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14章:春色アラカルト
9話:秘密はバレる為にある(ゼロス)
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謹慎期間もそろそろ解ける頃、ゼロスは一泊の予定でクラウルに連れ出されていた。
向かったのは王都近郊の長閑な保養地。そこにある一軒の屋敷が目的地だった。
「本当に俺が行っていいんだろうか」
もう違和感もなく普通に歩ける足で馬車を降りたゼロスの隣りにクラウルも立つ。
目の前のお屋敷はとても小さくて可愛らしい家だった。ここに、クラウルの母が数人のお手伝いさんと一緒に住んでいる。
元は現在ライゼンが使っている王都の本邸にいたのだが、旦那が亡くなり子が自立するとここに移ったのだそうだ。王都は少し騒がしいとのことで。
六十歳を過ぎているが現在も健康で元気。今日もゼロスが来るのを楽しみにしているのだと聞かされ、ゼロスは不安と期待に落ち着かない気分だった。
「当然だろ。何も不安な事はないから安心してくれ」
「あぁ、分かっている」
頭では分かっていると思う。ゼロスが挨拶をしたいと、クラウルと共に手紙に書き添えるとすぐに返信がきて、『どうぞいつでもお越し下さい』と言われた。ライゼンも時々訪れるそうだが、その度にゼロスの話しをしてくれているそうだ。
お膳立ては出来ている。今日も夕刻頃にライゼン一家が来てくれるそうだ。援護射撃はすると言ってくれたライゼンが楽しげだったのは、今は考えないようにしよう。
勇気の一歩を踏み出し、ドアノッカーを握る。鳴らして少し、バタバタと中から足音がして勢いよく玄関が開いた。
「いらっしゃいませ、クラウル坊ちゃま! と、奥方様!」
「!!」
出てきたのは赤毛のおさげに分厚い瓶底眼鏡をしたメイドだった。年齢は二十代前半だろう。
驚くのは、いきなり奥方になったところだった。
「あれ? 奥方様はいらっしゃらないので?」
「ロッティ……」
溜息をつくクラウルと、呆然とするゼロス。その双方を見るメイドのロッティは、ただただ首を傾げるばかりだった。
そのうちに、静かな足音が近づいてくる。そしてロッティの後ろから一人の老婦人が姿を現した。
かくしゃくとした女性だった。
白髪の混じるグレーの髪をきっちりと結った女性の表情は穏やかで、黒い瞳はにっこりとゼロスを見る。皺のある顔だが、今でも十分に綺麗だと思える。そういう、品の良い年の取り方をしているのだと思う。
「ロッティ、ご苦労様」
「奥様!」
ロッティの後ろから近づいてきた老婦人がゼロスの前に立つ。そしてとても優しく微笑み、背後のクラウルへも視線を向けた。
「お待ちしていましたわ。さぁ、お入りなさい」
「お邪魔します」
「ふふっ、お邪魔だなんて。実家に帰ってきたと思ってくれて構いませんよ、ゼロスさん」
道を開けられ、ゼロスは会釈一つして中へと入る。その後ろからはクラウルが入ってきて、ドアが閉まった。
小さなエントランスの左手にはリビングがある。そこへ通されたゼロスはまず座らせられ、ロッティの淹れてくれたお茶を飲み込む。隣にはクラウルがいてくれるが、なんだか居心地が悪い。老婦人とメイド二人が何やらキッチンに立って作業をしているので、手伝うべきか迷う所だ。
「あの、何かお手伝いはありますか?」
思わず声をかけると、老婦人が振り向いてにっこりと笑い、大きなかまどから天板を引き出していた。
「あらあら、大丈夫よ。これでも慣れているの。丁度すずきのパイ包みが出来上がったのよ。今日の夜にと思って。ゼロスさん、嫌いなものはあるかしら?」
「いえ、大丈夫です」
「ふふっ、いい子ね。クラウルなんて小さな時は好き嫌いが多くて大変だったのよ? 茄子もズッキーニも嫌いで、スイカも」
「母上!」
顔を真っ赤にしたクラウルが思わず叫ぶ。それに、老婦人はお茶目に口元に手をやって楽しそうに笑った。
「あらあら、ごめんなさいねクラウル。ついつい楽しくなってしまって」
「勘弁してくれ……」
「ふふっ、男の子ね。好きな子の前ではやっぱり見栄を張りたいのねぇ」
「今はちゃんと食べられる」
「偉いわねぇ」
「……」
クラウルが頭を抱えて絶句している。かなり落ち込んだその様子にゼロスの方が焦ってしまう。子供の頃の話しで今は何でも食べるのを知っているのだから、そんなに隠さなくてもいいだろうに。
耳まで真っ赤なクラウルが、なんだかとても気の毒に思えた。
「あの、気にしなくていいだろ? 子供の頃は俺も嫌いな食べ物あったし」
「……恥ずかしい」
「あぁ、うん。大丈夫だから」
落ち込んだクラウルをどう言って励まそうか。
そんな事を考えていると、老婦人がテーブルに美味しそうなクッキーを置いて対面に座った。
「本当にごめんなさいね、クラウル。私も少し浮かれてしまいました。息子が恋人を連れてくるなんて、母としてこんなに嬉しい事はないのですもの」
俯いていたクラウルが顔を上げる。そして目だけでクッキーを見た。
「ココアとバニラのクッキー、好きでしょ? ゼロスさんもよかったら」
「有り難うございます。頂きます」
お礼を言って、二色のクッキーを一つ摘まむ。さっくりと口当たりが軽く、ココアの程よい苦みもあってとても美味しい。
隣のクラウルも一つ摘まみ、口に放り込む。そして僅かに笑みを浮かべた。
「美味しいです」
「それは良かったわ」
ふわっと笑う老婦人は本当に嬉しそうで、なんだか可愛らしくも見えてきた。
「さてさて、落ち着きましたらご挨拶ですね。初めましてゼロスさん。クラウルの母で、ナディアと申します。家の子がお世話になっていますわ」
「あぁ、いえ! 俺の方こそ、クラウルにはいつもお世話になっております」
思わず慌てて居住まいを正して一礼。そんなゼロスを見て、クラウルの母ナディアはおかしそうに笑った。
「ふふっ、いい子ね」
「あ……。改めまして、ゼロスと申します。本日はお招き頂き、有り難うございます。こちら、お口に合うといいのですが」
「あらあら! わざわざ有り難うございます」
側に置いたお土産を遅ればせながら手渡す。中はワインだ。ナディアが好きなのだそうだ。
