恋愛騎士物語3~最強騎士に愛されて~

凪瀬夜霧

文字の大きさ
83 / 137
10章:二王の邂逅とアルブレヒトの目的

6話:残り香を抱いて

 王都帰還の翌日から、ランバートは仕事を開始した。それというのも騎兵府執務室が大変な事になっていたからだ。
 ファウスト不在となって一ヶ月あまりが経つらしい。だが、彼が不在となっても書類仕事はあるものだ。

「こっちが日報……主に第五と第三のみか。それなら早いな。こっちは他の砦からの嘆願……戦の不安が他の砦にも伝染している。シウス様に相談して、余計な混乱がないようにしないと」

 ほかにも決算や備品の発注がある。整理できるものは整理して、決算は行って、発注を考えて。ファウスト不在の時だけ使える「シヴ」の印を押しておく。ファウストが戻ってくればファウストに差し戻され、戻らない間に期日がくればそのまま通される。補佐官の印鑑だ。

 それらを片付けると、次は着替えて街にも出た。主にリッツの所だった。

「リッツ、いるか?」
「ランバートか。丁度良い、手紙だそうと思ってたんだ」

 奥から出てきたリッツはそのまま地下に案内してくれる。そこには綺麗に仕立てた棺に、綺麗な服を着せられたラダがいる。体を冷やして腐食を遅らせているのだ。
 それというのも、葬儀の日取りが決まらない。他国だし、神が違う。だが教会が葬儀を許可しないと火葬場が使えないのだ。

「カール陛下から教会に働きかけがあったみたいでさ、ようやく葬式してやれそうなんだ」
「そうか」

 そっと肌を撫でると、ひんやりと冷たい。でもその体は死んだ時の姿を保っているように見えた。

「不思議だよな。死んでからもう一週間以上が経ってるだろ? 普通、こんなに綺麗な状態じゃ残らないのにな」
「神子姫、だからな。神の加護があるのかもな」

 一応騎士団で遺体の防腐処理などが多少は行われたが完璧ではない。なのに腐敗を示す出血もない。時を止めてしまったようだった。

「それにしても、火葬でよかったのか? 帝国もジェームダルも土葬が主流だろ?」

 リッツが心配してそんな事を言う。ランバートも少し気にはしていたが、アルブレヒトの理由を聞いて納得はした。

「一度土葬してしまうと、掘り起こさなきゃ故郷に帰れないから可哀想だって。せっかく眠っているのに、暴くような事はしたくないそうだ」
「……そっか。まぁ、土地に帰りたいよな。惚れて、命まで差し出す人が王様になった国だもんな。見守りたいか」

 諦めたようにリッツは力なく笑い、その後で悲しげに俯いた。

「死体、久々に触ったな」
「お前、スラム時代の後は影の仕事してないからな」
「できないだろ、あんなの見てたら。それに……俺の仕事は下町の社会システムを作り上げた時点で終わってんの。今でも監修はしてるけど、あまり関わらないようにしてるんだよ」

 それを聞くと、ランバートは申し訳ない気分で一杯になった。

 ランバートが下町に関わった頃、復興に向けて動き出したはいいが経済については不勉強だった。そこで、友人だったリッツに頼んでシステムを作った。
 現在の下町の区分け、ギルドシステム、衛生面での徹底指導などはリッツが主導した。ある意味、こいつもロトなんだ。
 同時に、沢山の死を見てきた。

「お前のおかげで、色々助かったよ」
「……わかってるよ」

 リッツはランバートの背中を叩いて一言「死ぬなよ」と言う。その言葉がこの友人の心からの願いだと思うと、強く刻まれるものになった。


 数日後、ランバートは前線に向かう事になった。アルブレヒトのジェームダル王太子発表の後、彼と共に前線に向かう為だった。
 ランバートはそのまま前線に居残る。これでようやくファウストに追いつける。

「ふぅ……」

 夜、戻ってきたランバートは部屋着に着替えると自室を出た。そうしてきたのは、ファウストの部屋。
 住人のいなくなった部屋は冷えていて、とても寂しい気持ちになる。それでもベッドに潜り込めばまだ香りが残っている気がする。
 ファウストの枕に鼻先を寄せ、想いと香りに包まれていると落ち着いた。

