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1章:祝福の家族絵を(エリオット)
3話:ただいま
アベルザード家を発って二日、二人は王都から北東にある町を目指していた。馬でのんびりと道を行くエリオットの隣で、オスカルはどこか腑に落ちない顔をしている。
「ねぇ、エリオット。本当に妹ちゃんへのお土産、アレでよかったの?」
一日に一度は聞くセリフにエリオットは苦笑する。まぁ、当然と言えば当然の反応だからだ。
「アレが一番喜ばれるのですよ」
「ねぇ、エリオットの妹ちゃんってどんな子なの?」
「それは自分の目で確かめるのが一番だと思いますよ」
妹についてはもう、それしか言いようがないのだ。願わくば受け入れてくれるといいのだが。
目的の町モントーレは北東方面へと抜ける旅人の中継地だ。穏やかな町で大きな建物は少なく、小さな店が建ち並ぶ。宿屋や飲食店は多いが、大きな事件もなく長閑そのものの町だ。
町の入口で馬を降りて、のんびりとメインストリートを歩いていく。旅人なども多い事から道幅はそれなりにあるのに、人は町の住民がほとんどでがら空き。だから少し寂しくもある。
「長閑だね」
「えぇ。事件などもあまり起こりませんしね」
「あまり?」
「たまに泥棒などがいますが、全体的に裕福とは言えませんから額も小規模で。精々店頭の果物や野菜、肉をくすねて……」
そんな話しをしている最中、突如女性の「誰か!」という悲鳴が聞こえ二人はそちらに視線を向ける。見れば店先にいた老女が倒れ、若い男が必死に逃げている。
「私の鞄が!」
「!」
ひったくり事件がすぐ目の前、穏やかだと言った側からだ。
「エリオット!」
オスカルが馬の手綱をエリオットに預けて、遠ざかる男の背を追おうとした。まさにその時だった。
路地の横合いから黒い影が走り出て、軽い跳躍を見せる。ふわりと広がる長いスカート、スラリと伸びた足。突如出来た影に驚き振り向いた男の横っ面に、彼女の見事な回し跳び蹴りが綺麗に決まった。
「ぐへぇ!」
横に倒れた男の頭を間髪入れずに彼女は踏みつける。後頭部をグリグリと、ヒールのない靴が汚いものを踏むようにだ。
「私の目の前で堂々と犯罪起こしてるんじゃないわよ、クズ!」
目の前で連続して行われた華麗な捕り物劇に、オスカルはすっかり目を丸くして見入っている。その隣でエリオットは頭の痛い思いをした。
輝くような亜麻色の髪を下のほうで緩く編み、緑に黄色を混ぜたような明るい色の瞳で男を見下す。若い娘らしい服装なのに、腕を組んで尚も男の頭を踏む姿は男っぽい事この上ない。
「凄い女性だね。いや、お見事」
「……エレナ」
「え?」
せめて穏やかに紹介をしたかった。普通の妹としてこの数日を過ごせればと思っていたのに……いきなりの頓挫だった。
「エレナ!」
エリオットは堪らず女性に声をかける。すると彼女の緑色の瞳がエリオットを捉え、途端に娘らしい弾けるような笑みを見せた。
「兄さん、帰ってたの!」
「……まさか」
隣のオスカルが驚きと呆気に絶句する。それを、エリオットは直視できなかった。
程なく町の自警団の青年達が駆けつけ、男は連行されていった。当然荷物も無事で、老女は「エレナちゃん、有り難う」と何度もお礼を言っていた。
側で全てを見ていたエリオットに、エレナは軽い足取りで近づいてくる。
「お見苦しいものをお見せして、ごめんなさい」
「エレナ、母さんが泣くよ」
「あら、目の前で犯罪が起こって見過ごす方が怒るわよ。お父さんも草葉の陰で泣くわ。『私の娘はそんな情けない子だったのか』ってね」
まったく悪びれる様子のないエレナに二の句が継げないが、隣のオスカルは多少理解したらしい。むしろエリオットよりも楽しげな笑みを見せている。
「それより兄さん、そちらの方がもしかして!」
期待を含むキラキラしたエレナの瞳がオスカルへと向く。事前に手紙で色々書いていたから、家族の中でオスカルの事は既に周知の事だった。
