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16章:戦後処理はあれこれです
6話:ただ、何でもない日常を(ハムレット)
チェルルの裁判から一週間、結果が出た。
チェルルは一ヶ月は王都で裁判所の役人が側について素行やらを見る事となり、仮住まいに住んでいる。
それでもわりと自由があって、出かけたりもできる。むしろ外での行動や素行、言動を見るのも重要らしい。
裁判所の役人は二人。
今年で五年目のアランという青年は三〇代前半。淡い金髪に穏やかそうな顔立ちの人物で物腰も柔らかい。料理が壊滅的なチェルルに夕飯を作ったりしているし、相談役になっているらしい。
もう一人は今年で二年目の新人で、ダニエルという三白眼の小生意気そうな青年だ。ツンツンと硬そうな黒髪で、何かと口うるさいらしい。
ハムレットはというと、週に三日はチェルルの所に行って短い時間でも過ごすようにしている。最近は実家暮らしだ。
ギネスの事情も随分とつまびらかになってきた。
どうやら婿養子で、嫁やその両親には頭が上がらないらしい。大臣職すらも義父から継いでいて、未だに言いなりのようだ。
そんな男が嫁や義父に内緒で商売に手を出した。しかも調べるとこれが初犯ではなく、弱小貴族の領分を取り上げて隠れて利益を蓄えていたらしい。
それが今回大物に手を出した。同じに行くと思ったら大違い。当たり前だ、ヒッテルスバッハがそんな小物にいいように振り回されるものか。
まぁ、今回の事で事件が公となり、ギネスは嫁から離縁され、大臣職も辞任となった。爵位だけ残したのが唯一の温情だろうか。
あちらは現在も裁判に向けての取調中。ギネスは気持ち悪いくらい大人しく応じているらしく、取り調べ以外の行動に制限はかかっていない。
「チェルル、来たよ」
「先生、随分早いね」
チェルルの仮住まいに行くと、彼はトタトタと近づいてくる。嬉しそうに駆け寄られるとたまらず、ギュッと抱き寄せてしまう。その度にチェルルは「ぎゃぁぁ!」と真っ赤になって悲鳴を上げる。それがちょっと可愛い。
そんな様子をアランが微笑ましく見つめ、ダニエルはギョッとした顔をする。
「もぉ、可愛いな」
「先生、本当に人前はやめて! 超恥ずかしい!!」
「真っ赤になってる猫くんも可愛いんだもん。早く会いたくて仕事終わらせてきちゃった」
毎日の栄養剤みたいなものなんだよね。
「お前等、人前でイチャつくな!」
「ダニエル、いいじゃありませんか。仲良き事は良いことですよ」
「アラン、お前は少し慌てろ!!」
ダニエルは指を差して抗議だが、先輩アランはまったくもって微笑ましくしているだけ。でも、アランの方はかなり侮れない相手だ。
「ハムレットさんもご苦労様です。こんなに頻繁に会いに来るのであれば、一緒に住まわれては如何ですか?」
「そうしたいのはやまやまなんだけどね、部屋がないしベッド狭いし。疲れが取れないのも辛いしね」
ジタジタするチェルルを抱き寄せたままアランに言えば、彼は苦笑して「そうでございますね」と返してきた。
「さて、ご飯食べに行こうか」
「先生いつも悪いよ。家でご飯……」
「チェルルくん、それはお止めください。この間、キッチンを焦がしたばかりではありませんか。安全上の問題で、貴方に料理を作らせる事はできません」
「あうぅ……」
思いだしたらしく肩をガックリ落とすチェルルは深く反省している。料理下手は健在だ。火柱が上がらなくてもチェルルの手料理は……少なくとも暫くは期待できないだろう。
「今日は何にしようか。魚と肉、どっちがいい?」
「魚!」
「じゃ、そうしようか」
「私達もご同行いたしますが、宜しいでしょうか?」
「いいよ、そのつもり。それが仕事だからね」
裁判所の役人は相手について行動し、監察する事が仕事。だから出かける時は必ずついてくる。最初はうざったく感じていたが、同席する事はない。必ず近くの席につくが、相席にはならないし会計は別。そこは賄賂とかになる可能性もあるので厳密に分けられるらしい。
堅苦しいな、やっぱり。
仮住まいを出て大通りにさしかかると、何やら人混みが出来ている。四人で顔を見合わせ、小柄なチェルルが人混みを分けて入っていく。そうして暫くして戻って来た。
「荷馬車の事故みたいで、第三が交通制限してたよ。なんでも、荷馬車の前に突然外套を着た人が飛び出したんだって」
「何それ、自殺願望?」
「さぁ?」
小柄なチェルルを前に抱き寄せながら、店を変えようか迷ってしまう。人も多いし、今日行こうと思っていた店も予約をしているわけじゃない。他にも魚料理の美味しい店はあるし、そこに……っ!
