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14章:春色アラカルト
2話:職業病もほどほどに(オリヴァー)
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新しいカードが配られ、同じ数字のカードが場に捨てられる。そう、彼等がやっているのは高等なゲームではなく、単純な『ババ抜き』である。
「そういえばさ、リュークス先輩とラウルどうしたの?」
カーティスがカードを捨てながら何気なく聞く。それに、ネイサンがのんびりと答えた。
「イーデンの追試に付き合ってるよ」
「縄抜け?」
「どーしても上手くできないんだよね、彼」
のんびり言いながらも、ネイサンはどこかうんざり顔だった。
イーデンというのは暗府の中では新しい方の隊員だが、今年で四年目。ランバート達と同期になる。
癖のある黒髪が耳の後ろでひょこひょこ跳ねる、猫目で可愛い青年だ。
「縄抜けの試験があるのですか?」
オリヴァーはカードを捨てながら問う。それぞれが準備完了で、静かにゲームが開始された。
「ありますよ、試験。特に縄抜けは危機回避でも絶対のスキルなんで」
「イーデンはカーティスと同じ女役で、他のスキルは合格点なんだけれどねぇ」
「縛られたら一発アウト! 逃げる事も出来ずに殺されるか、いいようにされてしまうか。暗府がこれじゃだ~め」
暗府は独特な基準と技術と試験があると聞いているが、縄抜けか。
「そろそろイーデンには一人で仕事に就いてもらいたいんだがな」
クラウルがオリヴァーの前にカードを差し出す。何気なくカードを引いた途端、ゲームの負けを悟った。見事にジョーカーを引いてしまったが、これでもクラウルの表情が変わる事はない。
それにしてもこのトランプ、随分と材質が硬い気がする。妙にしなる。
「そうなんだよねー。今は俺がついてるけれどさ、今はあんまり危ない任務行かせられないんだよねー。その分がラウルとかにいくでしょ? シウス様が怖いんだよね!!」
カーティスが引いたカードを突然ドアへと向かい滑るように投げる。それはクラウルとネイサンの間を滑空するように飛び、丁度開いたドアのすぐ横の壁に突き刺さった。
「ぬぁあ! おいおいハニー、こりゃご挨拶じゃないか?」
「ここに入る時には足音させるかノックが厳守だよ、ダーリン。ナイフじゃなくてよかったね」
ニヤリと笑うカーティスは多分分かって投げたんじゃないだろうか。そしてリュークスは気にしていない。刺さったカードを引っこ抜いて場に置いた。
「あぁ、定例のゲームの日か。でっ、なんで暗府じゃないオリヴァー様がいるんすか?」
「ふふっ、お邪魔してます」
穏やかに笑うオリヴァーに、リュークスに続いて入ってきたラウルと、もう一人の青年も首を傾げた。
「お疲れ様ですオリヴァー様。どうしてこちらへ?」
「春の危険植物一掃作戦についての協力と、掃除後の植物の処分法について話し合いにきたのですが、丁度人数がもう一人欲しいということでお邪魔しています」
そう、ここに来たのは一応仕事の為なのだ。
以前、訓練用の森で危険なキノコが群生していた事があった。あの一件以来、春に一度危険な植物がないかどうか、第四と暗府で駆除する事になったのだ。
ただそうした植物は一部の人間には使い道がある。特に暗府だ。なので、取り除いた後の植物の処分をどうするかを話し合うようにしている。
「お時間大丈夫なんですか?」
「今日はこのまま上がる予定だったので大丈夫ですよ」
心配そうなラウルににっこりと微笑むオリヴァーは、どちらかといえば手持ちのカードが大丈夫ではない。敗色濃厚だ。
「ラウル、リュークス、試験の結果は?」
クラウルが問うのに、猫目の青年がビクリと怯える。上目遣いだが、これだけで何も言わなくても分かるものだ。
「はぁ……。イーデン」
「ごめんなさいボス! でも……痛くてぬけないんです」
涙目の青年は暗府には珍しく素直そうだ。ただ、暗府というのは恐ろしい。表情と内面が一致していない奴がゴロゴロいる。
「ダメか?」
「ダメです」
ラウルが困った顔をする。これは本格的にダメなのだろう。
「俺もラウルもコツを教えてるんだがな。どーにも一線越えらんねーのよ」
「ごめんなさい……」
シュンとしたイーデンをどうしたものか。それぞれゲームの手を止めて考えていたが、ふとラウルが何かを思い立ったのか、イーデンの手を取り、一瞬何かをした。
途端、イーデンの掴まれた方の手首から先がだらんと垂れて一切動かなくなった。
「え?」
「この感覚だから、覚えておいて」
「……えぇ……」
