消えない傷痕がたくさんあるし、怪我の後遺症で左目の視力は衰えているし、左手足も思うようには動かない。


 この街の中に部屋を借りることができれば楽だが、残念。俺の稼ぎでは街の中に部屋は借りられないのだ。所詮、採取専門のCランクの冒険者。そんな稼ぎ、俺には無い。


 街の外にある小さな村で小屋を借りて、服や石鹸なんかの日用品を買って、食事は自炊。月に一度か二度、店で酒と肴にありつける。そんな慎ましい生活。


 他人が聞いたらきっと「貧しい生活」というだろう。

 けれど、この静かで慎ましい生活が俺の望んだ生活だ。







 ここはベレス王国西部にあるウォルジー、現国王の弟が公爵として治めている地域にある地方都市のひとつ。医療や美容、各種薬作りが盛んで、王都から馬車で数日離れた場所にあるっていうのに貴族や他国の貴人も多くやってくる。


 街はぐるっと石造りの城壁に囲まれており、馬車が通り抜けられるような大きな出入り口は四カ所、人間や馬、手押し車くらいが通り抜けられる出入り口が四カ所作られている。
 

 城壁は高く、分厚い。それは貴族を始め、街にやって来たお客様と住民を護るために作られたものだ。

 魔物や夜盗の襲撃、一般的にスタンピードと呼ばれる魔物の大襲撃や戦争のときなどはこれらの門は閉じられて魔法で硬く封じられる。


 俺がこの土地に来て十年。夜盗の襲撃や、数体の魔物が旅人を襲うなんてことはあったが、魔物の大襲撃も戦争も起きていない。


 顔馴染みの警備兵に挨拶をして大きな門を潜ろうとしたとき、背後から馬の蹄音が聞こえてきた。早馬だろうか。急いでいるらしく、音が大きい。


 俺は馬をやり過ごそうと、脇に避ける。


「待って! 待ってくれッ行かないで!!」


 馬の嘶きが聞こえ、切羽詰まった若い男の声がトンネル状の出入り口に響く。


 若いって良い事だ、恋人か婚約者を追いかけてきたってやつ? そういう必死な態度が女の子の心には響くもんだ。


 俺の斜め前を歩いている母娘の娘か、それとももう少し前を行く女冒険者か。それとも俺の後ろにいた野菜籠を持った娘か……


「待って、お願いだッ!」

 肩に大きな衝撃を受け、強い力で引かれた。



 俺の左足はあまり力が入らず、踏ん張りが利きにくいため体が大きく揺れる。このまま地面に引き倒されるかと思いきや、大きな体が俺を包み込むように支えた。


「す、すみません。乱暴にするつもりはなかったのですが、焦ってしまって」


「……は?」


 若い男は俺を抱え直すと、ギュッと強く抱きしめてくる。


「先ほど大通りであなたの気配を感じたのです。でも、あなたは大通りから離れていくのを感じて、慌てて追いかけてきたんです」


 癖のない白銀の艶やかな髪、紫水晶のような濃い紫色の瞳、薄い唇、涼し気に整った顔立ち。身に纏っているのは豪華な飾りと美しい勲章の付いた騎士礼装、腰には手入れの行き届いた長剣。


「俺を置いて行かないでください。お願いです」


 張りのある肌、鍛えられて力強い体。

 若い、恐らく二十歳過ぎくらいだろう。


 なんでこんな若い美青年騎士が、薄汚れた中年Cランク冒険者を抱きしめて「行かないで」って懇願してるんだ?


「あの……」


「なんでしょう? なんでも言ってください!」


「……あの、あなたは、どちら様で? なぜ、初対面の俺に懇願してるんでしょ?」


 わけ分からない。
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