恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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6章:死が二人を分かっても

5話:新婚初夜(エリオット)

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 宿に戻ってドッカリと腰を下ろしたオスカルに、エリオットは苦笑して水を差し出す。受け取った彼は珍しく行儀悪く飲み干した。

「荒れていますね」
「あのね、本当にサーッと血の気が引いたんだからね。エリオットがあいつに迫られてるの、すっごく嫌だった」

 それでも、威嚇だけで終わらせてくれたのだ。

 わりと好戦的な性格でもあり、後に引きずらない分その場の沸点は低いオスカル。この言いようなら、きっととても怒ったのだろう。あの場で即刻乱闘騒ぎでもおかしくはなかったのだ。
 それでも押さえてくれたのは、この旅に嫌な思い出を残したく無かったから?

 ソファーでふて腐れているオスカルを背中から抱き寄せたエリオットは、見えている耳にそっと口づける。お揃いのピアスが視界の端に見える。

「以後、気を付けます」
「……うん。僕も、もう少し大人になるよ」
「もう十分大人のはずなんですがね」
「そういう意地悪言わないでよ」

 そろそろ三十が見えてくる年齢だけれど、そんなのはまったく分からない。大人の顔は仕事の時だけで、エリオットに見せるのは自由な姿ばかり。
 そしてそんな姿を、好ましく思っている。

 オスカルの腕がエリオットの頭に回って、引き寄せられる。そして、振り向いたオスカルととても静かなキスをした。

「……オスカル、しないんですか?」

 触れた唇から伝わる、愛していると熱情。見つめる視線に色気がある。欲しそうな、男の目をしている。
 それでもオスカルはこの旅行の間、エリオットを抱きはしなかった。一緒に眠って、一緒に起きて。抱き合って眠る前にキスをするだけだ。

 オスカルは困った顔をする。濡れた瞳で、それでも押し殺すようにする。

「旅行の間は二人の旅を楽しみたいから、しないって思ってたんだけどな。抱き合う事はこれからいつだって出来るし」
「しないんですか?」

 確かにこれからは一緒の部屋になる。毎日同じ部屋の同じベッドで眠り、起きる。抱き合う事も気分が乗ればいつだって出来る。
 けれど旅も今日が最後の夜だ。明日は朝食をとったら帰るだけ。それなら、最後の思い出を作ってもいいと思う。

「オスカル」
「ごめん、意志が弱いよね……欲しい、エリオット。今日は君を抱いてもいいかな?」

 濡れた青い瞳が男の色気を纏って見つめる。空気が変わる。これに抗う事なんて出来ないし、するつもりはない。エリオットもまた、欲しているのだ。

「勿論です、オスカル。抱いて、頂けますか?」
「喜んで」

 嬉しそうなあどけない笑みを見せるオスカルに、エリオットもニッコリと笑った。


 邪魔なものは全て取り払って、綺麗にメイキングされたシーツには皺が寄る。明かりを落とした静かな空間に、互いの声と吐息の音が響くばかりだ。

「ここ、感じるようになったよね」

 嬉しそうなオスカルが胸元を撫でる。既に反応して硬くなっている部分が擦れて、痺れるような感覚に息が漏れた。

「誰がこんなにしたんですか」
「僕だね」

 本当に嬉しそうに言う。少し憎らしく、けれど憎めない。
 オスカルの手で快楽を教えられた体の全てを、彼は知っている。今触れている手が、唇が、エリオットを淫らに変えたのだ。

「責任、取ったよ」

 確かに、こんな体にした責任は取ってもらった。

「そんなこと、気にしなくていいですよ」

 拒まなかったし、受け入れた。教え込まれる事が嫌じゃなかった。むしろ、オスカルの好みに染まる事が少し嬉しくもあった。

「貴方が愛してくれるなら、形は何だって構わないんです」

 結婚を望むなら、それは嬉しい。例えそうじゃなくても、一緒にいられる時間が幸せであればそれだけでいい。形はなんだっていいのだ。

「愛してるよ、エリオット。例え死が二人を分かっても、僕は君を探し続ける。僕が先なら側にいる。君が先なら、探し続ける。次の世でも、その次でも」
「オスカル」
「見つけられる自信はあるんだ。姿は変わっても、きっと」

 不穏な事をと思ったけれど、あまりに嬉しそうだから口を挟む機会を逃した。
 それに、恥ずかしくて少し嬉しいのも確かだった。想像してみたんだ、違う世界でまた巡り会う事を。二人とも少し様子が違って、出来ればもっと平和な時代で、それでも互いを見つけて選べる運命があればと思うのだ。