まるで信じられないものを見る様な目でイーデンは自分の手首を見る。間違いなくプランプランしている。
「ちょっ、ラウル! それ亜脱臼してる!」
「あっ、はい。知ってます。今はめます」
何でもない顔をして再びイーデンの手を持ったラウルは、もの凄く簡単にはめた。当人は痛くないのか、感触を確かめるようにグーパーしている。
「凄い! 痛くなかった!」
「上手にはめたり外したりが出来ると、痛くないんだよ」
「凄いっす!」
……感心するところ、そこなんだ。
相変わらず暗府の感覚はズレている気がする。
「うわぁ、ラウル相変わらず怖いわ。普通さ、外す?」
「親切心なんだけれどね」
「ラウルは可愛い印象があるのですが」
「可愛い!!」
オリヴァーの何気ない言葉に、カーティスはブンブンと首を横に振る。
「可愛いのは旦那の前と見た目だけ! 暗府でラウルが可愛いなんて思ってる奴いないよ」
「そうなんですか?」
「一番容赦がなくて、暗器の扱いに慣れているからね。枕なしで仕事を片付けるなんて暗府でも一部しかいないかな。あと、思い切りがいい」
さっきの出来事を「思い切りがいい」で片付けてしまっていいものか。
思うが、当のイーデンがまったく気にしていないようなのでいいのだろう。
そうこうしている間にゲームはオリヴァーの負けで終わってしまった。
「さて、オリヴァー様。罰ゲームですけれど」
カーティスが期待した顔でオリヴァーを見る。そうなると期待には応えなければならないような気がして、オリヴァーは考えて頷いた。
◇◆◇
当時は入団数年目。実家での扱いや暗い気持ち、そして自暴自棄な考えから、オリヴァーは自分を売るような事を繰り返していた。
「淫売」とか「淫魔」という言葉を浴びせ続けられていたからか、ならばそうなってやろうと思っていた。
結果、騎士団の人間をまるで挨拶のように誘い込み、持って生まれた美貌を武器に寝まくっていた。
これは、そんな時に受けた奇妙な賭けのお話。
騎士団が新体制となって一年目、オリヴァーは奇妙な取引を持ち込まれた。それは、新体制となって情報取得に特殊な技術が必要そうだ。その技術向上の為、協力をして欲しいとの事だった。
その人に興味があったから引き受けた。誘っても受けてはくれないだろうと思っていたから、むしろ願ったり叶ったりだった。
持ちかけられた報酬は好きな店のケーキ。甘い物がとにかく好きなオリヴァーとしては何より嬉しいものだった。
だが、簡単に報酬を手に入れては張り合いがない。なので、一つ賭けをしてそれにオリヴァーが勝った時は報酬を手に入れるという事にした。
賭けはただ一つ。お相手クラウルが出した問いにオリヴァーが答えるか否か。
快楽に勝ち抜いて一時間耐えればオリヴァーの勝ち。
逆に快楽に負けてクラウルの問いに答えてしまったらオリヴァーの負けだった。
既にグズグズに解された後孔に侵入した指が、とても優しく焦らすように前立腺を刺激する。ゾワゾワとした気持ちよさは、だが決定的な快楽にはならない。とろ火で炙られてよがるばかりで、オリヴァーは熱い息を吐きながらギュッとシーツを握った。
「頑張るな、オリヴァー。ここ、好きだろ?」
「はぁ、あっ、ぁあぁぁ」
円を描くようにクリクリと撫でられる指の絶妙な力具合。優しすぎるくらい優しい動きに甘い痺れが止まらない。そんなに優しくされたらおかしくなりそう。
「もっ、ほしぃ……クラウル様、強く欲しい」
こんな浅い部分だけじゃなくて、もっと深く欲しい。奥の奥に熱を感じたい。熱く硬いもので探るように奥を突かれたら、腰は痺れて頭の中は真っ白になる。この瞬間の心地よさは癖になる。
「オリヴァー、この一週間で何人と寝た?」
「っ!」
これが今日の質問。微妙に言いにくい事にしている。これはあくまでハニートラップの実験。夜に慣れたオリヴァーのような人間が、どのようにすれば秘密を口にするのか。それを試すための実戦訓練なのだ。
今日おねだりしたのは高くて美味しいチョコレートケーキ専門店の新作。朝一で並んでも一時間で売り切れる代物だ。
買えない事はない。だが、これを買うと結構給料を削る。何より他人のお金で食べるケーキは絶品だ。
快楽に身を任せてしまいたい自分を質問が引き戻す。これはわざと。ギリギリまで悩ませ、葛藤させてから陥落させる。これは言い換えれば「簡単に落ちるな」と言われているのと同じだ。
指の腹が一定のリズムで前立腺を刺激し、唇が尖って赤くなった乳首を口に含む。少し強く乳首を吸われ、軽く歯を立てられた瞬間、ゾクゾクッとした決定的な快楽が腰を重くした。
「んぅぅ!」
「おっと」