突然、ドンッと背中に誰かがぶつかった。だがその途端、腰の少し上辺りに焼けるような痛みが走り、足が震えジワリと体が濡れていく。
「先生?」
脂汗が滲み、抱きしめている体が震えているのにチェルルが気付き、顔を上げる。
ダメだ、悟らせるな。悟られても、この体を離しちゃいけない。彼は今一番いい判決が出ているけれど、ここで何か問題を起こせばその判決も覆りかねない。帝国の人間に危害を加えるなんて判断がついたら、それこそ一緒にいられない。
「先生!」
血の臭いが、したのかもしれない。それくらいには濡れている。痛みが麻痺して、鳴るような脈打つ感覚が走っている。意識が、気を抜くと途切れそうだ。
その時、背後から人の気配が消える。同時に、背に刺さっていたナイフも抜けて一気に血が溢れ出た。
「っ!」
「きゃあぁぁぁ!」
「なんだ!!」
周囲も異変に気付いたらしく、逃げた奴を慌てて追う黒髪も目の端に見えた。アランが近づいて、傷口に強く布を押し当てる。
「ハムレットさん!」
「先生!!」
もう、チェルルに抱きついているのかもたれ掛かっているのか分からない。力が抜けて、ズルズル崩れていく。
それでも、腕の中が温かい。視界が暗くなりかけるけれど、ギリギリまで保っていたい。
「なか……ないで……ね?」
震えてくる、寒い。これ、久しぶりにまずいかもしれない。息が浅くなって、より多くの酸素を取り込もうとしても上手くいかない。
チェルルの黒い瞳からポロポロ涙がこぼれている。こんな顔、させたくないのに。やっと、安心させてあげられると思ったのにな。これじゃ、悲しませてしまう。
目を閉じるのはとても不安だった。それでも体の要求は強烈だ。逆らいきれず、ハムレットは真っ暗な世界に沈んでいった。
▼チェルル
先生が刺された。
直後、頭の中が真っ白になって、目の前は真っ暗だった。
アランが傷を押さえて出血を止めようとして、騒ぎを聞いた第三の隊員がすぐに騎士団宿舎に運んでくれて、今は手術室の前。どのくらい時間がたったのか、分からない。
刺した奴は黒いフード付きの外套を着ていた。伝えたら、第三が「馬車に飛び出した男かもしれない」と言っていた。
誰がこの人を……。憎しみがドロドロと底の方から沸いて、駆け出しそうになったけれどそれをランバートが止めた。
「今は判決が出た直後で、下手な動きは決定が覆りかねない」と諭された。
そんなの分かってる。ハムレットだって分かっていて腕を離さなかったんだと思う。
抱きしめる腕は震えていたのに強かった。とても必死に、追えないようにしていたんだ。
「先生……」
このまま、もしも死んでしまったりしたらどうしよう。アランが押さえていたけれど、血は止まらなかった。押さえていた布も真っ赤だった。
人間って、どれだけ血が出たら死んでしまうんだっけ? あの量は、それに達していない? 運ばれる時、真っ青で震えていたハムレットの姿がまだ目の前にある。
その時、カツンと廊下をこちらに近づいてくる足音がして顔を上げた。
そこには長身で、どこかハムレットにも面差しの似た人がこちらに近づいてきていた。
「君が、チェルルかい?」
「……誰?」
頼りなく見上げたその人は、とても柔らかな表情で隣に座った。
「ハムレットの兄で、アレクシスと言う。知らせを受けてね」
「あ……」
ランバートは今頃、ハムレットを刺した奴を捕縛しに行っている。誰かが……もしもの場合に備えて家族がいなければいけないのだろう。
ハムレットに顔立ちは少し似ている。けれどもっと、厳しそうな感じ。浮かべる穏やかそうな表情はランバートに似ている。人の心の壁を薄くするような感じだ。
「大変だったね」
「いえ、俺は……」
家族とは、違う。大変なのはこの人もだ。
アレクシスは気遣わしく頭を撫でて、頬を撫でる。泣きすぎて枯れた涙の跡を消すみたいに、少し強く。
「うちの愚弟が世話になっている。あの奇人をこんなに人らしく変えた相手と一度会ってみたいと思っていたが……こんな形ではなかったんだがな」
「俺の事?」
「知っている。昔は『ランバート、ランバート』とバカの一つ覚えみたいに煩かった奴が、最近では君の話を嬉しそうにする。少々ウザいくらいだ」
「俺……」
そんな、愛されていたんだ。思うと、嬉しいけれど複雑。ハムレットがどんな家の人かは十分に分かっている。とても、こんな捨て猫には見合わない家柄だから。
けれどアレクシスはとても柔らかく受け入れるような顔をしている。それが、不思議に思える。
「有り難う、チェルル。あれは一人で、どこぞで野垂れ死ぬだろうと思っていたが、最近はそんな事は思わなくなった。君がいて、あいつは幸せそうだ」
「反対とか、しないんですか?」
「何故?」
「何故って……俺、犯罪者で孤児で、学も……」
「そんな些細な事を、君は心配しているのかい?」
とても驚いた様子で問われて、チェルルの方が驚いた。こういう事は家の格が上がると余計に煩いと思っていたんだが。
でも、アレクシスはまったくそんな事を考えている様子はない。
「些細、ですか?」
「些細だな。第一、ハムレットが大人しく家の言う事を聞く事はない。それでも家族としては独りでというのは不憫に思うものだ。それに、聞いているかもしれないが彼には子を残す能力はほぼ無い。結婚するつもりもないだろう。そうなると、余計に孤独死有力だ。そうならない事を、家族は皆願っている」
確かに、所帯を持つようなタイプには見えないけれど……
「君の存在を、私もランバートも、勿論父も歓迎している。母は今事情があって所領から帰っていないが、母も喜ぶだろう。何も問題はないし、むしろ頼みたい。あれを幸せに出来るのは君だろうと、皆が確信している。落ち着いたら本邸に招きたいと思っていたんだ」
「俺、を?」
「他に誰を? 君は少し自分を過小評価している。アレを受け入れ、愛情を注げるだけで君は偉大だ。知っているだろ? アレの弟溺愛っぷり。正直頭おかしいと思うからな」
「あの、そこまでは……」
「俺も家族としてランバートのことは気に掛けているが、アレの溺愛は病気というよりも狂気に思えた。それが最近は距離を保っている。その分を君に注ぎ込んでいるように思う。正直君には気の毒だと思っていたが……君もまんざらではないのだろうね」
