恋愛騎士物語3~最強騎士に愛されて~

凪瀬夜霧

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2章:一家集団殺人事件

10話:忘れたくない人(ラウル)

 勢いで教会から宿舎に戻ったラウル達を待っていたのは、鬼のような形相をしたエリオットだった。
 引きつったシウスの表情とあまりに恐ろしげなエリオットに戸惑っていると、ランバートがすぐに背に庇ってくれた。
 ドキドキして見上げると、苦笑いを浮かべている。とりあえず病室へと連行されるシウスについて、ラウルは恐る恐る騎士団宿舎へと入った。

 誰も咎めたりしなかった。迎えてくれた黒髪長身のファウストと、同じく黒髪長身でちょっと強面なクラウル。クリーム色の髪をした優しげなオスカルが目を丸くして、事情を話したら笑って受け入れてくれた。

 なんだか、ほっとした。クシャリとクラウルが頭を撫でて、目を細めている。それを見ていると自然と「ただ今戻りました」と出てきた。
 黒い瞳が見開かれて、次には「あぁ、ご苦労」と言ってくれる。どこかしっくりとくるやりとりなのに、クラウルはほんの少し泣きそうな顔をしていた。

 ラウルの事は既に隊員皆に説明がされているらしい。怪我が原因で記憶を無くしてしまったのだと。今は休みながらできる事をすればいい。そう言ってくれた。

 シウスの体調は、本当は出歩く事など出来ないものだった。抱きしめてくれた時にも熱いと感じたけれど、本当に熱かったのだ。

「貴方はどうしてこんな体調で外出などしたのです! 熱が三八度超えて、目眩と頭痛って……いい加減にしなさい!」
「ラウルの様子が変だと聞いて、黙って寝ているなどできるものか」

 開き直ったように堂々としているシウスはいっそかっこよくすらある。ベッドに寝かされていなければ。

 エリオットは溜息をつき、次にはランバートに視線を向ける。だがランバートはさっさと礼をして「緊急事態でした」と言うばかり。結局は溜息をつき、「大人しく寝なさい」と言って出て行ってしまった。

「では、俺も行くよ。食事はここに運ぶから」
「有り難うございます」
「ラウル、俺に敬語はいらないよ。聞いてると思うけれど、俺達は友達なんだから」

 柔らかく微笑むランバートが、やっぱり頭を撫でて行く。自分では随分大人になったと思ったけれど、彼らから比べると小さいらしい。ちょっと悔しい。

 全員いなくなって、ラウルはシウスの側に椅子を持ってくる。そしてそっと、額に手を当てた。
 とても熱い。瞳も潤んでいる気がする。
 不思議な色。澄んだ水色で、宝石みたい。寒い冬の湖を覗き込んでいるみたいな気がする。それに、顔立ちも綺麗。色が白くて、ほっそりとして。綺麗な白い髪も、とても素敵。

 こんな人と恋人だなんて信じられない。馬車の中で色々聞いた。友人だと言っていたけれどそれは嘘で、本当は恋人で。最初は疑った。けれど、胸の中が温かくなっていく感じがあって本当な気がした。

 不思議。何も覚えていない。けれど何かが内側から叫んでる。シウスといると胸の内が温かくて、時々切なくて、恥ずかしくて、でも触れてみたい。
 なのにちょっと痛いんだ。苦しくなる。この苦しいに触れると、頭が痛くなる。

「ラウル、どうした?」
「未だに信じられないなと思って。僕が、シウス様と恋人なんて。どうしてそうなったのでしょう?」
「私が惚れたのだよ。お前の素直さと、優しさに」
「僕の、素直さと優しさ?」
「そう。それは今も失われていない。私は少し特殊な血筋の一族で、周囲から煙たがられていた」
「そんな! シウス様はとても優しくて!」