受け取り、中を見たナディアは嬉しそうに笑ってくれる。これだけでほっとしてしまった。
「本当に、クラウルには勿体ない方ね。ちゃんとゼロスさんを大事にしていますか? 無理を言ったりしていませんか? 貴方は強情な所や強引な所もありますからね。この子に嫌われたら他なんてもう探せませんよ」
「母上……。分かっている、気を付けるよ」
隣のクラウルがずっとタジタジだ。ずっと耳が赤い。そして気にしたように、ゼロスの方を見ている。
何となく今のクラウルの気持ちが分かる。ゼロスの母もこんなタイプだ。息子のあれこれ知られたくない小さな頃の話しをするのだ。案外、息子にとっては地獄だ。
「あの、その辺でもう。クラウルはとても良くしてくれます。俺には勿体ないくらい、素敵な相手です」
「そうですか? 何か悪い所があったらちゃんと言って怒っていいのですよ? 怒られればちゃんと反省できるはずですから」
「はい」
言えない。普段もわりと正座で説教しているとか、言えなかった。
クラウルも何か言いたげな顔をしているが堪えている。その背を労るように、ゼロスはポンポンと叩いた。
「母上、今日ここに来たのはゼロスの報告を兼ねてだが、俺の意志もちゃんと話しておこうと思って来ている」
のほほんとした空気の中、クラウルは当初の目的を果たそうとナディアを見る。お茶を飲んでいた彼女はピンと締まった空気に顔を上げ、お茶をソーサーに戻して居住まいを正した。
「俺は、ゼロスと一緒になりたいと思っている。既にゼロスの家族には直接話して了承を得ている。母上にも、こうして紹介してちゃんと話しに来た」
すっと通る声ではあるが、ほんのわずか震えてもいるように思う。緊張が、隣りから伝わってくる。
ゼロスもしっかりとナディアを見て、頭を下げた。
「突然訪ねて、このようなお話しをするのは失礼かとも思いましたが、真剣です。今すぐとはゆきませんが、後々にはクラウルと一緒になりたいと思っています。どうか、お許しを頂けませんか?」
真剣な黒い瞳がゼロスとクラウルを見る。老いてもやはり騎士家の女性だ。ナディアの出す緊張した空気に、ゼロスもまた心臓が煩くなる気がした。
「二人の気持ちは分かりました」
「では……」
「私に否やはありませんよ」
ふわりと微笑んだナディアからはさっきまでの緊張感が消えている。ほっと胸を撫で下ろしたゼロスへ、彼女は嬉しそうに笑った。
「偏屈で堅物で、取っ付きづらい家の子をよろしくお願いしますね、ゼロスさん」
「ナディア様」
「あら、義母様でいいのよ。あぁ、義母さんもいいわね。あらあら、どうしましょう。迷ってしまうわ」
「母上……」
「はははっ」
けっこうお茶目な人なのだろうか。呼び名であれこれ迷っている。そんなナディアをクラウルは呆れたような、でも優しい目で見ている。
ちゃんと、親子なんだと思うとほっとする。普段クラウルは家族の話をあまりしないから。
「決めました! やっぱり義母さんがいいわ。家の子呼んでくれなくて。母上、なんて硬いんですもの」
「分かりました。あの……義母さん」
「! この年で素敵な息子ができるなんて思わなかったわ。よろしくお願いしますね、ゼロスさん」
ニコニコ笑うナディアを前にゼロスとクラウルは顔を見合わせて、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
今日はここに泊まる事になる。二階の角部屋は主寝室で、大きなベッドが鎮座している。ここはナディアの部屋ではないのかと聞くと、「こんな大きな部屋に一人なんて寂しくてたまらないわ」と返された。現在、使用者はないらしい。
そもそもこの家は貴族の別宅として建てられたものらしく、大きさが手頃だったので思いきって購入したそうだ。家具もそのまま備え付けなので、人と簡単な荷物だけ引っ越せば良かったのだとか。
現在ここにはメイドのロッティと、従者兼コックのニコラスが住み込みで働き、家主のナディアもキッチンに立って身の回りの事をしているそうだ。
部屋に荷物を置いて一息つくと、隣りにクラウルが座る。思いのほか肩が落ちている。
「そんなに気にする事か?」
ゼロスの問いかけにガックリと小さく肩を落としたクラウルが下から見上げてくる。そのくらい前屈みなのだ。
「恥ずかしいだろ。今こんななのに、子供の頃のあれこれなんて」
「まぁ、気持ちは分からなくはない」
ゼロスの母も過去のゼロスの彼女に気をよくしてあれこれ話す。それを彼女の口から聞いた時には恥ずかしくてたまらなかった。
その気持ちは分かる。けれど今は、それ以外の気持ちも湧いている。
「俺の母親もあんなだよ。嬉しくなるとあれこれ余計な事を言う」
「覚悟してきたんだが、予想以上に恥ずかしい」
「……でも俺は今、クラウルの小さな頃の話しが聞けてちょっと嬉しいとも思う」
「え?」
黒い瞳を僅かに見開いたクラウルがマジマジと見てくる。とても疑問そうな顔で。それが妙に可笑しくて、ゼロスは笑った。
「そんなに驚く所か?」
「いや、幻滅しないのか?」
「俺に怒られて正座で説教されてるのにか? 今更過去の事くらいで幻滅なんてしないさ。むしろ可愛いと思う。子供のアンタは、案外面倒臭いお子様だったんだと思って」
頑固で偏屈だったっぽい。そういう部分は今にも通じている。今も十分に偏屈な部分があるし、頑固だし、面倒臭い。
そんな子供が茄子やズッキーニが食べられなくてブー垂れてるのかと思うと、可笑しくて愛らしいだろう。
「俺は、子供の頃のアンタを何も知らない。今のアンタしか知らないんだ。だから、小さな頃のアンタに出会えた気がしてる。それは嬉しい事なんだよ」
「そんなものか?」
「じゃあ、アンタが俺の母親から俺の小さな頃の話しを聞いて、幻滅するか?」
これは即座に否定された。
体を起こしたクラウルがジッとゼロスを見る。その視線の真剣さも居心地悪いが、更に無言で長い。耐えきれなくて視線を外したゼロスを、クラウルが突然と抱き込んだ。
「おい!」
「小さな頃のゼロスは、可愛かったと思う」
「はぁ? いや、流石に話したことないと思うけれど」
「想像だけでも可愛いと思う」
「どれだけだよ!」
自分の事に関してこの人どんどんバカになっているんじゃないだろうか?