 今頃、前線にいる。まだ激しい戦いは始まっていないと聞いているけれど、タイムラグもある。激しい戦いがあれば……いや、彼が負ける事はまずないだろうけれど。

「ファウスト」

 もうすぐ、会いに行く。そうしたら、側に置いてくれ。背を守らなくてもいい、そればかりが彼を守る事ではないと知ったから。後ろを守り、大いに戦えるようにするだけでもいい。
 何より、まずはアルブレヒトを連れてジェームダルの人々の前に健在を示さないと。国内での動揺を誘えればいいんだが。

 そんな事を考えている間に少しずつ眠りが訪れる。優しい匂いを体いっぱいに吸い込んで、ランバートは静かな寝息を立てた。


▼ファウスト

 前線に篝火が消える事はない。
 目の前にあるラジェーナ砦を睨みながらも、ファウストは司令官室で一人穏やかな笑みを浮かべた。

 無事にランバートが王都に帰還し、他の者にも大きな怪我はなく、アルブレヒトも無事に奪還したと報告があったのは数日前のこと。その知らせだけで安堵できた。
 不安だった。単身の任務に出す事がとても辛かった。戻ってこなかったら、怪我をしていたら。それを思うと苦しくもなった。
 せめて王都で迎えてやれれば良かったのだが、この状況だ。そうも言っていられない。

 アシュレーは「少しくらい顔をみてきては?」と言ってくれた。フリムの足なら往復三日もあればいけるだろうと。
 だが、ファウストはそれを断った。
 きっとそんな事をしてもランバートは喜ばない。現場を放棄して安堵を得ようとすれば、すぐに厳しい言葉が飛ぶだろう。

「早くこい、ランバート。俺の側を空けてあるんだぞ」

 自然と笑みが浮かぶ。空には綺麗な金色の月がある。彼の髪の色に似た、綺麗な月が。

 手紙を引き出しにしまい、立ち上がる。ジェームダル軍に動きはないものの、兵は集まっている。膠着状態のまま一ヶ月近く。攻め込むつもりがないのか、それとも攻め込めないのか。
 だがおそらくこの穏やかさはすぐに崩れる。アルブレヒトが奪還されたとなれば、動かない訳にはいかないだろう。彼はジェームダルにとって大きすぎる爆弾だ。

「さて、どう動く?」

 睨み付けるその先、平原を越えた先に見える篝火も消える事はない。
 この砦が前線となり、この平原が壮絶な開戦の地となるだろう。そしてその前線、誰よりも前に立つのはファウスト自身だ。


▼アルブレヒト

 明後日、この帝国の地でジェームダルの正当な王であることを宣言する。人々の前に出て、カーライルからも承認を得て。
 本来はジェームダルで行うべきだが、残念な事に戻るには時間がかかりすぎる。
 それに構わないのだ。誰が何を言おうが、彼の国はアルブレヒトがアルブレヒト本人であると認めざるをえない。偽物だと言う奴があれば切り崩す。口汚く罵るならば好きにすればいい。その口を閉じるのは、奴等の方だ。

 体力も戻っていった。ラダがくれた命の流れは隅々まで体を満たし、魂を包むように側にある。命に溢れた体は回復が早く、最近ではダンを相手に剣を握っている。騎士団の訓練にも参加させてもらったが、いい経験だ。これほどの訓練をしてようやく、彼らは強くなれるのだと知った。

 もう一つ安心したのは、ラダの葬儀が行える事だった。
 リッツを信じて手配をお願いして良かった。動けない自分の代わりにあれこれしてくれた。そしてランバートも今回のミッションに関わった者を集めて葬儀に出てくれると言ってくれた。
 嬉しかった。これで、寂しい見送りにならずに済む。

 カーライルとは友人のようになれた。時間が許せば昼食や夕食を一緒にするようになり、自然と互いの話をするようになった。
 帝国建国の王。我が主イグネイシャス。彼の強くも穏やかな気に再び触れられるとは思わなかった。だが、そこにお茶目が加わってまた新鮮な気持ちだ。
 同じ魂を持っていても同じ人間にはならない。嬉しくて、少し寂しくもあった。

 クラウルという青年とも会った。そして直ぐに、ゼロスに繋がる恋人であるのがわかった。少し意外な気がする。雰囲気は似ている気がする。
 だが、ゼロスには彼の加護が必要だろう。テュールの加護を受けるクラウルの守りはとても強い。そこが力を与えているのは、ゼロスにとっても心強いはずだ。


 夜、アルブレヒトはシウスの部屋を訪ねた。まだそれほど遅い時間ではなかったのだが……見てよかったのだろうか?