 ラウルは言い募る。優しくて、綺麗で、頭が良くて、そして……。

「くくっ」
「あの?」
「怒ってくれるのもそのままじゃ。何一つ、恐れる必要はなかったな」

 熱い手が頬に触れた。そしてそっと、撫でられる。どうしてだろう、力が抜ける。そっと導かれるように触れられていったら、そのままキスをしていた。

 ジリジリっと痺れる。頭がぼやけそう。逆上せたみたいにぼんやりして、もっと欲しくなる。

「何を失っても、其方は変わらぬ。其方の心はそのままだ。ならば、私は恐れはしない。愛しているよラウル。昔も、今も愛している。何があっても恐れるな。私が其方を捨てる事はありえぬ」

 近い距離で言われる睦言がこんなにも嬉しく響く。ドキドキして、もっと触れてみたいと思う。
 だから疑わない。この人と恋人だった。この人が好きな気持ちは、何を無くしても残っていた。大事なものはちゃんと胸の中にあった。

 その後、シウスが眠るまでラウルは沢山の話を聞いた。シウスの一族の事、一緒に行った歌劇の話。好きな食べ物、一緒に過ごした時間。
 どうして、こんなに大切なものを忘れてしまったのだろう。聞くと悲しくなる。早く色々と戻ってきてほしい。沢山の思い出が戻ってきたら、沢山の幸せも戻ってくる気がする。

 でもどうしても、苦しいに触れたくない。心の中が苦しくて、悲しくて、息ができなくなりそう。この苦しいが沢山の感情に蓋をしている。そんな気がした。


 数日で、シウスは自室に戻る事になった。本人は「懸案事項がなくなった故、もう平気だ」ということらしい。
 そしてラウルはシウスの部屋に住む事になった。

「あ……」

 部屋に入ってすぐ、とても懐かしかった。探るように足を進めて、見回す。そしてそっと、ソファーの一角に座った。

「ふふっ」
「どうかしましたか?」
「いや。そこは気に入ったかえ?」
「え? はい」

 戸口が見えて、なんだか落ち着く。隣りにシウスが座って、そっと肩を抱いた。

「ここは、記憶を無くす前からお前が気に入っていた場所じゃ」
「そう、なんですか?」
「あぁ。入口が見渡せて、安心するのだろう?」
「はい……」

 そんな事まで話していたんだ。思うと少し頬が熱い。

 部屋に戻ってすぐに、シウスは仕事を始めてしまう。部屋に日に数回人が来て、沢山の紙の束を置いて来る。それを見るだけでなんだか圧倒されてしまった。

「あの、これを一日で処理するのですか?」
「ん? あぁ、大体な。他の兵府からの報告が来なければ進められぬ話もあるが」
「この量を毎日ですか!」
「大した事はない」

 ……大ありだと思う。

 ズキリと心が痛む。これだけの仕事をして、更に会いに来てくれていたのだ。日のあるうちにきて、戻って……。そんなの、倒れて当然だ。

「僕もお手伝いします!」

 仕事も分からないのに、思わず言ってしまった。それに目を丸くしたのはシウスだった。

「手伝ってくれるのかえ?」
「え? はい……ご迷惑ですか?」
「いや」

 嬉しそうに綻ぶ顔に安堵した。拒絶されない、それがとても嬉しかった。

 仕事はシウスの指示通りの書類を他の兵府の執務室に持っていく事。宿舎の案内はランバートがしてくれたから覚えている。
 とても早く走る事ができる。早く階段を上り下りしても危なげがない。それに、疲れない。
 こんなに力がついていたんだ。このくらい平気なんだ。

 不思議だった。思った以上に体が軽く、思うように動く。目が捉えるものが多くて、道筋が見えるみたいだ。それに、ちっとも疲れたなんて思わない。

 シウスの助けができる。ここで役立つ事ができる。それがラウルにとって何よりも嬉しいことだった。


 今日は、シウスの診察の日。倒れてから一週間くらい経った。ラウルは一人裏庭の景色を見ている。

「早く終わらないかな……」

 景色が寂しいからか、なんだか寂しい。雪の積もる地を蹴飛ばしながら手持ち無沙汰にしている。
 目の前にはすっかり葉を落とした木があるのみだ。

 シウスと沢山話をする。眠るときは一緒のベッドで眠った……少し恥ずかしい。
 それに一緒に眠ると触れたくてたまらなくなる。胸元に甘えて顔を擦り寄せたこともある。大好きな匂いがする。ドキドキして……
 そういえば、シウスとは恋人だった。それなら、どんな関係だったんだろう。ラウルも大人なのだから、やっぱり、その……大人な関係だったのだろうか。もしかして、キス以上の事も……。

