恋愛騎士物語2~愛しい騎士の隣にいる為~

凪瀬夜霧

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7章:懐かしき仲間

1話:初の王都へ

 ロッカーナからの馬車に乗り込み、クリフは幌の隙間から過ぎていく景色を見ていた。十人くらいが余裕で座れる中型の馬車の中には、クリフともう一人、ピアースだけだった。

「寒くないのか、クリフ?」
「寒いけれど…なんか見納めにしないとって思って。王都行ったらなかなか帰れないだろうし」

 ロッカーナの門がゆっくり遠くなっていく。近年じゃいいことよりも辛い事の方が多かったけれど、それでも故郷であるのは変わらない。感慨深い気分で過ぎていく景色を見ていた。
 とっ、後ろから突然ワシワシと髪をかき混ぜられて、クリフは「わっ!」と言って後ろを睨む。見ればピアースが人好きのする笑みを浮かべていた。

「んな悲しい顔をしなくたって、帰って来ればいいだろ? 俺は時々帰るし、その時にさ」
「…うん、そうだね」

 あまり残してきたもののない故郷だったけれど、クリフはたまには帰ろうと思う。それは隣で笑うピアースがいるからだった。


 王都に到着したのは六時間も経ってからだった。大きな中央の門まできた馬車から手荷物だけを持って出れば、馬車は門の中に入らずに違う人や物を乗せてロッカーナへと引き返していく。三日に一便の定期便は、こうして巡っているのだ。

「でかいな…」

 飲まれるように見上げたピアースの言葉に、クリフも頷く。外側から見るだけで、王都の中央関所はロッカーナの何倍も大きい。呆けたように見上げていると、不意に人が近づいてきた。

「ロッカーナの、ピアース・ロー、クリフ・メイヤールか」
「「はい!」」

 かかった声の強さに視線を向ければ、同じ騎士団の制服を着た銀髪の人物がこちらを見ている。ゆったりと近づいたその人物は、一つ確かに頷いた。

「騎兵府第一師団のアシュレーだ。お前達に会いたいという人が待っている。ついてこい」
「「はい」」

 クリフとピアースは互いに顔を見て、首を傾げた。この王都に知り合いは、以前ロッカーナに演習に来た第二師団の人、特にランバートだろうか。でも、ランバートが人に頼んで自分たちを呼ぶなんて、思えなかった。
 不慣れな砦の中を歩き、二人は執務室へと入った。そしてそこに佇む黒髪の人を見て、思わず「あ!」と声を上げた。

「「ファウスト様!」」

 穏やかな様子で待っていたファウストに、二人は慌てて敬礼をする。その様子をファウストは楽しげに笑い、控えているアシュレーを下げた。
 なんだか、様子が以前と違う。とても柔らかく、穏やかな空気になっている。そういうものを感じ取ってきたクリフには、何かとてもいいことがあったのだと直ぐに分かった。

「二人とも、遠路ご苦労だった」
「いえ、そんな…」
「お気遣い有り難うございます、ファウスト様。穏やかな旅路でした」

 照れたように頭をかくピアースとは違い、クリフはしっかりと答える。それに、ピアースは気を引き締め、ファウストは驚いた顔をした。

「随分しっかりしたな、クリフ。あれ以降、辛い事はなかったか?」
「おかげさまで、しっかりと職務が出来ました。砦の様子も変わり、以前よりもずっと活気があります」

 クリフは視線を逸らさずに答える。頑張ってきた自分を、変わろうと努力してきた事を披露するようだった。
 ファウストは穏やかに微笑み、歩み寄ってくる。そして二人を前にして、確かに頷いた。

「そう言って貰えると、少しは罪を許されたように思える。ロディも、報われるだろうか」
「はい、きっと」

 穏やかに柔らかく笑ったクリフは、変わっていった日々を思い出していた。


 ロッカーナ砦で起こった悲しい事件は、その後隊員を考えさせた。古い者は反省しながらも変わる事を受け入れられず、若い者は起こってしまった事に動揺した。
 だが、そこを必死に支えたのが誰よりも責任を感じていたオーソンだった。古い者に「自分たちがこれからを率先して変え、二度とこのような悲しい事を起こさないよう見守らねばならない」と訴え、若い者には「家柄で自らの価値が変わるのではない。どのように生きたいと願い、それに添っていけるかが重要だ」と鼓舞した。
 その思いを、隊員達はゆっくりと飲み込んでいった。
 何よりも力を貸してくれたのが、ウォルシュ伯爵だった。ロッカーナで最も力を持つ彼が息子の起こした事件を恥じ、残った隊員達に良くしてくれた。騎士団において上も下もない。そういう態度を示してくれた。
 現在ロッカーナ砦は上の者が下の者を引き上げるように面倒をみて、内部で家柄をひけらかす者はなくなっている。