あと本当に一押し。指があと一度快楽の源に触れてくれればきっと達する事ができた。けれど無情にも指は抜け落ち、唇は乳首から離れてしまう。体の中で燻る快楽は頭も心も蝕んでいくばかりで、オリヴァーの目からは涙が落ちた。
「も……触ってください。お願い、意地悪しないで……」
息を吐きながら懇願するオリヴァーは、もうどうにもできなかった。
それでもクラウルは暫く触ってくれない。トロトロと溢れ出る先走りが落ち着いて、苦しい息が整うまではただ見ている。その視線にさえ、犯されている気分で落ち着かない。
息が整ったら脳みそに酸素も血も行き渡ってまた冷静になる。残り時間は二〇分程度。頑張ればケーキもつくし、ご褒美にイカせてもらえる。
分かっているのか、クラウルの唇が耳朶の辺りを甘噛みする。くすぐったくて微かな気持ちよさと、鼻先を掠める体臭が冷静になったはずの気持ちに火をつける。
「んっ、ふっ」
「冷めたんじゃないのか?」
「はぁ……ぁ」
冷めたんだ。なのに些細な事で体が反応する。腹の奥が切ない。考えただけで何も入っていない後孔が切なくヒクヒクと動く。想像だけで腹の中がキュッと締まる。また、トロトロと先走りが溢れる。
そもそも、なんで我慢しているんだ。知っているだろ? この人は最高の快楽をくれる。
かつての上官みたいな中年太りではない、引き締まって羨ましいくらいの肉体美。
自分勝手な欲望ばかりを押しつけるんじゃない、優しく甘い刺激。
ここに愛情なんて互いに一欠片も存在していないのに、この時だけは何かを錯覚させられる。
「オリヴァー、どうして欲しい? 何が欲しい?」
「ぁ……中、触って……」
指が二本、欲しそうに口を開ける後孔へと触れる。皺の一つ一つを伸ばすように動く指が焦れったくて、口が開く。それを確かめてからゆっくりと、指が肉襞に触れる。
「ふぁ、あぁ……はぁぁぁん」
ブルブルッと震えて快楽に力が抜ける。指がまた、緩慢な動きで前立腺をなぞる。腰から痺れて溶けてしまいそう。溶けても後悔がない。極上の甘さに溺れたまま全てが消えてしまうなら、それも一つの幸せだと思える。
「オリヴァー、気持ちいいか?」
「あっ、気持ち、いぃ」
耳元に囁きかけられる甘く低い声。その声だけでもゾクゾクと背が震える。過剰反応している体が理性を侵食していく。
「オリヴァー、今週はどれだけ遊んだ?」
笑いを含む声が直接耳元に吹き込まれ、脳まで冒されたようにゾクゾクする。
一瞬、躊躇いはあった。だが、思いとどまれるほどの理性は残っていなかった。
第一、ケーキは自分で買える。けれどこの人が与えてくれる快楽は今を逃せばもらえない。ならば何を躊躇うんだ。今しか、この人しか与えられないものを求めるのが当然だろう。
後五分我慢をすればケーキも快楽も得られる。そんな事、この時のオリヴァーからは消し飛んでいた。
「四、人……四人、です」
喘ぐように答えたオリヴァーは、それだけで力が抜けた。大した事のない秘密でも言ってはいけないと意識している事を口にしてしまうと諦めがつくし肩の荷が下りる。
クラウルはふわりと柔らかく笑う。そしていい子を褒めるように前髪を撫でた。
「いい子だ、オリヴァー。何が欲しい?」
「貴方の、が、ほしぃ。その硬くて熱い昂ぶりで奥を突いてください」
指が抜ける、その感触すらも感じ取れる。そこにクラウルが熱い昂ぶりを押し当て、ゆっくりと存在を知らしめるように押し入ってくる。
「あ……あぁ……あぁぁぁぁ!」
ズルズルと肉壁をしっかり擦りながら押し入られて腰が痺れて蕩ける。頭の中まで痺れてくる。その切っ先が最奥を突き、同時にグリグリと抉られた瞬間に頭の中が真っ白に飛んで全身が痙攣した。
腰が跳ねて、我慢に我慢を重ねてイカせてもらえなかったオリヴァーはようやく白濁を吐き出した。腹の上に濃いものが飛び散るが、それが終わっても止まらない。全身が悦んでいる。
涙目でクラウルを見上げる。その時の顔を見て、後悔もする。見下ろす瞳の鋭さと笑み。それは落とした獲物を見る目だ。圧倒的な支配者の目だ。
そしてこの行為は愛情などなにもなく、自分は戦利品でしかないんだと思えてくる。
「あっ、あぁ……あぁぁ!」
別のこの人の事が好きなんじゃない。ないけれど、抱き合っている今くらいはもっと甘い顔をしてほしかった。この人はとても残酷な人。落とすまではあんなに甘い恋人のような顔をして、落としてしまったら戦利品に成り下がるのだ。
それでも気持ちいいのは止まらない。ズルズルと内壁を擦る熱い昂ぶりはオリヴァーをよく知っている。どうされるのが気持ちいいのか知り尽くしている。
「オリヴァー、今どこまで俺のが入っているか、分かるか?」
「わか、るっ」
自分の薄い腹の、臍の辺りを撫でる。外側から圧迫されて摩擦が増えた気がして余計に気持ちよくてたまらなくなる。