「……兄、頼むから笑うのは止めてくれぬかえ」
「いや、だって……」

 目の前のソファーにいるシウスの顔は真っ赤だ。そしてその膝に頭を乗せて、ラウルが心地よさそうに眠っている。衣服は僅かに乱れている。
 つまり、二人で一つのソファーに座って睦言を囁いている所にノックなしできてしまったのだ。

 それからのラウルは真っ赤になって叫び、恥ずかしいのを誤魔化すように酒を飲み、沈んだのだ。
 シウスも大慌てだった。バッチリ見ているのに言い訳をしていて、最後には泣きそうになっていた。

 こんなこいつを見るとは思わなかった。幸せそうで何よりだ。孤独じゃなくて良かった。

「お前、本当にセヴェルスかい? だらしのない顔をして、可愛い恋人に骨抜きじゃないか」
「良いではないかえ、幸せなのだ。故に、手放すのが惜しくてならぬ。私も早う前線に赴かねばならぬ」
「その子と一緒に行きなさい。妙な影が道中見える。人の負は臭いますからね」

 どうにも臭う。チェルルのように器用な暗殺者はそうはいないだろうと思うが、戦いが起こればそうも言えない。混乱の間を縫って潜り込む輩がいないとも限らない。

「兄、随分と雰囲気が変わった気がするが……何かあったのかえ? 道中の事は報告を聞いておるが、どうにもそればかりではないように思うが」

 無意識なのかラウルの髪を優しい手つきで撫でながら、シウスは首を傾げている。その様子を見て、アルブレヒトは少し寂しげな笑みを浮かべた。

「神との関係を断ってきました」
「え?」

 もの凄く間抜けな顔をしている。目を丸くして、口元はポカンと。
 その様子が面白いのなんの。なにせ気の抜けた顔なんて里では見た事がなかった。
 ここに来て、良き友や恋人に恵まれて、シウスの心は育ったのだろう。その為に表情も多くなった。良い事だ。あの悲劇から逃れたエルは皆それぞれに苦労をしたと聞く。幼い心が壊れてしまったのではと不安があった。

 あの男のように……

「兄?」
「あぁ、いえ。実は、死にかけていましてね。そんな私を神が強引に……世話をしてくれた少女の命で繋いだものですから、仲違いもありまして。それに、そうした強引な事をしたために繋がりが切れてしまったので」
「では、兄にはもうエルの力は残されておらぬのかえ?」
「いえ。先見の力、加護を与える力、人ならぬものを見る力は残されていますよ。元々私が持っていた力のようです。ですが、この身に神を降ろすことはもうできません。対価を払い、神に願う事も」

 だが、いいのだこれで。そもそも神の力をそれほどまでに利用できるはずがない。あれ以上の願いを言えばおそらく、あっという間に命を使い果たしただろう。
 それに、もうそんな力は必要ない。これからはこの手で、仲間と共に切り開いて行く。人として、それが真っ当な生き方だ。

 シウスは複雑な顔をしていた。眉根が寄って、考え込むように。それでもこの子は判断が早い。やがて困ったように笑った。

「兄は案外気が短かったのを思いだした。まさか神を相手に喧嘩とは、なんとも豪快な話だなえ」
「長年言えなかった事を言いましたからね。少し、しょぼくれていましたよ」
「本当に、気の強いことじゃ」

 互いにそんな事を言って、やがて笑った。穏やかな時が戻ったように、くくくっと楽しげに。

 それでもこんなのはここまで。一通り笑い声が収まると、心得たように目が真剣になる。シウスもまた感じているだろう。このようなタイミングで、アルブレヒトがここを訪れた理由を。