大きな手が頭を撫でる。苦笑するアレクシスは、次には頭を下げた。大貴族が、孤児にだ。
「え!」
「ハムレットを頼みたい。君に見捨てられたら、アレはきっと死んでしまう。こんな事をお願いするのは間違っているのかもしれないが」
お願いされなくても、ずっと側にいたい。惚れたのはきっとチェルルが先だ。押しかけたようなものだ。その位には愛している。
居住まいを正して、チェルルも頭を下げた。
「俺こそ、よろしくお願いします。あの人の家の事とか、今はほとんど分からないけれど。でも、学んでいきますから」
「そんな事まで気を回さなくていい。アレの事だけ、考えてあげてくれ」
握手を求められて、おずおずと応じた。
その時、治療中のドアが開いてエリオットが中から出てきた。
「エリオット先生! あの、先生は……」
少し疲れた様子のエリオットは歯切れの悪い笑みを浮かべる。この人が治療してくれたのにこの表情は、怖い。もしかして、何かあったんじゃ。
不安に思っていると、背後にアレクシスが立つ。そしてしっかりとエリオットを見た。
「説明をお願いしたい」
「とりあえず安定しました。傷が深くて出血が多く、時間がかかりましたが耐えてくれました。ただ、まだ熱が下がりません。投薬での治療を継続し、私も常駐します。何方かが側について欲しいのですが」
「この子を残します。私は少しやる事もありますし、目が覚めた時に一番に見たいのはこの子の顔でしょうから」
背中をスッと押されて、ドキドキする。エリオットも頷き、チェルルを処置室と繋がった病室に案内してくれた。
ハムレットは、まだ辛そうだった。息が浅くて苦しそうだ。握った手が、熱かった。
「少し、危ない時もあったのですが」
「え!」
「頑張ってくれましたよ。きっと、貴方がいるからですね。最後に頼るのはどうしてもその人の気力です。それを繋ぐ相手がいることは、とても大切な事ですから」
椅子を引き寄せて、ベッドの脇に座って手を握っている。その頭を、エリオットが優しく撫でていった。
▼ランバート
ハムレットが刺された。騎士団宿舎で知らされた時、何の冗談かと思った。
あの人は武闘派とは言えないまでも、ちゃんと自分の身は守れる。自分に牙を剥く相手に一切容赦するような人ではない。その人が後ろから、無抵抗で刺されたんだ。
担ぎ込まれたハムレットを見た時、なんだか力が抜けた気がした。
側には表情が死んだまま泣いているチェルルがいて、ハムレットは完全に意識を失って蒼白な顔をしていた。
すぐに輸血に協力を申し出て、その間に話を聞いた。チェルルを抱きしめたまま動かなかった事、犯人は黒い外套を着ていた事、顔は見えなかった事。
それでもこんな事を考える奴は一人だ。それを思ったら、怠いとか貧血とか、言っていられなかった。
これを聞いたら確実に動く人間がいる。普段はまったく知らん顔をして飄々としているのに、案外子煩悩で気が短い。
だが、あの人が動いたら確実に奴は闇に葬られる。それでは、いけないんだと思う。
ランバート自身私刑を行った。五〇人近い人間を屠った過去もある。
けれどそれでは何一つ解決しない。ランバートの中でもずっと、当事者を全員葬ったのに心の中のドロドロは消えてくれなかった。何一つ許せなくて、解決していない。死んだはずなのに、静かな怒りと憎しみが奥底に溜まるだけだった。
ファウストが、シウス達がいて、打ち明けて、そこで終わったんだと思う。
人の心には、どんな事にも終わりが必ず必要なんだとあの時に思った。一つずつ区切りをつけて、終わりにしないと気持ちが前を向かない。
この件もそうだ。ギネスという男は今裁かれている。このまま闇に葬るのは道端の虫を踏み潰すよりも簡単だけれど、それでは関わった人間に終わりがこない。きっちり罪を明らかにしなければならないんだ。
アレクシスに後を頼んで、ランバートは自宅へと走った。同時にファウストがギネスの身柄を押さえに行っている。彼が犯人でも、犯人でなくても身柄を押さえるのは同時に保護だ。恐ろしい暗殺者が、彼に迫っているのだから。
自宅へと到着すると、今まさに黒いコートを着込んだジョシュアがふわりと笑みを見せた。
「おや、ランバート。どうしたんだい?」
「どうしたじゃない、父上。どこに行くつもりだ」
「野暮用を片付けにね」
「ギネスの身柄は騎士団で押さえる。馬車の前に飛び出した件と、ハムレット兄上の件の重要参考人だ」
伝えると、父ジョシュアはまったくいつもと同じ表情で笑った。
「騎士団か、面倒な事だね。あの小物に人を動かす価値はない。今から私が駆除してくるから、そこをどきなさい」
「!」
何も変わらない、柔和な表の顔のはずだ。なのに、足元を這う冷たさは背筋を凍らせる。瞳が、歪んで輝く。長く闇と表を一人で統べていた男の、これが裏の顔だ。
だが、これに負けるわけにはいかない。ランバートはグッと構えた。
「ほぉ、私を止めるのかい? いくら年を取ったとはいえ、まだやれるつもりなんだが」
「父上、闇に葬るのはダメだ。あの男は裁判の真っ只中で、正当に罪を問える。裁判でそこを明らかに」
「お綺麗な事を言うようになったじゃないか、愚息。すっかり騎士団に染まったんだね」
突き放すような視線が凍っている。そして、ジョシュアも軽く身を落とした。
「お前は昔から頑固だから、このまま議論しても平行線だね。構わないから、おいで。久しぶりに相手をしよう」
構えたジョシュアに隙はない。ファウストとは違う不気味な威圧感がある。ランバートも構え、そうして懐に飛び込んだ。
捉えようと出した手を内から外に弾かれ、逆に足払いを受ける。まるで鞭みたいにしなる長い足を避けたが、そうなると注意がそれる。瞬間腕を掴まれたのはランバートの方だ。
「甘い子だね、お前も。これが敵ならお前は死ぬよ」
「っ!」
ギリリと手首を掴む手に力が入って痛みを感じる。
だが、これで終わるわけがない。ランバートは自由な足を蹴り上げた。当然頭を狙ったこれは受けられる。それは想定内だ。
目的は、両手を塞ぐ事だ。
「な!」
ファウスト流というか、喧嘩とでも言うか。少なくともジョシュアは真正面から頭突きを食らうとは思っていなかったのだろう。目をまん丸にして仰け反ったジョシュアをそのまま押し倒し、動けないよう馬乗りになって両手を掴んで地面に止めた。
「っ! 父上石頭だろ」
