中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo

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 番、日本でも聞いたことのある言葉だ。鳥の番、動物の番。
 要するに、夫婦や伴侶といった二世を誕生させる関係だ。

 この世界には多様な種族が生きているが、彼らには〝番〟という存在を感じとる本能がある。

 獣人もエルフもドワーフも、もちろん人間にも備わっている原始的もの(食欲や睡眠欲、性欲と同じ)なの。
 体臭なのかフェロモンなのかは知らないが、〝番〟だとひと目見た瞬間に認識する。

 認識した相手からはとてもいい匂いがして、顔も体付きも性格もただただ愛おしく、自分のものにしたいと心の底から強く願うのだそう。

 ひと目会ったその日から……、お互いにそう思うのだからひと目惚れ両想いの超強力なやつなのだろうと俺は認識している。

 しかも、同性間でも子どもを作ることができるため、〝番〟が同性であってもなにも問題がなく、また相手が同性であることも珍しくない。俺の周囲にも男同士、女同士で結婚している奴はいるし、彼らの間に子どもが生まれているのだから……この世界ではそういうものなのだ。

 日本で生まれ、こちらの世界に迷い込んでしまった俺には誰かを〝番〟だと思う本能はない。まあ、同性愛についてはこっちでは本当に多くて、そういうものだと受け入れ完了している。

「すみません、俺にはわかりません。そういうの、感じないので」

「……そうですか。〝番〟を感じる感覚は個人によって差があります。残念ですが、カイはあまり感じられない方なのでしょう」

 あまり感じられないんじゃなくて、全く感じられないんだよ。

「でも、大丈夫です。あなたと私が〝番〟であることは間違いありません」

 ニコリと微笑み、ルーファスはテーブルに乗せてあったベルを鳴らす。すると、お茶の乗ったワゴンを押した使用人が入室してお茶を用意し、ルーファスには茶色の大判封筒を差し出した。

「カイ、申し訳ありませんがあなたのことを調べさせていただきました」

「はあ」

 封筒の中身は、俺の調査報告書だという。

 別に調べられて困ることはない。きっと、数日前に話をして怒って飛び出していったニックスという名の子があれこれ調べたんだろうが……彼が不愉快になっていなければいいが。

「過去は変えられません。変えることができるのは、この先の未来だけです。あなたにはこの先、辛い思いはさせません。命にかけて誓います。ですから、命が尽きるそのときまで私の側にいて、私と一緒に生きてください」

 ルーファスは「お願いします」と言って再び懇願モードに入った。

「……ええと、その、間違いではないのすかね? 俺みたいな中年男が、あなたのような高貴な身分の美青年騎士の相手だなんて」

「〝番〟を間違えることはありません、ひと目見ればわかります」

 顔を上げ、ルーファスはキッと俺を睨んだ。俺たちが〝番〟だということを否定することは、俺自身であっても許さないらしい。

「え、でも、勘違いとか思い込みとか……」

「間違えません、絶対に。あなたは私の〝番〟です」

 ルーファスは力強く言い切り、マクフィー文官も使用人さんも頷く。

「わ、わかりました」

「では、ここからは自分が」

 マクフィー文官は咳払いをし、自身が持っていた大判の茶封筒を開けて中身を取り出す。中に入っていた紙は全て公式の書類だ。

「まず、〝番〟が異国人同士であった場合、どちらかの国へ移っていただくことになります。お二人の場合、現在オルブライト卿が職務の都合上国を離れることが難しいため、スミス殿に移っていただくことになります」

 王国騎士団所属の騎士だもんな、そう簡単に国を移ることなんてできない。その点俺は低級冒険者だから、国籍を変更して所属する冒険者ギルドを変更すればいいだけで簡単だ。

「スミス殿には国籍の変更手続きをしていただくことになるのですが……、その前に確認したいことが幾つかございます。正直に、お答えください。お答えいただけなかった場合、処罰の対象となる可能性があります」

「処罰の、対象?」

「心配ありません。聞かれたことに正直に答えてください、それで問題ありません」

 ルーファスはそういって俺の手をガッシリと掴んだ。

「えっ、あ、ああ。それで、確認したいこととは?」

「スミス殿は今から約十年前、ベレス王国の国籍を取得されていらっしゃいます。それ以前はどこで、なにをされておられましたか?」


 俺は無意識に息を飲む。
 十八歳でこの世界に来て一度国籍を得て、そして失った。再度国籍を取得する二十六歳まで空白の八年間……正確にはそのうちの三年間で味わった生き地獄は、未だ癒えることのない傷として俺の心と体に存在している。

「スミス殿、あなたはどこのお生まれですか? ご両親の名前は? ご兄弟は?」

 手にした書類と俺を交互に見ながら、マクフィー文官は続ける。

「国籍は通常、生まれて二週間以内に家族が出生届を出して取得され、届け出は国民の義務です。二十六歳になるまで国籍がないまま生きることは、とても難しい。つまり、十年前あなたは新しい国籍を取得したことになります。……それまで、あなたはどこでなにをしていたのでしょう?」

「……」

「それと、これらはどこで入手されたのですか? あなたの鞄の中に入っていた品、と確認されています」

 マクフィー文官がポケットから取り出したのは、一本のボールペンと一枚のカードだ。

 ボールペンは赤青緑黒の四色ペンにシャープが一緒になった一般的なもので、軸はネイビーカラー。銀色のインクで卒業した高校名と俺の名前が入っている。

 高校を卒業したときにクラス担任が「卒業記念に」と生徒一人一人に贈ってくれた記念のペンだ。俺にとっては想い出の品だが、日本では特に珍しい物じゃない量産品。

 カードは大学が発行してくれた学生証だ。大学名、所属学科、学籍番号、十八歳だった俺の顔写真、校章が印刷されている。

「これらの所有者であった方は、我が国にとって重要な人物でした。ですが彼は十七年前に事故で亡くなられてしまい、遺品は関係のある方へ渡されました。なぜ、あなたがこの方の遺品を……しかも複数お持ちなのですか?」

「……」

「スミス殿、正直にお答えください。お答えの内容によっては、いくらノーフォーク王国の騎士殿の〝番〟であったとしても移籍は認められません」

「それは困ります! カイは私の最愛ですから、連れて帰ります」

 強く手を握るルーファスはマクフィー文官に食って掛かる。だが、マクフィー文官も確認できなければ手続きは進められないと引かない。

「なんと言われようが、十年前に国籍を得るまでの説明と、これらを所有する説明ができなければ私は引き下がりませんよ。職務ですから」

 そういってマクフィー文官はルーファスを諫め、俺に〝話せ〟と迫る。

 あの生き地獄で体験したことを、話せと。

「スミス殿」

「……用意してほしい物があります。用意ができたのなら、話しますよ。ルーファスさんも聞いてくださいね、それを聞いてもまだ俺を自分の国へ連れて行きたいかを考えてほしい」

「連れて行きたいに決まってます」

 ルーファスは勢いよく言い切ったけど、どうかな……?

「なにを用意しますか?」

「異邦人カイト・タナハシのことがわかる資料と録音判定機を」

 マクフィー文官は表情を硬くし、ルーファスは酷く驚いた顔をして俺の手を包み込むように両手で握った。
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