恋愛騎士物語3~最強騎士に愛されて~

凪瀬夜霧

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12話:軍神降臨

5話:軍神降臨(ジェームダル陣内より)

 夜間の戦いから一夜が明けて、ジェームダル陣内は余裕の笑みが続いている。
 彼らに仲間意識というものは無いと言っても過言ではない。死んだ奴等はバカだったんだ。弱いから死んだ。むしろ報酬の取り分が増える事を喜ぶ奴が大半だった。
 減った分も補充すればいい。その程度の認識だ。

 沈黙した帝国陣営を嘲笑い、「もう一押しすれば落ちるんじゃないか?」なんて下品な物言いをし、酒を飲み、肉を食らう者がたむろした状態だった。

 早朝、森の中から一人の黒騎士が現れるまでは。


「あぁ? あれ誰だ?」

 森に近い場所でたむろしていたジェームダル兵が、森の中からたった一人現れた人影を指して言う。
 そこには黒い立派な馬に跨がった黒騎士がいて、真っ直ぐ陣営を目指している。

「おいおい、バカじゃないのか? 帝国もとうとうとち狂ったんじゃないのか?」

 ゲラゲラと汚い笑みを浮かべた兵の一人が馬に跨がる。それを、仲間は見て同じく笑った。

「いっちょ討ち取ってくるぜ」
「おいおい、優しくしてやれよ?」

 ゲラゲラと、不快な笑いを浮かべた仲間に見送られた一人が馬を繰る。そうして静かに向かってくる黒騎士めがけて剣を振り上げた。
 だが次に男が見たのは、馬の足と地面だった。

「え?」

 何が起こったのか、理解しなかっただろう。だが、理解した時には遅すぎた。黒騎士の長剣は向かってきた馬の首ごと男の胴を真っ二つに切り離していたのだ。

「なんだこいつ!」
「やりやがったな!」

 いきり立つ仲間が同じく剣を抜いて飛び出していったが、結果は変わらない。汚い悲鳴を上げてただ地面に肉塊を転がす結果となった。

 ジェームダル陣営は突如現れた黒騎士によって、地獄絵図へと変わっていった。

「ぐはぁ!!」
「ひぃぃぃ! 助け! ぎゃぁぁ!」

 黒騎士の剣が容赦するはずがない。向かって来た馬の首を切り、横転した者を問答無用で切り伏せる。手に持つ長剣は騎乗のままで十分な長さがあり、その威力は踏ん張っていなくても力がある。

「たっ、たすけ……」

 地に転がった男が命乞いをする。へっぴりの体で後退りながら涙と鼻水でグチャグチャの顔で見上げた先に、黒い影が差す。
 強靱な四肢をもつ黒馬が明らかな殺意を秘めて前足を上げ、男を容赦なく踏み潰す。男は内臓も骨もグチャリと踏み潰されて大量の血を吐きながら絶命していく。グチャッバキバキバキという臓腑と骨を砕かれる音が、男の最後に聞いたものとなった。

 黒衣の騎士はその瞳に一切の慈悲を見せず、嘲笑も、憎悪も見せず淡々と処理するように戦場を蹂躙していった。
 これといって生死を問うわけでもない。一刀のうちに切り伏せて、後は放置した。それで十分だったのだ。剣はどれも深く、食らえば即死せずとも死ぬだろうと彼は経験から知っていた。

 むしろ、一撃で死ねたなら幸せだっただろう。下手に急所を外れた兵は地を這いつくばり、痛みや苦しみにのたうつ結果となった。
 これで誰かが助けようとしてくれれば、まだ魂は救われたかもしれない。これが帝国の騎士ならば傷つく仲間を助けようとしただろ。例え死んだとしても、一人ではなかった。
 だが、仲間が死ぬ事で取り分が増えるとすら考えていた奴等が、恐怖を感じながらも死にそうな者を助けるわけがない。
 体はのたうち苦しみ、呻きは誰に届く事もなく、ただ虚しく一人死んでいく。この段階で初めて彼らは知る事になる。
 命というものの尊さと、大切さを。

 逃げた者も当然いた。黒騎士はそれを別段止めなかった。
 黒騎士が現れて僅か一時間、ラジェーナ砦前には悪魔も顔色を変える程の屍が累々と積み上がり、息のある者も助かる見込みはなく、逃げた者は逃げるのが精一杯だった。

