恋愛騎士物語3~最強騎士に愛されて~

凪瀬夜霧

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7章:クシュナート王国行軍記

1話:国境の町ヒレン

 国境の関所でシウスからの書簡と身分証をそれぞれが提示すると、軽い身体検査の後、全員が関所隣接の詰め所へと案内された。どうやら彼らが到着したらここに通される事が決まっていたようだ。
 二階にある応接室は北の国特有の重厚な内装となっている。温かく織り込んだ模様も美しい絨毯に、立派な暖炉。家具はどれもがっしりと重く丈夫で、かつ年月を思わせる色合いをしている。
 冬の期間が長い北の地では家具をとても大切にする。それこそ何世代にもわたって受け継がれていくものなのだ。これは、スノーネルでも同じだった。

「なんか、故郷に帰った気分」

 ハリーが辺りを見回しながらそんな事を言う理由は分かる。ランバートも、ヴィクトランに捕まって暫く過ごした冬の別荘を思いだしていたのだ。

「今、責任者を呼んで参りますのでしばしお待ちください」

 案内をして、少し出ていた兵士がワゴンカートに人数分のお茶と軽食を乗せて戻ってくる。促されるまま大きなコの字型のソファーに腰を下ろした面々の前に所狭しと茶器が並んでいった。

「あまりお構いなく」
「いいえ、我等が陛下のお客人です。丁重にと上からも言われておりますので」

 なんだか心苦しく伝えたランバートに対し、案内の兵士はにこやかに微笑んで一礼して出て行く。
 これまでと明らかに違う扱いに何となくムズムズと、全員が顔を見合わせて笑った。

 だが実際の所はかなり有り難い。東の森でも凍死する様な寒さはなかったが、それでも体は冷えていたのだろう。洞穴式の隠れ家を転々としていたのだから仕方がない。
 今、暖炉の温かさを全身に受けて心地よく体が温もるのを感じている。どことなく全員がほっとしたような顔をしていた。

 そこに、勢いよくドアが開いて一人の男が姿を現した。正直、その大きすぎる開閉音に気の抜けた騎士達がビクリ! としたくらいだった。

 男はきっちりとした騎士の服の上からでも逞しい肉体が分かる感じがした。背はそれほど高くはないのだが横幅があり、そのほとんどが筋肉だと分かる盛り上がりをしている。
 髪は刈り上げた銀髪がツンツンとしていて、輪郭は角張、鋭い青い瞳は興味深げに全員を見回し、顎には無精ひげが生えていた。

「おう、待たせてすまなかった。ちと町の見回りをしてたもんで遅れたわい。がっはっはっはっはっ」
「……はぁ」

 色んな意味で豪快そうだった。

「わしは国軍将校の一人で、ジョルジュ・エモネだ。お前さん等の事は陛下から聞いている。よくこの時期にあの森を越えてきたもんだ」
「ジョルジュ将軍、お世話になります。一隊を預かるランバート・ヒッテルスバッハと申します。手厚い歓迎に感謝いたします」
「なーに、気にすんな。わしらは好意的な客人は大歓迎だ。だが、しかし……ヒッテルスバッハと言うとお前さん、ジョシュア・ヒッテルスバッハの親戚かい?」
「……父です」
「なんと! 似とらんな! がっはっはっはっ」
「…………」

 どこまで名を轟かせてるんだ、あの父親。

 ランバートはひっそりと顔を引きつらせ、気付いたゼロスが肩を叩いた。

 ひとまず全員が席に着き、ランバートは一通り全員の紹介を終えて改めて、シウスの書簡をジョルジュに手渡した。
 それを確認したジョルジュが頷き、角張った顎を撫でる。

「それにしても、帝国も難しい立場だな。カーライル様も気苦労が絶えん。せっかく可愛い嫁さんもらって、今が一番幸せだろうに」
「将軍は、我等が陛下の事をご存じなのですか?」
「知ってるもなにも、あの方がこの国に留学していた一年程、ずーっとわしが護衛についとったのよ。逆にうちの陛下が帝国に留学していた時もついていった。一緒に酒を飲んだくらいだ」
「そんなに古いお知り合いなのですか」

 少し驚きつつも親しげな表情には懐かしさが含まれている。それだけで、この人物に敵意がないことが分かって安心した。

「カーライル様ばかりじゃない。クラウルの坊主も知ってるぞ」
「クラウル様を?」

 これにはゼロスが反応する。当然と言えば当然のことだろうが。

「あいつがカーライル様の護衛でこの国についてきたからな。冷静ぶってるくせにすーぐ熱くなる、可愛いクソガキだったわい」

 ほんの少し、ゼロスは恥ずかしそうに顔を赤くした。

「シウスやファウスト、オスカルにエリオットも元気か?」
「団長達もご存じで?」
「まぁ、あいつらとも多少話した事がな。わしは陛下の名代で時々帝国にも行くしな。噂じゃ、団長達を骨抜きにしたのがいると聞いたが」
「「…………」」

 ランバートとゼロスは当然無言だ。そしてラウルはほんの少し居心地悪そうにモジモジしている。
 だが、気付いているのかいないのか、ジョルジュはなにも言わずにお茶を楽しんでいた。