手を離した。だが今度はクラウルが存在を知らしめるように腹筋を撫で回しながら腰を入れる。圧迫も重なって狭い部分を擦りあげられてまた軽く飛んだ。
「あっ! あぁ! いや……いやぁ!」
「お前が寝た奴は、何か気になる事を言っていたか?」
パンッと腰を深く押し入れられて「かはっ」と声が漏れた。苦しい、でも気持ちいい。
「あっ、団長達、のっ、あぁぁ! 年下のくせに生意気だってぇ!!」
「ほぉ」
「昔は私みたいなのを自由に手込めにしたのに、今はできないと! はぁぁ! もっ、お腹壊れるぅ!」
思考を全て奪われたように考えが纏まらない。浅い所、最奥をランダムに、しかも緩慢だったり性急だったりとバラバラに動かれたらもうイクしかない。
「もっ、イク! イクぅ! イキたい、クラウル様ぁ!」
奥を捏ねくり回すように突き上げられて、オリヴァーは達した。足先まで力が入って突っ張る。頭の中はパチパチと幾つもの星が散っている。
オリヴァーが達した瞬間、クラウルは自らを抜き去り自分の手で軽く扱いてオリヴァーの腹の上に出してしまう。この人とは何度もこうして抱き合っているが、一度だって中に出された事がない。
それがまた、少し寂しい。
「大丈夫か?」
「……中に出して頂いても、いいのですが」
「後が大変だろ。体調を崩したら事だ」
それでも少しくらいは平気なのに。そもそもこれまでの相手の大半が平気で中出ししている。
用件は済んだと言わんばかりに離れていくクラウルの背中。水差しから水を注いでオリヴァーに渡してくれる優しさはあるのに、事後に抱きしめてくれる事はない。
「……ケーキ、惜しいことをしました」
後五分ほど頑張れば両方手に入ったのに。
しょんぼりと項垂れると、その目の前に小さな箱が出される。黒い箱に金の文字で書かれた店のロゴ。それを見た途端、オリヴァーの目は輝いた。
「これ! トリュフ専門店のトリュフセット!」
「普段から世話になっているからな」
これ、食べたいと言ったケーキよりも高いんだが。
箱を開けると美味しそうなチョコが四つ。全部味が違うし、形も可愛い。一つを口に放り込むと、小さな事など水に流せる幸福が広がった。
「今回話を聞きたい相手は、どうやら優しくされるとお喋りになるらしい。貴族内での不審な動きの中にいる人物だ、喋らせたい」
「心配せずとも、あのようにされて喋らない者はいませんよ。天国に見せて地獄を見ますからね、クラウル様のは」
力加減、触れ加減、舌技。全部が本当に絶妙なんだ。駆け引きのギリギリを知っているからあとほんの少しを攻められて辛い。
それにしても寂しいのは、クラウルは情事の時でも一切キスをしないし、中には出さない。時には自分は一切脱ぎもせずにオリヴァーだけをひたすらイカせるときもある。
「……貴方の恋人になる人は、苦労するのでしょうね」
「ん?」
不意に出た言葉に、クラウルは視線を向ける。どこか驚いた顔で。
「こんなテクを持った恋人、余しますよ。それにストイックで。仕事人間でセックスレスになって別れるんじゃありませんか?」
「恋人など持つ気はないからいい」
軽く溜息をつくクラウルを見ながら、オリヴァーは思う。
いつの日かこの人に恋人ができたならどんな風になるのか。それを楽しみにしておこうと。
◇◆◇
「――ということがありましてね。あの時は恋人など作らないと言った方が、今では年下の恋人に振り回されて、あろう事か説教されているだなんて。しかもあんなに淡泊だったのに、恋人には怒られるくらい激しいなんて」
人は変われば変わるものと言うが、あの当時を知っているオリヴァーとしては別人くらいの変化だ。
「うわぁ……ボス最低。嫁ちゃん可哀想だね~」
「仕事バカは知ってたけれどね。ゼロス、この事知ってるのかな?」
「どうして俺は負けていないのに罰ゲーム食らっているんだ」
ゲームに参加している人ばかりか、不参加の三人までクラウルを見る目が冷たい。その中でクラウルは大ダメージを食らっている。
「まぁ、いいではありませんか。当時はまだゼロスは入団もしていませんし、私も旦那様と知り合ってもいませんでした。勿論今は旦那様一筋ですよ」
「まぁ、時効っちゃ時効か」
リュークスは溜息交じりに言い、ラウルは苦笑する。
オリヴァーも今だから言える事だ。今は愛しいアレックス以外とはしていない。それに結婚前にちゃんと話したのだ。そうしたら彼は「知り合うよりも前の君を問いただす事はしない。俺も遊んだ。だがこれからは俺だけにして欲しい」と言われた。
勿論、アレックス以上に心身共に満たされる相手はいないので、浮気なんて考えていないしその必要はない。