「どんな姿でも、エリオットはきっと美人だね」
「バカ」

 満面の笑顔で言われて顔が熱い。変な惚気方をされて、エリオットは視線を外す。それを狙ったように、硬くなりだした乳首にオスカルが吸い付いた。

「んぅ!」
「気持ち良さそうな声。もっと、聞かせて」

 チュッチュッと敏感な部分に降るキスが、濡れた舌の感触が、触れる唇の柔らかさが染みていく。快楽を知る体は全てを受け入れて上っていく。ほっそりとした指が腹を撫でながら下へとおりて、後孔に触れた。

「んっ」
「ここも、柔らかくなったよね」
「あっ、んぅ」

 ゆっくりと丁寧に入り込む指が浅い部分をなぞる。まだイイ部分には触れていない。それでも期待からか、キュッと奥が疼いた。

「エリオット、期待してる?」
「え?」
「キュって締まったから」

 もの凄く恥ずかしくて顔が熱くなる。そんなエリオットを見て、オスカルは嬉しそうに笑った。

「じゃ、期待に添わないとね」

 最初はゆっくりと慣らしていた指が、徐々に快楽を探り始める。クリッと撫でられる部分にゾクゾクと感じて声を上げた。

「やっ、オスカル……イッ」

 こんな風に触られたらイッてしまう。焦って訴えたエリオットの言葉が出るよりも前に、オスカルが前を握り、あろう事か咥えてしまって嬌声が上がる。一瞬、頭が真っ白になった。

「いいよ、イッても。ってか、そのつもりだし」

 視線だけを上げたオスカルは、ペロリと見せつけるように昂ぶりを舐める。視覚的な羞恥も相まって、エリオットは顔を真っ赤にしている。

「解すだけでイッちゃいそうだからね。それに、一度イッたほうが長く楽しめる。夜はまだ長いんだから、構わないよ」
「やっ、あの……あぅ! はぁ、あぁ!」

 本気で落としにかかったオスカルの舌が、弱い筋や先端をなぞる。それと一緒に後ろも解されていって、腰骨から背が痺れるように気持ちがいい。同時に腹の奥がジクジクする。ここに欲しいんだと、訴えているようだ。

 その気になったオスカルの口淫や手淫に勝てるわけがない。後ろを指三本が出入りし始めて、エリオットは陥落した。
 重い痺れと続く疼きに白い肢体を震わせたまま息を吐くエリオットに、オスカルは満足そうな顔をする。

 けれどこのままで黙っているエリオットではない。体中にキスをして、甘い瞳で見つめるオスカルを睨み付けたエリオットは起き上がり、逆にオスカルを押し倒した。

「え?」
「もしかして、私一人満足させて突っ込もうなんて、思っていませんよね?」
「え? えぇ……」
「私にもさせてください」

 ニッコリと笑いながら、エリオットは手を下へと移していく。そして、熱く張りつめている昂ぶりを握り込んだ。

「っ! エリオットさん?」
「何でしょうか?」
「怒ってる?」
「いいえ。ただ、私ばかり気持ち良くなっては不公平なので」

 少し慌てるオスカルにニッコリと言ったエリオットは、そのまま手を上下に扱きだした。
 ビクッと体を強ばらせるオスカルの表情が、徐々に濡れて蕩けていく。

「ちょ……っ! これ、気持ちいい」
「何年こうしていると思っているんです。いい加減、私だって貴方の事が分かりますよ」

 普段、オスカルはさせてくれない。手淫はすらもほんの少しだ。
 それというのもオスカルは奉仕したい人で、エリオットから「させて」と言っても聞き入れられないまま、快楽で有耶無耶にしてしまうのだ。
 どうしてか問うと、「僕がエリオットを気持ち良くしたくて」と言う。本当にこれが全部なんだ。
 でも、今日は流されてやるものか。結婚したのだから、一方的なんて許しておかない。エリオットだってされるばかりじゃない。

「あぁ! やっ、なんで?」
「貴方のいい所を知っているか。ですか?」
「んぅ! は……っ」
「学習時間は嫌と言うほどありましたから」

 ニッコリ笑って根元から先端にかけてを素早く扱けば、オスカルの濡れが表情が見られる。トロトロになった先端を捏ねればビクビクと震えている。
 抵抗が緩んだところで、エリオットは体を下へとずらしていく。そして濡れる昂ぶりを一気に奥まで飲み込んだ。

