月は夜に抱かれて

凪瀬夜霧

文字の大きさ
110 / 110
終章:月は夜に抱かれて

終話:語り部

しおりを挟む
 詩人が語る最後の音が響き、観衆は割れんばかりの拍手を送る。立ち上がり、丁寧にお辞儀をした詩人はそのジェードの瞳に人々を映した。
 どれほどかいつまんでも二時間はかかる建国の物語を子供達まで聞いてくれた。一生懸命手を叩きながら「王様かっこいい!」と声を上げている。

「ねぇ詩人さん。この国の王様は二人いるの?」
「えぇ、そうですよ」
「黒い王様しか私知らないわ」
「私は知ってるよ! 白い王様」

 はしゃぐ子供の声に、詩人は柔らかく微笑む。

「白い王様は、少しだけ恥ずかしがり屋なのですよ」
「そうなの?」
「えぇ」

 子供達が「可愛い」なんて言うのを聞いて、大人達も笑っている。そして詩人も笑っている。

「最初の歌は間違いなの?」

 少し年齢が高そうな少女が問いかける。それに詩人は笑って頷いた。

「最初の歌は傷つき倒れた黒の王と白の王を歌ったものです。そこを乗り切った今、この話の最後はこのような歌で締めくくられるのですよ」

 詩人は竪琴を奏でる。これまでの波瀾など思わせぬほど優しく美しく、抱くように。

「国に二王並び立ち
 泰平の世は祝福を得る
 願わくば末永く
 月は夜に抱かれて」

 互いを思い側にある、二人の王が欠けぬようにと願った歌は建国の物語の最後を飾る。女性は二人の王の恋物語を自分に置き換えうっとりと憧れ、男性は英雄である王の勇に憧れる。
 詩人は真っ直ぐ前をみた。ラインバール。かつての戦場は今、最も栄えた都となった。建国後五年、王城から伸びたこの噴水広場は多くの人で賑わっている。

「このような悲しい戦いを経て、今があります。故に建国の夜は花を捧げ、国の為に散った者達に祈りを捧げるのですよ」

 多くの人が倒れた。数多の命が消えていった。この事実は変えられない。だからこそ、忘れてはならない。この日は祝いであり、戒めだ。過去を忘れてはいけないのだという、為政者達への戒めの日だ。

「さぁ、子供達。今一度花を手向けてあげてください。この平和ができるだけ長く続くよう、祈りを込めて。貴方たちが、この平和を維持していくのだと胸に秘めて」

 詩人の言葉に促され、子供達は駆けていく。大人達もそれにつられ散っていく。人のいなくなった噴水の縁に腰を落ち着けた詩人の隣に、黒衣の旅人が一人腰を下ろした。

「まったく、姿が見えないと思ったらこんな所にいたのか、ユリエル」

 言われ、詩人ユリエルは楽しく笑った。

「懐かしい格好ですね、ルーカス。初めて出会ったあの夜の再現かと思いましたよ」
「俺も同じ事を思った。今日は良い月だ。こんな日は月より使者が舞い降りる」
「そして隣に、夜がある」

 かつてタニスと呼ばれた国の王都で、二人の王はこうして出会った。人のいない噴水の縁に腰を下ろした詩人を、夜を纏う旅人が見つけた。

「よい光景ですね」
「あぁ」

 子が笑い、大人がつられて笑い、手を取り合って歩いていく。声が溢れるその中を、祈りの炎がパチリと爆ぜる。
 決して平坦ではなかった。夢見た先に広がったものは困難の方が多かった。それでも、支えてくれた人々がいる。手を取り合って共に歩んだ人がいる。そうして今、ここにある。
 ユリエルは穏やかにジェードの瞳を細めた。その隣でルーカスもまた、穏やかに人々を見ていた。

「行こう。明日は本格的に祝賀の儀式やパレードもある。シリルやレヴィン、ヨハンも明日の朝一にこちらで到着する」

 それぞれの仕事や任務を得て、数ヶ月顔を合わせていない人々が明日は一堂に会する。それを心待ちにしている。
 立ち上がり、手を取って歩き出すその手をユリエルは見つめて強く思う。


 願わくば、この手をずっと離さぬまま、永久にこの日々が続きますように。


END
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

鹿の子🦌
2021.12.29 鹿の子🦌

完結おめでとうございます 💐長編お疲れ様でした
ユリエルがはにかみ、退場する姿が浮かびます
横に素敵な黒の王😃

年末に読み返して、二人の奇跡を味わい直したい😋です

2021.12.29 凪瀬夜霧

有り難うございます(^▽^)
大変長いので、読者さんも大変だろうと思いますが、ついてきてくれて嬉しいです😆
きっと優雅に一礼して退場するのでしょうね、ユリエルはw
勿論隣にルーカスがいて💕
是非是非、お時間のある時にまた😊