ゼロスの疑問は多分当たっているように思える。
でもそんなこの人が好きなんだと、今なら認めてやれるのも確かだ。
「母さんが、また一緒に来て欲しいって言ってたけれど」
「いく」
「即答か」
暗府だって忙しいはずなのに。
呆れ半分、嬉しさ半分。この時点で十分、ゼロスはクラウルの事が好きなんだって胸を張って言える。恥ずかしいから言わないけれど。
夕刻になってライゼン一家も合流した。ライゼンの息子エミールはゼロスを見るとパッと表情を明るくして近づいてくる。まだまだ小さなエミールを抱き上げると、彼はきゃっきゃと楽しそうに笑った。
「ゼロスさん!」
「久しぶりだな、エミール」
「はい。お怪我されたんですよね? 大丈夫ですか?」
「大丈夫。また公園に行けるようになるよ」
「本当ですか!」
ぱっと表情を明るくするエミールは年の離れた弟のようで実に可愛い。最初はシャイで控えめだったけれど、今ではすっかり懐いてくれて公園で遊ぶ仲だ。
「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
疑問そうに首を傾げるライゼンを見るエミールを下ろしてやると、今度はそっちへと駆けていく。隣りにいる奥方のフローレンスはくすくすと笑った。
「街の見回りをしている時に、公園で見かけるんです。俺ともう一人と、時々一緒に遊んだりもしているので」
「そうなのか。仕事中だろ? 大丈夫か?」
「その位の余裕はありますし、人と話す事も仕事の一環なので平気です」
子供好きなコンラッドと一緒に街を回ると、とにかく子供が寄ってくる。教会などにも休日に顔を出すコンラッドだからこその顔の広さだ。
「あらあら、怪我をしていたの?」
ライゼン一家を出迎えにきたナディアが心配そうにゼロスに声をかける。それに苦笑し、ゼロスは首を横に振った。
「もう大丈夫です」
「本当? それならいいのですが。あまりやんちゃをしてはいけませんよ?」
実の母以上に心配そうにしてくれるナディアに笑い、ゼロスは頷く。なんとなくこうして約束が増えていくような気がした。
程なく食事が振る舞われ、楽しい時間になる。エミールはゼロスの側にいて、クラウルがなんとなく物言いたげだったがさすがに幼い甥っ子には言えなかったようだ。
そんなクラウルの様子を見たライゼンとナディアがとても楽しそうに笑っている。
「クラウル、全部顔にでているぞ」
「そんなに心配しなくても、エミールはゼロスさんを取ったりしませんわよ」
「クラウル、さすがに心が狭い」
「叔父様、ごめんなさい」
「……いや、いいんだ」
全員に笑われ、ゼロスに呆れられ、甥っ子は申し訳なさそうにして、クラウルは一人諦めて溜息。それがまた面白いのか、皆の笑いを誘う。クラウルは居心地悪そうに眉根を寄せる。
「そういえば、ゼロスさんはお酒はお好き? 美味しいのがあるのよ」
食事を終えて、ナディアは楽しそうにゼロスに問う。ぱっと明るい笑みを見せる彼女に、ゼロスは同じように穏やかに笑って頷いた。
「少し頂きます」
「なんだ、あまり飲めないか?」
ライゼンが首を傾げながらグラスを用意している。数からしてクラウルの分が入っているだろう。あまりこの人に飲ませたくないのだが。
「あの、クラウルには……」
「ん? こいつも飲めるだろ?」
「飲めますけど」
問題は酔い方だったりするんだが。
チラリとクラウルを見ると飲む気満々だ。こうなると無理に止めるのも不自然になってしまう。
ゼロスは恥をかくのを覚悟して溜息をついた。
数時間後、夜も遅くなってエミールとフローレンスは先に休んだ。
そして案の上の事が現在目の前で行われている。
「ゼロスはかわいい」
「はぁ……」
「兄上、その目はなんだ。疑うのか?」
「いやぁ、疑ったりはしないが……お前、絡み酒だったか?」
飲ませた事を後悔している様子のライゼンがチラリとこちらに視線を向ける。助けを求めているのだろうが、こっちが助けてほしいくらいだ。
「あらあら、本当に好きなのね」
「最近、これが癖のようで。こうなるのでお酒はあまり」
「ふふっ、恥ずかしいかしら?」
「はい、ものすごく」
本人を目の前に褒め倒す旦那。どんな羞恥プレイかと思う瞬間だ。
「ゼロスくらいだ、俺に間違っていると面と向かって言うのは。物怖じしないところも好いている」
「お前、どれだけ強面なんだ」
「新人は目が合っただけで怒られると思うらしい。失礼な」
「目つき悪いな。俺はそんなことはない」
「あら、ライゼンだって言われているわよ? 目が合っただけで有罪確定だと言われている気がすると」
「……」
同じ顔で、同じように眉間に皺が寄る。これで周囲の反応がまったく違うとはならないだろう。兄弟そろって不満そうな顔をするのはいっそ面白く、ナディアと二人で顔を見合わせて笑った。
「苦労をさせているみたいね、ゼロスさん」
「苦労だとは思っていません。俺は俺の思うことを率直に伝えています」
「いい子ね。貴方みたいな人が側にいてくれると、私も安心だわ。何せクラウルったら、お仕事ばかりで恋人なんて全然だったんだもの。諦めていたくらいよ」
ゼロスのグラスにワインを注ぎながら、ナディアは楽しそうにしている。以前ライゼンの元を訪れた時にも同じような事を言われた。それくらい、クラウルに色恋はなかったのだろう。
思えば知り合う以前のクラウルをほとんど知らないままである。仕事の関係もあって知ってはいけない気もしていたから、聞かなかった。
でも、少し興味が出てきたのも確か。聞ける範囲では聞いてみたい。
「クラウルは、どんな子供だったんですか?」
思わず問うと、クラウルはあからさまに狼狽えた顔をする。だが、ニヤリと笑ったライゼンに捕まってしまった。
「そうね……。真面目で、一生懸命で、遊びのない子だったわ」
「今とあまり変わりがありませんね」
「そうね。でも、今よりもずっと不器用で率直で、だからこそぶつかってしまう感じはあったわ。正しい事がいいことだと疑わなかったのね」
少し困ったように笑うナディアを見ていると、思った感じと違って胸に痛みが走る。
今でこそクラウルは器用だ。自分の不都合はうまく隠すし、他人も利用する。正義や正しさは自覚していても、目的の為ならやり方にこだわりは持っていない。
どこかで変わってしまったのだろう。もしかしたら、騎士団で。
「ひどい仏頂面でしょ? 怖い人って誤解もされてね。そうそう、五歳くらいだったかしら? 近所の女の子が好きだって言ってお花をあげに行ったら、フラれちゃったのよ。目が怖いって。あの時は泣きじゃくっていたわね」
「母上!」
さすがに酔いが醒めたのか、ぱっと立ち上がったクラウルがゼロスの腕を掴む。そしてぐっと引き上げて立たせると、そのまま攫うように部屋へと戻ってきてしまった。
