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19章:建国祭ラブステップ
2話:デート大作戦2(ボリス×フェオドール)
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夜、オルトンが予約しているレストランに少し遅れて入ったフェオドールとボリスは近い席についた。
なかなかシックで雰囲気のいい店で、ピアノの生演奏が恋人達の夜を演出しているようだ。
当然カップルが多く、フェオドールは少し落ち着かない。男女のカップルばかりの店内に男同士のカップルが入るのだ。気後れくらいしてしまう。
「大丈夫、堂々としていなよ」
「うっ、うん」
席につき、事前に予約していたコースが出される。食前酒とオードブルは建国祭カラーである白と赤と緑が鮮やかな一皿。サーモンのカルパッチョ、トマトとズッキーニのコンソメゼリー寄せ、ホタテのバターソテー、アスパラ添え。
久しぶりにこんなしっかりとした前菜を見た気がする。自国にいた時は普通だったが、帝国に来てからは清貧な生活が続いている。もとより贅沢な生活がしたかったわけではないので構わなかったのだ。
「どうしたの? 美味しいよ」
「あぁ、うん! なんか、久しぶりに前菜だなと」
「ふっ、なにそれ。フェオ、君王族だよね?」
「そうだけど! 帝国来てからはこういうレストラン、入る事なかったんだ」
少し拗ねて言うと、目の前のボリスはなんだか申し訳なさそうに笑う。
「今度また、連れてきてあげるよ」
「いいよ」
「特別な日に、ね?」
「……そういうことなら」
綺麗に飾り付けられたサーモンを綺麗な所作で口に運ぶ。程よい塩加減とオイルの美味しさが口に広がって、とても幸せに思えた。
見るとオルトンは噂の女性と楽しそうにしている。相手の女性も落ち着いた様子で笑っている気がする。少し離れていたけれど、十分に楽しめたみたいでほっとした。
そもそも今回の話をボリスからされた時、フェオドールは気が進まなくて断ったのだ。なんだかこそこそと盗み見をしているようで。例えオルトンがついてきてと頼んだのだとしても、相手の女性はいい気がしないだろうと。
けれどその時、ボリスは「これを理由に俺達もデートしよう」と言ってくれた。その甘い響きに、どうしても勝てなかったのだ。
「上手くいってそう」
「だね。ヘタレ兄にしたら上出来だよ」
あまり視線を向けないまま穏やかに話す。前菜が終わり、スープへ。カブのポタージュはカブの優しい甘みとベーコンの僅かな塩み。そしてクリームの滑らかな舌触りが心地よく思う。
ポアソンは鯛を使ったポワレ。白ワインと野菜の味がしみ出したスープが絶品だ。ホタテの上に程よい鯛が乗り、黄金色のスープが彩っている。
「美味しい」
「クシュナートは魚が多いんだっけ」
「うん。外海に向かって港があるし、川魚も。この季節はサーモンが多いかな。塩漬けして干して、保存食にもしてる」
しょっぱいけれど塩みを抜いて料理すると、これがまた美味しい。
そんな事を言っているとほんの少し食べたくなってきてしまう。
そういえば、手紙のやり取りはしても帰っていないのだ。
「……もしかして、帰りたくなった?」
「え?」
「国に。王様にも会いたいでしょ」
何でもない様子でボリスは言うけれど、そう簡単には帰れない。一応事件を起こして国を出てきた身だし、なかなか帰るとは言い出しにくいのだ。
それに、帝国にはボリスがいる。まだ帰るつもりはない。
「いいんだ、私は」
「どうして? 成長した姿、見せたいとか思わないの?」
「それは思うけれど。成長したならむしろ、今は我慢する。五年経てばリシャールの王太子就任の祝いに一度戻る事になっている。その時に、兄上を驚かせるんだ」
まだ一年だ、早すぎる。もっともっと成長して、大人になって、兄を驚かせたい。そしてその時に、帝国との外交官として両国を行き来するという夢を、兄アルヌールに話したいのだ。
目の前に口直しのソルベが置かれる。リンゴのソルベはさっぱりとしていながらもリンゴ本来の甘さと酸味が丁度良く感じた。
メインのアントレは牛ヒレ肉の赤ワインソース。伝統的かつ普遍的な一品だ。
「あっちはもうデザートだね」
一足先に入っていたオルトン達はもうデザートに突入している。心なしかオルトンの様子がおかしい。妙に落ち着かなくてそわそわしている。それに気づいている女性は、ちょっと首を傾げている。
「うわぁ、下手くそ。こういう所が決めきれないんだよな、兄貴」
「そう言わないでよ。やっぱり緊張するもんなんだよ、きっと」
自分も、もしボリスにプロポーズされたら……考えただけで心臓が口から飛び出そう!
「あっ、立ち上がった」
ボリスの気のない言葉に視線を向けると、オルトンは席を立ち上がり小さな箱から指輪を取り出す。それに、女性はとても驚いた様子だった。
上手くいくだろうか。上手くいって欲しい。あんなに必死なのだから、どうか!