こちらは来年、紙媒体にしてみようかと計画中ですw
それでもこちらは下げないので、どうぞ心ゆくまでご堪能下さればと思います!
読んで頂き、感想まで頂き、有り難うございました<(_ _)>

解除
鹿の子🦌
2021.12.27 鹿の子🦌

(/▽\)♪お気に入り100越えおめでとうございます🌹🌹🌹🌹🌹🌹🌹 追い付いてきたら、あれ🎉日々増えてると、😁

二王とは、統制上よく考えられてると、感心した🙄

若い人物が多いですけど、かっけえオバハンとかの描写好きです⁉️
なんだか凛々しいお兄ちゃんばかりか、逞しい女性もちらほらいてなかなか賑やかですね
進むと、普通エロくなるがファンタジー小説なのが、いいと思います❗ストーリーに重きですね✨

もう、二人がこっそり会うのはないでしょうけど、
裏で皆大変だったんだよ、移転できないんだから‼️みたいなおこぼれはないでしょうか?

たくさんの素敵な人たち産まれた長編の😋終幕に立ち会えそうです🤗
いつもマメな更新ありがとうございます😃

2021.12.27 凪瀬夜霧

有り難うございます!
長いし糖度低めだしでファンタジーBLとしては少し毛色の違う話なので、なかなか難しいと思う作品です。
そのなかでお気に入り100越えは嬉しい限りです😆
そして、もう少しで完結です。

どっちが引いても角が立つ。ならばいっそのこと二人とも王様でw
普通揉めますけれどね😅
BLというジャンル上、年齢はわりと若めですね。かっこいいオバハン! 確かに爽快!
渋い初老男性も私的には嫌いじゃありませんw
女性陣も逞しく、そして自信を持って堂々と生きている世界です。男性陣とはまた違う強さと格好良さがあればと思います。
そして話が進んでもエロはあまり多くなりません。物語進行に重きを置いた結果ですね😅
あっ、これも難点でしょうか?(-_- )

二人が隠れて会う事は減りますが、たまにふらっと二人で消えて家臣一同大慌て! なんてのも面白いかもしれませんね😊
でもここは、家臣も大変だったんじゃないかと思います。お忍びでいないのを誤魔化したりw
おこぼれ話、書けたらいいなと思います。

色んな人の人生が混じり合ったお話もあと少しで終幕です。
いつも感想を頂けて嬉しいです😊 有り難うございます!

解除
鹿の子🦌
2021.12.24 鹿の子🦌

BL大賞お疲れ様でした

いい作品他にもあったよ‼️とスマホを投げてしまった😫
じわじわ人気になってたし、とても良い作品だから残念です

今こちらをじっくり読ませていただいてます
テイストがずいぶん昔のファンタジー小説、丁寧に
王道に書かれてますね✨
なかなか楽しみつつ、難しいこと挑戦されてるのかしら、人気になるまでかかりそうですけど😅
がんばって続けてください🤗

あ、なかなかじれじれな設定ですけど、先生のこと信じて読みすすめます

メリークリスマス🎄🎉😘

2021.12.24 凪瀬夜霧

応援有り難うございました<(_ _)>
まぁ、ダメ元で挑戦していますから、参加して色んな人の目に触れただけでも楽しかったですね😊
それにしても受賞作のタイトル、みんな長くて笑ってしまいました😆

こちらは少し硬めのファンタジー小説で王道戦記テイストです。なのでけっこう内容もかっちりしています。
スキル安産のマコトとは違い、自らの道を自らの手で切り開いていく強い主人公です。
もう少しで完結までアップが終わりますが、とにかく長いのでお手隙の時に少しずつご覧頂ければとおもいます😊
じれじれですがハピエンですので、どうか信じて読んでみてください。

MerryXmas🎄🎁🎅

解除

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

後天性オメガは未亡人アルファの光

おもちDX
BL
ベータのミルファは侯爵家の未亡人に婚姻を申し出、駄目元だったのに受けてもらえた。オメガの奥さんがやってくる!と期待していたのに、いざやってきたのはアルファの逞しい男性、ルシアーノだった!? 大きな秘密を抱えるルシアーノと惹かれ合い、すれ違う。ミルファの体にも変化が訪れ、二次性が変わってしまった。ままならない体を抱え、どうしてもルシアーノのことを忘れられないミルファは、消えた彼を追いかける――! 後天性オメガをテーマにしたじれもだオメガバース。独自の設定です。 アルファ×ベータ(後天性オメガ)

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。