「お前も人の事が言えるのかい? まったく、なんて荒っぽい。お前の軍神はお綺麗な顔をして本当に癖が悪いね」
「命かかってるのに手なんて選んでいられるか」
「……それも、そうだな」
目を剥いていたジョシュアは、次に笑った。途端、目尻の皺が目立つように思う。そんな部分にこの人の年を感じた。
「父上、闇に生きるのがヒッテルスバッハだってのは知ってる。それを否定するつもりはないし、野放しにできないんだから家の役割は大事だ。けれど、私情を持ち込んで表で裁ける人間を葬る事は、違うと思う」
ランバートの言葉を、ジョシュアは黙って聞いていた。その上で、瞳を閉じた。
「これでも人の親なんだよ、ランバート。愚息と言いつつ、ハムレットは私の大切な息子だ。それを傷つけられて、黙っていられるわけもない」
「分かっている。俺にとっても大事な兄で、友人の恋人だ。俺だって、黙ってはいない」
「お前が真っ先にあいつを殺しに行くと思ったんだけれどね?」
「……私刑では、何も終われない。それを教えてくれたのは、ファウストであり、騎士団なんだ」
呟くと、ジョシュアは驚いた顔をして、次には穏やかな表情をした。
「大人になって、面白くなくなったね、お前。いいことだ」
「父上」
「しっかり裁いてくれ。妙な情けをかけたときには、今度こそあいつの首はないよ」
「分かっている」
ランバートがジョシュアの上からどけると、ジョシュアは大人しく体を起こす。そして、そのまま屋敷の方へと向かっていった。
疲れた。自宅に泊まろうかとも思ったがハムレットやチェルルが心配だ。今頃色々終わっているはずだ。
重い足を引きずるように自宅を後にして一〇分程度。そこに、夜に紛れる人を見つけた。
「あ……」
「終わったか?」
ファウストがそっと近づいて、抱き寄せてくる。途端に張りつめた気持ちが全部抜け落ちて、疲れと怠さが一気にきて、そのまま腰が抜けた。
「っ!」
「おっと」
抱き上げられて、ファウストはそのまま暫く胸を貸してくれた。
とても落ち着く。このまま眠ってしまいたくなるくらいだ。
「捕り物、終わった?」
「あぁ。証拠品も押収して、今回の事件はギネスの犯行だと立証できる。ハムレットの処置も無事に終わり、今はチェルルが側にいる。アレクシス殿は必要な手続きを終えたら帰ると言っていた」
「そっか……」
凭れるようにしていた体を突っ張って起こし、ランバートは苦笑する。どうにか宿舎まで歩いていけそうだ。
隣をファウストが歩く。倒れそうになればすぐに手を貸せる距離だ。
「大丈夫か?」
「んっ、少し疲れただけ。少し休みたいな」
「では、明日と明後日は休みにしようか」
「え?」
思わぬ言葉にファウストを見ると、穏やかな黒い瞳がこちらを見る。大きな手が、軽く頭を撫でた。
「輸血もしているから、明日は部屋でゆっくりするといい。そして明後日は久しぶりに、デートでもしないか?」
「デートって……」
「いいだろ?」
なんか、ドキドキしてきた。エッチはしてもデートは久しぶりだ。戦場でデートも何もないのだが。
でも、嬉しい。今から眠れなくなりそうなくらいだ。
「うん、そうしたい」
「決まりだ」
「楽しみにしてるから」
手を繋いで宿舎に帰るその道すがら、二人はどんなデートにするかを話し合い、笑い合っていた。
▼ハムレット
目が覚める事が、こんなに待ち遠しく安心した事はない。
子供の頃、発作で何度も危なかった。でもその時は苦しいばかりで、目なんて覚めなくてもいいと思っていた。
でも今は、早くチェルルに会いたい。あの子を一人残してなんて、死んでいられない。
意識や感覚が戻り始めて、手を握る体温を感じる。体に感じる痛みや怠さ、いつもより高い体温が嬉しいなんて初めてかもしれない。
「先生!」
黒くて大きめの瞳が濡れている。疲れた様子で、目の下に隈ができている。どのくらい寝ていたのか、チェルルは少しやつれてすら見えた。
「先生、しっかり! 俺の事分かる? 先生!」
「う、ん。猫くん、おはよう」
掠れた声で言うと、背中が痛んで笑みが引きつる。でも、だからこそ生きている実感がある。
「無理しないで! エリオット先生!!」
バタバタしてエリオットを呼ぶチェルルは、細々動いている。側にいて欲しいんだけれど。
程なくしてエリオットが来て、状態の説明をしてくれた。どうやら片側の腎臓に重篤な裂傷があったらしいが、迅速な治療と輸血で切除には至らなかったらしい。エリオットの腕前は信用しているから、あまり心配していない。
それでも痛みがまだあり、微熱もまだある。血尿などの症状もまだあることから、暫くは騎士団に入院ということになった。
同時に、ランバートが輸血を申し出てくれた事、犯人が無事に捕まっていることを知った。
思わず「生きて?」と問いかけると、エリオットは苦笑して「えぇ」と言った。なんでも、ランバートが手を回したらしい。あの父を押さえたとなると、なかなか度胸のいる事だ。
一通りの説明を受けて、納得をした。経過を見ることにはなるが、一ヶ月以内にはヒッテルスバッハの家に移り、症状が完全になくなれば自由に出来るとのこと。ただ、やはり水分はこまめに取る事だ。機能が低下する事は間違いないのだから。
エリオットが出て行き、チェルルが側につく。そしてスルリと手を撫でた。
「心配かけて、ごめんね」
なんて声をかけたらいいか分からないけれど、とりあえずここから。思って言えば、泣きそうな顔をされた。
「俺、一人になるんじゃないかって思って……こんなに怖いの、初めてだ」
いまいち疲れて力の入らない手を持ち上げられて、スルリと頬ずりされる。それが、心地よかったりした。
「俺、先生がいないのなんて想像できないんだ。もう、こんな怖い思いはしたくない」
「ごめんね。こんな事の方が珍しいんだ。普段はもっと……」
「これからは、俺が先生を守る」
「え?」
少し驚いて見ていると、黒い瞳が強情な光を宿してそこにあった。
「俺が先生を守る。絶対に誰にも傷つけさせない。俺、先生がいないと死んじゃうんだよ」
「猫くん……」
「いいでしょ? 俺、ただの家猫じゃないんだから。先生を守ったり、できるんだから」
ギュッと握られた手が思いの強さを物語っている。
瞳を閉じて、ハムレットは頷いた。