オスカルが一歩前にでて、穏やかな笑みを浮かべ握手を求めた。
「初めまして、オスカルと申します。素晴らしい捕り物につい見入ってしまいました」
「初めまして、エリオットの妹でエレナと申します。恥ずかしいところをお見せしてすみません。お迎えに行く所だったのに」
応じて握手をするエレナもまた、バツの悪い顔をしている。
「それにしてもオスカル様、本当にいい男。もぉ、兄さんって面食いだったのね」
「え? いや、そんなつもりじゃ……」
「隠さないの! あぁ、騎士団の方って顔面偏差値高いわよね。去年もこの村の付近で騎士団の方が泊まって行ったけれど、皆タイプの違ういい男でね。年頃女子はキャーキャー言ってたのよ」
去年というと、おそらくエルの事件の時だろう。確か帰りは人が多すぎて町に滞在する事もあったと聞いている。
何にしても顔面偏差値ときたものだ。男勝りの性格のくせにエレナはいい男に目がない。
オスカルも苦笑しながら、そっと手を握ってくる。そしてエリオットにしか聞こえない小さな声で「面食いなの?」なんて笑いながら聞いてきた。
途端、カッと顔が熱くなる。そんなつもりじゃない……けれど、オスカルがいい男であることはエリオットが一番分かっている。
「あっ、ごめんなさい私! そろそろ家に案内するわ。お母さんも楽しみにしてるんだから」
先を歩くエレナの足取りは弾むよう。鼻歌を歌いながら、時折くるりと回ってみせる。その様子を後ろから見ていたエリオットとオスカルは、互いに穏やかな笑みを浮かべた。
家はメインストリートから歩く事十分程度。木の柵で囲った庭と、二階建ての小さな家が見えてくる。白壁と木目の見える素朴な家だ。
エレナがドアを開けるとすぐに、リビングとダイニングが一つになった広い部屋。暖炉の中では炎が燃え、キッチンの側にはダイニングテーブルがある。
その向こう、キッチンに立つ背は年を経ても矍鑠としていて、ピンと伸びている。亜麻色の髪を綺麗に結って団子にしている女性は、音を聞いてゆっくりとこちらを振り向いた。
「お帰りなさい、エリオット」
「ただいま、母さん」
歩み寄り、抱き合って母の頬にキスをするエリオットの表情はとても穏やかだ。そして、同じように返す母の表情も穏やかだった。
「母さん、紹介するよ」
微笑み、背後のオスカルを見つめる。親子のやりとりを笑顔で見ていたオスカルがゆっくりと歩み寄ってきて、深く頭を下げた。
「初めまして。オスカル・アベルザードと申します」
「エリオットの母の、セリーヌ・ラーシャと申します」
きっちりと腰を折って挨拶をする母セリーヌの表情は、ほんの少し硬い気がする。空気がそのようになった。エリオットが気付いたのだ、他人の表情や空気を読むのに長けたオスカルが気付かないわけがない。
不安になって見てもオスカルの様子に違いはない。柔和な笑みを浮かべたままだ。
「本日は突然の訪問を快く受け入れて下さり、有り難うございます」
「エリオットからも話を聞いていましたから。お疲れでしょう、部屋はエリオットと同じで宜しいのですか?」
「はい。有り難うございます」
きっちりと頭を下げるオスカルの変わらない様子が逆に心配になってしまう。二人の背後にいるエレナもまた、母の様子に戸惑った顔をしている。
「長旅、疲れたでしょう。まずは休んでくださいな」
「それほど疲れてはおりません。宜しければ何かお手伝いいたしますが」
「大丈夫ですわ。大したお構いはできませんが、どうぞゆっくり寛いでください」
きっちりと礼をする、それは壁に思える。でも、どうして。手紙のやりとりでは受け入れてくれているっぽかったのに。
「エリオット、夕食まで休んで大丈夫ですよ。オスカルさんも、休んでいてくださいな」
今は何を言っても駄目そうだ。エリオットはオスカルの腕を引いて部屋へと向かった。
部屋は風が通り、シーツも綺麗にされている。掃除も行き届いていている。
テーブルセットの椅子に腰を下ろしたオスカルの隣りに、同じく椅子に座って寄り添ったエリオットの表情は晴れない。