「して、何事か不安があるのかえ? 兄がこのような時間にここを訪れる理由は、なんだえ?」
「……確信には至らない話ですが、構いませんか?」

 そう、前置きをした。自分の発言に違和感があるが、こうとしか言いようがない。「確信に至らない」なんて、今まであまりない事だった。
 それはシウスも感じたのだろう。首を傾げながらも真剣な目で頷いた。

「ジェームダルの宰相についての話です」
「報告は受けておるが……厄介なのかえ?」
「えぇ。キルヒアイスを拐かし、教会に話を持ちかけ私を監禁した張本人でしょう」

 そう伝えた途端、シウスの表情は冷たく引き締まった。知らぬ騎士の顔。空気まで締まるような、そんな表情だった。
 子は大人になる。幼い時分に別れ、それっきりだった少年の変化を見るのは嬉しく、そして少し悲しい。決して平坦ではない道のりを思わせるから。

「確信は、ないと?」
「ありません。ただ、他は考えられないのです。昔は友であった彼が、ある時を境に未来も心も見えなくなった。心も加護も真っ黒に塗り固められ、願いの灯火も消え失せ、絶望のみが身を包んでいた。けれどそこに欲望はないのです。純然たる闇に立つ、そんな人です」

 いや、彼だって最初はそうじゃなかった。最初は素直で可愛い人だった。辛い過去を涙ながらに語ってくれて、一時は同じ希望の元にいたのに、離れた間に事件に巻き込まれてからは心を閉ざしてしまった。もう、戻らないのだろう。

「名はナルサッハ。もう一つの名は、ネメシス」
「ネメシス、とは……では」
「十五年前の悲劇の夜に追い立てられた、我等が同胞です」

 シウスが息を飲み、アルブレヒトは一度瞳を閉じた。そして、知る限りを伝える事とした。

「私が知る彼は、壮絶な半生を生きてきました。それだって随分と言葉を選び、苦慮しながら語ってくれたものです。あまりに悲惨で涙が出るほどです。ただ……原因となっただろう事件の詳細は、聞けぬままでした」

 そう、前置きをしておいた。

「ナルサッハは悲劇の後、母と姉と妹と共にラン・カレイユへと逃れたようですが、そこで人買いに捕まり性奴隷として何年も生きたそうです。母や姉や妹はもっと苦しい……ずっと酷い扱いを受けたようです」

 ナルサッハが発見され、国軍に保護されたのは偶然の事だった。とても美しい少年だったが、怯えきっていた。王宮で保護し、アルブレヒトの友として過ごすうちに徐々に元気になっていった。
 ナルサッハの証言で母達も探されたが、アルブレヒトはその時の様子を知らない。ナルサッハ自身もそこはただ「死んだ」とだけ教えてくれた。後の報告で、あまりに惨い事だけは伝えられた。

「私も、一歩間違えばそのような運命であった。あの夜に、人生を狂わされた者のなんと多きことか……」
「セヴェルス」
「その名も、もう長い事呼ばれなんだ。今では古い友やこの子が呼んでくれるが、それまでは封じてしまっていた。故に、その者の悲しみや憤り、絶望は覚えのない事ではない」

 シウスはそう言って、瞳を伏せた。感情を消した薄い水色の瞳は、過分に苦しさを封じ込めている。

「彼は私の友として王宮で過ごしました。とても懐かしく、私達は本当の友として身分などなく過ごしました。そのうちにあの子の瞳にも光が戻り、時々ではありますが心からの笑みを見せてくれるようになっていたのです」

 今でも思い出す。庭先に出て、美しい花が咲いていると満面の笑みを浮かべて教えてくれた事。お菓子が美味しいと、嬉しそうにしていたこと。
 この時が一番幸せだったかもしれない。

「とても、美しい子だったのですよ。薄い緑の瞳はインコの羽根のように明るく輝き、色は白く、愛らしい笑みを浮かべていたのです」
「そのような者がなにゆえ、心を食われたのだえ」
「……悲劇は終わっていなかったのでしょう」