「僕も同じだよ。君を失ったら僕は何を糧に生きていけばいいのか、きっと分からない。ぽっかり穴が開いて、動けなくなる。だから、これはお願い。無理はさせないからね」
「うん」
手を伸ばしたら、側に擦り寄ってくる。黒い髪を撫でて思うのは、早く家に戻りたいという何でもない日常を願う気持ちだった。
チェルルは一ヶ月は王都で裁判所の役人が側について素行やらを見る事となり、仮住まいに住んでいる。
それでもわりと自由があって、出かけたりもできる。むしろ外での行動や素行、言動を見るのも重要らしい。
裁判所の役人は二人。
今年で五年目のアランという青年は三〇代前半。淡い金髪に穏やかそうな顔立ちの人物で物腰も柔らかい。料理が壊滅的なチェルルに夕飯を作ったりしているし、相談役になっているらしい。
もう一人は今年で二年目の新人で、ダニエルという三白眼の小生意気そうな青年だ。ツンツンと硬そうな黒髪で、何かと口うるさいらしい。
ハムレットはというと、週に三日はチェルルの所に行って短い時間でも過ごすようにしている。最近は実家暮らしだ。
ギネスの事情も随分とつまびらかになってきた。
どうやら婿養子で、嫁やその両親には頭が上がらないらしい。大臣職すらも義父から継いでいて、未だに言いなりのようだ。
そんな男が嫁や義父に内緒で商売に手を出した。しかも調べるとこれが初犯ではなく、弱小貴族の領分を取り上げて隠れて利益を蓄えていたらしい。
それが今回大物に手を出した。同じに行くと思ったら大違い。当たり前だ、ヒッテルスバッハがそんな小物にいいように振り回されるものか。
まぁ、今回の事で事件が公となり、ギネスは嫁から離縁され、大臣職も辞任となった。爵位だけ残したのが唯一の温情だろうか。
あちらは現在も裁判に向けての取調中。ギネスは気持ち悪いくらい大人しく応じているらしく、取り調べ以外の行動に制限はかかっていない。
「チェルル、来たよ」
「先生、随分早いね」
チェルルの仮住まいに行くと、彼はトタトタと近づいてくる。嬉しそうに駆け寄られるとたまらず、ギュッと抱き寄せてしまう。その度にチェルルは「ぎゃぁぁ!」と真っ赤になって悲鳴を上げる。それがちょっと可愛い。
そんな様子をアランが微笑ましく見つめ、ダニエルはギョッとした顔をする。
「もぉ、可愛いな」
「先生、本当に人前はやめて! 超恥ずかしい!!」
「真っ赤になってる猫くんも可愛いんだもん。早く会いたくて仕事終わらせてきちゃった」
毎日の栄養剤みたいなものなんだよね。
「お前等、人前でイチャつくな!」
「ダニエル、いいじゃありませんか。仲良き事は良いことですよ」
「アラン、お前は少し慌てろ!!」
ダニエルは指を差して抗議だが、先輩アランはまったくもって微笑ましくしているだけ。でも、アランの方はかなり侮れない相手だ。
「ハムレットさんもご苦労様です。こんなに頻繁に会いに来るのであれば、一緒に住まわれては如何ですか?」
「そうしたいのはやまやまなんだけどね、部屋がないしベッド狭いし。疲れが取れないのも辛いしね」
ジタジタするチェルルを抱き寄せたままアランに言えば、彼は苦笑して「そうでございますね」と返してきた。
「さて、ご飯食べに行こうか」
「先生いつも悪いよ。家でご飯……」
「チェルルくん、それはお止めください。この間、キッチンを焦がしたばかりではありませんか。安全上の問題で、貴方に料理を作らせる事はできません」
「あうぅ……」
思いだしたらしく肩をガックリ落とすチェルルは深く反省している。料理下手は健在だ。火柱が上がらなくてもチェルルの手料理は……少なくとも暫くは期待できないだろう。
「今日は何にしようか。魚と肉、どっちがいい?」
「魚!」
「じゃ、そうしようか」
「私達もご同行いたしますが、宜しいでしょうか?」
「いいよ、そのつもり。それが仕事だからね」
裁判所の役人は相手について行動し、監察する事が仕事。だから出かける時は必ずついてくる。最初はうざったく感じていたが、同席する事はない。必ず近くの席につくが、相席にはならないし会計は別。そこは賄賂とかになる可能性もあるので厳密に分けられるらしい。
堅苦しいな、やっぱり。
仮住まいを出て大通りにさしかかると、何やら人混みが出来ている。四人で顔を見合わせ、小柄なチェルルが人混みを分けて入っていく。そうして暫くして戻って来た。
「荷馬車の事故みたいで、第三が交通制限してたよ。なんでも、荷馬車の前に突然外套を着た人が飛び出したんだって」
「何それ、自殺願望?」
「さぁ?」
小柄なチェルルを前に抱き寄せながら、店を変えようか迷ってしまう。人も多いし、今日行こうと思っていた店も予約をしているわけじゃない。他にも魚料理の美味しい店はあるし、そこに……っ!
突然、ドンッと背中に誰かがぶつかった。だがその途端、腰の少し上辺りに焼けるような痛みが走り、足が震えジワリと体が濡れていく。
「先生?」
脂汗が滲み、抱きしめている体が震えているのにチェルルが気付き、顔を上げる。
ダメだ、悟らせるな。悟られても、この体を離しちゃいけない。彼は今一番いい判決が出ているけれど、ここで何か問題を起こせばその判決も覆りかねない。帝国の人間に危害を加えるなんて判断がついたら、それこそ一緒にいられない。
「先生!」
血の臭いが、したのかもしれない。それくらいには濡れている。痛みが麻痺して、鳴るような脈打つ感覚が走っている。意識が、気を抜くと途切れそうだ。
その時、背後から人の気配が消える。同時に、背に刺さっていたナイフも抜けて一気に血が溢れ出た。
「っ!」
「きゃあぁぁぁ!」
「なんだ!!」
周囲も異変に気付いたらしく、逃げた奴を慌てて追う黒髪も目の端に見えた。アランが近づいて、傷口に強く布を押し当てる。
「ハムレットさん!」
「先生!!」
もう、チェルルに抱きついているのかもたれ掛かっているのか分からない。力が抜けて、ズルズル崩れていく。
それでも、腕の中が温かい。視界が暗くなりかけるけれど、ギリギリまで保っていたい。
「なか……ないで……ね?」
震えてくる、寒い。これ、久しぶりにまずいかもしれない。息が浅くなって、より多くの酸素を取り込もうとしても上手くいかない。
チェルルの黒い瞳からポロポロ涙がこぼれている。こんな顔、させたくないのに。やっと、安心させてあげられると思ったのにな。これじゃ、悲しませてしまう。
