恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧

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13章:瓦礫の囚人

9話:責任は人それぞれ(ゼロス)

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 目が覚めた翌日、ゼロスは自分の状況をトクトクとエリオットに教えられて小さくなってしまった。

 まず一番危険だったのが脱水。足の炎症も相まって進み、意識障害を起こすレベルまできていたそうだ。これが夏だったら死んでいたと言われ、延々と見ていた思い出は本当に走馬灯だったんだと改めて思った。
 頭を殴られた傷は脳震盪と多少の出血。こちらはもう問題なく、瘤ができた程度だった。
 そして右足は小さな骨にヒビが入っていた。最初はそんなに酷くなかったが、無理に動いたりモニカに殴られたり踏まれたりしたせいで悪化したようだった。
 ただこっちは固定され、炎症も治まると痛みは引いたし熱もない。様子見だが、しっかり固定できているので松葉杖で移動する事は出来るとの事だった。
 爪は全部がボロボロで、指先が今はとても痛い。剥がれた爪は毎日清潔にして薬を塗っても二ヶ月くらいしないとしっかり生えないそうだ。

 実際の時間は一日か二日。だがもっと長い時間を感じていたゼロスは、その後ファウストにも多少怒られ、一ヶ月の謹慎と反省文を言い渡された。現在の行いではないが、元を正せばゼロスの素行の悪さが原因だ。
 でもこの謹慎はファウストの優しさだとも思っている。体を休めて無理なく療養出来る時間を強制的に言い渡された。そういう事だろう。


「それにしてもさ、ホント人騒がせだよねゼロス」
「ほら、リンゴ。ハリーに食われる前に食べなよ」
「悪いな、レイバン」

 クラウルの部屋に見舞いに来ているレイバンとハリー、そしてランバートとコンラッドはそれぞれ見舞いの品と言って色んなものを持って来てくれた。
 果物を持って来てくれたレイバンがリンゴ一つを綺麗に剥いてゼロスに渡してくれる。

「これに懲りたらバカな事は止めろよ」
「もう二度としないし、こんな事する理由がない」

 コンラッドはいつにも増して小言が多いが、それだけ心配したんだろうから甘んじて受ける。というよりも、暫くは何も言い返せないだろう。

「まぁ、何にしても無事でよかった。お前に何かあるとクラウル様、本当に壊れるぞ」
「怖い事を言わないでくれ、ランバート」
「お互い、溺愛体質の恋人を持つと下手を打てないってことだよ。肝に銘じておけ」
「分かった」

 ランバートは苦笑しているが人ごとではないのだろう。向けられる言葉や視線が気遣わしげだ。

「それにしてもさ、本当に全員の起訴取り下げるの?」

 ハリーの不服そうな声に、ゼロスは「あぁ」と短く答えた。

 当然起こった事が起こった事なので、それなりの裁判はある。だがどれも大事にはしないで欲しいと、ゼロスは事件を扱うクラウルの兄ライゼンに伝えた。過去のゼロスの行いにも問題がある事を包み隠さず伝えると、彼は真剣に説教をしてくれた。
 その後で、「クラウルを頼む」と言ってくれたのだ。なんて言葉を尽くしたらいいか、分からないくらいだった。

「ジャクリーンは離縁されて、実家も勘当されて親戚の家に下女として入ったんだろ? 大丈夫かね?」
「大人しくはなるんじゃないか? そこでも問題起こしたら娼館に売ると言われてるらしいし」
「モニカは修道院に送られるらしいね。王都からはかなり遠いから、どうしたって戻ってこられないだろうって」

 レイバンやランバート、ハリーの言葉にゼロスは僅かに俯いた。

 ジャクリーンは今回の事件で拉致に加担したとされたが、初犯であり、全体像を知らなかった。
 だが彼女の夫は彼女を離縁し、実家は事件を起こした娘を追い出した。王都からかなり離れた田舎の親戚の家に奉公に出されるとあって荒れたそうだが、「ならば娼館に売り飛ばす!」と言われて黙ったそうだ。

 モニカも今回の事件で拉致に加担し、家は勘当された。行き先は修道院で、そこで一生を神に仕えるようにと言われて罪を軽減されたと聞いた。

 二人とも十分な社会的制裁を受けている。事件の裁判でも既に猶予がついた判決で決まりのようだった。

 問題はリリアンだった。意識は戻ったが傷が深く、今は一般の病院に移されたが入院が長引いている。
 彼女の実家はリリアンを家から追いだし、王都から離れた保養所へと送ることが決まっている。傷がある程度癒えたらそちらに行くそうだ。