「うわうわうわ!」

 ダメダメ、何を考えているんだろう。そんなこと……

 あったのかな? あったらいいな。そんな思いにかられて、キュッと手を握る。
 そもそもシウスはこんな子供の、しかも男の体を見て嫌だと思わないのだろうか。それとも記憶喪失前はテクニシャンかなにかだったのかな? そんなの、想像つかないけれど……。

 想像しようとして、やめた。体が熱を持って、あらぬ部分が疼きそうだったから。

 その時、どこからか「みぃ~」という弱い声が聞こえ、ラウルは立ち上がった。
 声の出所を追って視線を向けると、裸になった高い木の上で子猫が一匹鳴いている。登ったまではいいが、降りられなくなってしまったのだろう。
 足を踏み出してはフラフラとして今にも落ちそうな子猫を見ながら、ラウルは慌てて駆け寄った。

「待ってて、今下ろしてあげるから!」

 ラウルは木の幹に手と足をかけて登りだす。体が自然と動いて、高い木も危なげなく登っていける。あっという間に子猫のいる枝まで登ることができた。

「もう少し。もう少しだからね」

 そっと体を四つん這いにしたまま子猫の所までにじり寄る。手が、あと少しで届きそう。

「大丈夫、怯えなくていいよ。ちゃんと下ろしてあげるからね」

 あと少し、指が届く。あと、少し……

「あ!」

 子猫は寸前になって枝の先から下へと飛び降りる。それに驚いたラウルは足を滑らせて真っ逆さまに落ちていく。

「っ!」

 落ちる! 落ちてしまう!

 思った瞬間、目の前の映像がダブって見える。新緑の匂い、折れる枝。ガサガサと音を立てて落下している。
 そうだ、飛び移る時、寸前にトリが飛び立ったのに驚いて足を踏み外したんだ。

「ラウル!」

 落ちていく、その先。体を打つ事を覚悟して受け身を取った。けれど、誰かがその体を掴まえてくれた。

「っ!」

 一緒になって転んだ先に見た綺麗な水色の瞳。冬に見る氷を張った湖のように静かで、吸い込まれてしまいそう。
 キラキラ日に輝く白い髪が草の緑に散らばった。昔、シスターが教えてくれた。国を作った王様を導いた、綺麗な天使の話。白は穢れのないものの色。清廉の色なんだ。

「あ……」
「ラウル、大丈夫かえ! どうした、どこか打ったか?」

 あの日と同じ、受け止めたシウスを押し倒して上に陣取ったラウルは激しい頭痛に襲われた。でも、逃げたくない。この痛みの先にきっとあるんだ。欲しくて欲しくてたまらない、大事なものが沢山。


『ラウル、今日から君はこの屋敷の庭師だ。よろしく頼むよ』
『はい、アンドリュー様』
「!」

 十四歳、みなしごの自分を育ててくれた教会に早く恩返しがしたくて、貴族のお屋敷の庭師見習いになった。住み込みで、衣食住がついた。

『ラウル、お前はとても覚えがいい。どうだい? 将来は執事を目指してみないかい?』
『執事ですか? 僕が?』
『あぁ。その為の勉強や教養、立ち居振る舞いも必要だ。場合によっては私を守ってくれないと困る。その為の武術も教えよう』

 認めてもらう事が嬉しかった。だから一生懸命勉強をした。教会出の自分が執事なんて、信じられない。もしもこれが本当なら、教会に沢山恩返しができる。
 早く一人前になりたい。勉強して、体術やナイフの使い方を教わって。

 これは、必要なの? 執事はこんなに沢山武器が使えなくちゃいけないの?

