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12話:軍神降臨
7話:方針
翌朝、少し遅めに起きて騎士団砦へと向かったランバートをシウス達が迎えてくれた。
アシュレーもそこにはいたのだが、なんだか見た事もない酷い顔をしている。
話を聞くと、昨日意識を取りもどしたウェインの側にずっと付いていたのだが、眠りについた彼が起きないのではと心配になり結局一睡もできなかったそうだ。
だがそんなのは杞憂で、翌朝目を覚ましたウェインは小さいながらも「おはよう」と言って笑ったそうだ。
ウェインの容態は安定し、ゆっくりとだが回復を見せているとのこと。息苦しさはあるようだが、ちゃんと胸も上下している。小さくても会話ができて、血圧や脈拍は安定を見せているそうだ。
このままこの砦で療養をする事になった。エリオットの話によると、肺の怪我は軽度ならば手術をしなくてもいいくらい回復が早いらしい。その為、些細な違和感程度で気付かない人もいるのだとか。
ウェインも現在はこの状態だが、一ヶ月程度でリハビリができるまで回復できるかもしれない。なんにしても今動かすのは危険との事だ。
それを聞いて、ファウストは前線ラジェーナ砦をアシュレーと第一師団に任せる事を決めた。エリオットもウェインの状態が落ち着く頃にはラジェーナに移る事になった。
気遣いもあったが、砦を守る事は補給路を確保するためにも大切だ。
そのかわりランバート達が前線合流を決めた。
こうして話が少し進んだ所で、ランバートはアルブレヒトにファウストを紹介……しようとしたのだが……。
「ランバート、あの人なんですか!?」
「え? あの……」
「凄いですよ! あんなの見た事ない! 軍神がフル装備で仁王立ちしてますよ! 防具も武器も持って憑いてるなんてただ者じゃありません! 人間ですか?」
それ、聞かないで欲しい。たまに疑問が浮かぶ事もあるんだから。
なんにしてもファウストの後ろには相当なものが憑いているのが発覚した。
それにしてもアルブレヒトのテンションは高い。まるで憧れの人に出会った生娘みたいなはしゃぎ方だ。
まぁ、暫く不機嫌極まりなかったし、昨日ウェインが目を覚ました事に人知れず安堵したのはこの人だ。きっと、反動だろう。
「ランバート、この人は?」
ファウストの方がアルブレヒトをどう扱っていいのか分からず、コソコソ聞いてくる。いや、ランバートだって扱いきれないんだけれど。
「きししっ、久々に病気が出てるなアルブレヒト様」
「テンション上がるとちょっと戻ってくるのに時間がかかる。ファウスト殿、すまない」
「あぁ、いや……」
ダンが笑い、キフラスは申し訳なさそうにしている。
アルブレヒトが戻ってくるまで、ランバートは道中キフラスに助けて貰った事を話した。戦いやすかったと言えば、ほんの少しファウストの目が怖くなる。これに見られたキフラスのほうは若干身構えた。
「ふふっ、軍神は心が狭い。こんな事で妻の浮気を疑うなんて、いけませんよ」
「え?」
楽しそうな声に反応したファウストの前に、ようやく戻ってきたらしいアルブレヒトが丁寧に頭を下げる。さっきまでと別人過ぎる。
「大変お見苦しい所をお見せしました。何せこのような立派な加護付きに出会える事が稀でして、テンションが上がってしまいまして」
「あぁ、いや」
「ジェームダル王太子、アルブレヒトと申します」
「帝国騎士団、騎兵府団長のファウストです。色々と辛い事が多かったと聞きます。今は、大丈夫だろうか?」
「お陰様で、まったく問題無く過ごしておりますよ」
薄紫の瞳が柔らかくファウストと、その隣りに立つランバートを見つめた。
「軍神トールと、その妻シヴ。二人の出会いは約束されていたのかもしれませんね」
「え?」
