25 / 137
2章:一家集団殺人事件
おまけ2:黒猫は自覚する(チェルル)
ラウルが記憶を封じたと聞いた時には、心配になっていた。なにせ彼はチェルルにとって大の付く恩人であり、後ろめたい所もある相手だ。
シウスを狙って殺そうとしたのはチェルルだ。実際、すんでの所までは行ったのだし。恨まれ、憎まれて当然。そんなチェルルに、ラウルとシウスは同情と温情をかけてくれた。
絶望のまま毒に体を蝕まれ、追い込まれて死ぬんだと思った。でも、今こうして命を繋ぎ死の脅威は去った。これはラウルが、そしてシウスが身の上を知って同情し、許してくれたからだ。
そんな恩人の不幸を望む奴はいない。話を聞いて何かできないかと思ったが、できる事はなかった。
けれど失った記憶を取りもどし、しかも結婚したとつい今ハムレットの口から聞いたのだ。
「よかった……あぁ、もう、心配かけさせないでよぉ」
本当に心から安堵したチェルルはソファーにどっかり座る。その隣りに、当然のようにハムレットが座った。
ちょっと、不機嫌。
その理由はちょっとだけ分かっている。うぬぼれかもしれないけれど。
「そんなにラウルと宰相さんが心配だったの?」
「そりゃ、恩人だよ? 不幸なんて望まないでしょ」
「案外優しいよね、猫くん」
猫くん。と、ハムレットはチェルルを呼ぶ。気性が猫みたいで、身のこなしも軽いから。何でも猫が好きらしい。
最初はそれで良かったし、自分でも猫っぽいなと思っていた。けれど最近は、ちょっと不満。他の皆は名前を呼んで貰えるのに、自分ばかりが呼ばれない。
「先生だって、恩人が怪我をしたりしたら心配しない?」
「しない。僕にそういう感情求めるの間違いだよ。関心のない相手にはなんの感情も動かないんだから」
「……ランバートが怪我したら心配じゃない?」
「即刻医療道具全部持ってかけつける」
極端なんだよな、この人。
そこそこの時間を一緒に過ごして分かった事。ハムレットという人はとても極端だってこと。『仕事』というキーワードが入れば淡々と物事を処理していくけれど、そうじゃなければ行動も感情も全部が『好き』か『嫌い』だ。
特に溺愛中の弟ランバートについては愛情を100%注ぐ。ちょっと、第三者から見ても気持ちが悪い。
けれどそんなランバートに恋人ができた。相思相愛で、しかも立派な相手だ。ランバートを大事にするし、信頼している。そしてランバートも同じくらいに愛情を注いでいる。
お似合いなんだけれど……それを知ったくらいから、ハムレットは少しおかしい。
「……俺が怪我したら、先生きてくれる?」
試しに聞くと、途端に困った顔をされる。分からないという心が透けている気がする。不安そうに、瞳が揺れている。
「……猫くんが怪我したら、僕は嫌」
「嫌?」
「凄く、嫌。この辺、モヤモヤする」
胸の辺りを握る様子に、チェルルは少し複雑だ。
この人は本当に感情が分からないみたいなんだ。憎しみとか、狂気はよく分かっているのに。
分からないのは向けられている感情。誰かを好きになることを想定していない。分かっていない。愛される事も、愛する事もそもそもナイと考えている。
だから、今抱えている感情の落としどころが分からない。分からないからイライラしている。
「なんか、喉渇く」
呟いて、強引に腕を引かれる。そうして重なる唇は最初からチェルルの唇を割って舌を割り込ませ、絡ませてくる。
「んぅ、ふ……ぅ……」
一瞬で心も体も縛られる。熱を持って、痺れて、力が抜ける。胸の辺りが切なくて辛い。
分からないの、先生? どうして喉が渇くのか。どうしてキスをするのか。
思えば切なさに苦しくなる。とっくに受け入れているのに、相手がこの衝動に言葉をつけていない。この感情と衝動と渇望の意味がわからなくて、イライラしているんだ。
たっぷりと舌を舐めしゃぶられ、口腔を擽られてようやく離れる。見つめた瞳はやっぱり困惑している。不器用なんて通り越して、不憫だ。
「癒えた?」
問いかければ、やっぱり苦しそう。どうして辿り着かないの?
「ねぇ、先生」
「なに?」
「先生は、誰かを好きになった事ある?」
「ラ……」
「弟却下」
「……ない」
ランバートに向けているのは親愛だ。それは本人も分かっている。大好きな弟でも、セックスしたいとは絶対に思わないそうだ。安心した。
どちらかと言えばガラスケースにでも入れて、いつまででも大事にしたいらしい。これもある種の狂気だとは思うが。
チェルルはそっと手を伸ばして、触れるだけのキスをしてみる。切なくて、甘くて、温かい。
「どうしたの、猫くん?」
「……俺も、喉が渇いたの」
早く気付いてよ、先生。もう時間ないんだよ? そうじゃないと、俺の気持ちはどこに持っていけばいいの?