 これを聞くと胸が痛む。彼女達は皆、兄達を食い荒らしていたし実害もあった。ジャクリーンはグレンに高い物を求めてたかったし、リリアンは派手な遊びにグレンを連れ込み奴隷のようにしていた。
 イアンはモニカと付き合っていた時、本当に全身傷だらけで痣を作り、服の下にボンテージを辱めの様に着せられて泣いていた事もあった。
 耐えがたくてした事で、恨まれても構わないと思っていた。だが、今はゼロスにも大事な者ができた。そうした人を傷つけるこの結果は、素直に反省しなければいけない。

「一番納得いかないのはベアトリスか。不起訴……というか、責任能力がなくて罪を償えないとかさ」
「けれど一生、今度は本当に病院から出てこられないからな。国が管理している要塞みたいな病院だそうだよ」
「起こした事が起こした事だから、その措置もしかたないじゃん。両親も納得してるんだろ?」

 皆がそれぞれに言う事に、ゼロスは僅かに俯いた。そして、昨日エリオットに伝えられた事を思いだしていた。


 足の治療と指の状態を診にエリオットが来たときに、ベアトリスの事をそれとなく話してくれた。それというのもクラウルはこの件についてほとんど話さないのだ。

 ベアトリスが今回の全ての首謀者で、施設を逃げ出して森へと姿を消し、歩いて王都まで戻ってきた。逃げた理由は、施設の職員がお腹の赤ん坊を堕胎させようとしたから。
 この『お腹の子供』というのに何度も首を捻ったゼロスは、「は?」「え?」「えぇ?」という単語を何度も繰り返す間抜けな状態になり、エリオットを笑わせた。

「あの、彼女誰か他の人と交際をしていたんですか? それとも、まさか乱暴を?」

 第一ゼロスは彼女とは体の関係がない。出会った当初からちょっと危ない感じがあったのが、兄と引き離す為に好意を見せるとドンドン加速的に依存しはじめ、危ないと思ったからだった。
 だがそこでエリオットから返ってきた答えは想像もできない答えだった。

「想像妊娠ですよ」
「想像……妊娠?」

 不思議な単語が並び、ゼロスは首を捻った。ランバートの話では確かに下腹部がふくらとしていたらしい。だからこそ、誰かとの子が本当にいて、それが不幸な結果だったためにゼロスへの妄想を深めてしまったのかと思ったのだ。

 だがエリオットは真面目に頷く。指先に薬を丁寧に塗りながら、色々と教えてくれた。

「貴方との妄想や想像を巡らせるあまり、結婚間近で一緒に住んでいて、幸せな人生を歩んでいる。そこに子供が居れば彼女的には幸せな家庭が完成する。元々依存性が高く思い込みの激しい彼女はいつしか自分が子供を授かったという妄想に取り憑かれたようです」
「いや、ですが……」
「ちなみに彼女、男性経験ないですよ。調べましたから」

 淡々と言ってのけるエリオットもちょっと怖い。そしてそれ以上に、そんな妄想を募らせていたのかと思うと怖くなってくる。思わず背中がゾワゾワしてブルッと震えると、エリオットはおかしそうに笑った。

「人間の体は案外騙されやすいんです。強い思い込みで体が変化する事はありますよ」
「ですが、お腹がふっくらしていたと」
「ついでに言うと本当に妊娠しているように、月のものがこなくなり、悪阻もありますよ」
「そんな事があるのですか?」
「ありますね、人によりますが。呪いや偽薬と同じ事です」
「呪い……偽薬?」

 偽薬は聞いたことがあるが、呪いというのは信じていない。首を傾げるゼロスに、エリオットは新しい包帯を手にしながら続きを話す。

「呪いはあるんですよ。ただそれは幽霊などのような目に見えない者の仕業ではなく、人間の悪意の塊の様なものです」
「一体、どんな」
「簡単です。呪いたい相手からほんの少し離れた所、相手に漏れ聞こえる程度の所で噂をすればいいのです。『あの人、誰かに恨まれているらしい』『誰かが呪ってるらしい』と」