「猛る軍神の矛を、美しい妻が静める。妻の憂いを、夫である軍神が払う。二人の相性は最高ですし、他では満足など得られない。互いを大事にしてくださいね」
「? はい」
ファウストはなんのことだか分からない様子だったが、ランバートがこっそりと「見える人なんだ」と伝えると気恥ずかしそうな顔をした。
なんにしても全体の作戦会議となり、オリヴァー、アシュレー、シウス、ラウル、アルブレヒト、ダン、ランバート、そしてファウストが揃った。
「では、既にラン・カレイユを落とす為の配置は終わっているんだな?」
シウスから話を聞いたファウストはやや考えて、一つ結論を出した。
「分かった。では俺達はこのまま王都コルリス・カステッルムを目指して前線を上げる」
ファウストの言葉に数人は難色を示した。だがシウスは鷹揚に頷いた。
「ラン・カレイユへ目を向けさせてはならぬからな。こちらで大いに暴れて、ラン・カレイユから人を引き離す」
「それに加え、アルブレヒト殿が王都に入り玉座に座れば王の名乗りを上げるにも箔がつく」
これにはアルブレヒトが頷いた。
「王の戴冠には教会が管理している王冠が必要ではありますが、一度国が滅ぶくらいの気持ちで新たな王冠を作っても構いませんし。とりあえず王都奪還が先決です」
と、いうことで方針は決まった。
ファウスト、ランバート、そしてオリヴァーはこのまま前線を上げる事になり、第四と第一の一部、そしてジェームダル組が同行する事になった。
アシュレーとシウスはラジェーナ砦に駐留。第一の一部がこっちを守り、更に前線が上がり砦を落としたらそれに伴い異動していく。
前線と砦の連絡はラウルが行う事となり、伝言などを頼む。
そしてエリオットとウェインは帝国側砦に残り、ウェインの回復度合いを見てラジェーナに移る事となった。
「今前線で動いている兵のレベルはあまり高くはない。叩けば散る」
「まぁ、帝国兵とてぶち切れたお前を見れば武器捨てて逃げるだろうの」
「触らぬ軍神に祟り無しですね」
茶化すくらいの気持ちのゆとりを取りもどした面々に弄られて、ファウストはちょっと睨み付けている。だが、これを本気と取らないのが流石のシウスだ。
「だが二人、ちょっと強いのがいる」
ファウストの言葉に、これまで穏やかにしていたシウスが表情を締める。それは隣のアルブレヒトも同じだろう。
「一人はダークブロンドの若い男だ。俺と対峙する事が多かったが、なかなかに硬い」
「それはおそらく、ベリアンスですね。彼は剣技においては一番強かった」
「だな。俺でもあいつとまともにやり合うと疲れる。元相棒だ」
「なるほど、納得だ」
一つしっかりと頷いたファウストは溜息をつく。どうやら本当に骨の折れる相手だったようだ。
「もう一人は金髪に、頬に大きな傷のある男だ。軍人らしい体格だったが、どうにも様子が違った。嫌々、という感じで積極性は感じなかった」
「俺が対峙する事の多かった相手です。気は乗らない。だがやらなければならないという感じがする相手だった」
アシュレーの言葉に、ダンは何かを思いだしたように手を上げた。
「そいつ、金髪のツンツン頭で顔が四角くて目が青い奴か?」
「あぁ、そうだ」
「こう、肩の盛り上がりとかが凄い」
「おそらく、そうだが……」
「……ラン・カレイユの近衛騎士だ。確か王女様付きの近衛長だぜ」
「え?」
ダンは悔しげな顔をする。
だが、妙な感じが。ラン・カレイユの王族は皆死んだと言われているが、王子や王ばかりだったはず。王女の話は聞いていない。
「近衛ならば絶対に従わぬであろう。主を殺した者達ぞ。それとも、忠義の欠片もないような奴なのかえ?」
「いんや、近衛はどれも誇り持ってる感じだ。そして王女の生死は聞いていない。俺が傭兵やってたときに一番手柄で褒美貰ったんだが、その時に少し話した。堅苦しい野郎だったよ」
「ならば……」
「お得意の手ですね」