フェオドールまで祈るような気持ちでいると、女性はほんのりと赤くなりながらも右手を差し出す。途端、オルトンはパッと表情を明るくして彼女の薬指に指輪をはめた。そして感極まってちょっと泣いていて、女性がハンカチを差し出している。
「まっ、めでたしかな」
「素敵だね」
「そう? もう少しスマートに出来ればいいのにさ」
「そうかな?」
「例えば、こんな風にさ」
そう言ったボリスは上着のポケットから一つの小さな箱を出してフェオドールの前に差し出す。それを開けると、中から小さな指輪が出てきた。
「え…………っ!」
細身のシンプルなリングはつるんとしていて、なんだか特別光っている気がする。鮮やかで明るいオリーブ色の宝石がキラキラしている。
オロオロしてしまう。これは、つまり、そういう意味の指輪でいいのだろうか。
「あっ、あの! これ……は……」
「あれ、いらないの?」
「いる! いや、そうじゃなくて、これ」
「あはは、いい顔。驚いた君の顔って、俺とても好きだよ」
楽しそうに笑うボリスが指輪を手にして、フェオドールの右の薬指にはめる。どうして分かるのか、ぴったりだ。
「俺からの建国祭の贈り物。お返しは、『はい』か『イエス』でお願いね」
「それ、どっちも同じじゃないか」
言いながら笑って、涙がぽろぽろこぼれた。その頬を手で拭うボリスが優しい顔で笑っている。
「もぉ、泣く子は嫌いだって言ってるじゃないか」
「これうれし泣きだから、いいじゃんか」
だって、胸の中が一杯で溢れてくるんだ。嬉しくて嬉しくて……幸せで、たまらないんだ。飛び上がるほど嬉しくて、色んな思いでグチャグチャなんだ。
「まぁ、嬉しいなら仕方がないね」
「ボリスぅ」
「今度、一度帰ろうよ。王様にそれ見せびらかしたいし。それに正式に、君をもらい受けるって言わなきゃだし」
「う、ん。帰る。暖かくなったら、手紙送るよぉ」
「それ、こっちに来るって言わない?」
苦笑するボリスは、それでもどっしり構えてくれている。右手の薬指でキラキラ光る指輪が、今日からフェオドールの宝物になった。
オルトンから今回の話があった時点で、ボリスは計画を考えてくれていたらしい。オルトンが指輪を選ぶのに便乗して自分も指輪を見て、オルトンには知られないようにこっそりと頼んだそうだ。
そしてしっかり明日の有給を勝ち取り、今日はフェオドールの家に泊まる事になった。
「んぅ、ふっ……はぁ……」
帰宅したら我慢出来なくて、転がるように寝室に入ってすぐに、舌を絡め合うようなキスをねだった。角度を変えながらぐちゃぐちゃになるようなキスをして、ボリスの大きな手が後頭部を支えて逃げないようにしている。そんな事しなくても逃げないし、むしろもっと近づきたくて首に手を回した。
「あ、ボリス……」
「エロい顔。もっとって、おねだりしてるの?」
「んっ、してる。もっとボリスが欲しいよぉ」
絡めた舌から頭の中まで痺れている。楽しげに笑うボリスの目は、意外にも獲物を得た獣みたいに光って見える。
ベッドになんて辿り着いていない。閉めたドアに背中を預けたままキスをしていて、ボリスの手が滑るように服の前を開ける。まだほんの少し冷たい指が露わになった乳首を遠慮なく摘まんで、その刺激だけで背中が震えた。
「強くしてるのに、気持ちいいんだもんね」
「気持ち、いいよ。ボリスだからだよ」
「それ、煽ってるの? 今日はやめなよ、後で後悔する」
そんな事言って、凄く飢えた顔をするボリス。この顔を、この目を見ると無性に貪られたいと思ってしまうのはもう、病気なんだと思う。治す気なんてまったくない、むしろもっと拗らせても構わない不治の病。
指が痛いくらいに腫れて尖った乳首を捏ねて弾いて摘まみ上げられて、ずっとジンジンする。痺れているのは直接触られている部分だけじゃない。頭の中はふわふわ浮いているし、下半身は熱を持って少し痛い。
「フェオ、乳首だけでイケるんじゃない?」
「へ?」
「だって乳首だけでここ、こんなになってるし」
言いながら膝でグリッと前を刺激されて、フェオドールは高い声で鳴いた。刺激が強すぎて腰が抜けそうで、腹の奥がキュンと締まった。ズボンの中が大量の先走りでドロドロで気持ち悪い。でも、イケない。
「あっ、先に脱がせればよかったね」
「やっ、あぁ! 恥ずかしいよぉ」
紐を解かれて下着ごと下ろされると、ガチガチに硬くなったものが飛び出してくる。完勃ちしてもそれほど大きくはないそれが先端から透明な露をタラタラ垂らした状態で濡れ光って眼下にある。恥ずかしいのに興奮するのは、どうしようもないフェオドールの性癖なんだ。
「まだ許可がないとイケないの?」
「ちが……よ?」
「じゃあ、可愛い君のトロ顔見せて」
「う、んっ」