 怪しく光るエリオットの緑色の瞳に、ゾクリとする。冗談を言っているわけではない、そう語るような表情をしているのだ。

「ポイントは直接言うのではなく、あくまで漏れ聞こえる程度。人は直接言われるよりも噂を盗み聞いた時の方が気になるものです。しかも自分に悪意のある噂は気になる。自然と神経は過敏になっていく」
「ですが、噂ですよね?」
「神経が過敏になり、疑心暗鬼になる。噂する人々全てが自分の事を悪し様に言っているのでは? そんな気がしてくると当然言葉がきつくなったり、神経質になる。人間関係にもよい影響がなく、そうするとそれも呪いの影響で悪い事が起こっていると思う」
「そんな、流石に過敏過ぎませんか?」
「そうとも限りません。神経が過剰に反応していれば眠りは浅く、小さな物音でも気になる。睡眠不足で頭が働かず、体は疲れ、やがて食欲がなくなったり意欲が湧かなくなってくる。これはもう健全な状態とは言えません。病気になったり、鬱状態となって自殺。という可能性も出て来ますよ」

 脅すようなエリオットの瞳と笑みが怖くて思わず手を引っ込めてしまいそうになるが、エリオットはその手を離さず丁寧に包帯を巻いていく。

「まぁ、有効な人間とまったく効かない人間がいます。このように、思い込みによって人の体は変化があるもの。病は気からというのは、あながち間違いではないのです」
「では、ベアトリスも?」
「えぇ。まぁ、もうそんな妄想していませんがね」
「え?」

 今度こそ怖いくらい綺麗な顔で、エリオットは微笑む。普段はとても優しく笑うのに、ちょっと怒っている時にはこれが毒のように見えるから怖い。
 そしてこの様子では、きっと何かしたんだろう。

「彼女は信じ込みやすい。だからちょっと暗示をかけました。ゼロスとその兄とは酷い別れ方をして、心身共に傷ついた。怖い相手で、もう顔も見られない」
「……信じましたか?」
「えぇ、勿論。ゼロスに会いたいか聞いたら『そんな恐ろしい事できません!』と、顔面蒼白になって拒絶していましたよ」

 エリオットの勝ち誇った顔はいっそ清々しい程で、ゼロスはやっぱりこの人は怖いと思うのだった。


◇◆◇

 レイバン達と食事をして、部屋のソファーで反省文を書いている。指先がまだ少し痛くて、長時間ペンを持つのが嫌なのだ。そのせいでいつもなら一日程度で書き上がるものが事件後二週間経ってもまだ終わっていない。
 進まない理由はそればかりではなく、事件の中心に居ながら監禁されていた為にほぼ何も覚えていないというのもあるが。
 とりあえず過去の自分の行いを中心に反省している。

 事件後、方々から心配とお叱りを受けた。それは両親も同じだったが、母が拳骨を落とす前に泣き崩れたのは一番こたえた。気丈な母の涙はそれほど強いものだった。
 兄達は子供みたいに泣いて縋って謝り倒してきて、少し痛かった。
 父は相変わらず静かにゼロスを見て、一言「身に染みたか?」と言われた。本当に敵わない。
 ファウストから「謹慎だが、冠婚葬祭は例外とする」と言われた事を伝え、兄の結婚式は出来れば参加したいことを伝えると許された。そしてクラウルもと言ってくれた。
 クラウルにこれを伝えると、嬉しそうな顔で頷いてくれた。

 こんな事をぼんやりと思いだしていると、不意にドアが開いて部屋の主が戻ってくる。キッチリと制服を着た人は、部屋に入ると途端に瞳を緩めて甘く微笑む。

「起きてたのか」
「そういつまでも寝たきりではいられない。エリオット様にも筋力落とさないように歩くように言われているからな」

 側にある松葉杖を一応持って近づいていく。踵にクッションを入れてあるから、もう短い距離なら杖無しでも歩けるのだが、いかんせんこの人は心配大魔王だ。杖無しだと心配する。

「痛くないか?」
「もう痛くないって言ってるだろ? 太い骨が折れたんじゃないから平気だ」

 近づいていくゼロスを迎えに行くように足早に近づいて来た人が、腰に手を添える。そして一日の疲れを癒やすように頬にキスをするのだ。

 そのままゼロスはソファーに戻され、クラウルは部屋着に着替える。背中にはまだ新しい傷が残っている。

「気になるか?」
「え?」
「傷」
「あ……」

 気にならないと言えば嘘になる。だが、そんなに不躾に見ていただろうかと視線を伏せると、今度は笑われてしまった。

「悪い意味じゃないから気にするな」
「……残るんだなと思ったんだ」

 ぽつりと伝える声は、思ったよりも沈んでいた。着替えを終えたクラウルが近づいて、気遣わしげに触れてくるくらいにはまだ、気にしていたのかもしれない。

「刃物の傷はどうしてもな。特に深いから」
「クラウルの体にはあまり、こういう傷跡がないから余計に目立つと思って」
「だいぶ古いのはまだ薄らあるが、暗府となってからは減ったからな」