クラウルはまだ少しオリヴァーに言いたい事がありそうだったが、オリヴァーは笑顔で受け流す。
あの時の意趣返しが思わぬ所で出来たオリヴァーであった。
「そういえばさ、リュークス先輩とラウルどうしたの?」
カーティスがカードを捨てながら何気なく聞く。それに、ネイサンがのんびりと答えた。
「イーデンの追試に付き合ってるよ」
「縄抜け?」
「どーしても上手くできないんだよね、彼」
のんびり言いながらも、ネイサンはどこかうんざり顔だった。
イーデンというのは暗府の中では新しい方の隊員だが、今年で四年目。ランバート達と同期になる。
癖のある黒髪が耳の後ろでひょこひょこ跳ねる、猫目で可愛い青年だ。
「縄抜けの試験があるのですか?」
オリヴァーはカードを捨てながら問う。それぞれが準備完了で、静かにゲームが開始された。
「ありますよ、試験。特に縄抜けは危機回避でも絶対のスキルなんで」
「イーデンはカーティスと同じ女役で、他のスキルは合格点なんだけれどねぇ」
「縛られたら一発アウト! 逃げる事も出来ずに殺されるか、いいようにされてしまうか。暗府がこれじゃだ~め」
暗府は独特な基準と技術と試験があると聞いているが、縄抜けか。
「そろそろイーデンには一人で仕事に就いてもらいたいんだがな」
クラウルがオリヴァーの前にカードを差し出す。何気なくカードを引いた途端、ゲームの負けを悟った。見事にジョーカーを引いてしまったが、これでもクラウルの表情が変わる事はない。
それにしてもこのトランプ、随分と材質が硬い気がする。妙にしなる。
「そうなんだよねー。今は俺がついてるけれどさ、今はあんまり危ない任務行かせられないんだよねー。その分がラウルとかにいくでしょ? シウス様が怖いんだよね!!」
カーティスが引いたカードを突然ドアへと向かい滑るように投げる。それはクラウルとネイサンの間を滑空するように飛び、丁度開いたドアのすぐ横の壁に突き刺さった。
「ぬぁあ! おいおいハニー、こりゃご挨拶じゃないか?」
「ここに入る時には足音させるかノックが厳守だよ、ダーリン。ナイフじゃなくてよかったね」
ニヤリと笑うカーティスは多分分かって投げたんじゃないだろうか。そしてリュークスは気にしていない。刺さったカードを引っこ抜いて場に置いた。
「あぁ、定例のゲームの日か。でっ、なんで暗府じゃないオリヴァー様がいるんすか?」
「ふふっ、お邪魔してます」
穏やかに笑うオリヴァーに、リュークスに続いて入ってきたラウルと、もう一人の青年も首を傾げた。
「お疲れ様ですオリヴァー様。どうしてこちらへ?」
「春の危険植物一掃作戦についての協力と、掃除後の植物の処分法について話し合いにきたのですが、丁度人数がもう一人欲しいということでお邪魔しています」
そう、ここに来たのは一応仕事の為なのだ。
以前、訓練用の森で危険なキノコが群生していた事があった。あの一件以来、春に一度危険な植物がないかどうか、第四と暗府で駆除する事になったのだ。
ただそうした植物は一部の人間には使い道がある。特に暗府だ。なので、取り除いた後の植物の処分をどうするかを話し合うようにしている。
「お時間大丈夫なんですか?」
「今日はこのまま上がる予定だったので大丈夫ですよ」
心配そうなラウルににっこりと微笑むオリヴァーは、どちらかといえば手持ちのカードが大丈夫ではない。敗色濃厚だ。
「ラウル、リュークス、試験の結果は?」
クラウルが問うのに、猫目の青年がビクリと怯える。上目遣いだが、これだけで何も言わなくても分かるものだ。
「はぁ……。イーデン」
「ごめんなさいボス! でも……痛くてぬけないんです」
涙目の青年は暗府には珍しく素直そうだ。ただ、暗府というのは恐ろしい。表情と内面が一致していない奴がゴロゴロいる。
「ダメか?」
「ダメです」
ラウルが困った顔をする。これは本格的にダメなのだろう。
「俺もラウルもコツを教えてるんだがな。どーにも一線越えらんねーのよ」
「ごめんなさい……」
シュンとしたイーデンをどうしたものか。それぞれゲームの手を止めて考えていたが、ふとラウルが何かを思い立ったのか、イーデンの手を取り、一瞬何かをした。
途端、イーデンの掴まれた方の手首から先がだらんと垂れて一切動かなくなった。
「え?」
「この感覚だから、覚えておいて」
「……えぇ……」
まるで信じられないものを見る様な目でイーデンは自分の手首を見る。間違いなくプランプランしている。
「ちょっ、ラウル! それ亜脱臼してる!」
「あっ、はい。知ってます。今はめます」
何でもない顔をして再びイーデンの手を持ったラウルは、もの凄く簡単にはめた。当人は痛くないのか、感触を確かめるようにグーパーしている。