部屋に入ると、クラウルはゼロスをソファーに座らせて黒髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。そして、盛大な溜息をついた。
「子供の頃のそれは、ただ可愛いと思っただけで告白とかじゃなく、友達になってもらいたかっただけで」
「あの、分かってるって。五歳児の何を疑うんだ」
純粋な好意だったのは説明しなくたって分かるっての。
酔いが醒めたと思っていたが十分にまだ酔っているのだろう。ゼロスは笑い、クラウルの頬を両手でむぎゅっと挟んだ。
「義母さんやライゼンさんが驚いてるだろうから、謝ってこい。そうしたら、一緒に寝よう」
「…………」
「クラウル、せっかくいい日なんだから説教させないでくれ」
「……着替えてから行ってくる」
「分かった。俺はここに残るよ。なんなら飲んできてもいい」
「嫌だ、お前と寝る」
「……子供みたいだ」
親の前では皆が多少子供に戻るのかもしれないが、クラウルもそうとは思わなかった。少し拗ねた様子のクラウルが近づいて、くっと顎を持ち上げる。そして当然のようにキスをした。
「子供はこんなことしない」
「分かったから、行ってきてくれ」
むすっと納得していない顔をしながらも立ち上がり、無造作に服を脱ぎ捨て夜着になる。そしてさっさと部屋を出て行った。
脱ぎ散らかされた衣服を拾う。ズボンを畳んでソファーの側に置き、シャツを拾って。そこで、ゼロスの手が止まった。
クラウルの刺傷事件の時、彼のシャツを着て自身を慰めつつ後ろを解していたのを不意に思い出して体が熱くなる。どうもあれ以来、クラウルの匂いに体が反応するようになってしまった。
直接感じる匂いも好きだが、こうして衣服から香る匂いにも欲情する。石けんの匂いと混ざっているのがまた、なんだか記憶を呼び覚まされるのだ。
周囲を入念に見回したゼロスは自分の夜着を引っ張りだして衣服を脱いだ。そして夜着ではなく、手にしていたクラウルのシャツを羽織った。
やっぱり余る。身長的にはそこまで大きな差はないはずなのに、体格は違うと言わんばかりに余る。腕の長さがまず違って、手の甲に袖口がかかる。丈はいいが、胸の辺りの布が余っている。胸筋の違いだ。
そんな匂いに抱かれていると体が熱く切なくなる。何せクラウルを誘うためにこうして彼の服を着て、自慰をしながら後ろを弄っていたのだ。どうしても後孔がひくついてしまう。
脱ごう。恥ずかしくなってシャツに手をかけた。その手を不意に取られたゼロスはなす術もなく振り向かされ、深いキスをされた。
「んぅ」
目の前に濡れた黒い瞳がある。欲情した、色香のある瞳。それに見られるとどうにも体の芯が疼いてしまう。
「随分、魅力的な格好だ」
「いや、これは……」
「前にもこんなことをしていたんじゃないのか?」
「!」
妙に確信を持っているような目で見られて、ゼロスは思わず目を逸らした。それだけでこの人は疑心を確信に変えるというのに。
「俺が刺された事件の後、お前から誘ってくれた辺りからクローゼットを気にしていただろ?」
「何のことか分からない」
「てっきりクローゼットに何かを隠しているのかと思っていたが、こういうことか」
クラウルの笑みが深くなり、誘うように甘く見られる。匂いが濃くなっている気がしてドキドキと心臓が五月蠅い。掴まれている手を強く振り払う事ができない。
「あの時、冷静になっておかしいと思ったんだ。今まで自慰をしても後ろなんて弄っていなかっただろ?」
「それは……」
「なのにあの時、お前は手慣れていた」
「気のせいだ」
「俺のシャツを着て、後ろを弄っていたんだろ」
もう確信だろうな。思ったら諦めがついた。確かに恥ずかしい事でできれば隠したかったが、だからといって認めないといつまでもこのまま、最悪険悪な感じになってしまいかねない。
溜息をついて、ゼロスは視線を外したまま呟いた。
「……アンタを誘うのに、必要だったんだよ」
認めると楽になる。何よりそんなに隠す事ではない。私服を拝借してしまったのは申し訳なかったが、それも謝ればいい話なんだ。
「悪かった。もうしないから」
俯けていた顔を上げると、クラウルは意外にも顔を赤くして口元を手で隠している。そして、なんだか直視できない様子だ。
「いや、アンタがどうして照れるんだよ」
「それは! 可愛いと、思っただけだ」
「……」
駄目だこの人。何か違うものが見えているんじゃないだろうか。
「クラウル、俺は可愛くはないからな」
「俺のシャツを着て後ろを使って自慰をしている時点で可愛いと思うが」
「感覚がおかしい!」
思わず言わずにはいられなくてゼロスは叫んだが、だからって何かが変わるわけではない。なにせクラウルはゼロスにベタ惚れなのだから。
ふわりと笑うクラウルが、そっと頬にキスをする。そして、包むように抱きしめられた。
「お前の事だけ、俺はバカになる。格好もつけたいし、お前を知るほどに好きだと思う」
「恋愛末期すぎるだろ」
「あぁ。だから、俺と一緒になってもらいたい」
ごく自然に出てきた言葉に、少しして心臓が早鐘を打つ。顔がひどく熱くなって、この場にいられないくらい落ち着かない。多分抱きしめられていなかったら逃げていた。
「嫌か?」
「嫌というわけじゃない、けど……恥ずかしい」
悲しそうに目尻を下げられると弱い。どうにも悪いことをしている気がしてくる。
クラウルは一度ゼロスを解放すると自分の荷物を開ける。そして何かを持ってゼロスの前にくると、その前に膝をついた。
「え?」
「受け取ってもらいたい」
出された箱には、銀色に光るシンプルな細い指輪が一つ。彫り込みが綺麗なそれには宝石の類いは入っていない。極力邪魔にならないように配慮されたものだった。
全部が心臓になっているような気がする。それくらい、ドキドキして震えている。突然過ぎて頭の中が真っ白だ。この状況、どうしたらいいんだ?
「……嫌、か?」
「違う! あんまり突然で…………これ、俺がもらっていいのか?」
「お前のサイズだ。他に誰がもらうんだ」
少しムスッとするクラウルに、それもそうだと内心呟く。その後は、あれこれ考えた。
今更離れる事は考えていない。この人が好きだ。最後かと思った時、もう会えないのかと思った時、この人の事ばかりを考えた。少なくとも今死んだら深く後悔するんだと自覚するくらいには好きなんだ。
それに、それなりに付き合いも長い。そしてその間に培ってきたものは時間以上に濃くて深い。更に前々から、こうなりたいと言われていたんだ。
いい流れじゃないか。それぞれの家族に挨拶もして、受け入れてもらって、不安なんてない。一生死ぬまでこの人の側にいるんだと言い切れる。それなら、今は悪くないんだ。
手を差し出す。その手を、クラウルは受け取った。
「何か、言っておくか?」
「俺の前で惚気るのはやめてくれ。恥ずかしくて消えたくなる」