嬉しい。見せてって言われて、求められるのがとても心地いい。可愛いなんて言ってくれて、嬉しい。
指が適度な強さで乳首をコリコリと摘まんで、またジンジンして腰が重い。少し痛いくらいの指の強さと、真逆に優しい唇がもう片方を刺激する。頭の中がグチャグチャに掻き回されていく。唇と舌で浮き上がった意識を痺れと痛みで引き戻されて、また優しさで浮かされて。
それでもイクには足りない。決定的な刺激がなくて寸前までいっているのに掴めない。もう苦しくて、ボロボロと涙がこぼれた。
「もっ、イキたい……っ」
苦しくなって泣いてしまうフェオドールを、ボリスは困った弟でも見るような顔で見上げた。
「もぉ、仕方ないな。じゃあ、これでイキなよ?」
そう言って、ボリスは立ち上がって自分の昂ぶりをフェオドールのものに擦りつけた。硬くなって完全に勃ちあがったものが布越しに擦れる。
それだけで、気持ちがカッとせり上がった。こんな痴態を晒しているのに、ボリスはこんなに興奮して前を膨らませている。この変化は自分が彼に与えたものなんだ。
そう思うだけで嬉しくて切なくて興奮して、一緒に強く乳首を捻り上げられて、フェオドールは高い声を上げて達した。前から遠慮がちに白濁を吐き出して、それ以上に後ろがキュゥウッと締まって疼いてたまらなくて、腰が痺れて立っていられなくてズルズルと扉を背にへたり込んだ。
「あまり出なかったね」
「はぁ……はぁ……あっ、んぅぅ」
「でも、余韻は深いんだ。それに、後ろが切ない?」
「ボリスぅ」
うるうるの目で見上げるフェオドールに、ボリスはとても楽しそうな笑みを浮かべた。
「腰抜けちゃったかな? どうする? ここでする?」
一瞬、それもいいなと思った。ベッドがあるのに使わず、こんな硬い床の上でいいように貪られるように犯されるなんて、被虐心を大いにくすぐられる。考えただけで後ろがヒクヒク蠢いて欲しいと訴えてくる。
けれどフェオドールは首を横に振った。今日は……今日だけはベッドでボリスの顔を見ながらしたい。だって今日は、人生で一度だけの大切な日なんだから。
「ベッド、がいい」
「特別な日だもんね」
「ベッドで、ボリスのお口に欲しい」
「いいよ、あげる」
とても大切なものを運ぶみたいに、ボリスはお姫様抱っこをして丁寧にベッドに連れて行ってくれる。改めてキスからやり直して、フェオドールはボリスのズボンをそっと下ろした。
同じ男の逸物なのに、自分とはまったく形も大きさも違うものが目の前にある。フェオドールのは勃起してもあまり大きくはなくて、形も凹凸があまりしっかりあるとは言えない。お子様までは言わないけれど。
それに比べてボリスのはしっかりとカリが張っていて、羨ましくもある。大きさは苦痛になるほどではないけれど、硬くてしっかり中を掻き回してくれる。
そんな事を考えていると、また後ろが切なく疼いた。腹の奥の方がずっとキュンキュンしている。そのうち何もしていないのに濡れたらどうしよう。
亀頭を口に含むとボリスの匂いがする。それに、頭の中が痺れる。唾液を絡めてまずはゆっくりと飲み込んでいき、口をすぼめて吸い上げた。
「好きだよね、フェオ。美味しい?」
「ん、美味しい」
「それなら、存分にどうぞ。好きなようにしゃぶって、俺をイカせて」
指令が下った。そう認識すると従順に従いたくなる。深く咥えて舌を使って筋を舐めたり、嫌らしい音を立てて追い上げたり、咥えたまま上目遣いに見てみたり。全部、ボリスは好きだ。
余裕そうな瞳に薄らと熱が浮いて、口元が三日月のような笑みを作る。優しく細められているはずなのに、安心ではなく焦燥感がこみ上げてくる。
手が優しく髪を梳いて、よしよしと撫でてくれた。
「上手だよ、フェオ。美味しい?」
「(こくこく)」
「もっと、先端吸って」
頬を指先がくすぐって、やんわりと導かれる。言われるままに先端を口腔に納めて吸い上げ、舌で先っぽを舐めると口の中にボリスの味が広がって大きくなっていく。
「んっ、上手だよ。そろそろ出そうだけど、掛けようか?」
ボリスの申し出に、フェオドールは小さく首を横に振る。
「奥に流していい?」
「いいけど、苦しいでしょ」
「欲しい。ボリスのでお腹いっぱいになりたい」
「いや、流石にそんなには出ないけど……まぁ、好きにしていいよ」
普段、あまり奥にはくれない。気道が塞がりそうだし、実際とてもくるしい。お口に出してもらって飲み込むのもいいけれど、今日は有無を言わさず流し込まれたい。
無理のない角度、苦しくないように気をつけて追い上げ、徐々に深くまで飲み込んでいく。喉仏の辺りまで先端が来て、むせそうになる。でも熱い物が粘膜に擦れて、征服されている感じがしていい。
「っ! 出すよっ」
「っっ!! ぅぐ!」