 そう言われると、あるのかもしれない。ファウストのように目立たないというだけなんだろう。

「お前のは残らなくてよかった」
「え?」

 不意に掛けられた言葉に顔を上げると、クラウルはとても優しく甘い表情をして見つめる。それだけで僅かに落ち着かない気持ちになるのは、少し恥ずかしかった。

「お前には傷跡なんて残して欲しくないからな。肩の傷も目立たなくなってきた。このまま消えてくれるといいんだが」
「気にしていたのか」
「しないわけがないだろ?」

 今は服を着て見えないだろう肩の傷に優しく触れる指先に、ドキリとしてしまう。案じてくれているのに不埒な事を考えてしまうのは、なんだか申し訳ないものだ。

「じゃあ、体を拭こう」

 穏やかに言われるが、これにいつもゼロスは抵抗気味だ。
 それというのも足の固定具がまだ外れない為、風呂には入れない。体を拭いて綺麗にはしているが、爪が生えそろっていないので温度差に敏感で痛む。お湯は染みるし、絞るのに力を入れても上手く力が入らない。
 見かねたクラウルが毎日拭いてくれる。

「いや、タオルを絞ってくれたら自分で」
「俺がやりたいんだ。ダメか?」
「ダメ……じゃ……」

 むしろ嬉しくはあるが、正直もうしんどい。
 丁寧に服を脱がされ、湯に浸したタオルが心地よく肌を滑る。座ったまま背中に触れるその動きを、どうしても追ってしまう。仕方がないだろう、二週間もお預けだ。

「っ!」

 指先が掠めるように背骨の上を伝う。その微かさが余計に切ない気持ちにする。
 なのに、唇が背中からチュッと肩口の傷に触れた。

「んぅ!」

 肩に触れる髪や、触れている肌からクラウルの匂いがする。傷にキスをされて、舌が触れる。それだけでゾクゾクと背が疼いて、体の熱が上がってしまう。

「流石に二週間も抜いてないと、敏感だな」

 手が後ろから胸元へと伸びて乳首を挟み転がす。ゾクゾクと腹の底が疼いていく。耐えがたい快楽に、ゼロスは涙目になって熱い息を吐いた。

「少し、さっぱりするか」
「あっ、やっ……はぁ!」

 この『さっぱり』が体を拭くという意味ばかりじゃないのは分かる。前に回ったクラウルは湯に浸したタオルで体を拭いてくれる。だが、拭いたそこから唇が撫でるから、ゾクゾクしてたまらない。

「もっ、いや、だぁ」
「挿れないから心配するな」

 それが嫌なんだ。
 気遣いとか、そういうので体を許すのは嫌だ。この人を相手に手加減とか、慰めはいらない。全部、愛情を確かめるものでありたい。だからギブアンドテイクがいいんだ。
 それに、我慢しているのはゼロスばかりじゃない。クラウルだって同じく二週間していない。でも、したいと思っているのは分かっている。触れてくる指先が、おやすみのキスが、欲しい欲しいと訴えているようなんだ。

 手が体を滑り、やがて下肢に到達する。ごく当然のように口でしようとするクラウルを、ゼロスは止めた。

「ゼロス?」
「もっ、欲しい。俺の事を心配しての禁欲なんて止めてくれ。俺は、アンタが欲しい」
「だが」

 困った顔をするクラウルの頬に触れて、キスをする。そして手を伸ばして、クラウルの前に触れた。
 触れて興奮していたのはこの人もだ。服の上からだってはっきりと分かるくらい硬くなっている。手の平でそこを指摘するように押し込むと、クラウルの唇から耐えきれない熱い息が漏れた。

