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4章:特別な贈り物
2話:準備が大事
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翌日から、ランバートの夜は少し忙しくなった。
「すみません、こんな時間に。ゼロスも悪いな」
スケッチブックを持ったランバートが苦笑すると、部屋の主とその恋人は穏やかに笑った。
「ラウルから話は聞いた。喜んで協力しよう」
「俺もいいのか? あまり接点ないと思うが……」
戸惑い気味のゼロスの腰をクラウルが引き寄せ、そっとこめかみにキスをしている。もう隠す気もないという独占欲に、ふと誰かさんを思いだしてランバートは苦笑した。
「俺一人で参加するのは嫌だと言ったら、喜んでと言われた。構わないだろ?」
「それ、やめてください! あの、離していただけませんか」
冷静に言いつつもゼロスはほんのりと肌を染めている。見た事のない友人の色っぽい表情にランバートの方が当てられる。このままだと二人の世界に入ってしまいそうで、わざとらしく咳払いをした。
「続きは俺が出て行ってからでお願いします。流石に友人の痴態を堂々観察するのはいたたまれないので」
苦笑して言えば、ゼロスは真っ赤になってクラウルの足を思いきり踏む。流石にこれは痛かったのか、クラウルも諦めて離れた。
部屋にあるソファーの裏側へと回った二人は左端の方へ立つ。視線はランバートの方を。その様子を、ランバートは真剣にスケッチした。
「それにしても、シウスの誕生日に絵とは。ラウルも考えたな」
「家族が全員収まった肖像画がないそうなのです」
「そこに俺達も入っていいのか?」
「せっかくなら友人や仲間も集まっての集合がいいということで」
これが今回の狙いだった。
ラウルの話では、シウスは家族や仲間を大切にしている。だがこれまで、そうした絆を感じる物は持っていない。両親は既に亡くなっていて、実際に同じ画面に収まる肖像画は無理だ。
だが幸いな事に、シウスは母一人の肖像画は持っている。それを参考に、今回同じ場面に収める事を考えた。
問題はシウスの父だ。これに関してはフェレスやリスクスに協力をラウルがお願いしにいった。
「はい、もう大丈夫です。ご協力、有り難うございます」
「もう描けたのか!」
時間にして三十分程度。ランバートの手元には角度の違う二人のデッサンが数枚描かれている。構図の参照となるソファーを入れた立ち画面。顔だけを大きく描いたラフが数点。服装だけのもの。これらを参考に、キャンバスに書く時には組み合わせるのだ。
覗き込むゼロスが驚いた顔をし、クラウルが感心している。そういうのは少しくすぐったくて、ムズムズしてしまうのだ。
「お前、本当に多才だな」
「一度見切りをつけた趣味だけどな」
「勿体ない。画家を目指したりはしなかったのか?」
クラウルに問われて、ほんのすこし表情を沈める。そして、描いたばかりのスケッチを指でなぞった。
「俺は単純に、誰かが嬉しそうにしているのを見られればそれでいいんです。だから、画家は向かない」
「なるほど」
いつもこの絵は不特定多数ではなく、一人に向けて描かれている。多くを喜ばせるのではなく、たった一人を。
不意に、ポンと肩を叩かれる。見ればクラウルが穏やかに頷いていた。
「お前の思う道でいい」
「……はい」
穏やかに笑い、部屋を後にしたランバートは自室へと戻ってくる。そしてそこに準備してあるキャンバスに向き直り、薄く溶いた絵の具で下書きを始めた。
画面にはソファーがある。団長の部屋に置いてあるソファーは備え付けで、全部デザインが同じだ。それを利用して、バラバラに描いたデッサンを元に一つの画面に構成する。今はまだ下書きだが、早い段階で下塗りに入れるように準備だけはしておかなければいけない。
表情、体のライン、服。大まかではあるものの、大雑把にはならないように。そうして再び三十分も向き合えばある程度納得できる下書きが出来上がる。
その後数日をかけて、ラウル、エリオット、オスカルの絵を描かせてもらった。ラウルがシウスの留守を見計らって部屋に入れてくれて、彼の母の肖像画も写させてもらった。