ちょっと切ない気持ちのまま、チェルルはハムレットの腕に凭れて瞳を閉じた。
シウスを狙って殺そうとしたのはチェルルだ。実際、すんでの所までは行ったのだし。恨まれ、憎まれて当然。そんなチェルルに、ラウルとシウスは同情と温情をかけてくれた。
絶望のまま毒に体を蝕まれ、追い込まれて死ぬんだと思った。でも、今こうして命を繋ぎ死の脅威は去った。これはラウルが、そしてシウスが身の上を知って同情し、許してくれたからだ。
そんな恩人の不幸を望む奴はいない。話を聞いて何かできないかと思ったが、できる事はなかった。
けれど失った記憶を取りもどし、しかも結婚したとつい今ハムレットの口から聞いたのだ。
「よかった……あぁ、もう、心配かけさせないでよぉ」
本当に心から安堵したチェルルはソファーにどっかり座る。その隣りに、当然のようにハムレットが座った。
ちょっと、不機嫌。
その理由はちょっとだけ分かっている。うぬぼれかもしれないけれど。
「そんなにラウルと宰相さんが心配だったの?」
「そりゃ、恩人だよ? 不幸なんて望まないでしょ」
「案外優しいよね、猫くん」
猫くん。と、ハムレットはチェルルを呼ぶ。気性が猫みたいで、身のこなしも軽いから。何でも猫が好きらしい。
最初はそれで良かったし、自分でも猫っぽいなと思っていた。けれど最近は、ちょっと不満。他の皆は名前を呼んで貰えるのに、自分ばかりが呼ばれない。
「先生だって、恩人が怪我をしたりしたら心配しない?」
「しない。僕にそういう感情求めるの間違いだよ。関心のない相手にはなんの感情も動かないんだから」
「……ランバートが怪我したら心配じゃない?」
「即刻医療道具全部持ってかけつける」
極端なんだよな、この人。
そこそこの時間を一緒に過ごして分かった事。ハムレットという人はとても極端だってこと。『仕事』というキーワードが入れば淡々と物事を処理していくけれど、そうじゃなければ行動も感情も全部が『好き』か『嫌い』だ。
特に溺愛中の弟ランバートについては愛情を100%注ぐ。ちょっと、第三者から見ても気持ちが悪い。
けれどそんなランバートに恋人ができた。相思相愛で、しかも立派な相手だ。ランバートを大事にするし、信頼している。そしてランバートも同じくらいに愛情を注いでいる。
お似合いなんだけれど……それを知ったくらいから、ハムレットは少しおかしい。
「……俺が怪我したら、先生きてくれる?」
試しに聞くと、途端に困った顔をされる。分からないという心が透けている気がする。不安そうに、瞳が揺れている。
「……猫くんが怪我したら、僕は嫌」
「嫌?」
「凄く、嫌。この辺、モヤモヤする」
胸の辺りを握る様子に、チェルルは少し複雑だ。
この人は本当に感情が分からないみたいなんだ。憎しみとか、狂気はよく分かっているのに。
分からないのは向けられている感情。誰かを好きになることを想定していない。分かっていない。愛される事も、愛する事もそもそもナイと考えている。
だから、今抱えている感情の落としどころが分からない。分からないからイライラしている。
「なんか、喉渇く」
呟いて、強引に腕を引かれる。そうして重なる唇は最初からチェルルの唇を割って舌を割り込ませ、絡ませてくる。
「んぅ、ふ……ぅ……」
一瞬で心も体も縛られる。熱を持って、痺れて、力が抜ける。胸の辺りが切なくて辛い。
分からないの、先生? どうして喉が渇くのか。どうしてキスをするのか。
思えば切なさに苦しくなる。とっくに受け入れているのに、相手がこの衝動に言葉をつけていない。この感情と衝動と渇望の意味がわからなくて、イライラしているんだ。
たっぷりと舌を舐めしゃぶられ、口腔を擽られてようやく離れる。見つめた瞳はやっぱり困惑している。不器用なんて通り越して、不憫だ。
「癒えた?」
問いかければ、やっぱり苦しそう。どうして辿り着かないの?
「ねぇ、先生」
「なに?」
「先生は、誰かを好きになった事ある?」
「ラ……」
「弟却下」
「……ない」
ランバートに向けているのは親愛だ。それは本人も分かっている。大好きな弟でも、セックスしたいとは絶対に思わないそうだ。安心した。
どちらかと言えばガラスケースにでも入れて、いつまででも大事にしたいらしい。これもある種の狂気だとは思うが。
チェルルはそっと手を伸ばして、触れるだけのキスをしてみる。切なくて、甘くて、温かい。
「どうしたの、猫くん?」
「……俺も、喉が渇いたの」
早く気付いてよ、先生。もう時間ないんだよ? そうじゃないと、俺の気持ちはどこに持っていけばいいの?
ちょっと切ない気持ちのまま、チェルルはハムレットの腕に凭れて瞳を閉じた。
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。