アルブレヒトの言葉に、全員が嫌な顔をした。
「王女を捕らえ、安全を担保に従える。近衛の者はそれで動けないのでしょう」
反吐が出るが、これ以外を考えられなかった。
「あちらの人質解放は既にチェルル達が伝えてそれに向けて動いていることでしょう。それに加え、王女の所在を探り無事に救出する事を考えなければなりません」
「これができれば大幅に戦力を削ぐ事ができるかもしれないな」
ファウストも考え、頷く。これからジェームダル王都を狙うのだ、強い相手は減らしたい。
「追加で伝えに行かせる。ファウスト、コナンを王都に戻そうと思うが良いか?」
シウスの言葉に顔を上げたファウストが首を傾げる。おそらく、コナンの現状を知っているからだ。
「それは構わないが、あいつも毒を受けて療養しているんじゃないのか?」
「既に動けるまで回復しておる。エリオットも経過観察の段階だと言っておった。故に王都に戻し伝言を頼み、その後は王都にて療養、ルイーズか第三に任せようかと思うておる」
そう言いながらも、シウスは苦笑してしまう。それだけで別れ際のルイーズを思い出した。出兵となった時、ルイーズは暫くコナンを抱きしめて離さなかった。そして最後まで「近衛府に転属」と切なげに言い募っていてコナンに怒られたのだ。
今王都に戻ったら、毒を受けた事を知ったら、あの人は手放せないかもしれない。
「彼の弓は見事でしたね。まだ足取りが重かったにも関わらず、自ら弓を取って。夜なのに見事な冴えでした」
「弓の名手であった兄がそのように言うとは、誇らしいことぞ。のぉ、オリヴァー」
「本当に、彼の才能はちゃんと開花していると知って嬉しい限りです。まぁ、ルイーズが手放さないのが難点ですが」
「コナンの側にいる蛇の気ですかね? 蛇は大切な者を守り邪を払うのですが、同時に執着が強いのですよね。その気を持つなら、その人物は絶対にコナンを離しませんよ」
「……既に夫婦なので、そこは何もいいませんけれどね」
困った顔をしたオリヴァーに、アルブレヒトは「なるほど」と納得をした。
「では、コナンに伝言を頼み王都に下がらせる。その後は宰相府の指示に従うように厳命を出しておく。現在王都の指揮はお前の腹心か?」
「うむ、そうじゃ。キアランが王都を、マーロウを第五に付ける指示を出した」
「マーロウを出したのか?」
ファウストの驚いた様子に、シウスは苦笑して頷く。
ランバートはあまり宰相府を知らない……というか、他府とは関わらない相手は知らないのだ。
だがこのマーロウとい人物は覚えがある。『引きこもり』とか『幽霊司書』と言われている宰相府の名物で、だいたい書庫に引きこもっている。
毛艶の悪い薄い金髪に痩けた白い肌で、目はどんよりと青く、常に目の下に隈を作っている。
普段、彼は宰相府の仕事をあまりしない。というよりは、騎士の仕事をあまりしない。究極の引きこもり状態なのだが、書庫の蔵書全てを記憶し、敏感な鼻を持ち、鋭敏な舌を持つ。そして、何事にも躊躇いのない人物でもあるそうだ。
「アレを引っ張り出すのは苦労だろ」
「ごねた。だが、奴が欲しいと言っていた蔵書を書庫に入れる事を条件に出した」
「なるほどな」
騎士団の不健康者は、書に関してはもの凄い熱意を持つらしかった。
「まぁ、アレがいるとその場の判断に役立つ。健康面が問題なんだがの」
「病弱でしたっけ、彼。仕事を詰めすぎて徹夜続き、倒れて暫く昏睡したとか」
「訓練に出したら吐血して運ばれおったの。胃に穴が開いたとか」
「それ、本当に騎士団に置いていい人材なのかい?」
アルブレヒトが苦笑したが、これに関しては師団長も団長も全員一致で「是」と言う。なぜならこの鬼才は、騎士団が赴いてスカウトした人物らしいのだ。
その時の条件が「運動は苦手。剣はできない」の二点だったためこの語り草だ。