『よぉ、お前がラウルか! 今日から俺達友達な!』

 ニカッと笑う少年は、一歳年上の兄弟子。ウォルターは暴れん坊だけれど、気持ちのいい人だ。

「あ……あぁ……」
「ラウル!」

 頭が痛い。でも、止まらない。駄目、これ以上思いだしたらここにいられない。これ以上は駄目なのに!

 ――だからって、忘れていい事じゃない。

「うぅ……っ!」

 倒れ込んで、痛みに耐えられなくて視界が消えていく。

 でもラウルは手放せなかった。痛くて苦しい記憶の欠片を手放したら、もう二度と大事な事を思い出せない気がしていた。

◆◇◆

 善良な主人だと思っていたアンドリューは、僕を殺し屋にした。僕だけじゃない、他の多くの子供達も。
 僕は庭に小さな墓を作った。埋める物もないけれど、そうすることでここに友人が帰ってきてくれる気がした。

「ラウル」
「スチュアートさん」

 後ろから声をかけられて、振り向いた。一番の古株のスチュアートが立っていて、悲しそうな顔で僕を見ていた。

「お前はいつまで経ってもまともだ」
「みんな、そうでしょ?」
「どうだかな。見てみろ、皆何かの感覚がおかしくなっている。しくじった奴が消されても、お前以外は涙も流さない」

 そう言われると悲しい。僕だって麻痺してしまいそうだ。
 今日死んだ子は、同い年でとても仲が良かった。けれど足を負傷して……もう使えないからと処分された。

 どうして、そんな事ができるのだろう。昨日まで一緒に生活していたんじゃないの?

 思いだして、また涙が出た。そこにハンカチが一枚差し出された。

「使ってください、ラウル」
「クラークさん……」

 皆のお母さん、皆のお姉さん。そんな優しいクラーク。
 僕は、この兄弟にお世話になった。皆を引っ張るスチュアート、優しいクラーク、ガキ大将のウォルターと、体の弱いホレス。

 この兄弟がいて、この組織は回っている。残酷な主は命令するだけ。僕達の事は何も考えていない。

「スチュアートさん、僕……やっぱりこれは、間違っていると思います」

 友人の墓の前で、俯きながら僕は伝えた。クラークは少し驚いたけれど、スチュアートは驚かなかった。

「では、どうする?」
「……騎士団に、自首します」
「ラウル、それは!」

 クラークが驚き慌てて止めようとした。けれど隣のスチュアートがそれを腕で制してしまう。静かな瞳が、ジッとこちらを見ている。

「お前は、一番まともで賢いからな」
「……駄目、ですよね」
「いや、好きにしろ」
「え?」

 静かな声に抑揚はない。けれど気遣わしい瞳は声以上に感情を伝えてくれる。

「いけませんラウル。僕達の罪がどれほどか分かっているでしょう? こんな事を騎士団に告発すれば貴方だってただじゃすまない。処刑を免れません」
「いや、ラウルはまだギリギリだが未成年だ。それに、自首をすれば罪が軽くなるという。上手くすれば、命まで取られないだろう」
「だからって!」

 クラークの非難めいた瞳と、静かなスチュアートの表情。僕はその両方を見ていた。

「だがラウル、俺達の罪は死罪だ。行けば、辛い罰が待っているかもしれない。それでも、行くか?」

 問われ、考えた。でもどうしても、この生活が正しいなんて思えない。沢山の子供が処分されるのを見た。沢山の人を殺した。熱い血がかかる度、心は冷たくなっていった。
 怖くなったのだ、いつかこの心は何にも動かなくなるのではと。人を殺している時はまるで別人のようになる。そして、冷静になって震えてくる。
 もしも別人のような自分の時間が増えてしまったら? 誰かの死に涙が出なくなってしまったら? それは、人と呼べるものなの?