深く喉奥まで入れた瞬間に、ボリスは自ら根元を扱いて中に吐き出した。舌に絡むとか、そんなことのない強制感で流し込まれる白濁がドロリと落ちていく。生理的な涙が落ちて、苦しくてイッた。同時にボリスで一杯になって、凄く満たされた気持ちになっていく。
直ぐにずるりと抜けた楔が名残惜しい。ほんの一瞬だけれど止まった呼吸を必死でする。腹の底から彼で満たされると、なんだか全部が愛しく思える。
「大丈夫?」
「んっ、大丈夫だよ。ボク、幸せ」
トロンとした顔のまま微笑むと、ボリスは困った顔で笑う。知っているよ、その顔はまんざらでもないんだって。
「少し良くなったけれど、相変わらず自虐的なプレイが好きだね」
「いけないかな?」
「まぁ、君が嫌じゃないならいいよ。俺も嫌いじゃない」
猫の喉を転がすみたいに、指が肌をくすぐる。これ、とても好きだ。
「さて、後ろを向いて。楽な姿勢でね」
「もう、挿れる?」
「まだ挿れないよ。解すだけ」
「今日はボリスの顔が見たいの」
「股関節辛いけど、いいの?」
「んっ、平気。ボリスと沢山キスしたい」
「今日は欲張りだね」
「……ダメだった?」
不安になって問いかける。それに返ってきたのは優しい笑みと、額へのキスだった。
「上出来だよ、フェオドール」
優しく褒められた。それだけで気持ちがまた嬉しくて浮き上がる。フェオドールはニコニコと笑って四つん這いになり、お尻を高く上げた。
指が二本、遠慮なく後孔へと入り込んでくる。香油でぬるりと滑るから何の辛さもない。その指がやわやわと柔らかい肉壁を押し上げ、硬くなっている前立腺を押し上げて、また甘く重い痺れが溜まってくる。
「ちゃんと綺麗にして、慣らしてるんだね。偉いよ」
「んっ、いい子?」
「いい子」
空いている手が頭を撫でる。それだけでとても嬉しい。
ボリスと約束のある日は必ず準備をするようにしている。こういうことをしないかもしれないけれど、突発的にするとなったら困るから。今日も勿論出かける前に準備はしてきた。無駄にならなくて良かった。
「でも、たまには俺がするよ」
「え? でも……」
手間だし、見られるのが恥ずかしい。
そんな部分を分かっているのか、ボリスが指を増やしながら笑った。
「恥ずかしがる君は可愛いしね」
「っ! あの、そういうことなら……」
そういうプレイとして受け取る事にした。
十分に解され、指では物足りなくなったくらいで、ボリスが指を抜いてボリスを仰向けにする。いつの間にか脱いでいて驚いたけれど、思えば気持ち良くて何度か飛んでたっけ。
「いい?」
優しい声で問いかけられて、フェオドールは頷いた。両膝を抱え上げられて、後孔に熱い切っ先が当たる。数度コンコンと確かめるようにノックされて、物欲しげに後孔が口を開けたのを合図に、ボリスの熱い楔が強い力で暴いてくる。
痛みなんてないけれど、圧迫感はある。気持ちよさと苦しさに嬌声を上げ、生理的な涙がポロッとこぼれて、全部の息を吐ききって受け止めた。
「上手だよ、フェオ」
よしよしと褒められると嬉しい。笑うと、目尻にキスをされる。楔はしっかりと肉壺に埋まって、フェオドールは美味しそうにそれに食いついた。
「美味しそうに食べるね、フェオ。とても気持ちいいよ」
「んっ、ボクも気持ちいいの」
「分かる? 中が凄く熱くて、俺のを一生懸命中に誘い込もうとしてる」
甘い声でそんな事を言われると恥ずかしい。でもその恥ずかしいに興奮して、また中が締まる。ボリスの濡れた瞳が鋭く細められて、熱い息が吐かれる。
「変態さん、恥ずかしいのがいいの?」
「んっ! あぁ、いいのぉ」
僅かにずるりと抜け落ちて、力強く突き上げられる。奥を抉るように突き上げられて息が止まりそう。気持ち良くて頭の中が真っ白で、声が抑えられない。
「イッてるね。凄い締め付け」
「ひゃん! あっ、らめぇぇ」
「ダメじゃなくて、イイでしょ?」
「イイ! イイのぉ! よすぎてらめなのぉ」
訳わかんないくらい気持ちがいい。ボリスが動くだけで全部痺れてくる。頭の中まで気持ちよくて真っ白になって、力なんて何にも入らない。
「っ! 本当に名器だよ、フェオ」
凄く凄く、鋭い男の顔。貪られている感じが、求められている感じが、全部この人のものになっていく感じが嬉しすぎてたまらない。この人に会うまでセックスが嫌いだったから、こうして満たされる今がとても幸せ。
突かれながら乳首を捻り上げられ、声が枯れそうなくらい鳴いた。キスをして、グチャグチャになりながら求め合った。
「っ! もう、どれだけ絡みつくの? ここ、どんな風になってるんだろうね」
「あぁ! やぁぁ!」
外側からお腹を撫でられると、なんだかゾクゾクする。中にいるボリスをより感じる気がする。頭、ボーッとなってきた。息、できてるのかな?