 国境の町ヒレンは整理された区画割りで、石造りの綺麗な建物が並ぶ中規模な町であった。道もある程度石畳で整備されている。

「ここは王都から一番近い国境だ。治安も悪くはない。だが、今から移動すると王都につくのが午前様だ。今日は騎士団の砦を用意してるから、そこで一泊してくれ」
「色々と有り難うございます」
「なーに、砦の奴等も祭りが好きな奴等ばかりだ。飯が軍飯で、風呂が大浴場で、少々周囲が騒がしいって事を除けば悪くないぜ」
「慣れた環境です」

 まるで宿舎のようで慣れている。全員が苦笑しながら、石造りの町を堪能しながら移動していた。

 ヒレンの砦はお祭りのような騒がしさだ。
 他国の騎士が来る事がまず稀なようで、みなが質問攻めのような状態になる。そのうち当然のように「一緒に訓練を」と言われ、現在は修練場に全員がいる。

「そこのガタイのいいのが強そうだ。えっと……ドゥーガルドだっけか? お前強いか?」

 身幅の広いゴツい剣を持ったジョルジュが楽しそうに戦う姿勢を見せている。そこには歴戦の騎士という風格と威厳があって、戦う前から強い事が分かる程だ。
 その空気に負けて、ドゥーガルドがふるふると首を横に振る。でかくて体力と馬力、破壊力はあるが確かに剣の精度としてはそれほどでもない。

「なんだ、お前ビビってるのか? んじゃ、こん中で一番強いのどいつだ?」

 剣を肩に担ぎ、しげしげと眺めるジョルジュが見回す。仲間の視線が一斉に、ランバートに集まるのが分かった。

「お前さんか?」
「まぁ……多分?」
「そっか。んじゃ、まずは手合わせ願おう。こんなジジイだが、まだまだ現役のつもりでな」
「分かりました」

 まぁ、確かに行軍はしていたが本気で剣をにぎるのは久しぶりだ。体を解すのにもいいかもしれない。
 ランバートは手に自分用の、十字架のような長剣を握って前に出た。

「何だ、お前さんは随分華奢な剣を使うんだな。特注……ってことは、師団長以上か」
「騎兵府補佐を拝命しています」
「ほぉ、ファウストが側を許した実力か。そりゃ楽しみだ」

 ちょっと恋人評価が入っていたり、事務処理能力が高かったりもあるが……

 まぁ、その辺は言わない事にしてランバートは剣の柄に手をかけて片足を一歩下げた。それを見たジョルジュは鋭い瞳を僅かに見開き、ニヤリと笑う。

「それでは、始め!」

 その声と共に前に出たのはジョルジュだ。剣の重さを存分に乗せた一撃。ランバートはそれを後ろに避けてすぐに足元を固め、剣を一閃させる。
 鋭く速い剣が青白い線のようにジョルジュに迫る。だが歴戦の騎士はその攻撃を剣の柄で防ぐと共に、刀身を切り上げた。
 ランバートもその動きには反応した。鞘で刀身を滑らせつつ距離を取る。
 だがそればかりがジョルジュの戦い方ではなかった。不意に死角から見事なフックが入り、頬を強かに殴り飛ばされた。

「っ!」

 ファウストに似ている荒っぽい戦い方だが、動きはそこまで速くない。だが、経験値と重量が違う。数歩後退ったランバートを狙って剣が迫る。これをまともに食らえばただじゃすまない。
 剣でそれを払い、できた隙に強烈な蹴りを見舞った。見事に老将の顎にヒットした攻撃で、相手も数歩フラフラ下がった。

「綺麗な顔して俗な戦い方をするもんだ。そりゃ、ファウスト仕込みだな?」
「元からです。悪化しましたが」
「まぁ、命かかってるもんに綺麗も汚いもねーわな」

 蹴られた部分をグイッと拳で拭ったジョルジュがニヤリと笑い改めて剣を構える。それに合わせて、ランバートもまた剣を構えた。


「いった!」
「こんな怪我するほうが悪い!」

 青くなった頬に薬を塗り、口の中を容赦なく見るクリフが目を釣り上げている。その様子はまさにエリオットのそれで、似てきたとは思ったが本人かと身がすくむ。
 隣では同じく砦の人に治療されているジョルジュがいる。あっちもランバートと同じくらい傷だらけだ。

 結局決着がつかないまま、制限時間の二十分が過ぎて止められた。その頃には双方純粋な剣の戦いではなく、剣と体術取り混ぜた乱戦状態になっていた。当然双方共に痣だらけで、口の中も切っていた。薄くなら切り傷もある。

「これを見たらファウスト様、決闘挑むんじゃない?」
「絶対止める」

 からかうハリーに溜息をつきつつも容易に想像出来るのが頭が痛い。確かに少し頭に血が上っていたが、演習なのだから怪我くらいはする……と思う。

「いやぁ、お前さんは若いのに強い! わしの剣が通用せんわい」
「ジョルジュ将軍、いい加減年考えてくださいよ!」
「ふん! まだ若いもんには負けんわい」

 同じようにジョルジュの手当をしている隊員が困ったように言う。だが老将はまったく意にも介さぬ様子だ。
 ニヤリと笑うジョルジュがランバートに手を差し伸べる。握手を求められ、ランバートもニッと笑ってその手を取った。

「軍神の補佐はさすがだわい」
「老将のご指導、今後に活かしたいと思います」
「まだそこまで老いとらんわい!」

 そう言いつつも、最後には声を上げて笑っていた。
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