「うーん、なかなかガードが堅いな」
「すみません、オスカル。あんな対応をされるなんて思っていなくて」
母は礼儀には厳しいし、きっちりとした人だ。けれどあのように拒絶的な対応をする人ではないはずなんだ。
反対、なのだろうか。不安になる。そして、悲しくなる。
だが隣のオスカルは軽く笑っている。不快な思いをしたのは彼なのに。
「笑い事じゃ!」
「そんな怒らないの。そもそも、簡単に受け入れてもらえるなんて思っていないよ」
「え?」
マジマジと彼を見る。本当に普段と変わらない。よしよしと頭を撫でられながら、エリオットは戸惑っていた。
「一人息子だもんね、やっぱり複雑だと思う。だから、思ってたよりも受け入れてもらってると思うよ。後は誠心誠意、伝えていくしかない。大丈夫、何度でも、許しが貰えるまで話すから」
「ですが、滞在は四日程度で……」
建国祭が後に控えている。他の兵府は落ち着くが、近衛府は忙しいはずだ。そこにオスカルがいないのは支障があるし。
だがオスカルは首を横に振る。そしてこっそり秘密を教えてくれた。
「君の家族から色よい答えが貰えるまで、少し粘れる。数日なら休みも追加延長できるように陛下にも、ルイーズにもお願いしてきた」
「え? いつのまに?」
「手が足りない時は陛下の側にはランバートが着いてくれることになっている。リカルドにも事情を話してお願いしてきた。みんな、分かってくれたよ」
「リカルドさんにまで!」
知らなかった、皆態度が変わらないから。
悪戯っぽく笑うオスカルがエリオットの落ちかける髪を拾い、そっと額にキスをする。それだけで気持ちが穏やかになる。
「大丈夫、何かあるんだよ。君が話す家族の話を僕は信じている。だから少し、僕に任せてみて」
「貴方だけが頑張るのではありません」
そっと手を握り、胸に顔を寄せる。オスカルの匂いに落ち着いた心は、次には強い力を宿した。
「私も母に話します。二人で、ですよ」
「そうだね」
とても嬉しそうに笑うオスカルとキスをして、エリオットは改めて自分に喝を入れた。
「ねぇ、エリオット。本当に妹ちゃんへのお土産、アレでよかったの?」
一日に一度は聞くセリフにエリオットは苦笑する。まぁ、当然と言えば当然の反応だからだ。
「アレが一番喜ばれるのですよ」
「ねぇ、エリオットの妹ちゃんってどんな子なの?」
「それは自分の目で確かめるのが一番だと思いますよ」
妹についてはもう、それしか言いようがないのだ。願わくば受け入れてくれるといいのだが。
目的の町モントーレは北東方面へと抜ける旅人の中継地だ。穏やかな町で大きな建物は少なく、小さな店が建ち並ぶ。宿屋や飲食店は多いが、大きな事件もなく長閑そのものの町だ。
町の入口で馬を降りて、のんびりとメインストリートを歩いていく。旅人なども多い事から道幅はそれなりにあるのに、人は町の住民がほとんどでがら空き。だから少し寂しくもある。
「長閑だね」
「えぇ。事件などもあまり起こりませんしね」
「あまり?」
「たまに泥棒などがいますが、全体的に裕福とは言えませんから額も小規模で。精々店頭の果物や野菜、肉をくすねて……」
そんな話しをしている最中、突如女性の「誰か!」という悲鳴が聞こえ二人はそちらに視線を向ける。見れば店先にいた老女が倒れ、若い男が必死に逃げている。
「私の鞄が!」
「!」
ひったくり事件がすぐ目の前、穏やかだと言った側からだ。
「エリオット!」
オスカルが馬の手綱をエリオットに預けて、遠ざかる男の背を追おうとした。まさにその時だった。
路地の横合いから黒い影が走り出て、軽い跳躍を見せる。ふわりと広がる長いスカート、スラリと伸びた足。突如出来た影に驚き振り向いた男の横っ面に、彼女の見事な回し跳び蹴りが綺麗に決まった。
「ぐへぇ!」
横に倒れた男の頭を間髪入れずに彼女は踏みつける。後頭部をグリグリと、ヒールのない靴が汚いものを踏むようにだ。