目を閉じるのはとても不安だった。それでも体の要求は強烈だ。逆らいきれず、ハムレットは真っ暗な世界に沈んでいった。
▼チェルル
先生が刺された。
直後、頭の中が真っ白になって、目の前は真っ暗だった。
アランが傷を押さえて出血を止めようとして、騒ぎを聞いた第三の隊員がすぐに騎士団宿舎に運んでくれて、今は手術室の前。どのくらい時間がたったのか、分からない。
刺した奴は黒いフード付きの外套を着ていた。伝えたら、第三が「馬車に飛び出した男かもしれない」と言っていた。
誰がこの人を……。憎しみがドロドロと底の方から沸いて、駆け出しそうになったけれどそれをランバートが止めた。
「今は判決が出た直後で、下手な動きは決定が覆りかねない」と諭された。
そんなの分かってる。ハムレットだって分かっていて腕を離さなかったんだと思う。
抱きしめる腕は震えていたのに強かった。とても必死に、追えないようにしていたんだ。
「先生……」
このまま、もしも死んでしまったりしたらどうしよう。アランが押さえていたけれど、血は止まらなかった。押さえていた布も真っ赤だった。
人間って、どれだけ血が出たら死んでしまうんだっけ? あの量は、それに達していない? 運ばれる時、真っ青で震えていたハムレットの姿がまだ目の前にある。
その時、カツンと廊下をこちらに近づいてくる足音がして顔を上げた。
そこには長身で、どこかハムレットにも面差しの似た人がこちらに近づいてきていた。
「君が、チェルルかい?」
「……誰?」
頼りなく見上げたその人は、とても柔らかな表情で隣に座った。
「ハムレットの兄で、アレクシスと言う。知らせを受けてね」
「あ……」
ランバートは今頃、ハムレットを刺した奴を捕縛しに行っている。誰かが……もしもの場合に備えて家族がいなければいけないのだろう。
ハムレットに顔立ちは少し似ている。けれどもっと、厳しそうな感じ。浮かべる穏やかそうな表情はランバートに似ている。人の心の壁を薄くするような感じだ。
「大変だったね」
「いえ、俺は……」
家族とは、違う。大変なのはこの人もだ。
アレクシスは気遣わしく頭を撫でて、頬を撫でる。泣きすぎて枯れた涙の跡を消すみたいに、少し強く。
「うちの愚弟が世話になっている。あの奇人をこんなに人らしく変えた相手と一度会ってみたいと思っていたが……こんな形ではなかったんだがな」
「俺の事?」
「知っている。昔は『ランバート、ランバート』とバカの一つ覚えみたいに煩かった奴が、最近では君の話を嬉しそうにする。少々ウザいくらいだ」
「俺……」
そんな、愛されていたんだ。思うと、嬉しいけれど複雑。ハムレットがどんな家の人かは十分に分かっている。とても、こんな捨て猫には見合わない家柄だから。
けれどアレクシスはとても柔らかく受け入れるような顔をしている。それが、不思議に思える。
「有り難う、チェルル。あれは一人で、どこぞで野垂れ死ぬだろうと思っていたが、最近はそんな事は思わなくなった。君がいて、あいつは幸せそうだ」
「反対とか、しないんですか?」
「何故?」
「何故って……俺、犯罪者で孤児で、学も……」
「そんな些細な事を、君は心配しているのかい?」
とても驚いた様子で問われて、チェルルの方が驚いた。こういう事は家の格が上がると余計に煩いと思っていたんだが。
でも、アレクシスはまったくそんな事を考えている様子はない。
「些細、ですか?」
「些細だな。第一、ハムレットが大人しく家の言う事を聞く事はない。それでも家族としては独りでというのは不憫に思うものだ。それに、聞いているかもしれないが彼には子を残す能力はほぼ無い。結婚するつもりもないだろう。そうなると、余計に孤独死有力だ。そうならない事を、家族は皆願っている」
確かに、所帯を持つようなタイプには見えないけれど……
「君の存在を、私もランバートも、勿論父も歓迎している。母は今事情があって所領から帰っていないが、母も喜ぶだろう。何も問題はないし、むしろ頼みたい。あれを幸せに出来るのは君だろうと、皆が確信している。落ち着いたら本邸に招きたいと思っていたんだ」
「俺、を?」
「他に誰を? 君は少し自分を過小評価している。アレを受け入れ、愛情を注げるだけで君は偉大だ。知っているだろ? アレの弟溺愛っぷり。正直頭おかしいと思うからな」
「あの、そこまでは……」
「俺も家族としてランバートのことは気に掛けているが、アレの溺愛は病気というよりも狂気に思えた。それが最近は距離を保っている。その分を君に注ぎ込んでいるように思う。正直君には気の毒だと思っていたが……君もまんざらではないのだろうね」
大きな手が頭を撫でる。苦笑するアレクシスは、次には頭を下げた。大貴族が、孤児にだ。
「え!」
「ハムレットを頼みたい。君に見捨てられたら、アレはきっと死んでしまう。こんな事をお願いするのは間違っているのかもしれないが」
お願いされなくても、ずっと側にいたい。惚れたのはきっとチェルルが先だ。押しかけたようなものだ。その位には愛している。
居住まいを正して、チェルルも頭を下げた。
「俺こそ、よろしくお願いします。あの人の家の事とか、今はほとんど分からないけれど。でも、学んでいきますから」
「そんな事まで気を回さなくていい。アレの事だけ、考えてあげてくれ」
握手を求められて、おずおずと応じた。
その時、治療中のドアが開いてエリオットが中から出てきた。
「エリオット先生! あの、先生は……」
少し疲れた様子のエリオットは歯切れの悪い笑みを浮かべる。この人が治療してくれたのにこの表情は、怖い。もしかして、何かあったんじゃ。
不安に思っていると、背後にアレクシスが立つ。そしてしっかりとエリオットを見た。
「説明をお願いしたい」
「とりあえず安定しました。傷が深くて出血が多く、時間がかかりましたが耐えてくれました。ただ、まだ熱が下がりません。投薬での治療を継続し、私も常駐します。何方かが側について欲しいのですが」
「この子を残します。私は少しやる事もありますし、目が覚めた時に一番に見たいのはこの子の顔でしょうから」
背中をスッと押されて、ドキドキする。エリオットも頷き、チェルルを処置室と繋がった病室に案内してくれた。
ハムレットは、まだ辛そうだった。息が浅くて苦しそうだ。握った手が、熱かった。