 その中で唯一、黒騎士を殺す事に躍起になった男がいた。戦闘の夜、ラウルと対峙した男だった。
 彼の名はコルギルと言う。これでも真っ当な騎士であった。
 戦場では勇猛に戦い、剣技においても悪くはない。戦場で実績を上げて騎士になった勇将だ。
 ただ一つ、その性癖を除けばそれなりの評価がされただろう。
 この男、とにかく性癖が歪んでいる。女も男も苦痛に泣き叫び、苦しむ様を見る事に何よりも性的興奮をする男だった。
 しかも相手は若いほうがいい。若く未経験な者を無理矢理拘束し、恐怖を与え泣かせながら壊すように抱く事に生きがいを感じる様になった。
 そのため疎まれ、どこにも居場所がなくなったことで宰相ナルサッハが拾った。報酬は捕らえた捕虜の中からコルギルが気に入った者を回す事。
 コルギルは「それなら報酬は少なくていい」とすら言い、金の代わりに捕虜を多く求める気狂いとなった。

 この男にとって帝国はまさに理想だった。若いのが沢山いる。
 特に先日対峙したラウルは好みだった。小さくて色が白く、顔立ちも幼さがあった。あの体を無理矢理組み敷き、犯し、泣き叫ぶ様を想像するだけで下半身が滾るようだった。
 本陣の火災の際、一瞬目を離した間に逃げられてしまったのが残念でならない。

 こんな男だが、戦場で培った武も本物だった。別に仲間を助けてやろうとは思わなかったが、強者と戦う事にも心が躍る。
 だが、コルギルは大事な一点を見誤った。まさか真っ当に切り結ぶ事もできないとは、考えていなかったのだ。

 向き合い、斬り合う姿勢を見せたコルギルは自慢の剣を振り上げる。
 黒衣の騎士はその剣を下から切り上げた。
 ビリビリともの凄い衝撃で痺れ、上へ弾かれた腕が戻ってこない。そして完全に痺れた手から剣が落ちた。

「あが?」

 黒騎士の次の一閃で、コルギルは弾き上げられ戻らないままの両腕ごと首を飛ばされて地に転がった。

 その後も黒騎士による一方的な殺戮は続いた。
 もしもここに優秀な弓兵の一人もいれば、多少善戦できたかもしれない。黒騎士の剣は長いが、それでも弓の間合いには勝てない。馬がどれほどの駿馬でも、高い位置に陣取ればその範囲にない。
 だがジェームダル軍は高価な大砲を一基導入したことで侮ったのだ。この大砲が無力化されることを想定していなかった。
 故に、ここに弓兵はいなかった。

 黒騎士が現れて、わずか二時間。ジェームダル陣営は瓦解した。
 総勢一千百人もの兵のなか、命からがら逃げ出せたのはたったの二百。残り九百もの兵が僅かな時間に、しかもたった一人の黒騎士の手で屠られたのだった。

 累々とした屍の上、黒馬に乗り黒衣をはためかせた黒皇ファウストには一切の傷もなく、その瞳には感情もない。戦場を見下す瞳は人を見ているのではなく、もはやゴミを見るようなものだった。

「ファウスト様!」

 遅れながらも森に潜むように厳命していた部隊が駆け込んで、あまりの惨状に青い顔をする。そんな仲間に向けられた視線もまた、静かで感情が見えないものだった。

「オリヴァー、ラジェーナ砦を再度見回って安全か確認させてくれ」
「はい!」
「アシュレー、お前は騎士団砦に行け」
「ですが……」
「一晩待ってもウェインが俺達の所に来なかったなら、何らかのトラブルで砦に引き返した可能性が高い。行って、確認してこい」
「……有り難うございます」
「残りの第一師団はこいつらを集めろ。このままじゃ焼くのも一苦労だ」
「集めろ……って……」

 命じられた第一師団は皆、嫌な顔をした。それもそうだろう、あまりに生々しい。まだ体温すらも残っていそうな死体ばかりだ。しかもなりふり構わぬ殺戮の為、綺麗な死体などどこにもない。

「俺もラジェーナ砦にいる。今日中に終わらせて、夜には火葬するぞ」
「……はい」

 オリヴァー率いる第四師団はラジェーナ砦を見回り、安全確保を開始。アシュレーは単騎で騎士団砦へと向かっていく。
 それらを見届けて、ファウストはようやく長剣を鞘に収め、愛馬の首を撫で、瞳を緩めた。
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