「では、ラン・カレイユ方面は案外早くカタがつくかもしれないな」
ファウストの信頼の言葉に、彼の実力を知らない面々以外はしっかりと頷いた。
アシュレーもそこにはいたのだが、なんだか見た事もない酷い顔をしている。
話を聞くと、昨日意識を取りもどしたウェインの側にずっと付いていたのだが、眠りについた彼が起きないのではと心配になり結局一睡もできなかったそうだ。
だがそんなのは杞憂で、翌朝目を覚ましたウェインは小さいながらも「おはよう」と言って笑ったそうだ。
ウェインの容態は安定し、ゆっくりとだが回復を見せているとのこと。息苦しさはあるようだが、ちゃんと胸も上下している。小さくても会話ができて、血圧や脈拍は安定を見せているそうだ。
このままこの砦で療養をする事になった。エリオットの話によると、肺の怪我は軽度ならば手術をしなくてもいいくらい回復が早いらしい。その為、些細な違和感程度で気付かない人もいるのだとか。
ウェインも現在はこの状態だが、一ヶ月程度でリハビリができるまで回復できるかもしれない。なんにしても今動かすのは危険との事だ。
それを聞いて、ファウストは前線ラジェーナ砦をアシュレーと第一師団に任せる事を決めた。エリオットもウェインの状態が落ち着く頃にはラジェーナに移る事になった。
気遣いもあったが、砦を守る事は補給路を確保するためにも大切だ。
そのかわりランバート達が前線合流を決めた。
こうして話が少し進んだ所で、ランバートはアルブレヒトにファウストを紹介……しようとしたのだが……。
「ランバート、あの人なんですか!?」
「え? あの……」
「凄いですよ! あんなの見た事ない! 軍神がフル装備で仁王立ちしてますよ! 防具も武器も持って憑いてるなんてただ者じゃありません! 人間ですか?」
それ、聞かないで欲しい。たまに疑問が浮かぶ事もあるんだから。
なんにしてもファウストの後ろには相当なものが憑いているのが発覚した。
それにしてもアルブレヒトのテンションは高い。まるで憧れの人に出会った生娘みたいなはしゃぎ方だ。
まぁ、暫く不機嫌極まりなかったし、昨日ウェインが目を覚ました事に人知れず安堵したのはこの人だ。きっと、反動だろう。
「ランバート、この人は?」
ファウストの方がアルブレヒトをどう扱っていいのか分からず、コソコソ聞いてくる。いや、ランバートだって扱いきれないんだけれど。
「きししっ、久々に病気が出てるなアルブレヒト様」
「テンション上がるとちょっと戻ってくるのに時間がかかる。ファウスト殿、すまない」
「あぁ、いや……」
ダンが笑い、キフラスは申し訳なさそうにしている。
アルブレヒトが戻ってくるまで、ランバートは道中キフラスに助けて貰った事を話した。戦いやすかったと言えば、ほんの少しファウストの目が怖くなる。これに見られたキフラスのほうは若干身構えた。
「ふふっ、軍神は心が狭い。こんな事で妻の浮気を疑うなんて、いけませんよ」
「え?」
楽しそうな声に反応したファウストの前に、ようやく戻ってきたらしいアルブレヒトが丁寧に頭を下げる。さっきまでと別人過ぎる。
「大変お見苦しい所をお見せしました。何せこのような立派な加護付きに出会える事が稀でして、テンションが上がってしまいまして」
「あぁ、いや」
「ジェームダル王太子、アルブレヒトと申します」
「帝国騎士団、騎兵府団長のファウストです。色々と辛い事が多かったと聞きます。今は、大丈夫だろうか?」
「お陰様で、まったく問題無く過ごしておりますよ」
薄紫の瞳が柔らかくファウストと、その隣りに立つランバートを見つめた。
「軍神トールと、その妻シヴ。二人の出会いは約束されていたのかもしれませんね」
「え?」
「猛る軍神の矛を、美しい妻が静める。妻の憂いを、夫である軍神が払う。二人の相性は最高ですし、他では満足など得られない。互いを大事にしてくださいね」