 もう、そうとしか言いようがなかった。

「彼を置いて、私は辺境へと向かい彼の地の再生に手を尽くしていたのです。時間にして三年程度かと思います。そうして戻ってきたとき、あの子はいなかった。なんでも城勤めの大臣が子のないことを嘆き、ナルサッハを養子にしたいと懇願したとか」
「では、その者が?」

 アルブレヒトは静かに頷き、手を握った。
 その大臣は覚えがないが、嫌な感じはあった。だが、宮中では真面目で誠実な男だったのだ。見抜けなかった故の悲劇だった。
 奥方と幼い子を亡くし、同情する者は多かった。そして養子を養う力も充分にある男だったのだ。

「すぐに父に言ってあの子の所に行きました。けれど、遅かった。あの男はナルサッハを地下に繋ぎ、肉欲をぶつけていた。しかも無理心中を試みて自らとあの子の体に油をかけて火をつけた」
「な! そのような非道をどうして!」
「……恐ろしい妄執としか、言いようがありません。結果男は死に、ナルサッハも油のかかった左半身の多くに火傷を負って死の淵を彷徨う事になりました」

 背中、左胸から腹にかけて、そして美しかった顔の半分を焼かれた。今も皮が引きつり皺が寄り、決して人前に体をさらす事はない。

「私は、甘かった。死なせてやるのがあの子の幸せだったかもしれません。それでも願ってしまった。闇に閉ざされ憎しみに焼かれ、やがて心に焔を抱えて……それでも生きていれば良いことがある。また、笑える日が来る。笑って欲しいと、願ってしまった」

 死の淵を彷徨う彼を助けたくて神に願った。彼の苦痛を肩代わりする代わりに、命を助けてほしいと。
 結果、アルブレヒトまで高熱と激痛で寝込む事になったが、ナルサッハの命は助かった。

「甘かったのですね。心に魔を宿した者が再び笑みを取りもどしてくれるなんて、私はとても甘い事を考えていた」
「アルブレヒト兄……」
「彼の全てが見えなくなったのは、この頃。甘い私はそれでも、こんなに恨まれているとは思わなかった」

 国を黒いものが覆っていく。友が、苦しみもがいている。感じてもどうする力もなく、ただただ祈るばかり。奴隷のように毎夜男の慰み者になりながら、その影に常にナルサッハを感じた。
 これはあの子の復讐だ。あの子の受けた苦痛だ。助けも呼べず、希望も見えず、やがて絶望に心を濁し闇に封じられていく。
 神が、そしてラダがいなければ壊れただろう。友を思い無事を祈りながら、押し寄せる屈辱や光の見えない絶望に打ちひしがれて死を望んだだろう。

「シウス、気をつけなさい。魂を魔に食わせた者のやる事は人の所業ではありません。その身に邪神を宿した者は自らの破滅と引き換えに他も破滅に追い込んでいく。私にも、あの者のやりようを見通す事はできません。慎重に、するのですよ」
「わかった。兄は、大丈夫かえ?」

 騎士の顔、そして慕う顔。両面を見せるシウスに苦笑して、アルブレヒトは立ち上がった。

「大丈夫ですよ」

 そう一言残し、邪魔をした事を謝罪して、借りている部屋へと戻る。
 水を一杯飲み干し、息をついて……自らを抱いた。

「大丈夫、か。五年は長すぎましたね」

 苦笑して、誤魔化すように横になる。体の疼きを他で発散しても時折辛い夜はある。種はなくとも衝動がないわけじゃない。男としての反応は正常だ。
 心は凪いでいても、体は何かを訴える。それを感じる間は、この五年なかった。けれど穏やかな時間が訪れると不意に奥底が熱く虚しくなる。
 今日はきっと、シウスに妬いたのだろう。とても幸せそうだったから。

 寝るに限る。アルブレヒトは深く布団を被り体を縮めて、無理矢理眠り込む事にした。
感想 18

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまの第2回BL小説漫画コンテストで『文が癒されるで賞』をいただきました。応援してくださった皆さまのおかげです。心から、ありがとうございます! 表紙は、ぱくたそ様よりsr-karubi様の写真をお借りしました。ありがとうございます!