「奥に出していいね?」
もう、こくこくと頷くしかできない。深く深く繋がるようにキスをしながら受け入れて、最奥を抉るように擦られて、真っ白に飛んだ。もう、見えているけれど喘ぐしかできない。大切に抱きしめられたまま、ボリスが大きく震えて叩きつけるように腰を進めてくる。苦しくて気持ち良くて可笑しくなりそうな波が全部さらっていく。
「はぁ! はっ、あぁぁ――――――っっ!」
「くっ!」
ぎゅぅぅぅぅっ! と絞るようにボリスを締め付けている。一緒に中だけでイッた。大波が全部浚っていったようで、快楽の中でブツンと何かが切れて、その後は動けなくてただ息をした。ひくっ、ひくっと体が勝手にあちこち痙攣して、足とか全部弛緩して動かない。涙がずっと止まらなかった。
「無理させちゃったね」
優しい手が頬を落ちる涙を拭ってくれる。それが心地よくて、笑おうとしたけれど、ちゃんと動けているか分からない。
「いいよ、寝ちゃって」
いい子いい子と頭を撫でられ、抱きしめてキスをしてくれて。少し落ち着いてくると体がだるくて疲れて眠い。瞼がどうしても落ちてきてしまう。
「ボリスぅ」
「なに?」
「好きだよぉ」
眠る前のまどろみの中、寝ぼけたような声で口にする「好き」という言葉。
ボリスは目を丸くして、珍しく照れたような笑みを見せて撫でてくれた。
「俺もだよ」
思ってもみない愛の言葉。元気なら、抱きついていたのに。
でも今日はボリスの方から抱きしめてくれるから、安心して眠れる。
トロトロと訪れる眠気に身を任せ、フェオドールはふにゃっと笑って眠りに落ちた。
なかなかシックで雰囲気のいい店で、ピアノの生演奏が恋人達の夜を演出しているようだ。
当然カップルが多く、フェオドールは少し落ち着かない。男女のカップルばかりの店内に男同士のカップルが入るのだ。気後れくらいしてしまう。
「大丈夫、堂々としていなよ」
「うっ、うん」
席につき、事前に予約していたコースが出される。食前酒とオードブルは建国祭カラーである白と赤と緑が鮮やかな一皿。サーモンのカルパッチョ、トマトとズッキーニのコンソメゼリー寄せ、ホタテのバターソテー、アスパラ添え。
久しぶりにこんなしっかりとした前菜を見た気がする。自国にいた時は普通だったが、帝国に来てからは清貧な生活が続いている。もとより贅沢な生活がしたかったわけではないので構わなかったのだ。
「どうしたの? 美味しいよ」
「あぁ、うん! なんか、久しぶりに前菜だなと」
「ふっ、なにそれ。フェオ、君王族だよね?」
「そうだけど! 帝国来てからはこういうレストラン、入る事なかったんだ」
少し拗ねて言うと、目の前のボリスはなんだか申し訳なさそうに笑う。
「今度また、連れてきてあげるよ」
「いいよ」
「特別な日に、ね?」
「……そういうことなら」
綺麗に飾り付けられたサーモンを綺麗な所作で口に運ぶ。程よい塩加減とオイルの美味しさが口に広がって、とても幸せに思えた。
見るとオルトンは噂の女性と楽しそうにしている。相手の女性も落ち着いた様子で笑っている気がする。少し離れていたけれど、十分に楽しめたみたいでほっとした。
そもそも今回の話をボリスからされた時、フェオドールは気が進まなくて断ったのだ。なんだかこそこそと盗み見をしているようで。例えオルトンがついてきてと頼んだのだとしても、相手の女性はいい気がしないだろうと。
けれどその時、ボリスは「これを理由に俺達もデートしよう」と言ってくれた。その甘い響きに、どうしても勝てなかったのだ。
「上手くいってそう」
「だね。ヘタレ兄にしたら上出来だよ」
あまり視線を向けないまま穏やかに話す。前菜が終わり、スープへ。カブのポタージュはカブの優しい甘みとベーコンの僅かな塩み。そしてクリームの滑らかな舌触りが心地よく思う。
ポアソンは鯛を使ったポワレ。白ワインと野菜の味がしみ出したスープが絶品だ。ホタテの上に程よい鯛が乗り、黄金色のスープが彩っている。
「美味しい」
「クシュナートは魚が多いんだっけ」
「うん。外海に向かって港があるし、川魚も。この季節はサーモンが多いかな。塩漬けして干して、保存食にもしてる」
しょっぱいけれど塩みを抜いて料理すると、これがまた美味しい。
そんな事を言っているとほんの少し食べたくなってきてしまう。
そういえば、手紙のやり取りはしても帰っていないのだ。
「……もしかして、帰りたくなった?」
「え?」
「国に。王様にも会いたいでしょ」
何でもない様子でボリスは言うけれど、そう簡単には帰れない。一応事件を起こして国を出てきた身だし、なかなか帰るとは言い出しにくいのだ。
それに、帝国にはボリスがいる。まだ帰るつもりはない。
「いいんだ、私は」
「どうして? 成長した姿、見せたいとか思わないの?」
「それは思うけれど。成長したならむしろ、今は我慢する。五年経てばリシャールの王太子就任の祝いに一度戻る事になっている。その時に、兄上を驚かせるんだ」
まだ一年だ、早すぎる。もっともっと成長して、大人になって、兄を驚かせたい。そしてその時に、帝国との外交官として両国を行き来するという夢を、兄アルヌールに話したいのだ。
目の前に口直しのソルベが置かれる。リンゴのソルベはさっぱりとしていながらもリンゴ本来の甘さと酸味が丁度良く感じた。
メインのアントレは牛ヒレ肉の赤ワインソース。伝統的かつ普遍的な一品だ。
「あっちはもうデザートだね」
一足先に入っていたオルトン達はもうデザートに突入している。心なしかオルトンの様子がおかしい。妙に落ち着かなくてそわそわしている。それに気づいている女性は、ちょっと首を傾げている。
「うわぁ、下手くそ。こういう所が決めきれないんだよな、兄貴」
「そう言わないでよ。やっぱり緊張するもんなんだよ、きっと」
自分も、もしボリスにプロポーズされたら……考えただけで心臓が口から飛び出そう!
「あっ、立ち上がった」
ボリスの気のない言葉に視線を向けると、オルトンは席を立ち上がり小さな箱から指輪を取り出す。それに、女性はとても驚いた様子だった。
上手くいくだろうか。上手くいって欲しい。あんなに必死なのだから、どうか!