「善処する」
「はぁ……仕方がないな」
その善処はきっとすぐに考慮されなくなる。この人は百パーセントの自信がなければ絶対とは言わない。
「俺は、きっとずっとこのままだけれど、いいのか?」
「勿論だ」
「……年取ったらおっさんだけど。それでも、愛してくれるのか?」
「お互い様だろ?」
「死ぬまで一緒にいて欲しい」
「あぁ、勿論だ。俺は絶対に、お前を離すことはない」
そうか、絶対なのか。そう思ったら、ストンと色んなものが落ちてきた。
クラウルが指輪をはめてくれる。ぴったりとした指輪は本当にゼロスのサイズに合わせてあって、違和感もなくそこにある。月の明かりに手をかざして、銀の指輪を角度を変えて見ているとクラウルが嬉しそうに微笑んだ。
「クラウルのもあるんだろ?」
「あるが」
「出してくれ。はめるから」
驚いた顔をするが、むしろ何故そんな顔をするのか。荷物から出てきたもう一つの箱には同じ指輪が入っている。それを手に取り、クラウルに指にはめた。
「……緊張した」
「これ以上に緊張する場面なんて、いくらでもあっただろ」
「人生で一番だ」
「大げさだな」
「本当だよ」
互いに笑って、キスをして。密かな結婚式のような雰囲気に照れながらゼロスはクラウルの肩にもたれた。
「明日帰ったら、しないか?」
「今夜は駄目なのか?」
「嫌だ。義母さん達に聞かれたら二度と顔を見せられない」
「俺のシャツを着てしてくれるなら応じてもいいぞ」
「気に入ったのか……」
どうやら意外とツボだったらしい。
了承をして二人で潜り込むベッドの中、同じ指輪をした手を握り合ったままで、二人は静かに眠りに落ちた。
向かったのは王都近郊の長閑な保養地。そこにある一軒の屋敷が目的地だった。
「本当に俺が行っていいんだろうか」
もう違和感もなく普通に歩ける足で馬車を降りたゼロスの隣りにクラウルも立つ。
目の前のお屋敷はとても小さくて可愛らしい家だった。ここに、クラウルの母が数人のお手伝いさんと一緒に住んでいる。
元は現在ライゼンが使っている王都の本邸にいたのだが、旦那が亡くなり子が自立するとここに移ったのだそうだ。王都は少し騒がしいとのことで。
六十歳を過ぎているが現在も健康で元気。今日もゼロスが来るのを楽しみにしているのだと聞かされ、ゼロスは不安と期待に落ち着かない気分だった。
「当然だろ。何も不安な事はないから安心してくれ」
「あぁ、分かっている」
頭では分かっていると思う。ゼロスが挨拶をしたいと、クラウルと共に手紙に書き添えるとすぐに返信がきて、『どうぞいつでもお越し下さい』と言われた。ライゼンも時々訪れるそうだが、その度にゼロスの話しをしてくれているそうだ。
お膳立ては出来ている。今日も夕刻頃にライゼン一家が来てくれるそうだ。援護射撃はすると言ってくれたライゼンが楽しげだったのは、今は考えないようにしよう。
勇気の一歩を踏み出し、ドアノッカーを握る。鳴らして少し、バタバタと中から足音がして勢いよく玄関が開いた。
「いらっしゃいませ、クラウル坊ちゃま! と、奥方様!」
「!!」
出てきたのは赤毛のおさげに分厚い瓶底眼鏡をしたメイドだった。年齢は二十代前半だろう。
驚くのは、いきなり奥方になったところだった。
「あれ? 奥方様はいらっしゃらないので?」
「ロッティ……」
溜息をつくクラウルと、呆然とするゼロス。その双方を見るメイドのロッティは、ただただ首を傾げるばかりだった。
そのうちに、静かな足音が近づいてくる。そしてロッティの後ろから一人の老婦人が姿を現した。
かくしゃくとした女性だった。
白髪の混じるグレーの髪をきっちりと結った女性の表情は穏やかで、黒い瞳はにっこりとゼロスを見る。皺のある顔だが、今でも十分に綺麗だと思える。そういう、品の良い年の取り方をしているのだと思う。
「ロッティ、ご苦労様」
「奥様!」
ロッティの後ろから近づいてきた老婦人がゼロスの前に立つ。そしてとても優しく微笑み、背後のクラウルへも視線を向けた。
「お待ちしていましたわ。さぁ、お入りなさい」
「お邪魔します」
「ふふっ、お邪魔だなんて。実家に帰ってきたと思ってくれて構いませんよ、ゼロスさん」
道を開けられ、ゼロスは会釈一つして中へと入る。その後ろからはクラウルが入ってきて、ドアが閉まった。
小さなエントランスの左手にはリビングがある。そこへ通されたゼロスはまず座らせられ、ロッティの淹れてくれたお茶を飲み込む。隣にはクラウルがいてくれるが、なんだか居心地が悪い。老婦人とメイド二人が何やらキッチンに立って作業をしているので、手伝うべきか迷う所だ。
「あの、何かお手伝いはありますか?」
思わず声をかけると、老婦人が振り向いてにっこりと笑い、大きなかまどから天板を引き出していた。
「あらあら、大丈夫よ。これでも慣れているの。丁度すずきのパイ包みが出来上がったのよ。今日の夜にと思って。ゼロスさん、嫌いなものはあるかしら?」
「いえ、大丈夫です」
「ふふっ、いい子ね。クラウルなんて小さな時は好き嫌いが多くて大変だったのよ? 茄子もズッキーニも嫌いで、スイカも」
「母上!」
顔を真っ赤にしたクラウルが思わず叫ぶ。それに、老婦人はお茶目に口元に手をやって楽しそうに笑った。
「あらあら、ごめんなさいねクラウル。ついつい楽しくなってしまって」
「勘弁してくれ……」
「ふふっ、男の子ね。好きな子の前ではやっぱり見栄を張りたいのねぇ」
「今はちゃんと食べられる」
「偉いわねぇ」
「……」
クラウルが頭を抱えて絶句している。かなり落ち込んだその様子にゼロスの方が焦ってしまう。子供の頃の話しで今は何でも食べるのを知っているのだから、そんなに隠さなくてもいいだろうに。
耳まで真っ赤なクラウルが、なんだかとても気の毒に思えた。
「あの、気にしなくていいだろ? 子供の頃は俺も嫌いな食べ物あったし」
「……恥ずかしい」
「あぁ、うん。大丈夫だから」
落ち込んだクラウルをどう言って励まそうか。
そんな事を考えていると、老婦人がテーブルに美味しそうなクッキーを置いて対面に座った。
「本当にごめんなさいね、クラウル。私も少し浮かれてしまいました。息子が恋人を連れてくるなんて、母としてこんなに嬉しい事はないのですもの」
俯いていたクラウルが顔を上げる。そして目だけでクッキーを見た。
「ココアとバニラのクッキー、好きでしょ? ゼロスさんもよかったら」
「有り難うございます。頂きます」
お礼を言って、二色のクッキーを一つ摘まむ。さっくりと口当たりが軽く、ココアの程よい苦みもあってとても美味しい。
隣のクラウルも一つ摘まみ、口に放り込む。そして僅かに笑みを浮かべた。
「美味しいです」
「それは良かったわ」
ふわっと笑う老婦人は本当に嬉しそうで、なんだか可愛らしくも見えてきた。
