中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo

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 奴隷商の元に戻された俺は風呂に入れられ、健康診断と問診を受けた。

 本当なら奴隷になったときに受けるべきものだったが、俺はすぐに冒険者パーティーの奴隷になったから今更ながらの検診だった。

 健康診断の結果は、慢性的な過労状態、低栄養状態。命に別状はない外傷(擦り傷や打撲痕など)が多数。性的搾取の痕跡あり、トラウマあり。性病なし。

 問診の内容は簡単だった。得意なこと、不得意なこと、動物が好きか嫌いか、子どもが好きか嫌いか、老人か好きか嫌いか……そういう簡単な設問に答えるもの。これをもとに奴隷の売り出し先や貸出先を決めるのだという。

 すぐに新しいところへ行かされるのだと思っていたが、奴隷商の主人は一ヶ月の休みをくれた。低栄養状態や過労状態じゃあ、どこかに売ったり貸し出したりできない、といわれ、それもそうかと納得したのを覚えている。

 ひと月の間、俺は奴隷用の療養部屋で過ごした。

 栄養価の高い食事を一日三回食べ、毎日シャワーを浴び、布団で眠り、外傷とトラウマの治療を受ける。体の傷や栄養状態はすぐに回復したが、トラウマに関してはなかなか回復しなかった。

 性的には全く役に立たないし、夜中に悪夢を見て叫んでは飛び起きる。人とのふれあいは握手くらいならいいけど、ハグ以上は体が震えた。

 それでも、薬とゆっくりした時間のおかげで、悪夢をみて深夜に叫んで飛び起きる回数は減ったし、触れられると発生する体の震えは小さくなっていった。

「……カイト、新しい主人が決まったぞ」

 休みと治療が終わり、奴隷の待機部屋に戻ってから一週間ほどで俺は新しい主人の元へ行くことが決まる。

 新しい主人は牧場経営者で、飼育している牛と羊の世話と下働きをする奴隷を求めていると聞いた。一年契約で最長二年、貸出奴隷として行くらしい。

「牧場の主人には三人の子どもがいる。上二人の息子は他所の牧場への研修と、進学で二年間牧場を離れるんだそうだ。牧場に残るのは主人夫婦と末の娘、主人の両親の五人。若くて体力があり、動物が平気。おまえが性的に不能でそういう欲求がないのも、若い娘がいるから安心だってな」

 なるほど、若い女の子がいるところではそういう問題が出てくるんだなと知った。

 俺は新しい首輪をつけられ、丈夫なシャツと作業用ズボンを着せられ、王都から馬車で二週間ほど離れた村にある牧場へ送り込まれた。

 牧場での生活は冒険者パーティーのときとは全く違っていて、良い意味で驚きの連続だった。

 牧場を経営する一家は皆明るく優しい人たちで、奴隷だというのに俺を普通の従業員のように扱うのだ。同じテーブルで同じ料理を一緒に食べ、毎日風呂に入り(さすがに最後だが)、毎日服は洗濯される。

 仕事は日本の牛の二倍はあるだろう巨大な牛が暮らす牛舎を掃除し、乳しぼりをし、羊を放牧し羊毛を刈り取る。朝は早かったが、朝六時から夕方六時まで働く規則正しい生活だった。

 春になると子牛や子羊が毎日のように生まれ、お嬢さんと一緒に世話をする。

 小さな牛や羊が懐いて、お嬢さんが笑って、奥様や大奥様も笑って、大旦那様がボードゲームの相手をしろといい、旦那様が手伝いをしてくれと俺を呼ぶ。

 優しい人たちと牛や羊といった動物に囲まれて、朝から晩まで牧場で働く。二年間、性的なことと全く関係なく、ただひたすら従業員として働いたことで俺の心は少しずつ治っていったように思う。



「二年が過ぎて、長男次男の二人が牧場に戻って来たことで俺はお役御免。俺は奴隷商の元へ戻ったの。その頃には俺の体は普通くらいには肉がついてたと思うよ。奴隷商は喜んでたな、俺は健康的になって戻って来るし、牧場主からはいい奴隷を貸してくれたって感謝されたって」

「……その後は、どうなったんです?」

 マクフィー文官はメモを取りながらいう。

「奴隷商のところに戻って一週間くらいかな、俺は新しい主人に売られたよ」

「今度は、売られた、のですか?」

「そう、貸出じゃなくて、売却。俺の所有権は奴隷商から俺を買った個人に移ったわけ」

「その人は?」

「チャドって行商人の爺さん。チャドさんって俺は呼んでた」

 チャドさんは八十代半ばの商人。

 日本人的な感覚でいうのなら八十半ばで行商なんてとんでもないって感じだが、こっちの世界のヒト族は寿命が少し長い。平均寿命が百四十から百五十歳、最年長記録は二百歳。八十半ばって年齢は、日本でいうなら五十代後半から六十代前半って感じだろうか。