「んっ」
「あっ! え? うわぁ……」

 真っ赤になったオスカルと、見上げるようにしているエリオットの視線が合う。こんなに慌てた反応をするオスカルは初めてかもしれない。思うと愉快でもあり、してやったりという気持ちにもなった。

 フェラなんて経験はなかった。けれどされたのは覚えている。体が覚えている通りに、エリオットはオスカルのものをしゃぶった。舌を這わせて舐めたり、深く飲み込んでみたり。
 そうする度にオスカルの唇から気持ち良さそうな声が漏れるのがたまらない。

「んっ、エリオットだめ……出そうだから、離して」

 そう言ってもいつも離してくれないのがオスカルだ。だから今日はそんな気はない。
 エリオットは更に深く喉の奥まで入れてみた。息苦しくて咽せそうになっても意地になってそうしていた。

「あっ、駄目! くっ! うぅ!」
「っ!!」

 はっきりと口の中で大きくなり、喉奥へと流し込まれるのが分かった。無理矢理入ってくる白濁をどうにか飲み込むと口を離し咳き込んでしまう。拒絶はないが、生理的な涙が浮かんでいた。

「もぉ……無理しないでよ……」

 僅かに息を乱したオスカルが手を伸ばして頭を撫でてくる。何度か咽せながら、それでもエリオットは鋭く笑った。

「したかったんです。気持ち良くありませんでしたか?」
「……気持ち良くて腰抜けそうだよ」

 顔を真っ赤にしたオスカルがちょっと可愛かったから、また不意打ちでやってみようとエリオットは笑った。

 改めて押し倒された上に、オスカルが陣取る。そして確かめるように後孔へと指を這わせ、解した。

「柔らかいままだね」
「大丈夫ですよ、オスカル」

 だから早く貴方が欲しい。一つになって、互いを感じていたい。

 押し当てられた昂ぶりは一度出しても変わらないまま。それが薄い後孔をコツコツとノックし、確かめるように押し入ってくる。

「くっ、んぅぅ!」
「痛い?」
「へい、き……あっ、はぁぁ」

 浅い、弱い部分を抉られて声が漏れる。ビリッと強い快楽に腰が浮いた。けれど欲しがっているのはもっと深い部分。もっと一つになれるたと思える場所だ。

「締まるっ。エリオット、平気?」
「平気、です……っ、だから、お願い……」

 もっと、奥まできて……

 手を伸ばして求める中に、オスカルはきてくれる。大切に抱き込まれ、抱きしめたまま熱い肉杭が奥を穿つ。ゾクゾクする快楽に震え、あられもない声が溢れ出ていく。その全部を、オスカルは抱き寄せて愛してくれる。

 しっとりと濡れた肌を合わせ、吐息も混ざり合うようなキスをして、濡れた音が室内に響く。見つめる青い瞳が、ずっと優しく笑っている。恥ずかしいはずなのに、この目を見ると許せてしまう。

「エリオット、愛してる」
「んっ、オスカ……っ、私、も……あぁ!」
「うん、分かってる。っ! ごめん、結構きてるっ」

 深く抉る動きが早まって、気持ち良くて締めつける。離さないように抱きしめて、エリオットは頷いた。
 打ち付ける様な快楽に頭の中は何度も白く飛んだ。キュウキュウに中で締めつけて、オスカルを感じている。グチャグチャなままキスをして、濡れた声を上げて。
 やがて奥深くにオスカルを感じたまま、共に果てた。
 息が苦しくてたまらないのに、それでもキスをしたい。怠くて動けないけれど思ってしまう。そうした思いは通じるのか、はたまた同じ事を願っていたのか、オスカルの方からキスをくれる。互いに息は切れているけれど、それがまた愛しい。

「なんか……、全然スマートじゃなかったな」
「え?」
「結婚初夜だから、もっと余裕見せて格好よくエスコートしたかったのに」

 濡れた瞳のまま、そんな事を言うオスカルを見上げて、エリオットは笑ってしまった。そして腕を伸ばして抱き寄せて、ちょんと額にキスをした。

「こういうのも、好きですよ」
「エリオット、煽るんだもん。理性切れちゃった」
「私も男なんで、一方的にされっぱなしは嫌ですよ」

 これからはもっと対等に、もっと同じ場所で。
 そんな思いで口にした言葉を受け入れたのか、オスカルは「仕方ないね」と笑って言う。そうしてお互い抱き合って、幸せに笑っていた。
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