「? はい」
ファウストはなんのことだか分からない様子だったが、ランバートがこっそりと「見える人なんだ」と伝えると気恥ずかしそうな顔をした。
なんにしても全体の作戦会議となり、オリヴァー、アシュレー、シウス、ラウル、アルブレヒト、ダン、ランバート、そしてファウストが揃った。
「では、既にラン・カレイユを落とす為の配置は終わっているんだな?」
シウスから話を聞いたファウストはやや考えて、一つ結論を出した。
「分かった。では俺達はこのまま王都コルリス・カステッルムを目指して前線を上げる」
ファウストの言葉に数人は難色を示した。だがシウスは鷹揚に頷いた。
「ラン・カレイユへ目を向けさせてはならぬからな。こちらで大いに暴れて、ラン・カレイユから人を引き離す」
「それに加え、アルブレヒト殿が王都に入り玉座に座れば王の名乗りを上げるにも箔がつく」
これにはアルブレヒトが頷いた。
「王の戴冠には教会が管理している王冠が必要ではありますが、一度国が滅ぶくらいの気持ちで新たな王冠を作っても構いませんし。とりあえず王都奪還が先決です」
と、いうことで方針は決まった。
ファウスト、ランバート、そしてオリヴァーはこのまま前線を上げる事になり、第四と第一の一部、そしてジェームダル組が同行する事になった。
アシュレーとシウスはラジェーナ砦に駐留。第一の一部がこっちを守り、更に前線が上がり砦を落としたらそれに伴い異動していく。
前線と砦の連絡はラウルが行う事となり、伝言などを頼む。
そしてエリオットとウェインは帝国側砦に残り、ウェインの回復度合いを見てラジェーナに移る事となった。
「今前線で動いている兵のレベルはあまり高くはない。叩けば散る」
「まぁ、帝国兵とてぶち切れたお前を見れば武器捨てて逃げるだろうの」
「触らぬ軍神に祟り無しですね」
茶化すくらいの気持ちのゆとりを取りもどした面々に弄られて、ファウストはちょっと睨み付けている。だが、これを本気と取らないのが流石のシウスだ。
「だが二人、ちょっと強いのがいる」
ファウストの言葉に、これまで穏やかにしていたシウスが表情を締める。それは隣のアルブレヒトも同じだろう。
「一人はダークブロンドの若い男だ。俺と対峙する事が多かったが、なかなかに硬い」
「それはおそらく、ベリアンスですね。彼は剣技においては一番強かった」
「だな。俺でもあいつとまともにやり合うと疲れる。元相棒だ」
「なるほど、納得だ」
一つしっかりと頷いたファウストは溜息をつく。どうやら本当に骨の折れる相手だったようだ。
「もう一人は金髪に、頬に大きな傷のある男だ。軍人らしい体格だったが、どうにも様子が違った。嫌々、という感じで積極性は感じなかった」
「俺が対峙する事の多かった相手です。気は乗らない。だがやらなければならないという感じがする相手だった」
アシュレーの言葉に、ダンは何かを思いだしたように手を上げた。
「そいつ、金髪のツンツン頭で顔が四角くて目が青い奴か?」
「あぁ、そうだ」
「こう、肩の盛り上がりとかが凄い」
「おそらく、そうだが……」
「……ラン・カレイユの近衛騎士だ。確か王女様付きの近衛長だぜ」
「え?」
ダンは悔しげな顔をする。
だが、妙な感じが。ラン・カレイユの王族は皆死んだと言われているが、王子や王ばかりだったはず。王女の話は聞いていない。
「近衛ならば絶対に従わぬであろう。主を殺した者達ぞ。それとも、忠義の欠片もないような奴なのかえ?」
「いんや、近衛はどれも誇り持ってる感じだ。そして王女の生死は聞いていない。俺が傭兵やってたときに一番手柄で褒美貰ったんだが、その時に少し話した。堅苦しい野郎だったよ」
「ならば……」
「お得意の手ですね」
アルブレヒトの言葉に、全員が嫌な顔をした。
「王女を捕らえ、安全を担保に従える。近衛の者はそれで動けないのでしょう」