「ゼロス……」
「ははっ、勃ってる」

 嬉しい。笑って、もう少しグリグリと刺激すると鋭い黒い瞳が忌々しそうに睨み付けてくる。まだギリギリ理性がありそうだ。

「オイタが過ぎるぞ」
「したいって、言っただろ? やせ我慢の分後で纏めては辛い。俺が死ぬ」
「痛むだろ」
「もう二週間も経ってる。足だけ気を付ければ大丈夫だ」

 何よりゼロスが限界だ。もうずっと側にいてもクラウル不足だ。気持ちは監禁されていた時に感じた痛いくらいの切なさや愛しさに悲鳴を上げているんだ。

「アンタなら、上手くしてくれるだろ?」

 ずるい言い方をしている自覚は重々ある。だが、本当に欲しいのだ。

 クラウルの黒い瞳が飢えたように見据え、暫くして動いた。軽々とゼロスを抱き上げるとそのままベッドへと丁寧に寝かせ、逃がさないと言わんばかりに上に陣取る。
 互いに濡れたような瞳のまま、貪るようにキスをする。久しぶりの疼くキスに腰が痺れていく。指先まで痺れて痛む様なキスだ。

「ゼロス……」
「んっ、ふぅ……」

 角度を何語も変えて口腔に舌を受け入れ、与えてくれる快楽を貪る。
 腰が自然と揺れて、クラウルの昂ぶりと擦れる。熱く硬くなっているそれが擦れるだけでも気持ちがよくて、ゾクゾクする。

 思わず手を伸ばし、クラウルのローブの紐を解いた。そして現れた昂ぶりを、自分のモノと一緒に握り込んで擦った。

「あっ! はぁ!」
「っ! ゼロス!」

 気遣わしい声に、何を考えているかが透けてみえる。手の事を気にしているんだろう。
 確かに痛い。痛いけれど、それ以上に気持ちがいい。馬鹿になったみたいに先端から透明な液がねちっこい音をさせて溢れてくる。止めろと言われても止められない。

「気持ち、いいだろ? 俺も、気持ちいい」
「っ!」
「アンタも、一度抜けばいいだろ? ガチガチだ」

 傷ついていたって感じられる。痛そうなくらいガチガチに勃起したもの。ゼロスはその先端を指先で擦った。穿るように刺激するとトロトロと先走りが溢れてくる。
 その手に、クラウルの手が重なる。そうして二人で手を重ねたまま思うままに刺激するのは、頭の中が蕩けるくらいに気持ちよかった。

「あっ、クラウル……はぁ、あぁ、っっ!」
「ゼロス……」

 ビクビクと感じながら交わすキスは甘く浸透していく。満たされていくのを感じる。自然と追い上げるように動く手は止まらず、そのままほぼ同時に達した。
 余韻の長い絶頂で、ゼロスの腹の上に二人分の精液が散る。互いにとても濃い。それだけ我慢していたんだ。

 そうして放たれたものを、クラウルは指ですくい取り後孔へと塗り込む。二週間以上空いていたから硬くなっているかと思ったが、ゼロスのそこはすんなりとクラウルを受け入れていく。

「くぅ、あっ……はぁ……」

 日を置いたからか、気持ちいい。指一本が中を掻き回しているのを感じて、その指先が浅い部分を掠めるのを感じて、腹の中がきゅぅぅっと締まるのを感じる。

「気持ちいいか?」

 柔らかな声音に頷くと、「そうか」と嬉しそうに返ってくる。
 指が二本に増えて、中をくぱぁと開いても抵抗はあまりない。一瞬ヒヤリと空気に触れる感覚。だが捻るように解されてすぐに熱くなる。
 ビクビクと体が震える。ビリッと響くような快楽に声が出る。出したばかりなのに当然のように硬く天を向き先走りを溢すゼロスのモノ。そこから溢れたモノを指ですくい奥へとクラウルは塗り込んでいく。

 しっかりと解してグズグズにされたそこにクラウルの昂ぶりが宛がわれる。ゼロスと同じく硬く熱くなっている。右足を肩に担ぐようにしたクラウルが、ゆっくりと自らを進めた。

「うっ、あぁ……あぁぁぁ!」

 存在を知らしめるように、もしくは体の負担を少しでも減らすように、ゆっくりと入ってくる昂ぶりの熱さを体で感じる。狭い部分をしっかりと広げながら穿たれるのは苦しいが、擦りつけるようにされるのは気持ちがいい。張りつめた亀頭が気持ちいい部分を容赦なく擦りつける。

 それだけで腹の中が締まって、それが余計に刺激になってパチパチと目の前で星が飛んだ。どうにも我慢出来ず絞り上げるようになって、ゼロスはクラウルに抱きついた。

「イッたか?」

 掠れた声が少し苦しそうに問いかける。しがみついたまま頷いたゼロスの体は汚れていない。中だけで、しかもまだ全てを受け入れていないのに達していた。
 中で大きくなって苦しげなのに、クラウルは一度挿入を止めた。中で締めつけているから、どこまで入っているかも、硬さや形さえも分かる気がする。いつもならこの状態でも止めないのに、今日はとてもゆっくり、優しく抱いてくれる。