フェオドールまで祈るような気持ちでいると、女性はほんのりと赤くなりながらも右手を差し出す。途端、オルトンはパッと表情を明るくして彼女の薬指に指輪をはめた。そして感極まってちょっと泣いていて、女性がハンカチを差し出している。
「まっ、めでたしかな」
「素敵だね」
「そう? もう少しスマートに出来ればいいのにさ」
「そうかな?」
「例えば、こんな風にさ」
そう言ったボリスは上着のポケットから一つの小さな箱を出してフェオドールの前に差し出す。それを開けると、中から小さな指輪が出てきた。
「え…………っ!」
細身のシンプルなリングはつるんとしていて、なんだか特別光っている気がする。鮮やかで明るいオリーブ色の宝石がキラキラしている。
オロオロしてしまう。これは、つまり、そういう意味の指輪でいいのだろうか。
「あっ、あの! これ……は……」
「あれ、いらないの?」
「いる! いや、そうじゃなくて、これ」
「あはは、いい顔。驚いた君の顔って、俺とても好きだよ」
楽しそうに笑うボリスが指輪を手にして、フェオドールの右の薬指にはめる。どうして分かるのか、ぴったりだ。
「俺からの建国祭の贈り物。お返しは、『はい』か『イエス』でお願いね」
「それ、どっちも同じじゃないか」
言いながら笑って、涙がぽろぽろこぼれた。その頬を手で拭うボリスが優しい顔で笑っている。
「もぉ、泣く子は嫌いだって言ってるじゃないか」
「これうれし泣きだから、いいじゃんか」
だって、胸の中が一杯で溢れてくるんだ。嬉しくて嬉しくて……幸せで、たまらないんだ。飛び上がるほど嬉しくて、色んな思いでグチャグチャなんだ。
「まぁ、嬉しいなら仕方がないね」
「ボリスぅ」
「今度、一度帰ろうよ。王様にそれ見せびらかしたいし。それに正式に、君をもらい受けるって言わなきゃだし」
「う、ん。帰る。暖かくなったら、手紙送るよぉ」
「それ、こっちに来るって言わない?」
苦笑するボリスは、それでもどっしり構えてくれている。右手の薬指でキラキラ光る指輪が、今日からフェオドールの宝物になった。
オルトンから今回の話があった時点で、ボリスは計画を考えてくれていたらしい。オルトンが指輪を選ぶのに便乗して自分も指輪を見て、オルトンには知られないようにこっそりと頼んだそうだ。
そしてしっかり明日の有給を勝ち取り、今日はフェオドールの家に泊まる事になった。
「んぅ、ふっ……はぁ……」
帰宅したら我慢出来なくて、転がるように寝室に入ってすぐに、舌を絡め合うようなキスをねだった。角度を変えながらぐちゃぐちゃになるようなキスをして、ボリスの大きな手が後頭部を支えて逃げないようにしている。そんな事しなくても逃げないし、むしろもっと近づきたくて首に手を回した。
「あ、ボリス……」
「エロい顔。もっとって、おねだりしてるの?」
「んっ、してる。もっとボリスが欲しいよぉ」
絡めた舌から頭の中まで痺れている。楽しげに笑うボリスの目は、意外にも獲物を得た獣みたいに光って見える。
ベッドになんて辿り着いていない。閉めたドアに背中を預けたままキスをしていて、ボリスの手が滑るように服の前を開ける。まだほんの少し冷たい指が露わになった乳首を遠慮なく摘まんで、その刺激だけで背中が震えた。
「強くしてるのに、気持ちいいんだもんね」
「気持ち、いいよ。ボリスだからだよ」
「それ、煽ってるの? 今日はやめなよ、後で後悔する」
そんな事言って、凄く飢えた顔をするボリス。この顔を、この目を見ると無性に貪られたいと思ってしまうのはもう、病気なんだと思う。治す気なんてまったくない、むしろもっと拗らせても構わない不治の病。
指が痛いくらいに腫れて尖った乳首を捏ねて弾いて摘まみ上げられて、ずっとジンジンする。痺れているのは直接触られている部分だけじゃない。頭の中はふわふわ浮いているし、下半身は熱を持って少し痛い。
「フェオ、乳首だけでイケるんじゃない?」
「へ?」
「だって乳首だけでここ、こんなになってるし」
言いながら膝でグリッと前を刺激されて、フェオドールは高い声で鳴いた。刺激が強すぎて腰が抜けそうで、腹の奥がキュンと締まった。ズボンの中が大量の先走りでドロドロで気持ち悪い。でも、イケない。
「あっ、先に脱がせればよかったね」
「やっ、あぁ! 恥ずかしいよぉ」
紐を解かれて下着ごと下ろされると、ガチガチに硬くなったものが飛び出してくる。完勃ちしてもそれほど大きくはないそれが先端から透明な露をタラタラ垂らした状態で濡れ光って眼下にある。恥ずかしいのに興奮するのは、どうしようもないフェオドールの性癖なんだ。
「まだ許可がないとイケないの?」
「ちが……よ?」
「じゃあ、可愛い君のトロ顔見せて」
「う、んっ」
嬉しい。見せてって言われて、求められるのがとても心地いい。可愛いなんて言ってくれて、嬉しい。
指が適度な強さで乳首をコリコリと摘まんで、またジンジンして腰が重い。少し痛いくらいの指の強さと、真逆に優しい唇がもう片方を刺激する。頭の中がグチャグチャに掻き回されていく。唇と舌で浮き上がった意識を痺れと痛みで引き戻されて、また優しさで浮かされて。
それでもイクには足りない。決定的な刺激がなくて寸前までいっているのに掴めない。もう苦しくて、ボロボロと涙がこぼれた。