 チャドさんは昔店をやっていたそうだ。経営していた店は雑貨店、日本でいうコンビニみたいな印象だ。生活雑貨や食料品、衣類、薬、よく使われるものを厳選して扱う、長年続く地元密着の店。何でもそろう便利な店として、三店舗まで店を増やしてそこそこ稼いでいた(本人談)らしい。

 けど、奥さんがチャドさんの従兄とデキちゃって、二人が共謀してチャドさんになにかの罪を被せて店から追い出したんだとか。店を取り返すにしても、復讐するにしても、なんにせよ金が必要だと考えたチャドさんは、行商を始めることにした……というのが本人の話。

 どこからどこまで本当の話なのかは知らないが、自分の店を失って行商人になり荷物持ちと雑用の奴隷を買ったってことだ。

「俺は荷物持ち兼下働き用の奴隷として、チャドさんに売られたのよ。それからは、チャドさんのいうまま荷物を背負子に背負って国中を売り歩く生活」

 国中を辻馬車と徒歩で移動する行商人の生活は、想像以上にハードだった。

 チャドさんが売り物にするのは次の街で売れそうな品または需要がある品で、重量がある品の時は本当に大変なのだ。珍しい鉱石とか反物とかね、重いのよ。

 救いだったのは、移動ルートだ。

 街から街は石畳が敷かれ魔獣除けが整備された街道で繋がっているが、山や谷を避けるように作られているため距離的に回り道になっていることも多い。険しい山道を通るとか、谷越えをするとか、街道ではない細い道を行く方がショートカットになるルートもある。でも、チャドさんはいつも街道を行く。

「俺はジジィだから、足腰が痛まないようにしなくちゃならない。それに、街道には魔獣除け対策がされて、警備隊の詰所もあるが……他の道は違う。行商人は安全を考慮せにゃあならんのだ」

 とのことだ。

 チャドさんと一緒に国中を歩いた間、そのおかげで魔獣に襲われることは一度もなかったし、強盗に襲われそうになったときは警備隊が助けに来てくれて被害らしい被害はなかった。チャドさん自身の安全は、俺自身の安全でもあった。

 仕事は大変だったけど、この国のあちこちを見てまわることができることは純粋に楽しく感じていた。カラフルな巨大なきのこが群生している谷、文字通り木も草も真っ黒な森、純白の砂浜にエメラルドグリーンの海がある海岸、バスケットボールくらいの大きさのリンゴがめちゃくちゃなっている果樹園、食用魔獣魚(ショッキングピンク色で小さな角が額に生えてる)の養殖場など、異世界ならではの景色を見て、特産物を食べたり触ったり出来たことは素直に楽しかった。

 まあ、旅暮らしの中で「ジィさん、あんたの奴隷の尻を貸してくれよ」と野営地で一緒になった若い冒険者や商人にいわれることもあった。そういうとき、チャドさんが商人だってことを思い知らされる。

 断ってくれればいいものを、「こいつは不感症だから楽しめないだろうが、それでも良ければ一発八千マァル、最大三発まで。けどな、こいつは儂の荷物を運んで雑用するのが本業の奴隷だ、本業に差し障るのは困るからな。それと壊すような扱いをしたら、即金で三百万マァル貰う」と条件付けして貸し出したのだ。

 おかげで無体な搾取はなかったけど、尻や口を使われることに変わりはない。月に二、三回のことだったが……そこは嫌だった。

 不感症で反応がほとんどない俺を使う奴らは、俺のことなんて気に駆けない。苦しかろうが痛かろうが気にしない、ただ、自慰の道具として俺を使うようなやつらだからだ。快楽はわからないけど、苦痛はわかるから嫌だった。

 チャドさんに買われて三年、このまま行商人の奴隷としていつまで生活していくのか? そんなことを考えていたのが悪かったのか、その年の冬に事件は起きた。

「カイト、次は西部のヴォルジーに行くぞ」

「ヴォルジー?」

「丁度二週間後、あの街で温泉祭りが開かれるから出店する。あの街は美容健康と温泉の街だ。そうだなぁ、ここらで愛用されてる美容商品なんかいいかもしれないな」

 北部の街にいたチャドさんと俺は、西部にあるヴォルジーで開かれる温泉祭りに間に合うよう商品を仕入れて出発した。いつものように街道を進んでいたんだが、寒さと疲れからかチャドさんは途中で熱を出して倒れた。

 西部地域には入っていて、日程も余裕をみていたから休んでも問題ないと判断。途中の村で医者に掛かることにした。

 チャドさんと同じくらい爺さんだった医者は、「カゼだね、薬を飲んで三日もすれば治る」といって、苦そうな薬をくれた。けど、薬を飲んで宿屋で休んでも、チャドさんはなかなか良くならなかったのだ。数年続けた旅暮らしは、チャドさんにとって想像以上に負担だったのかもしれない。

 チャドさんの熱が下がり移動できるほど回復したときには、ヴォルジーの温泉祭りは開催四日前になっていた。

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