「行きます」
「分かった。次の任務、お前を一人にする隙を作る。そこで逃げろ」
「……怒られませんか?」
「慣れている」
「一緒に!」
「……それはできない」

 スチュアートは悲しそうに瞳を閉じて、首を横に振った。

「俺も、クラークもとっくに成人だ。そして、お前よりも多くを殺してきた」
「死罪を免れません。それに……ホレスを一人にできません」

 悲しそうなクラークの声音に、僕も俯いた。

 末のホレスは体が弱く、よく咳が止まらなくなる。色も白くて、痩せていて。だからアジトでずっと留守番だ。
 アンドリューが「役立たず」と言っているのを聞いた事がある。だが同時にスチュアートとクラークがいるなら、面倒を見るとも言われていた。

「ウォルターは……」

 彼は僕の一つ上だから、まだ可能性はある。必死に言い募った。だが、スチュアートの言葉は否定的だった。

「あいつはアンドリューを善人だと思い込んでいる。衣食住の面倒を見てくれて、ホレスの治療をしてくれて、兄弟で一緒にいられる。それは全てあの男のおかげだと。そんな奴を連れて行けば上手く行かない。行くならお前だけだ、ラウル」

 そこまで言われてしまったら、僕だってどうしたらいいものか。
 戸惑いながら、ふと背後で死んだ友人が笑った気がした。

「……行きます」
「……有り難う。お前の勇気で、これ以上俺達のような奴を作らずに済む」

 寂しそうな笑顔が、僕の中に残っていった。


 シウス様を襲ったスチュアートと、僕は戦った。シウス様を守りたかった。奪うことしか知らないダガーが、初めて誰かを守る為に使われる。
 切り結んだスチュアートは、ギラギラした目のままで小さく語りかけてきた。

「生きていたか。良かったな」
「ス……」
「口を開くな。ラウル、お前に頼みだ。終わらせてくれ」

 寂しい声だと思った。こんな事、初めてだった。命令や作戦はあっても、頼みなんてなかったんだ。

 切り結ぶが、ラウルのダガーは鈍った。他を切り伏せても心はあまり痛まなかったのに、沢山の言葉を重ねた四人を殺したくなかったんだ。

「ラウル、お前の優しさは知っている。だが思うなら、楽にしてくれ」

 首を横に振りそうになって、でもできなくて。悩んで、苦しんで、生きてて欲しくて、でも死を望んでいて……

 ブチッと、何かが切れた。考える事、感じる事にも限界が出たのかもしれない。
 気付けば手は血濡れていた。目の前のスチュアートは沢山の血を流しながらも、穏やかな顔をしている。

「ありが……とう……」

 彼の見せた笑みは、とても綺麗だった……



 思いだした。隠したかったのは、苦しかったのは、痛かったのはこれなんだ。人を、殺め続けた。
 そして四人に罪をなすりつけて、生き残っている。たった一人で、今も背負っている。罪は許されると言うけれど、僕自身が許せていなかった。

 ごめん、ウォルター。苦しかったよね。信じていたのに……裏切ったのは僕だよね。恨んで、そうして生きてきたんだね。

 ごめんなさい、シウス様。本当は言おうと思っていた。付き合って欲しいと言われた時に、言わなければと思った。でも、言えなかった。心地よい場所にいたかった。傷ついた心を癒やせる場所を僕も求めていた。

 シウス様はよく僕を「癒やし」というけれど、僕だって癒やされていた。貴方の優しさを、僕は欲したんだ。

 ウォルターが僕を乱暴した。シウス様に申し訳が立たなかった。でも、抵抗もできなかった。子供達を取られていたのもあるけれど、それ以上にあるのは罪の意識だった。彼以外、誰も助からなかった。

 同時に、シウス様に謝った。綺麗な体ではなくなってしまった。こんな汚れたものを、シウス様は欲するだろうか。きっと今回の事でシウス様にも僕の罪は知られている。隠し事がバレて、更に犯されて……嫌われるには十分過ぎる理由だ。

 嫌だ、怖い。否定されるのは怖い。拒絶されるのは怖い。

 逃げたくて、逃げようとして……そのうちに、何もかも分からなくなってしまった。

 ごめんなさい、シウス様。貴方を信じればよかったのに、できなかった愚かな僕を許してください。僕はやっぱり貴方の側でなければ、息もできないんです……。
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