「私の目の前で堂々と犯罪起こしてるんじゃないわよ、クズ!」
目の前で連続して行われた華麗な捕り物劇に、オスカルはすっかり目を丸くして見入っている。その隣でエリオットは頭の痛い思いをした。
輝くような亜麻色の髪を下のほうで緩く編み、緑に黄色を混ぜたような明るい色の瞳で男を見下す。若い娘らしい服装なのに、腕を組んで尚も男の頭を踏む姿は男っぽい事この上ない。
「凄い女性だね。いや、お見事」
「……エレナ」
「え?」
せめて穏やかに紹介をしたかった。普通の妹としてこの数日を過ごせればと思っていたのに……いきなりの頓挫だった。
「エレナ!」
エリオットは堪らず女性に声をかける。すると彼女の緑色の瞳がエリオットを捉え、途端に娘らしい弾けるような笑みを見せた。
「兄さん、帰ってたの!」
「……まさか」
隣のオスカルが驚きと呆気に絶句する。それを、エリオットは直視できなかった。
程なく町の自警団の青年達が駆けつけ、男は連行されていった。当然荷物も無事で、老女は「エレナちゃん、有り難う」と何度もお礼を言っていた。
側で全てを見ていたエリオットに、エレナは軽い足取りで近づいてくる。
「お見苦しいものをお見せして、ごめんなさい」
「エレナ、母さんが泣くよ」
「あら、目の前で犯罪が起こって見過ごす方が怒るわよ。お父さんも草葉の陰で泣くわ。『私の娘はそんな情けない子だったのか』ってね」
まったく悪びれる様子のないエレナに二の句が継げないが、隣のオスカルは多少理解したらしい。むしろエリオットよりも楽しげな笑みを見せている。
「それより兄さん、そちらの方がもしかして!」
期待を含むキラキラしたエレナの瞳がオスカルへと向く。事前に手紙で色々書いていたから、家族の中でオスカルの事は既に周知の事だった。
オスカルが一歩前にでて、穏やかな笑みを浮かべ握手を求めた。
「初めまして、オスカルと申します。素晴らしい捕り物につい見入ってしまいました」
「初めまして、エリオットの妹でエレナと申します。恥ずかしいところをお見せしてすみません。お迎えに行く所だったのに」
応じて握手をするエレナもまた、バツの悪い顔をしている。
「それにしてもオスカル様、本当にいい男。もぉ、兄さんって面食いだったのね」
「え? いや、そんなつもりじゃ……」
「隠さないの! あぁ、騎士団の方って顔面偏差値高いわよね。去年もこの村の付近で騎士団の方が泊まって行ったけれど、皆タイプの違ういい男でね。年頃女子はキャーキャー言ってたのよ」
去年というと、おそらくエルの事件の時だろう。確か帰りは人が多すぎて町に滞在する事もあったと聞いている。
何にしても顔面偏差値ときたものだ。男勝りの性格のくせにエレナはいい男に目がない。
オスカルも苦笑しながら、そっと手を握ってくる。そしてエリオットにしか聞こえない小さな声で「面食いなの?」なんて笑いながら聞いてきた。
途端、カッと顔が熱くなる。そんなつもりじゃない……けれど、オスカルがいい男であることはエリオットが一番分かっている。
「あっ、ごめんなさい私! そろそろ家に案内するわ。お母さんも楽しみにしてるんだから」
先を歩くエレナの足取りは弾むよう。鼻歌を歌いながら、時折くるりと回ってみせる。その様子を後ろから見ていたエリオットとオスカルは、互いに穏やかな笑みを浮かべた。
家はメインストリートから歩く事十分程度。木の柵で囲った庭と、二階建ての小さな家が見えてくる。白壁と木目の見える素朴な家だ。
エレナがドアを開けるとすぐに、リビングとダイニングが一つになった広い部屋。暖炉の中では炎が燃え、キッチンの側にはダイニングテーブルがある。
その向こう、キッチンに立つ背は年を経ても矍鑠としていて、ピンと伸びている。亜麻色の髪を綺麗に結って団子にしている女性は、音を聞いてゆっくりとこちらを振り向いた。
「お帰りなさい、エリオット」
「ただいま、母さん」
歩み寄り、抱き合って母の頬にキスをするエリオットの表情はとても穏やかだ。そして、同じように返す母の表情も穏やかだった。