「さてさて、落ち着きましたらご挨拶ですね。初めましてゼロスさん。クラウルの母で、ナディアと申します。家の子がお世話になっていますわ」
「あぁ、いえ! 俺の方こそ、クラウルにはいつもお世話になっております」
思わず慌てて居住まいを正して一礼。そんなゼロスを見て、クラウルの母ナディアはおかしそうに笑った。
「ふふっ、いい子ね」
「あ……。改めまして、ゼロスと申します。本日はお招き頂き、有り難うございます。こちら、お口に合うといいのですが」
「あらあら! わざわざ有り難うございます」
側に置いたお土産を遅ればせながら手渡す。中はワインだ。ナディアが好きなのだそうだ。
受け取り、中を見たナディアは嬉しそうに笑ってくれる。これだけでほっとしてしまった。
「本当に、クラウルには勿体ない方ね。ちゃんとゼロスさんを大事にしていますか? 無理を言ったりしていませんか? 貴方は強情な所や強引な所もありますからね。この子に嫌われたら他なんてもう探せませんよ」
「母上……。分かっている、気を付けるよ」
隣のクラウルがずっとタジタジだ。ずっと耳が赤い。そして気にしたように、ゼロスの方を見ている。
何となく今のクラウルの気持ちが分かる。ゼロスの母もこんなタイプだ。息子のあれこれ知られたくない小さな頃の話しをするのだ。案外、息子にとっては地獄だ。
「あの、その辺でもう。クラウルはとても良くしてくれます。俺には勿体ないくらい、素敵な相手です」
「そうですか? 何か悪い所があったらちゃんと言って怒っていいのですよ? 怒られればちゃんと反省できるはずですから」
「はい」
言えない。普段もわりと正座で説教しているとか、言えなかった。
クラウルも何か言いたげな顔をしているが堪えている。その背を労るように、ゼロスはポンポンと叩いた。
「母上、今日ここに来たのはゼロスの報告を兼ねてだが、俺の意志もちゃんと話しておこうと思って来ている」
のほほんとした空気の中、クラウルは当初の目的を果たそうとナディアを見る。お茶を飲んでいた彼女はピンと締まった空気に顔を上げ、お茶をソーサーに戻して居住まいを正した。
「俺は、ゼロスと一緒になりたいと思っている。既にゼロスの家族には直接話して了承を得ている。母上にも、こうして紹介してちゃんと話しに来た」
すっと通る声ではあるが、ほんのわずか震えてもいるように思う。緊張が、隣りから伝わってくる。
ゼロスもしっかりとナディアを見て、頭を下げた。
「突然訪ねて、このようなお話しをするのは失礼かとも思いましたが、真剣です。今すぐとはゆきませんが、後々にはクラウルと一緒になりたいと思っています。どうか、お許しを頂けませんか?」
真剣な黒い瞳がゼロスとクラウルを見る。老いてもやはり騎士家の女性だ。ナディアの出す緊張した空気に、ゼロスもまた心臓が煩くなる気がした。
「二人の気持ちは分かりました」
「では……」
「私に否やはありませんよ」
ふわりと微笑んだナディアからはさっきまでの緊張感が消えている。ほっと胸を撫で下ろしたゼロスへ、彼女は嬉しそうに笑った。
「偏屈で堅物で、取っ付きづらい家の子をよろしくお願いしますね、ゼロスさん」
「ナディア様」
「あら、義母様でいいのよ。あぁ、義母さんもいいわね。あらあら、どうしましょう。迷ってしまうわ」
「母上……」
「はははっ」
けっこうお茶目な人なのだろうか。呼び名であれこれ迷っている。そんなナディアをクラウルは呆れたような、でも優しい目で見ている。
ちゃんと、親子なんだと思うとほっとする。普段クラウルは家族の話をあまりしないから。
「決めました! やっぱり義母さんがいいわ。家の子呼んでくれなくて。母上、なんて硬いんですもの」
「分かりました。あの……義母さん」
「! この年で素敵な息子ができるなんて思わなかったわ。よろしくお願いしますね、ゼロスさん」
ニコニコ笑うナディアを前にゼロスとクラウルは顔を見合わせて、ほっと胸を撫で下ろしたのだった。
今日はここに泊まる事になる。二階の角部屋は主寝室で、大きなベッドが鎮座している。ここはナディアの部屋ではないのかと聞くと、「こんな大きな部屋に一人なんて寂しくてたまらないわ」と返された。現在、使用者はないらしい。
そもそもこの家は貴族の別宅として建てられたものらしく、大きさが手頃だったので思いきって購入したそうだ。家具もそのまま備え付けなので、人と簡単な荷物だけ引っ越せば良かったのだとか。
現在ここにはメイドのロッティと、従者兼コックのニコラスが住み込みで働き、家主のナディアもキッチンに立って身の回りの事をしているそうだ。
部屋に荷物を置いて一息つくと、隣りにクラウルが座る。思いのほか肩が落ちている。
「そんなに気にする事か?」
ゼロスの問いかけにガックリと小さく肩を落としたクラウルが下から見上げてくる。そのくらい前屈みなのだ。
「恥ずかしいだろ。今こんななのに、子供の頃のあれこれなんて」
「まぁ、気持ちは分からなくはない」
ゼロスの母も過去のゼロスの彼女に気をよくしてあれこれ話す。それを彼女の口から聞いた時には恥ずかしくてたまらなかった。
その気持ちは分かる。けれど今は、それ以外の気持ちも湧いている。
「俺の母親もあんなだよ。嬉しくなるとあれこれ余計な事を言う」
「覚悟してきたんだが、予想以上に恥ずかしい」
「……でも俺は今、クラウルの小さな頃の話しが聞けてちょっと嬉しいとも思う」
「え?」
黒い瞳を僅かに見開いたクラウルがマジマジと見てくる。とても疑問そうな顔で。それが妙に可笑しくて、ゼロスは笑った。
「そんなに驚く所か?」
「いや、幻滅しないのか?」
「俺に怒られて正座で説教されてるのにか? 今更過去の事くらいで幻滅なんてしないさ。むしろ可愛いと思う。子供のアンタは、案外面倒臭いお子様だったんだと思って」
頑固で偏屈だったっぽい。そういう部分は今にも通じている。今も十分に偏屈な部分があるし、頑固だし、面倒臭い。
そんな子供が茄子やズッキーニが食べられなくてブー垂れてるのかと思うと、可笑しくて愛らしいだろう。
「俺は、子供の頃のアンタを何も知らない。今のアンタしか知らないんだ。だから、小さな頃のアンタに出会えた気がしてる。それは嬉しい事なんだよ」
「そんなものか?」
「じゃあ、アンタが俺の母親から俺の小さな頃の話しを聞いて、幻滅するか?」
これは即座に否定された。
体を起こしたクラウルがジッとゼロスを見る。その視線の真剣さも居心地悪いが、更に無言で長い。耐えきれなくて視線を外したゼロスを、クラウルが突然と抱き込んだ。
「おい!」
「小さな頃のゼロスは、可愛かったと思う」
「はぁ? いや、流石に話したことないと思うけれど」
「想像だけでも可愛いと思う」
「どれだけだよ!」
自分の事に関してこの人どんどんバカになっているんじゃないだろうか?