「少し、危ない時もあったのですが」
「え!」
「頑張ってくれましたよ。きっと、貴方がいるからですね。最後に頼るのはどうしてもその人の気力です。それを繋ぐ相手がいることは、とても大切な事ですから」
椅子を引き寄せて、ベッドの脇に座って手を握っている。その頭を、エリオットが優しく撫でていった。
▼ランバート
ハムレットが刺された。騎士団宿舎で知らされた時、何の冗談かと思った。
あの人は武闘派とは言えないまでも、ちゃんと自分の身は守れる。自分に牙を剥く相手に一切容赦するような人ではない。その人が後ろから、無抵抗で刺されたんだ。
担ぎ込まれたハムレットを見た時、なんだか力が抜けた気がした。
側には表情が死んだまま泣いているチェルルがいて、ハムレットは完全に意識を失って蒼白な顔をしていた。
すぐに輸血に協力を申し出て、その間に話を聞いた。チェルルを抱きしめたまま動かなかった事、犯人は黒い外套を着ていた事、顔は見えなかった事。
それでもこんな事を考える奴は一人だ。それを思ったら、怠いとか貧血とか、言っていられなかった。
これを聞いたら確実に動く人間がいる。普段はまったく知らん顔をして飄々としているのに、案外子煩悩で気が短い。
だが、あの人が動いたら確実に奴は闇に葬られる。それでは、いけないんだと思う。
ランバート自身私刑を行った。五〇人近い人間を屠った過去もある。
けれどそれでは何一つ解決しない。ランバートの中でもずっと、当事者を全員葬ったのに心の中のドロドロは消えてくれなかった。何一つ許せなくて、解決していない。死んだはずなのに、静かな怒りと憎しみが奥底に溜まるだけだった。
ファウストが、シウス達がいて、打ち明けて、そこで終わったんだと思う。
人の心には、どんな事にも終わりが必ず必要なんだとあの時に思った。一つずつ区切りをつけて、終わりにしないと気持ちが前を向かない。
この件もそうだ。ギネスという男は今裁かれている。このまま闇に葬るのは道端の虫を踏み潰すよりも簡単だけれど、それでは関わった人間に終わりがこない。きっちり罪を明らかにしなければならないんだ。
アレクシスに後を頼んで、ランバートは自宅へと走った。同時にファウストがギネスの身柄を押さえに行っている。彼が犯人でも、犯人でなくても身柄を押さえるのは同時に保護だ。恐ろしい暗殺者が、彼に迫っているのだから。
自宅へと到着すると、今まさに黒いコートを着込んだジョシュアがふわりと笑みを見せた。
「おや、ランバート。どうしたんだい?」
「どうしたじゃない、父上。どこに行くつもりだ」
「野暮用を片付けにね」
「ギネスの身柄は騎士団で押さえる。馬車の前に飛び出した件と、ハムレット兄上の件の重要参考人だ」
伝えると、父ジョシュアはまったくいつもと同じ表情で笑った。
「騎士団か、面倒な事だね。あの小物に人を動かす価値はない。今から私が駆除してくるから、そこをどきなさい」
「!」
何も変わらない、柔和な表の顔のはずだ。なのに、足元を這う冷たさは背筋を凍らせる。瞳が、歪んで輝く。長く闇と表を一人で統べていた男の、これが裏の顔だ。
だが、これに負けるわけにはいかない。ランバートはグッと構えた。
「ほぉ、私を止めるのかい? いくら年を取ったとはいえ、まだやれるつもりなんだが」
「父上、闇に葬るのはダメだ。あの男は裁判の真っ只中で、正当に罪を問える。裁判でそこを明らかに」
「お綺麗な事を言うようになったじゃないか、愚息。すっかり騎士団に染まったんだね」
突き放すような視線が凍っている。そして、ジョシュアも軽く身を落とした。
「お前は昔から頑固だから、このまま議論しても平行線だね。構わないから、おいで。久しぶりに相手をしよう」
構えたジョシュアに隙はない。ファウストとは違う不気味な威圧感がある。ランバートも構え、そうして懐に飛び込んだ。
捉えようと出した手を内から外に弾かれ、逆に足払いを受ける。まるで鞭みたいにしなる長い足を避けたが、そうなると注意がそれる。瞬間腕を掴まれたのはランバートの方だ。
「甘い子だね、お前も。これが敵ならお前は死ぬよ」
「っ!」
ギリリと手首を掴む手に力が入って痛みを感じる。
だが、これで終わるわけがない。ランバートは自由な足を蹴り上げた。当然頭を狙ったこれは受けられる。それは想定内だ。
目的は、両手を塞ぐ事だ。
「な!」
ファウスト流というか、喧嘩とでも言うか。少なくともジョシュアは真正面から頭突きを食らうとは思っていなかったのだろう。目をまん丸にして仰け反ったジョシュアをそのまま押し倒し、動けないよう馬乗りになって両手を掴んで地面に止めた。
「っ! 父上石頭だろ」
「お前も人の事が言えるのかい? まったく、なんて荒っぽい。お前の軍神はお綺麗な顔をして本当に癖が悪いね」
「命かかってるのに手なんて選んでいられるか」
「……それも、そうだな」
目を剥いていたジョシュアは、次に笑った。途端、目尻の皺が目立つように思う。そんな部分にこの人の年を感じた。
「父上、闇に生きるのがヒッテルスバッハだってのは知ってる。それを否定するつもりはないし、野放しにできないんだから家の役割は大事だ。けれど、私情を持ち込んで表で裁ける人間を葬る事は、違うと思う」
ランバートの言葉を、ジョシュアは黙って聞いていた。その上で、瞳を閉じた。
「これでも人の親なんだよ、ランバート。愚息と言いつつ、ハムレットは私の大切な息子だ。それを傷つけられて、黙っていられるわけもない」
「分かっている。俺にとっても大事な兄で、友人の恋人だ。俺だって、黙ってはいない」
「お前が真っ先にあいつを殺しに行くと思ったんだけれどね?」
「……私刑では、何も終われない。それを教えてくれたのは、ファウストであり、騎士団なんだ」
呟くと、ジョシュアは驚いた顔をして、次には穏やかな表情をした。
「大人になって、面白くなくなったね、お前。いいことだ」
「父上」
「しっかり裁いてくれ。妙な情けをかけたときには、今度こそあいつの首はないよ」
「分かっている」
ランバートがジョシュアの上からどけると、ジョシュアは大人しく体を起こす。そして、そのまま屋敷の方へと向かっていった。
疲れた。自宅に泊まろうかとも思ったがハムレットやチェルルが心配だ。今頃色々終わっているはずだ。