「母さん、紹介するよ」
微笑み、背後のオスカルを見つめる。親子のやりとりを笑顔で見ていたオスカルがゆっくりと歩み寄ってきて、深く頭を下げた。
「初めまして。オスカル・アベルザードと申します」
「エリオットの母の、セリーヌ・ラーシャと申します」
きっちりと腰を折って挨拶をする母セリーヌの表情は、ほんの少し硬い気がする。空気がそのようになった。エリオットが気付いたのだ、他人の表情や空気を読むのに長けたオスカルが気付かないわけがない。
不安になって見てもオスカルの様子に違いはない。柔和な笑みを浮かべたままだ。
「本日は突然の訪問を快く受け入れて下さり、有り難うございます」
「エリオットからも話を聞いていましたから。お疲れでしょう、部屋はエリオットと同じで宜しいのですか?」
「はい。有り難うございます」
きっちりと頭を下げるオスカルの変わらない様子が逆に心配になってしまう。二人の背後にいるエレナもまた、母の様子に戸惑った顔をしている。
「長旅、疲れたでしょう。まずは休んでくださいな」
「それほど疲れてはおりません。宜しければ何かお手伝いいたしますが」
「大丈夫ですわ。大したお構いはできませんが、どうぞゆっくり寛いでください」
きっちりと礼をする、それは壁に思える。でも、どうして。手紙のやりとりでは受け入れてくれているっぽかったのに。
「エリオット、夕食まで休んで大丈夫ですよ。オスカルさんも、休んでいてくださいな」
今は何を言っても駄目そうだ。エリオットはオスカルの腕を引いて部屋へと向かった。
部屋は風が通り、シーツも綺麗にされている。掃除も行き届いていている。
テーブルセットの椅子に腰を下ろしたオスカルの隣りに、同じく椅子に座って寄り添ったエリオットの表情は晴れない。
「うーん、なかなかガードが堅いな」
「すみません、オスカル。あんな対応をされるなんて思っていなくて」
母は礼儀には厳しいし、きっちりとした人だ。けれどあのように拒絶的な対応をする人ではないはずなんだ。
反対、なのだろうか。不安になる。そして、悲しくなる。
だが隣のオスカルは軽く笑っている。不快な思いをしたのは彼なのに。
「笑い事じゃ!」
「そんな怒らないの。そもそも、簡単に受け入れてもらえるなんて思っていないよ」
「え?」
マジマジと彼を見る。本当に普段と変わらない。よしよしと頭を撫でられながら、エリオットは戸惑っていた。
「一人息子だもんね、やっぱり複雑だと思う。だから、思ってたよりも受け入れてもらってると思うよ。後は誠心誠意、伝えていくしかない。大丈夫、何度でも、許しが貰えるまで話すから」
「ですが、滞在は四日程度で……」
建国祭が後に控えている。他の兵府は落ち着くが、近衛府は忙しいはずだ。そこにオスカルがいないのは支障があるし。
だがオスカルは首を横に振る。そしてこっそり秘密を教えてくれた。
「君の家族から色よい答えが貰えるまで、少し粘れる。数日なら休みも追加延長できるように陛下にも、ルイーズにもお願いしてきた」
「え? いつのまに?」
「手が足りない時は陛下の側にはランバートが着いてくれることになっている。リカルドにも事情を話してお願いしてきた。みんな、分かってくれたよ」
「リカルドさんにまで!」
知らなかった、皆態度が変わらないから。
悪戯っぽく笑うオスカルがエリオットの落ちかける髪を拾い、そっと額にキスをする。それだけで気持ちが穏やかになる。
「大丈夫、何かあるんだよ。君が話す家族の話を僕は信じている。だから少し、僕に任せてみて」
「貴方だけが頑張るのではありません」
そっと手を握り、胸に顔を寄せる。オスカルの匂いに落ち着いた心は、次には強い力を宿した。
「私も母に話します。二人で、ですよ」
「そうだね」
とても嬉しそうに笑うオスカルとキスをして、エリオットは改めて自分に喝を入れた。
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