【完結】顔だけと言われた騎士は大成を誓う

凪瀬夜霧

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1章

3話 パーティー潜入(3)

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◇◆◇

 ウィルフリードに招かれて会場の奥にある個室へと向かったルークは、そこで疑惑の部屋の隣に入った。ウィルフリードは安全の為に会場で最も堅牢な一室に居てもらう。最悪、彼の命令が必要な場面も考えて帰るのは待ってもらった。

 部屋の明かりは落とし、窓には重厚なカーテンが掛かっている。
 ひっそりと空けた盗聴用の穴の近くに声を拾う魔道具を設置し、耳元に受信機を置く。録音もしているが、こちらはあまり機能が良くなくてノイズが多いのが痛い。
 だがリアルタイムで聞くルークの耳にはよく聞こえていた。

「ハーマンとの連絡はまだ取れないのか」

 五十代くらいの男の声が厳しさを滲ませている。苛立ちもあるか。
 それに返したのは、まだ若そうな男だ。

「申し訳ありません! どうも騎士団内部の厳重な療養施設にいるらしく、接触もままならないと」
「何の為に騎士団内部に子息を入れている! 第一騎士団ならば」
「それが、場を仕切っているのは第二騎士団らしく。その第二も王太子の命令で動いて居ると」
「王太子か」

 憎らしさを滲ませる声音だ。だが、ここまでは狙い通りに動いているようだ。

「金の払いが滞れば、あの方がどのように思うか」

 あの方?

 何か不穏な様子に聞こえて身構える。此奴らが何かを画策していると踏んでいたのだが、どうやらその裏にまだいるようだ。
 貴族派の中心になっている者達は知っている。その中でも派閥があり、話し合いでどうにか貴族の地位を以前に戻そうとしている穏健派と、妥当国王を掲げる過激派。今集まっているのは過激派だ。

「失礼ですが、あの者達が言っていた事は本当なのですか?」

 別の男の声が不安そうに問いかけている。これに、頷く気配がある。
 リーダーらしい五十代の男が、これに声を荒らげた。

「あの方のお力は本物だ。神を凌牙するお力をお持ちなのだ」
「そんな、滅多な事を口になさいませんように。教会まで睨んできたら身動きが」
「なに、教会など直ぐに瓦解する。奴等に人など救えはしないのさ」

 随分な自信と不穏さだ。何かとんでもないことをしようとしているのか?
 それに、“あの方”だ。これが妙に気になる。勘でしかないが、ヤバい臭いがする。

「そのお力の一端は直ぐに見られる。今夜、間もなくだ」
「!」

 その言葉に、ルークは嫌な汗をかいた。今夜……まさかここでか!
 だが、入口では持ち物の検査もされている。王太子がくる夜会に武器など持ち込めない。だからルークもクリスも今日は剣を持っていないんだ。

 勝ち誇ったような男の声がする。それがゾロゾロと扉の方へ。

 パッと立ち上がったルークがドアを開けるのと、五人の貴族が部屋を出るのはほぼ同時。ギョッとした彼らは「不敬だぞ!」と声を上げたが知ったことか。
 瞬時に距離を詰めたルークは手前の一人の腕を掴み、引き込むと同時に関節を曲げて肩を外して転がす。
 これに驚き逃げた五十代の男を追いかけるが、その前に腰を抜かした若い男を蹴り飛ばして気絶させておいた。

「誰か、そいつら縛り上げろ!」

 今日は王太子の影部隊もいるはず。無造作に声をかけると人が動く気配がある。それで十分だ。
 逃げる残り三人を追いかけているが、二人は散り散りに逃げて追うのを断念した。ならば主軸の男を!
 そう思った時、会場の方から悲鳴が上がった。会場が揺れるような悲鳴にハッと気を取られるが、目の前の獲物を逃がせば後々が厄介になる。
 それに、会場にはクリスがいる。本人はまだまだだと言うが、あれで十分実力はある。状況も判断できる。負けん気の強さも、諦めない根性も認めている。
 今少しだけ耐えられる。直ぐでも駆けつけたい思いはあるが……信じている。

 こんな時、剣がないのが悔やまれる。それでも追いつき、手を伸ばすそこに黒い影が入り込んで指先が痺れた。

「なに!」
「ほぉ、直撃を避けましたか」

 黒衣に黒い仮面の男が二人。一人はルークと対峙し、もう一人は主軸の男を逃がしている。
 ジリッと間合いを計って対峙している間に、ターゲットは逃げてしまった。

「まさかこのような場所で、黒衣の死神に出会うとは」
「何者だ」
「あの方の使い、とだけ」
「っ!」

 また“あの方”か。大層なものだ。

「では、我々も退場を」
「逃がすか!」

 剣がないなら魔法だが、ルークの魔法は炎が主体。室内戦はとことん向いていない。それでも火球を手元に作り込むと、目の前の男はニッと笑みを浮かべて手を大きく天へ掲げた。

『ファイアーボール!』
『ライトニング!』

 火球が真っ直ぐに黒ローブへと飛び、その間を縫うように雷撃がルークへと向かってくる。
 直撃は避けた。だが雷魔法は余波がある。それに当たるだけでも痺れが走る。黒ローブの放った雷撃魔法は規模も魔力も多かったのか、余波の幅も威力も大きかった。

「くっ!」

 ビリビリと痺れた左手と左足。力が入らない左側を庇って右の足を突っ張り、更に右の手で追撃の火球を放つ。その一つが、黒いローブの裾を僅かに焼いた。

「ほぉ、流石です。ですが、貴方もこれ以上は動けない。本日はこれまでといたしましょう。再戦は、またいずれ」
「っ! 待て!」

 声を荒らげるが、これで待つ相手でもない。闇に溶けるように姿が消えて、後には動けないルークと少し遠くに聞こえる悲鳴だけだ。

「くそがっ」

 どうにか立ち上がり、ままならない左側を引き摺っていく。まずは何が起こっているのか、知らなければ。
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