「凄い! 痛くなかった!」
「上手にはめたり外したりが出来ると、痛くないんだよ」
「凄いっす!」
……感心するところ、そこなんだ。
相変わらず暗府の感覚はズレている気がする。
「うわぁ、ラウル相変わらず怖いわ。普通さ、外す?」
「親切心なんだけれどね」
「ラウルは可愛い印象があるのですが」
「可愛い!!」
オリヴァーの何気ない言葉に、カーティスはブンブンと首を横に振る。
「可愛いのは旦那の前と見た目だけ! 暗府でラウルが可愛いなんて思ってる奴いないよ」
「そうなんですか?」
「一番容赦がなくて、暗器の扱いに慣れているからね。枕なしで仕事を片付けるなんて暗府でも一部しかいないかな。あと、思い切りがいい」
さっきの出来事を「思い切りがいい」で片付けてしまっていいものか。
思うが、当のイーデンがまったく気にしていないようなのでいいのだろう。
そうこうしている間にゲームはオリヴァーの負けで終わってしまった。
「さて、オリヴァー様。罰ゲームですけれど」
カーティスが期待した顔でオリヴァーを見る。そうなると期待には応えなければならないような気がして、オリヴァーは考えて頷いた。
◇◆◇
当時は入団数年目。実家での扱いや暗い気持ち、そして自暴自棄な考えから、オリヴァーは自分を売るような事を繰り返していた。
「淫売」とか「淫魔」という言葉を浴びせ続けられていたからか、ならばそうなってやろうと思っていた。
結果、騎士団の人間をまるで挨拶のように誘い込み、持って生まれた美貌を武器に寝まくっていた。
これは、そんな時に受けた奇妙な賭けのお話。
騎士団が新体制となって一年目、オリヴァーは奇妙な取引を持ち込まれた。それは、新体制となって情報取得に特殊な技術が必要そうだ。その技術向上の為、協力をして欲しいとの事だった。
その人に興味があったから引き受けた。誘っても受けてはくれないだろうと思っていたから、むしろ願ったり叶ったりだった。
持ちかけられた報酬は好きな店のケーキ。甘い物がとにかく好きなオリヴァーとしては何より嬉しいものだった。
だが、簡単に報酬を手に入れては張り合いがない。なので、一つ賭けをしてそれにオリヴァーが勝った時は報酬を手に入れるという事にした。
賭けはただ一つ。お相手クラウルが出した問いにオリヴァーが答えるか否か。
快楽に勝ち抜いて一時間耐えればオリヴァーの勝ち。
逆に快楽に負けてクラウルの問いに答えてしまったらオリヴァーの負けだった。
既にグズグズに解された後孔に侵入した指が、とても優しく焦らすように前立腺を刺激する。ゾワゾワとした気持ちよさは、だが決定的な快楽にはならない。とろ火で炙られてよがるばかりで、オリヴァーは熱い息を吐きながらギュッとシーツを握った。
「頑張るな、オリヴァー。ここ、好きだろ?」
「はぁ、あっ、ぁあぁぁ」
円を描くようにクリクリと撫でられる指の絶妙な力具合。優しすぎるくらい優しい動きに甘い痺れが止まらない。そんなに優しくされたらおかしくなりそう。
「もっ、ほしぃ……クラウル様、強く欲しい」
こんな浅い部分だけじゃなくて、もっと深く欲しい。奥の奥に熱を感じたい。熱く硬いもので探るように奥を突かれたら、腰は痺れて頭の中は真っ白になる。この瞬間の心地よさは癖になる。
「オリヴァー、この一週間で何人と寝た?」
「っ!」
これが今日の質問。微妙に言いにくい事にしている。これはあくまでハニートラップの実験。夜に慣れたオリヴァーのような人間が、どのようにすれば秘密を口にするのか。それを試すための実戦訓練なのだ。
今日おねだりしたのは高くて美味しいチョコレートケーキ専門店の新作。朝一で並んでも一時間で売り切れる代物だ。
買えない事はない。だが、これを買うと結構給料を削る。何より他人のお金で食べるケーキは絶品だ。
快楽に身を任せてしまいたい自分を質問が引き戻す。これはわざと。ギリギリまで悩ませ、葛藤させてから陥落させる。これは言い換えれば「簡単に落ちるな」と言われているのと同じだ。
指の腹が一定のリズムで前立腺を刺激し、唇が尖って赤くなった乳首を口に含む。少し強く乳首を吸われ、軽く歯を立てられた瞬間、ゾクゾクッとした決定的な快楽が腰を重くした。
「んぅぅ!」
「おっと」
あと本当に一押し。指があと一度快楽の源に触れてくれればきっと達する事ができた。けれど無情にも指は抜け落ち、唇は乳首から離れてしまう。体の中で燻る快楽は頭も心も蝕んでいくばかりで、オリヴァーの目からは涙が落ちた。
「も……触ってください。お願い、意地悪しないで……」
息を吐きながら懇願するオリヴァーは、もうどうにもできなかった。