「もっ、イキたい……っ」
苦しくなって泣いてしまうフェオドールを、ボリスは困った弟でも見るような顔で見上げた。
「もぉ、仕方ないな。じゃあ、これでイキなよ?」
そう言って、ボリスは立ち上がって自分の昂ぶりをフェオドールのものに擦りつけた。硬くなって完全に勃ちあがったものが布越しに擦れる。
それだけで、気持ちがカッとせり上がった。こんな痴態を晒しているのに、ボリスはこんなに興奮して前を膨らませている。この変化は自分が彼に与えたものなんだ。
そう思うだけで嬉しくて切なくて興奮して、一緒に強く乳首を捻り上げられて、フェオドールは高い声を上げて達した。前から遠慮がちに白濁を吐き出して、それ以上に後ろがキュゥウッと締まって疼いてたまらなくて、腰が痺れて立っていられなくてズルズルと扉を背にへたり込んだ。
「あまり出なかったね」
「はぁ……はぁ……あっ、んぅぅ」
「でも、余韻は深いんだ。それに、後ろが切ない?」
「ボリスぅ」
うるうるの目で見上げるフェオドールに、ボリスはとても楽しそうな笑みを浮かべた。
「腰抜けちゃったかな? どうする? ここでする?」
一瞬、それもいいなと思った。ベッドがあるのに使わず、こんな硬い床の上でいいように貪られるように犯されるなんて、被虐心を大いにくすぐられる。考えただけで後ろがヒクヒク蠢いて欲しいと訴えてくる。
けれどフェオドールは首を横に振った。今日は……今日だけはベッドでボリスの顔を見ながらしたい。だって今日は、人生で一度だけの大切な日なんだから。
「ベッド、がいい」
「特別な日だもんね」
「ベッドで、ボリスのお口に欲しい」
「いいよ、あげる」
とても大切なものを運ぶみたいに、ボリスはお姫様抱っこをして丁寧にベッドに連れて行ってくれる。改めてキスからやり直して、フェオドールはボリスのズボンをそっと下ろした。
同じ男の逸物なのに、自分とはまったく形も大きさも違うものが目の前にある。フェオドールのは勃起してもあまり大きくはなくて、形も凹凸があまりしっかりあるとは言えない。お子様までは言わないけれど。
それに比べてボリスのはしっかりとカリが張っていて、羨ましくもある。大きさは苦痛になるほどではないけれど、硬くてしっかり中を掻き回してくれる。
そんな事を考えていると、また後ろが切なく疼いた。腹の奥の方がずっとキュンキュンしている。そのうち何もしていないのに濡れたらどうしよう。
亀頭を口に含むとボリスの匂いがする。それに、頭の中が痺れる。唾液を絡めてまずはゆっくりと飲み込んでいき、口をすぼめて吸い上げた。
「好きだよね、フェオ。美味しい?」
「ん、美味しい」
「それなら、存分にどうぞ。好きなようにしゃぶって、俺をイカせて」
指令が下った。そう認識すると従順に従いたくなる。深く咥えて舌を使って筋を舐めたり、嫌らしい音を立てて追い上げたり、咥えたまま上目遣いに見てみたり。全部、ボリスは好きだ。
余裕そうな瞳に薄らと熱が浮いて、口元が三日月のような笑みを作る。優しく細められているはずなのに、安心ではなく焦燥感がこみ上げてくる。
手が優しく髪を梳いて、よしよしと撫でてくれた。
「上手だよ、フェオ。美味しい?」
「(こくこく)」
「もっと、先端吸って」
頬を指先がくすぐって、やんわりと導かれる。言われるままに先端を口腔に納めて吸い上げ、舌で先っぽを舐めると口の中にボリスの味が広がって大きくなっていく。
「んっ、上手だよ。そろそろ出そうだけど、掛けようか?」
ボリスの申し出に、フェオドールは小さく首を横に振る。
「奥に流していい?」
「いいけど、苦しいでしょ」
「欲しい。ボリスのでお腹いっぱいになりたい」
「いや、流石にそんなには出ないけど……まぁ、好きにしていいよ」
普段、あまり奥にはくれない。気道が塞がりそうだし、実際とてもくるしい。お口に出してもらって飲み込むのもいいけれど、今日は有無を言わさず流し込まれたい。
無理のない角度、苦しくないように気をつけて追い上げ、徐々に深くまで飲み込んでいく。喉仏の辺りまで先端が来て、むせそうになる。でも熱い物が粘膜に擦れて、征服されている感じがしていい。
「っ! 出すよっ」
「っっ!! ぅぐ!」
深く喉奥まで入れた瞬間に、ボリスは自ら根元を扱いて中に吐き出した。舌に絡むとか、そんなことのない強制感で流し込まれる白濁がドロリと落ちていく。生理的な涙が落ちて、苦しくてイッた。同時にボリスで一杯になって、凄く満たされた気持ちになっていく。
直ぐにずるりと抜けた楔が名残惜しい。ほんの一瞬だけれど止まった呼吸を必死でする。腹の底から彼で満たされると、なんだか全部が愛しく思える。
「大丈夫?」
「んっ、大丈夫だよ。ボク、幸せ」
トロンとした顔のまま微笑むと、ボリスは困った顔で笑う。知っているよ、その顔はまんざらでもないんだって。
「少し良くなったけれど、相変わらず自虐的なプレイが好きだね」
「いけないかな?」
「まぁ、君が嫌じゃないならいいよ。俺も嫌いじゃない」
猫の喉を転がすみたいに、指が肌をくすぐる。これ、とても好きだ。
「さて、後ろを向いて。楽な姿勢でね」
「もう、挿れる?」
「まだ挿れないよ。解すだけ」
「今日はボリスの顔が見たいの」
「股関節辛いけど、いいの?」
「んっ、平気。ボリスと沢山キスしたい」