ゼロスの疑問は多分当たっているように思える。
でもそんなこの人が好きなんだと、今なら認めてやれるのも確かだ。
「母さんが、また一緒に来て欲しいって言ってたけれど」
「いく」
「即答か」
暗府だって忙しいはずなのに。
呆れ半分、嬉しさ半分。この時点で十分、ゼロスはクラウルの事が好きなんだって胸を張って言える。恥ずかしいから言わないけれど。
夕刻になってライゼン一家も合流した。ライゼンの息子エミールはゼロスを見るとパッと表情を明るくして近づいてくる。まだまだ小さなエミールを抱き上げると、彼はきゃっきゃと楽しそうに笑った。
「ゼロスさん!」
「久しぶりだな、エミール」
「はい。お怪我されたんですよね? 大丈夫ですか?」
「大丈夫。また公園に行けるようになるよ」
「本当ですか!」
ぱっと表情を明るくするエミールは年の離れた弟のようで実に可愛い。最初はシャイで控えめだったけれど、今ではすっかり懐いてくれて公園で遊ぶ仲だ。
「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
疑問そうに首を傾げるライゼンを見るエミールを下ろしてやると、今度はそっちへと駆けていく。隣りにいる奥方のフローレンスはくすくすと笑った。
「街の見回りをしている時に、公園で見かけるんです。俺ともう一人と、時々一緒に遊んだりもしているので」
「そうなのか。仕事中だろ? 大丈夫か?」
「その位の余裕はありますし、人と話す事も仕事の一環なので平気です」
子供好きなコンラッドと一緒に街を回ると、とにかく子供が寄ってくる。教会などにも休日に顔を出すコンラッドだからこその顔の広さだ。
「あらあら、怪我をしていたの?」
ライゼン一家を出迎えにきたナディアが心配そうにゼロスに声をかける。それに苦笑し、ゼロスは首を横に振った。
「もう大丈夫です」
「本当? それならいいのですが。あまりやんちゃをしてはいけませんよ?」
実の母以上に心配そうにしてくれるナディアに笑い、ゼロスは頷く。なんとなくこうして約束が増えていくような気がした。
程なく食事が振る舞われ、楽しい時間になる。エミールはゼロスの側にいて、クラウルがなんとなく物言いたげだったがさすがに幼い甥っ子には言えなかったようだ。
そんなクラウルの様子を見たライゼンとナディアがとても楽しそうに笑っている。
「クラウル、全部顔にでているぞ」
「そんなに心配しなくても、エミールはゼロスさんを取ったりしませんわよ」
「クラウル、さすがに心が狭い」
「叔父様、ごめんなさい」
「……いや、いいんだ」
全員に笑われ、ゼロスに呆れられ、甥っ子は申し訳なさそうにして、クラウルは一人諦めて溜息。それがまた面白いのか、皆の笑いを誘う。クラウルは居心地悪そうに眉根を寄せる。
「そういえば、ゼロスさんはお酒はお好き? 美味しいのがあるのよ」
食事を終えて、ナディアは楽しそうにゼロスに問う。ぱっと明るい笑みを見せる彼女に、ゼロスは同じように穏やかに笑って頷いた。
「少し頂きます」
「なんだ、あまり飲めないか?」
ライゼンが首を傾げながらグラスを用意している。数からしてクラウルの分が入っているだろう。あまりこの人に飲ませたくないのだが。
「あの、クラウルには……」
「ん? こいつも飲めるだろ?」
「飲めますけど」
問題は酔い方だったりするんだが。
チラリとクラウルを見ると飲む気満々だ。こうなると無理に止めるのも不自然になってしまう。
ゼロスは恥をかくのを覚悟して溜息をついた。
数時間後、夜も遅くなってエミールとフローレンスは先に休んだ。
そして案の上の事が現在目の前で行われている。
「ゼロスはかわいい」
「はぁ……」
「兄上、その目はなんだ。疑うのか?」
「いやぁ、疑ったりはしないが……お前、絡み酒だったか?」
飲ませた事を後悔している様子のライゼンがチラリとこちらに視線を向ける。助けを求めているのだろうが、こっちが助けてほしいくらいだ。
「あらあら、本当に好きなのね」
「最近、これが癖のようで。こうなるのでお酒はあまり」
「ふふっ、恥ずかしいかしら?」
「はい、ものすごく」
本人を目の前に褒め倒す旦那。どんな羞恥プレイかと思う瞬間だ。
「ゼロスくらいだ、俺に間違っていると面と向かって言うのは。物怖じしないところも好いている」
「お前、どれだけ強面なんだ」
「新人は目が合っただけで怒られると思うらしい。失礼な」
「目つき悪いな。俺はそんなことはない」
「あら、ライゼンだって言われているわよ? 目が合っただけで有罪確定だと言われている気がすると」
「……」
同じ顔で、同じように眉間に皺が寄る。これで周囲の反応がまったく違うとはならないだろう。兄弟そろって不満そうな顔をするのはいっそ面白く、ナディアと二人で顔を見合わせて笑った。
「苦労をさせているみたいね、ゼロスさん」
「苦労だとは思っていません。俺は俺の思うことを率直に伝えています」
「いい子ね。貴方みたいな人が側にいてくれると、私も安心だわ。何せクラウルったら、お仕事ばかりで恋人なんて全然だったんだもの。諦めていたくらいよ」
ゼロスのグラスにワインを注ぎながら、ナディアは楽しそうにしている。以前ライゼンの元を訪れた時にも同じような事を言われた。それくらい、クラウルに色恋はなかったのだろう。
思えば知り合う以前のクラウルをほとんど知らないままである。仕事の関係もあって知ってはいけない気もしていたから、聞かなかった。
でも、少し興味が出てきたのも確か。聞ける範囲では聞いてみたい。
「クラウルは、どんな子供だったんですか?」
思わず問うと、クラウルはあからさまに狼狽えた顔をする。だが、ニヤリと笑ったライゼンに捕まってしまった。
「そうね……。真面目で、一生懸命で、遊びのない子だったわ」
「今とあまり変わりがありませんね」
「そうね。でも、今よりもずっと不器用で率直で、だからこそぶつかってしまう感じはあったわ。正しい事がいいことだと疑わなかったのね」
少し困ったように笑うナディアを見ていると、思った感じと違って胸に痛みが走る。
今でこそクラウルは器用だ。自分の不都合はうまく隠すし、他人も利用する。正義や正しさは自覚していても、目的の為ならやり方にこだわりは持っていない。
どこかで変わってしまったのだろう。もしかしたら、騎士団で。
「ひどい仏頂面でしょ? 怖い人って誤解もされてね。そうそう、五歳くらいだったかしら? 近所の女の子が好きだって言ってお花をあげに行ったら、フラれちゃったのよ。目が怖いって。あの時は泣きじゃくっていたわね」
「母上!」
さすがに酔いが醒めたのか、ぱっと立ち上がったクラウルがゼロスの腕を掴む。そしてぐっと引き上げて立たせると、そのまま攫うように部屋へと戻ってきてしまった。
部屋に入ると、クラウルはゼロスをソファーに座らせて黒髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。そして、盛大な溜息をついた。
「子供の頃のそれは、ただ可愛いと思っただけで告白とかじゃなく、友達になってもらいたかっただけで」
「あの、分かってるって。五歳児の何を疑うんだ」
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酔いが醒めたと思っていたが十分にまだ酔っているのだろう。ゼロスは笑い、クラウルの頬を両手でむぎゅっと挟んだ。
「義母さんやライゼンさんが驚いてるだろうから、謝ってこい。そうしたら、一緒に寝よう」
「…………」
「クラウル、せっかくいい日なんだから説教させないでくれ」
「……着替えてから行ってくる」
「分かった。俺はここに残るよ。なんなら飲んできてもいい」