重い足を引きずるように自宅を後にして一〇分程度。そこに、夜に紛れる人を見つけた。
「あ……」
「終わったか?」
ファウストがそっと近づいて、抱き寄せてくる。途端に張りつめた気持ちが全部抜け落ちて、疲れと怠さが一気にきて、そのまま腰が抜けた。
「っ!」
「おっと」
抱き上げられて、ファウストはそのまま暫く胸を貸してくれた。
とても落ち着く。このまま眠ってしまいたくなるくらいだ。
「捕り物、終わった?」
「あぁ。証拠品も押収して、今回の事件はギネスの犯行だと立証できる。ハムレットの処置も無事に終わり、今はチェルルが側にいる。アレクシス殿は必要な手続きを終えたら帰ると言っていた」
「そっか……」
凭れるようにしていた体を突っ張って起こし、ランバートは苦笑する。どうにか宿舎まで歩いていけそうだ。
隣をファウストが歩く。倒れそうになればすぐに手を貸せる距離だ。
「大丈夫か?」
「んっ、少し疲れただけ。少し休みたいな」
「では、明日と明後日は休みにしようか」
「え?」
思わぬ言葉にファウストを見ると、穏やかな黒い瞳がこちらを見る。大きな手が、軽く頭を撫でた。
「輸血もしているから、明日は部屋でゆっくりするといい。そして明後日は久しぶりに、デートでもしないか?」
「デートって……」
「いいだろ?」
なんか、ドキドキしてきた。エッチはしてもデートは久しぶりだ。戦場でデートも何もないのだが。
でも、嬉しい。今から眠れなくなりそうなくらいだ。
「うん、そうしたい」
「決まりだ」
「楽しみにしてるから」
手を繋いで宿舎に帰るその道すがら、二人はどんなデートにするかを話し合い、笑い合っていた。
▼ハムレット
目が覚める事が、こんなに待ち遠しく安心した事はない。
子供の頃、発作で何度も危なかった。でもその時は苦しいばかりで、目なんて覚めなくてもいいと思っていた。
でも今は、早くチェルルに会いたい。あの子を一人残してなんて、死んでいられない。
意識や感覚が戻り始めて、手を握る体温を感じる。体に感じる痛みや怠さ、いつもより高い体温が嬉しいなんて初めてかもしれない。
「先生!」
黒くて大きめの瞳が濡れている。疲れた様子で、目の下に隈ができている。どのくらい寝ていたのか、チェルルは少しやつれてすら見えた。
「先生、しっかり! 俺の事分かる? 先生!」
「う、ん。猫くん、おはよう」
掠れた声で言うと、背中が痛んで笑みが引きつる。でも、だからこそ生きている実感がある。
「無理しないで! エリオット先生!!」
バタバタしてエリオットを呼ぶチェルルは、細々動いている。側にいて欲しいんだけれど。
程なくしてエリオットが来て、状態の説明をしてくれた。どうやら片側の腎臓に重篤な裂傷があったらしいが、迅速な治療と輸血で切除には至らなかったらしい。エリオットの腕前は信用しているから、あまり心配していない。
それでも痛みがまだあり、微熱もまだある。血尿などの症状もまだあることから、暫くは騎士団に入院ということになった。
同時に、ランバートが輸血を申し出てくれた事、犯人が無事に捕まっていることを知った。
思わず「生きて?」と問いかけると、エリオットは苦笑して「えぇ」と言った。なんでも、ランバートが手を回したらしい。あの父を押さえたとなると、なかなか度胸のいる事だ。
一通りの説明を受けて、納得をした。経過を見ることにはなるが、一ヶ月以内にはヒッテルスバッハの家に移り、症状が完全になくなれば自由に出来るとのこと。ただ、やはり水分はこまめに取る事だ。機能が低下する事は間違いないのだから。
エリオットが出て行き、チェルルが側につく。そしてスルリと手を撫でた。
「心配かけて、ごめんね」
なんて声をかけたらいいか分からないけれど、とりあえずここから。思って言えば、泣きそうな顔をされた。
「俺、一人になるんじゃないかって思って……こんなに怖いの、初めてだ」
いまいち疲れて力の入らない手を持ち上げられて、スルリと頬ずりされる。それが、心地よかったりした。
「俺、先生がいないのなんて想像できないんだ。もう、こんな怖い思いはしたくない」
「ごめんね。こんな事の方が珍しいんだ。普段はもっと……」
「これからは、俺が先生を守る」
「え?」
少し驚いて見ていると、黒い瞳が強情な光を宿してそこにあった。
「俺が先生を守る。絶対に誰にも傷つけさせない。俺、先生がいないと死んじゃうんだよ」
「猫くん……」
「いいでしょ? 俺、ただの家猫じゃないんだから。先生を守ったり、できるんだから」
ギュッと握られた手が思いの強さを物語っている。
瞳を閉じて、ハムレットは頷いた。
「僕も同じだよ。君を失ったら僕は何を糧に生きていけばいいのか、きっと分からない。ぽっかり穴が開いて、動けなくなる。だから、これはお願い。無理はさせないからね」
「うん」
手を伸ばしたら、側に擦り寄ってくる。黒い髪を撫でて思うのは、早く家に戻りたいという何でもない日常を願う気持ちだった。
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弟溺愛がなくなってちょっとホッとしつつ、兄の弟離れを見守っておりますよ(立ち位置これでいいのか?)
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チェルルは頼もしいけれど可愛いんですよ(^▽^)
仰るとおり、ハムはかなりの頻度で来ます。それはもう、監視の人が「いっそここに住んでは?」と言うくらいに笑
ここも十分溺愛バカップルですからね(*´∀`*)
王位奪還前のジェームダルを見たせいか、帝国の三権分立な感じに安心します😮💨
正攻法で押し切ってチェルル🐈⬛が居られるよう祈っています✨
はやく家でのんびりしているハム兄とチェルルの焦れ焦れ(イチャラブ⁈)がみたい💕
帝国は王国時代を入れると案外歴史が長いのと、とにかく四大公爵家が優秀だったので政治システムがしっかりしているんですよね。
これは法と知の番人であるアイゼンシュタインという家と、政治の裏ボスであるヒッテルスバッハ家が長い時間の中で作り上げてきたものです。
まぁ、失敗を繰り返してここに至るのですけれどね😅
チェルルはお家でゴロゴロしながらハムに甘えているのが一番可愛いと思いますから、幸せになれと思っておりますよ💕