「クラウル……」
「少し緩まったな。いいか?」
「い、い」

 またズズズッと中を擦りながら入ってくる。ゾクゾクっとした快楽が止まらない。自分でも中でイッている自覚があるくらい、気持ちよくて頭の中が白くなっていく。

「凄い、な……食われそうだ」
「あっ、イッ……る! ふぅ、くぁぁ」

 ゴツッと最奥へと硬い先端が触れた。ヒュッと喉がなる。張りつめたゼロスの昂ぶりから瞬間的に白濁が溢れてポタポタと散る。
 それでもクラウルは止めずに、ゆっくり穏やかに内壁を擦り上げて刺激する。先端が最奥を突く度に、ゼロスは先端から白濁を吐き出し、キュウキュウに中を締め上げながらイッた。

「おかし、なるっ……あっ、とまらな……っ!」

 ゴリッゴリッと臍の裏側までも達していそうな刺激が響いて止まらない。疼いてたまらない部分にもう少しで触れてしまいそうだ。
 でもそれは同時に、抜けてはいけない部分が抜けるんじゃないだろうか。本能で怖いと感じて、ゼロスはクラウルにしがみついたままイヤイヤと首を横に振った。

「イッ……こわ、いぃ! あっ、突くなぁ!」
「欲しそうに口を開けているのはお前だ、ゼロス」
「いや、だ……っ!! あっ、だめ……あっ、くあぁぁぁ!」

 腰を押さえられ、何度も激しく深く突き上げられる。先端が奥深くへと僅かに触れる度、ガクガクと震えて気持ちよさに声を上げた。そして最も深く打ち当てられた瞬間、緩くなっていた最奥を硬く熱い切っ先が抜けるのが分かった。

 体の全部が言う事をきかず、ガクガクしならが達するのは意味が分からない。真っ白になって全身痙攣させながら達するのは怖いが、同時に中毒的な気持ちよさがある。容易くは触れられない部分にクラウルの精を受け入れて、焼けるようなのも気持ちいい。

 ただ映しているだけの瞳に、クラウルの耐えるような表情が映る。とてもセクシーだ。眉根が切なげに寄って、黒い瞳が濡れて、肌はしっとりと濡れている。この顔を見るだけで、また腹の中が疼いて締めつけてしまう。

 抜け落ちる時まで気持ちよくて、ヒクヒクと痙攣する。だらしなく投げ出したまま動けない体を、クラウルが申し訳なさそうに拭いてくれた。

「なんて顔してるんだ、アンタは」
「……無理をさせてしまった。お前を前にするとどうしても我慢がきかない」

 しょぼくれた顔をするクラウルを、ゼロスは笑う。そうして軋むような体を起こして、クラウルの頬に触れた。

「俺はそんなに気持ちいいか?」

 笑って問いかけると、驚いた顔のクラウルが見上げてくる。それもまた面白い。

「困ってしまうくらい、気持ちいい」
「百戦錬磨の暗府団長が?」
「仕事と一緒にするな。まったく違う。愛しい者と体を重ねているんだ、比べようもないだろ。だからダメだと思っているのに、無理をさせてしまうんだ」

 しょんぼりさせてしまうが、嬉しい。正直、この人の過去の相手に多少思う所もあった。きっと自分よりも上手い相手は五万といただろう。手慣れた相手も五万といただろうと。
 だがこう言われると、素直に嬉しい。この人が溺れてくれているのが、心地よい。

 首に腕を絡めて、キスをする。甘えるキスに、クラウルはポカンとしている。

「時々なら、暴走してもいい」
「え?」
「時々、だぞ。毎回無理されると流石に俺の体がボロボロになる。だから……月に二、三回ならこんな風に抱かれても、構わない……かも」

 言いながら少しずつ恥ずかしくなってきて、尻すぼみになっていく。だがクラウルは見る間に目を見開いて輝かせ、嬉しそうにキスをしてきた。

「言質は取ったぞ」
「うっ……ミスったか?」
「なかったことにはしない」
「かもだからな! かも!」

 気持ちよくて満たされて、とんでもない事を言ってしまったかもしれない。
 少し怖いが、不思議と後悔はない。
 なぜならそれほど深く愛されているんだと、実感もできるから。
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過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

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