「嫌だ、お前と寝る」
「……子供みたいだ」
親の前では皆が多少子供に戻るのかもしれないが、クラウルもそうとは思わなかった。少し拗ねた様子のクラウルが近づいて、くっと顎を持ち上げる。そして当然のようにキスをした。
「子供はこんなことしない」
「分かったから、行ってきてくれ」
むすっと納得していない顔をしながらも立ち上がり、無造作に服を脱ぎ捨て夜着になる。そしてさっさと部屋を出て行った。
脱ぎ散らかされた衣服を拾う。ズボンを畳んでソファーの側に置き、シャツを拾って。そこで、ゼロスの手が止まった。
クラウルの刺傷事件の時、彼のシャツを着て自身を慰めつつ後ろを解していたのを不意に思い出して体が熱くなる。どうもあれ以来、クラウルの匂いに体が反応するようになってしまった。
直接感じる匂いも好きだが、こうして衣服から香る匂いにも欲情する。石けんの匂いと混ざっているのがまた、なんだか記憶を呼び覚まされるのだ。
周囲を入念に見回したゼロスは自分の夜着を引っ張りだして衣服を脱いだ。そして夜着ではなく、手にしていたクラウルのシャツを羽織った。
やっぱり余る。身長的にはそこまで大きな差はないはずなのに、体格は違うと言わんばかりに余る。腕の長さがまず違って、手の甲に袖口がかかる。丈はいいが、胸の辺りの布が余っている。胸筋の違いだ。
そんな匂いに抱かれていると体が熱く切なくなる。何せクラウルを誘うためにこうして彼の服を着て、自慰をしながら後ろを弄っていたのだ。どうしても後孔がひくついてしまう。
脱ごう。恥ずかしくなってシャツに手をかけた。その手を不意に取られたゼロスはなす術もなく振り向かされ、深いキスをされた。
「んぅ」
目の前に濡れた黒い瞳がある。欲情した、色香のある瞳。それに見られるとどうにも体の芯が疼いてしまう。
「随分、魅力的な格好だ」
「いや、これは……」
「前にもこんなことをしていたんじゃないのか?」
「!」
妙に確信を持っているような目で見られて、ゼロスは思わず目を逸らした。それだけでこの人は疑心を確信に変えるというのに。
「俺が刺された事件の後、お前から誘ってくれた辺りからクローゼットを気にしていただろ?」
「何のことか分からない」
「てっきりクローゼットに何かを隠しているのかと思っていたが、こういうことか」
クラウルの笑みが深くなり、誘うように甘く見られる。匂いが濃くなっている気がしてドキドキと心臓が五月蠅い。掴まれている手を強く振り払う事ができない。
「あの時、冷静になっておかしいと思ったんだ。今まで自慰をしても後ろなんて弄っていなかっただろ?」
「それは……」
「なのにあの時、お前は手慣れていた」
「気のせいだ」
「俺のシャツを着て、後ろを弄っていたんだろ」
もう確信だろうな。思ったら諦めがついた。確かに恥ずかしい事でできれば隠したかったが、だからといって認めないといつまでもこのまま、最悪険悪な感じになってしまいかねない。
溜息をついて、ゼロスは視線を外したまま呟いた。
「……アンタを誘うのに、必要だったんだよ」
認めると楽になる。何よりそんなに隠す事ではない。私服を拝借してしまったのは申し訳なかったが、それも謝ればいい話なんだ。
「悪かった。もうしないから」
俯けていた顔を上げると、クラウルは意外にも顔を赤くして口元を手で隠している。そして、なんだか直視できない様子だ。
「いや、アンタがどうして照れるんだよ」
「それは! 可愛いと、思っただけだ」
「……」
駄目だこの人。何か違うものが見えているんじゃないだろうか。
「クラウル、俺は可愛くはないからな」
「俺のシャツを着て後ろを使って自慰をしている時点で可愛いと思うが」
「感覚がおかしい!」
思わず言わずにはいられなくてゼロスは叫んだが、だからって何かが変わるわけではない。なにせクラウルはゼロスにベタ惚れなのだから。
ふわりと笑うクラウルが、そっと頬にキスをする。そして、包むように抱きしめられた。
「お前の事だけ、俺はバカになる。格好もつけたいし、お前を知るほどに好きだと思う」
「恋愛末期すぎるだろ」
「あぁ。だから、俺と一緒になってもらいたい」
ごく自然に出てきた言葉に、少しして心臓が早鐘を打つ。顔がひどく熱くなって、この場にいられないくらい落ち着かない。多分抱きしめられていなかったら逃げていた。
「嫌か?」
「嫌というわけじゃない、けど……恥ずかしい」
悲しそうに目尻を下げられると弱い。どうにも悪いことをしている気がしてくる。
クラウルは一度ゼロスを解放すると自分の荷物を開ける。そして何かを持ってゼロスの前にくると、その前に膝をついた。
「え?」
「受け取ってもらいたい」
出された箱には、銀色に光るシンプルな細い指輪が一つ。彫り込みが綺麗なそれには宝石の類いは入っていない。極力邪魔にならないように配慮されたものだった。
全部が心臓になっているような気がする。それくらい、ドキドキして震えている。突然過ぎて頭の中が真っ白だ。この状況、どうしたらいいんだ?
「……嫌、か?」
「違う! あんまり突然で…………これ、俺がもらっていいのか?」
「お前のサイズだ。他に誰がもらうんだ」
少しムスッとするクラウルに、それもそうだと内心呟く。その後は、あれこれ考えた。
今更離れる事は考えていない。この人が好きだ。最後かと思った時、もう会えないのかと思った時、この人の事ばかりを考えた。少なくとも今死んだら深く後悔するんだと自覚するくらいには好きなんだ。
それに、それなりに付き合いも長い。そしてその間に培ってきたものは時間以上に濃くて深い。更に前々から、こうなりたいと言われていたんだ。
いい流れじゃないか。それぞれの家族に挨拶もして、受け入れてもらって、不安なんてない。一生死ぬまでこの人の側にいるんだと言い切れる。それなら、今は悪くないんだ。
手を差し出す。その手を、クラウルは受け取った。
「何か、言っておくか?」
「俺の前で惚気るのはやめてくれ。恥ずかしくて消えたくなる」
「善処する」
「はぁ……仕方がないな」
その善処はきっとすぐに考慮されなくなる。この人は百パーセントの自信がなければ絶対とは言わない。
「俺は、きっとずっとこのままだけれど、いいのか?」
「勿論だ」
「……年取ったらおっさんだけど。それでも、愛してくれるのか?」
「お互い様だろ?」
「死ぬまで一緒にいて欲しい」
「あぁ、勿論だ。俺は絶対に、お前を離すことはない」
そうか、絶対なのか。そう思ったら、ストンと色んなものが落ちてきた。
クラウルが指輪をはめてくれる。ぴったりとした指輪は本当にゼロスのサイズに合わせてあって、違和感もなくそこにある。月の明かりに手をかざして、銀の指輪を角度を変えて見ているとクラウルが嬉しそうに微笑んだ。
「クラウルのもあるんだろ?」
「あるが」
「出してくれ。はめるから」
驚いた顔をするが、むしろ何故そんな顔をするのか。荷物から出てきたもう一つの箱には同じ指輪が入っている。それを手に取り、クラウルに指にはめた。
「……緊張した」
「これ以上に緊張する場面なんて、いくらでもあっただろ」
「人生で一番だ」
「大げさだな」
「本当だよ」
互いに笑って、キスをして。密かな結婚式のような雰囲気に照れながらゼロスはクラウルの肩にもたれた。
「明日帰ったら、しないか?」
「今夜は駄目なのか?」
「嫌だ。義母さん達に聞かれたら二度と顔を見せられない」
「俺のシャツを着てしてくれるなら応じてもいいぞ」
「気に入ったのか……」
どうやら意外とツボだったらしい。
了承をして二人で潜り込むベッドの中、同じ指輪をした手を握り合ったままで、二人は静かに眠りに落ちた。
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