準備は順調に進み、キャンバスは次第に賑やかになっていった。
「すみません、こんな時間に。ゼロスも悪いな」
スケッチブックを持ったランバートが苦笑すると、部屋の主とその恋人は穏やかに笑った。
「ラウルから話は聞いた。喜んで協力しよう」
「俺もいいのか? あまり接点ないと思うが……」
戸惑い気味のゼロスの腰をクラウルが引き寄せ、そっとこめかみにキスをしている。もう隠す気もないという独占欲に、ふと誰かさんを思いだしてランバートは苦笑した。
「俺一人で参加するのは嫌だと言ったら、喜んでと言われた。構わないだろ?」
「それ、やめてください! あの、離していただけませんか」
冷静に言いつつもゼロスはほんのりと肌を染めている。見た事のない友人の色っぽい表情にランバートの方が当てられる。このままだと二人の世界に入ってしまいそうで、わざとらしく咳払いをした。
「続きは俺が出て行ってからでお願いします。流石に友人の痴態を堂々観察するのはいたたまれないので」
苦笑して言えば、ゼロスは真っ赤になってクラウルの足を思いきり踏む。流石にこれは痛かったのか、クラウルも諦めて離れた。
部屋にあるソファーの裏側へと回った二人は左端の方へ立つ。視線はランバートの方を。その様子を、ランバートは真剣にスケッチした。
「それにしても、シウスの誕生日に絵とは。ラウルも考えたな」
「家族が全員収まった肖像画がないそうなのです」
「そこに俺達も入っていいのか?」
「せっかくなら友人や仲間も集まっての集合がいいということで」
これが今回の狙いだった。
ラウルの話では、シウスは家族や仲間を大切にしている。だがこれまで、そうした絆を感じる物は持っていない。両親は既に亡くなっていて、実際に同じ画面に収まる肖像画は無理だ。
だが幸いな事に、シウスは母一人の肖像画は持っている。それを参考に、今回同じ場面に収める事を考えた。
問題はシウスの父だ。これに関してはフェレスやリスクスに協力をラウルがお願いしにいった。
「はい、もう大丈夫です。ご協力、有り難うございます」
「もう描けたのか!」
時間にして三十分程度。ランバートの手元には角度の違う二人のデッサンが数枚描かれている。構図の参照となるソファーを入れた立ち画面。顔だけを大きく描いたラフが数点。服装だけのもの。これらを参考に、キャンバスに書く時には組み合わせるのだ。
覗き込むゼロスが驚いた顔をし、クラウルが感心している。そういうのは少しくすぐったくて、ムズムズしてしまうのだ。
「お前、本当に多才だな」
「一度見切りをつけた趣味だけどな」
「勿体ない。画家を目指したりはしなかったのか?」
クラウルに問われて、ほんのすこし表情を沈める。そして、描いたばかりのスケッチを指でなぞった。
「俺は単純に、誰かが嬉しそうにしているのを見られればそれでいいんです。だから、画家は向かない」
「なるほど」
いつもこの絵は不特定多数ではなく、一人に向けて描かれている。多くを喜ばせるのではなく、たった一人を。
不意に、ポンと肩を叩かれる。見ればクラウルが穏やかに頷いていた。
「お前の思う道でいい」
「……はい」
穏やかに笑い、部屋を後にしたランバートは自室へと戻ってくる。そしてそこに準備してあるキャンバスに向き直り、薄く溶いた絵の具で下書きを始めた。
画面にはソファーがある。団長の部屋に置いてあるソファーは備え付けで、全部デザインが同じだ。それを利用して、バラバラに描いたデッサンを元に一つの画面に構成する。今はまだ下書きだが、早い段階で下塗りに入れるように準備だけはしておかなければいけない。
表情、体のライン、服。大まかではあるものの、大雑把にはならないように。そうして再び三十分も向き合えばある程度納得できる下書きが出来上がる。
その後数日をかけて、ラウル、エリオット、オスカルの絵を描かせてもらった。ラウルがシウスの留守を見計らって部屋に入れてくれて、彼の母の肖像画も写させてもらった。
準備は順調に進み、キャンバスは次第に賑やかになっていった。
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