「今日は欲張りだね」
「……ダメだった?」
不安になって問いかける。それに返ってきたのは優しい笑みと、額へのキスだった。
「上出来だよ、フェオドール」
優しく褒められた。それだけで気持ちがまた嬉しくて浮き上がる。フェオドールはニコニコと笑って四つん這いになり、お尻を高く上げた。
指が二本、遠慮なく後孔へと入り込んでくる。香油でぬるりと滑るから何の辛さもない。その指がやわやわと柔らかい肉壁を押し上げ、硬くなっている前立腺を押し上げて、また甘く重い痺れが溜まってくる。
「ちゃんと綺麗にして、慣らしてるんだね。偉いよ」
「んっ、いい子?」
「いい子」
空いている手が頭を撫でる。それだけでとても嬉しい。
ボリスと約束のある日は必ず準備をするようにしている。こういうことをしないかもしれないけれど、突発的にするとなったら困るから。今日も勿論出かける前に準備はしてきた。無駄にならなくて良かった。
「でも、たまには俺がするよ」
「え? でも……」
手間だし、見られるのが恥ずかしい。
そんな部分を分かっているのか、ボリスが指を増やしながら笑った。
「恥ずかしがる君は可愛いしね」
「っ! あの、そういうことなら……」
そういうプレイとして受け取る事にした。
十分に解され、指では物足りなくなったくらいで、ボリスが指を抜いてボリスを仰向けにする。いつの間にか脱いでいて驚いたけれど、思えば気持ち良くて何度か飛んでたっけ。
「いい?」
優しい声で問いかけられて、フェオドールは頷いた。両膝を抱え上げられて、後孔に熱い切っ先が当たる。数度コンコンと確かめるようにノックされて、物欲しげに後孔が口を開けたのを合図に、ボリスの熱い楔が強い力で暴いてくる。
痛みなんてないけれど、圧迫感はある。気持ちよさと苦しさに嬌声を上げ、生理的な涙がポロッとこぼれて、全部の息を吐ききって受け止めた。
「上手だよ、フェオ」
よしよしと褒められると嬉しい。笑うと、目尻にキスをされる。楔はしっかりと肉壺に埋まって、フェオドールは美味しそうにそれに食いついた。
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「分かる? 中が凄く熱くて、俺のを一生懸命中に誘い込もうとしてる」
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「んっ! あぁ、いいのぉ」
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「イッてるね。凄い締め付け」
「ひゃん! あっ、らめぇぇ」
「ダメじゃなくて、イイでしょ?」
「イイ! イイのぉ! よすぎてらめなのぉ」
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「っ! 本当に名器だよ、フェオ」
凄く凄く、鋭い男の顔。貪られている感じが、求められている感じが、全部この人のものになっていく感じが嬉しすぎてたまらない。この人に会うまでセックスが嫌いだったから、こうして満たされる今がとても幸せ。
突かれながら乳首を捻り上げられ、声が枯れそうなくらい鳴いた。キスをして、グチャグチャになりながら求め合った。
「っ! もう、どれだけ絡みつくの? ここ、どんな風になってるんだろうね」
「あぁ! やぁぁ!」
外側からお腹を撫でられると、なんだかゾクゾクする。中にいるボリスをより感じる気がする。頭、ボーッとなってきた。息、できてるのかな?
「奥に出していいね?」
もう、こくこくと頷くしかできない。深く深く繋がるようにキスをしながら受け入れて、最奥を抉るように擦られて、真っ白に飛んだ。もう、見えているけれど喘ぐしかできない。大切に抱きしめられたまま、ボリスが大きく震えて叩きつけるように腰を進めてくる。苦しくて気持ち良くて可笑しくなりそうな波が全部さらっていく。
「はぁ! はっ、あぁぁ――――――っっ!」
「くっ!」
ぎゅぅぅぅぅっ! と絞るようにボリスを締め付けている。一緒に中だけでイッた。大波が全部浚っていったようで、快楽の中でブツンと何かが切れて、その後は動けなくてただ息をした。ひくっ、ひくっと体が勝手にあちこち痙攣して、足とか全部弛緩して動かない。涙がずっと止まらなかった。
「無理させちゃったね」
優しい手が頬を落ちる涙を拭ってくれる。それが心地よくて、笑おうとしたけれど、ちゃんと動けているか分からない。
「いいよ、寝ちゃって」
いい子いい子と頭を撫でられ、抱きしめてキスをしてくれて。少し落ち着いてくると体がだるくて疲れて眠い。瞼がどうしても落ちてきてしまう。
「ボリスぅ」
「なに?」
「好きだよぉ」
眠る前のまどろみの中、寝ぼけたような声で口にする「好き」という言葉。
ボリスは目を丸くして、珍しく照れたような笑みを見せて撫でてくれた。
「俺もだよ」
思ってもみない愛の言葉。元気なら、抱きついていたのに。
でも今日はボリスの方から抱きしめてくれるから、安心して眠れる。
トロトロと訪れる眠気に身を任せ、フェオドールはふにゃっと笑って眠りに落ちた。
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