反吐が出るが、これ以外を考えられなかった。
「あちらの人質解放は既にチェルル達が伝えてそれに向けて動いていることでしょう。それに加え、王女の所在を探り無事に救出する事を考えなければなりません」
「これができれば大幅に戦力を削ぐ事ができるかもしれないな」
ファウストも考え、頷く。これからジェームダル王都を狙うのだ、強い相手は減らしたい。
「追加で伝えに行かせる。ファウスト、コナンを王都に戻そうと思うが良いか?」
シウスの言葉に顔を上げたファウストが首を傾げる。おそらく、コナンの現状を知っているからだ。
「それは構わないが、あいつも毒を受けて療養しているんじゃないのか?」
「既に動けるまで回復しておる。エリオットも経過観察の段階だと言っておった。故に王都に戻し伝言を頼み、その後は王都にて療養、ルイーズか第三に任せようかと思うておる」
そう言いながらも、シウスは苦笑してしまう。それだけで別れ際のルイーズを思い出した。出兵となった時、ルイーズは暫くコナンを抱きしめて離さなかった。そして最後まで「近衛府に転属」と切なげに言い募っていてコナンに怒られたのだ。
今王都に戻ったら、毒を受けた事を知ったら、あの人は手放せないかもしれない。
「彼の弓は見事でしたね。まだ足取りが重かったにも関わらず、自ら弓を取って。夜なのに見事な冴えでした」
「弓の名手であった兄がそのように言うとは、誇らしいことぞ。のぉ、オリヴァー」
「本当に、彼の才能はちゃんと開花していると知って嬉しい限りです。まぁ、ルイーズが手放さないのが難点ですが」
「コナンの側にいる蛇の気ですかね? 蛇は大切な者を守り邪を払うのですが、同時に執着が強いのですよね。その気を持つなら、その人物は絶対にコナンを離しませんよ」
「……既に夫婦なので、そこは何もいいませんけれどね」
困った顔をしたオリヴァーに、アルブレヒトは「なるほど」と納得をした。
「では、コナンに伝言を頼み王都に下がらせる。その後は宰相府の指示に従うように厳命を出しておく。現在王都の指揮はお前の腹心か?」
「うむ、そうじゃ。キアランが王都を、マーロウを第五に付ける指示を出した」
「マーロウを出したのか?」
ファウストの驚いた様子に、シウスは苦笑して頷く。
ランバートはあまり宰相府を知らない……というか、他府とは関わらない相手は知らないのだ。
だがこのマーロウとい人物は覚えがある。『引きこもり』とか『幽霊司書』と言われている宰相府の名物で、だいたい書庫に引きこもっている。
毛艶の悪い薄い金髪に痩けた白い肌で、目はどんよりと青く、常に目の下に隈を作っている。
普段、彼は宰相府の仕事をあまりしない。というよりは、騎士の仕事をあまりしない。究極の引きこもり状態なのだが、書庫の蔵書全てを記憶し、敏感な鼻を持ち、鋭敏な舌を持つ。そして、何事にも躊躇いのない人物でもあるそうだ。
「アレを引っ張り出すのは苦労だろ」
「ごねた。だが、奴が欲しいと言っていた蔵書を書庫に入れる事を条件に出した」
「なるほどな」
騎士団の不健康者は、書に関してはもの凄い熱意を持つらしかった。
「まぁ、アレがいるとその場の判断に役立つ。健康面が問題なんだがの」
「病弱でしたっけ、彼。仕事を詰めすぎて徹夜続き、倒れて暫く昏睡したとか」
「訓練に出したら吐血して運ばれおったの。胃に穴が開いたとか」
「それ、本当に騎士団に置いていい人材なのかい?」
アルブレヒトが苦笑したが、これに関しては師団長も団長も全員一致で「是」と言う。なぜならこの鬼才は、騎士団が赴いてスカウトした人物らしいのだ。
その時の条件が「運動は苦手。剣はできない」の二点だったためこの語り草だ。
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