それでもクラウルは暫く触ってくれない。トロトロと溢れ出る先走りが落ち着いて、苦しい息が整うまではただ見ている。その視線にさえ、犯されている気分で落ち着かない。
息が整ったら脳みそに酸素も血も行き渡ってまた冷静になる。残り時間は二〇分程度。頑張ればケーキもつくし、ご褒美にイカせてもらえる。
分かっているのか、クラウルの唇が耳朶の辺りを甘噛みする。くすぐったくて微かな気持ちよさと、鼻先を掠める体臭が冷静になったはずの気持ちに火をつける。
「んっ、ふっ」
「冷めたんじゃないのか?」
「はぁ……ぁ」
冷めたんだ。なのに些細な事で体が反応する。腹の奥が切ない。考えただけで何も入っていない後孔が切なくヒクヒクと動く。想像だけで腹の中がキュッと締まる。また、トロトロと先走りが溢れる。
そもそも、なんで我慢しているんだ。知っているだろ? この人は最高の快楽をくれる。
かつての上官みたいな中年太りではない、引き締まって羨ましいくらいの肉体美。
自分勝手な欲望ばかりを押しつけるんじゃない、優しく甘い刺激。
ここに愛情なんて互いに一欠片も存在していないのに、この時だけは何かを錯覚させられる。
「オリヴァー、どうして欲しい? 何が欲しい?」
「ぁ……中、触って……」
指が二本、欲しそうに口を開ける後孔へと触れる。皺の一つ一つを伸ばすように動く指が焦れったくて、口が開く。それを確かめてからゆっくりと、指が肉襞に触れる。
「ふぁ、あぁ……はぁぁぁん」
ブルブルッと震えて快楽に力が抜ける。指がまた、緩慢な動きで前立腺をなぞる。腰から痺れて溶けてしまいそう。溶けても後悔がない。極上の甘さに溺れたまま全てが消えてしまうなら、それも一つの幸せだと思える。
「オリヴァー、気持ちいいか?」
「あっ、気持ち、いぃ」
耳元に囁きかけられる甘く低い声。その声だけでもゾクゾクと背が震える。過剰反応している体が理性を侵食していく。
「オリヴァー、今週はどれだけ遊んだ?」
笑いを含む声が直接耳元に吹き込まれ、脳まで冒されたようにゾクゾクする。
一瞬、躊躇いはあった。だが、思いとどまれるほどの理性は残っていなかった。
第一、ケーキは自分で買える。けれどこの人が与えてくれる快楽は今を逃せばもらえない。ならば何を躊躇うんだ。今しか、この人しか与えられないものを求めるのが当然だろう。
後五分我慢をすればケーキも快楽も得られる。そんな事、この時のオリヴァーからは消し飛んでいた。
「四、人……四人、です」
喘ぐように答えたオリヴァーは、それだけで力が抜けた。大した事のない秘密でも言ってはいけないと意識している事を口にしてしまうと諦めがつくし肩の荷が下りる。
クラウルはふわりと柔らかく笑う。そしていい子を褒めるように前髪を撫でた。
「いい子だ、オリヴァー。何が欲しい?」
「貴方の、が、ほしぃ。その硬くて熱い昂ぶりで奥を突いてください」
指が抜ける、その感触すらも感じ取れる。そこにクラウルが熱い昂ぶりを押し当て、ゆっくりと存在を知らしめるように押し入ってくる。
「あ……あぁ……あぁぁぁぁ!」
ズルズルと肉壁をしっかり擦りながら押し入られて腰が痺れて蕩ける。頭の中まで痺れてくる。その切っ先が最奥を突き、同時にグリグリと抉られた瞬間に頭の中が真っ白に飛んで全身が痙攣した。
腰が跳ねて、我慢に我慢を重ねてイカせてもらえなかったオリヴァーはようやく白濁を吐き出した。腹の上に濃いものが飛び散るが、それが終わっても止まらない。全身が悦んでいる。
涙目でクラウルを見上げる。その時の顔を見て、後悔もする。見下ろす瞳の鋭さと笑み。それは落とした獲物を見る目だ。圧倒的な支配者の目だ。
そしてこの行為は愛情などなにもなく、自分は戦利品でしかないんだと思えてくる。
「あっ、あぁ……あぁぁ!」
別のこの人の事が好きなんじゃない。ないけれど、抱き合っている今くらいはもっと甘い顔をしてほしかった。この人はとても残酷な人。落とすまではあんなに甘い恋人のような顔をして、落としてしまったら戦利品に成り下がるのだ。
それでも気持ちいいのは止まらない。ズルズルと内壁を擦る熱い昂ぶりはオリヴァーをよく知っている。どうされるのが気持ちいいのか知り尽くしている。
「オリヴァー、今どこまで俺のが入っているか、分かるか?」
「わか、るっ」
自分の薄い腹の、臍の辺りを撫でる。外側から圧迫されて摩擦が増えた気がして余計に気持ちよくてたまらなくなる。
手を離した。だが今度はクラウルが存在を知らしめるように腹筋を撫で回しながら腰を入れる。圧迫も重なって狭い部分を擦りあげられてまた軽く飛んだ。
「あっ! あぁ! いや……いやぁ!」
「お前が寝た奴は、何か気になる事を言っていたか?」