 ファウストは苦笑して、頷いた。事件の顛末と、ファウストがとった責任については、この一件に深く関わったクリフとピアースは知っていた。そして同時に、中央に彼らを引き上げたいという意向も伝わっていた。
 これに二人は喜んだ。元々ピアースは中央でやってみたいという気持ちがあったし、クリフも衛生兵というものに興味を持っていたからだ。
 だが、当時はまだ必死に頑張っているオーソンを放っておきたくなかった。だからこそ、猶予を貰っていたのだ。

「僕たちの我が儘をきいて頂いて、有り難うございました。オーソン様の離任式まで残りたいなんて」

 クリフが申し訳なく言えば、ファウストは穏やかに嬉しそうに微笑む。本当に印象が柔らかく丸くなった。そう、クリフは感じていた。

「いいや、むしろ有り難い事だ。オーソンも困ったなんて言いながら、随分嬉しそうだった。二人には本当に、感謝をしている」

 前年の十二月最後の日をもって、オーソンは定年となり、後任の者を決めて離任した。それをクリフとピアースは見守り、今年一月をもって中央へと移る事となったのだ。
 最後、オーソンは二人を酒の席に招き、とても穏やかに微笑んで「有り難う」と言ってくれた。言い方は悪いが、憑きものが落ちた、そんな感じだった。

「オーソンも、離任してまで残った隊員が心配だなんて言って、結局離れないとはな」

 苦笑したファウストに、クリフとピアースも笑った。そう、オーソンは結局砦を離れきる事ができなかったのだ。

「残る隊員の相談役をしたいなんて、オーソン様らしいです」

 ピアースが笑い、クリフも頷く。ファウストも苦笑しながら、鷹揚に頷いた。
 そう、オーソンは砦から完全に離れる事はなく、週に二度ほど隊員の悩みを聞く役目を負った。まだ若い隊員の不安や、古い隊員の苦労を聞く役割だ。元々が聞き上手で穏やかな気性のオーソンだからこそ、誰もが力を抜いて相談できる。そのような形で砦に残ったのだ。

「この年でやりたい事もないし、むしろ張り合いがあると言っていましたよ」
「罪滅ぼしだなんて、思っていなければいいんだが」
「その気持ちが全くないとは言い切れませんが、少なくとも苦しげではありませんから」

 クリフの言葉に、ファウストはしっかりと頷いた。
 その時、扉がノックされて声がかかる。まだ若い感じの声に、クリフとピアースは顔を見合わせた。

「あぁ、来たか。入れ!」
「「失礼します」」

 入って来たのはまだ若い隊員四人。どれも知らない顔の隊員だった。

「まずは紹介しよう。入ってきた四人はそれぞれ、お前達が着任する第三、第四師団の者で、お前達と同期の者だ」

 ピアースの側には長身で人好きのする爽やかな青年と、少し気の強そうなつり目気味の青年が立つ。
 そしてクリフの側には白に近い銀髪の青年と、柔らかな金髪の幼顔の青年が立った。

「第三師団のトレヴァーとトビーだ。君の事は事前に聞いている。歓迎するよ、ピアース」
「今日と明日、俺達が砦の案内と師団の案内するから、よろしくな!」

 快活という様子の二人に、ピアースは嬉しそうな顔をして頷いている。この二人とピアースは随分雰囲気が似ている。第三師団というのはこういう者が多いのかもしれない。

「第四師団のハリーとコナンだよ。君がクリフだね」
「ランバートからも、話は聞いてるんだ。会うの楽しみにしてた。よろしくね」

 白に近い銀髪に、整った顔立ちのハリーが軽くどこか怪しげな口調で言い、素直で笑顔の多いコナンが後を引き継ぐ。それに、クリフは目をキラキラさせた。

「ランバートの友達なの?」
「うん、そうだよ。ここにいるのは皆ランバートの友達で、同期だよ」

 コナンが答えるのに、全員が頷く。これだけでグッと距離が近づいた気がして、クリフは嬉しそうに笑った。

「まずは砦の案内を頼む。二人は同室だ。荷は先に運び込んである」
「有り難うございます」

 ピアースがキリッと答え、ファウストは頷く。そうして、二人は迎えに来た四人に連れられて外へと出ていった。
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