パンッと腰を深く押し入れられて「かはっ」と声が漏れた。苦しい、でも気持ちいい。
「あっ、団長達、のっ、あぁぁ! 年下のくせに生意気だってぇ!!」
「ほぉ」
「昔は私みたいなのを自由に手込めにしたのに、今はできないと! はぁぁ! もっ、お腹壊れるぅ!」
思考を全て奪われたように考えが纏まらない。浅い所、最奥をランダムに、しかも緩慢だったり性急だったりとバラバラに動かれたらもうイクしかない。
「もっ、イク! イクぅ! イキたい、クラウル様ぁ!」
奥を捏ねくり回すように突き上げられて、オリヴァーは達した。足先まで力が入って突っ張る。頭の中はパチパチと幾つもの星が散っている。
オリヴァーが達した瞬間、クラウルは自らを抜き去り自分の手で軽く扱いてオリヴァーの腹の上に出してしまう。この人とは何度もこうして抱き合っているが、一度だって中に出された事がない。
それがまた、少し寂しい。
「大丈夫か?」
「……中に出して頂いても、いいのですが」
「後が大変だろ。体調を崩したら事だ」
それでも少しくらいは平気なのに。そもそもこれまでの相手の大半が平気で中出ししている。
用件は済んだと言わんばかりに離れていくクラウルの背中。水差しから水を注いでオリヴァーに渡してくれる優しさはあるのに、事後に抱きしめてくれる事はない。
「……ケーキ、惜しいことをしました」
後五分ほど頑張れば両方手に入ったのに。
しょんぼりと項垂れると、その目の前に小さな箱が出される。黒い箱に金の文字で書かれた店のロゴ。それを見た途端、オリヴァーの目は輝いた。
「これ! トリュフ専門店のトリュフセット!」
「普段から世話になっているからな」
これ、食べたいと言ったケーキよりも高いんだが。
箱を開けると美味しそうなチョコが四つ。全部味が違うし、形も可愛い。一つを口に放り込むと、小さな事など水に流せる幸福が広がった。
「今回話を聞きたい相手は、どうやら優しくされるとお喋りになるらしい。貴族内での不審な動きの中にいる人物だ、喋らせたい」
「心配せずとも、あのようにされて喋らない者はいませんよ。天国に見せて地獄を見ますからね、クラウル様のは」
力加減、触れ加減、舌技。全部が本当に絶妙なんだ。駆け引きのギリギリを知っているからあとほんの少しを攻められて辛い。
それにしても寂しいのは、クラウルは情事の時でも一切キスをしないし、中には出さない。時には自分は一切脱ぎもせずにオリヴァーだけをひたすらイカせるときもある。
「……貴方の恋人になる人は、苦労するのでしょうね」
「ん?」
不意に出た言葉に、クラウルは視線を向ける。どこか驚いた顔で。
「こんなテクを持った恋人、余しますよ。それにストイックで。仕事人間でセックスレスになって別れるんじゃありませんか?」
「恋人など持つ気はないからいい」
軽く溜息をつくクラウルを見ながら、オリヴァーは思う。
いつの日かこの人に恋人ができたならどんな風になるのか。それを楽しみにしておこうと。
◇◆◇
「――ということがありましてね。あの時は恋人など作らないと言った方が、今では年下の恋人に振り回されて、あろう事か説教されているだなんて。しかもあんなに淡泊だったのに、恋人には怒られるくらい激しいなんて」
人は変われば変わるものと言うが、あの当時を知っているオリヴァーとしては別人くらいの変化だ。
「うわぁ……ボス最低。嫁ちゃん可哀想だね~」
「仕事バカは知ってたけれどね。ゼロス、この事知ってるのかな?」
「どうして俺は負けていないのに罰ゲーム食らっているんだ」
ゲームに参加している人ばかりか、不参加の三人までクラウルを見る目が冷たい。その中でクラウルは大ダメージを食らっている。
「まぁ、いいではありませんか。当時はまだゼロスは入団もしていませんし、私も旦那様と知り合ってもいませんでした。勿論今は旦那様一筋ですよ」
「まぁ、時効っちゃ時効か」
リュークスは溜息交じりに言い、ラウルは苦笑する。
オリヴァーも今だから言える事だ。今は愛しいアレックス以外とはしていない。それに結婚前にちゃんと話したのだ。そうしたら彼は「知り合うよりも前の君を問いただす事はしない。俺も遊んだ。だがこれからは俺だけにして欲しい」と言われた。
勿論、アレックス以上に心身共に満たされる相手はいないので、浮気なんて考えていないしその必要はない。
クラウルはまだ少しオリヴァーに言いたい事がありそうだったが、オリヴァーは笑顔で受け流す。
あの時の意趣返しが思わぬ所で出来たオリヴァーであった。
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