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9章:変わり始めの夜
1話:近くにあること(クラウル)
安息日前日の終業後、クラウルは私服に着替えて門へと出ていた。髪を下ろし、ラフな格好で待っていると直ぐに待ち人はきた。薄いベージュのズボンに同系色のコートを着ていると印象が柔らかい。
「すみません、お待たせしました」
「いや、大したことじゃない。行くか」
「はい」
ゼロスを隣に街へと降りていく。その心は、少しばかり軽やかだった。
街は安息日前日とあって賑やかだ。人の通りも多いだろう。雑踏の中をゼロスは迷いなく歩いていく。どこか目的があるような足取りで、ゼロスはラセーニョ通りから少し入った場所へと向かっていった。
「店は決まっているのか?」
「えぇ、予約しました。少し行った所です」
そうなると、少し服装をミスったか。そう思うが、当のゼロスもさほど変わらない格好だ。間違いと言うわけじゃないんだろう。
そうして少し狭い道を進んだ先、小さな間口の店の前でゼロスは立ち止まった。
「ここです」
こじゃれた店は小さな扉だけで、他に出入り口がない。入って直ぐに階段があり、登っていくと受付の人がいた。名を告げて案内された個室は、温かな感じのする過ごしやすい場所だった。
「飲み物と料理を決めましょうか」
「コースじゃないのか?」
「えぇ、単品です。適当に頼んで構いませんか?」
「あぁ、構わない」
ゼロスがワインと数種類の料理を注文する。飲み物は比較的すぐに、簡単な料理も早い段階でテーブルに並び、クラウルは乾杯をしてワインを飲み込んだ。
「いいワインだな」
「料理も美味しいそうですよ」
柔らかなラグの上に直に座る席は、意外と距離が近い。楽しげに笑ったゼロスが焼き鳥を手にワインを飲んでいる。確かに料理も美味しい。
「よくこんな場所を知っていたな」
「レイバンが教えてくれたんですよ。あいつ、ジェイクさんと一緒にこうした店を回っているらしくて、穴場だと教えてくれました」
「ほぉ、意外だな。同室とはいえ、ジェイクは少し壁のある奴だ」
「付き合ってるみたいですよ」
「!」
驚いて、飲み込んだワインがおかしな方向へ流れ込んで咽せてしまう。立ち上がったゼロスが背中を軽く叩いて、なんとかこみ上げる咳を押さえ込んだ。
「そんなに意外でしたか?」
「意外だ。ジェイクはそうした話を聞かないし、料理馬鹿だから」
「結構前から、互いに少しは意識していたようですよ」
「そうだったのか」
美味しく栄養のある料理を提供してくれる、少しストイックな奴だと思っていた。とても色恋など無縁そうだったのだが……そうか。
だが、なんとなく似合いにも思える。レイバンは人懐っこい性格で相手を振り回す感じも見受けられる。一方のジェイクはストイックでどこまでも落ち着いているし、マイペースな奴だ。二人で丁度いいバランスかもしれない。
「まぁ、分かりづらいですよね」
「表では絡まないからな」
「主に部屋の中での事ですし、元々同室では分かりづらいですね」
「そうだな」
だが同時に、同室でそういう関係になる奴が多いのも事実だ。互いの性格や生活が見えるからだろうな。
「クラウル様は、いらしたことがあるんですか?」
「ん?」
「恋人」
正面に戻ったゼロスが、こちらをジッと見ている。窺うような視線であるのに、あまり興味がなさそうにも見える。話の流れで聞いている、そんな様子すらあった。
「ない」
「本当に?」
「ずっと仕事ばかりだった。あまり必要だとも思わなかったからな」
「そうですか」
ゼロスはそれ以上聞いてはこなかった。興味をなくしたように表情も変えずにいる。
少しは興味を持ってもらったのかと思った。もう少し何かの感情が見えるかと思った。思わせぶりなゼロスの反応は、ますますクラウルを困惑させた。
そしてそんな自分の感情にも困惑している。自分はどう反応してほしかったのか。安堵の表情か、それとも嬉しそうな反応か。それを見たいという気持ちは、クラウルこそがゼロスを求めるからじゃないのか。
「ゼロスは、いるのか?」
「え?」
思わず聞いた。そして聞いた後で、視線をそらした。求める答えは一つだが、違った時には僅かに痛む気がした。そもそもゼロスは後輩からも同期からも慕われている。徐々に頭角を現している。静かに、だがしっかりと面倒を見るし、付き合いもいい。そんな人物は大抵がモテるものだから。
ゼロスはマジマジとクラウルを見ている。窺うようなその視線と空気にどうしたらいいのかと少し後悔し始めていた。
「いませんよ」
「え?」
「少なくとも、愛を囁いたり誰かに執着するような事はありませんでした。体だけの関係というならそれなりに。恋人がいたこともありますが、今思えば簡単に別れて後腐れもないんです。浅かったか、そこまでの相手ではなかったか。何にしても今はそういう相手はいません」
なぜかほっとしたのは、そのままゼロスがフリーである事を確認出来たからだろう。自然とそういう感情が出ていたようだ。目の前でゼロスが笑う。
「そんなに気になりましたか?」
「あぁ、いや」
「それは、貴方は俺に少なからず気持ちがあると取っても、差し支えないのでしょうか?」
挑むような鋭い視線と、ニヤリと笑う口元。殊勝な顔をしていたのが嘘のようだ。数日間を一緒に生活していた時はこんな顔をしなかったのに、今はこれだ。どうにも楽しげで、試されているようだ。
「俺は多少、貴方の事が気になります」
「え?」
不意の言葉は心臓に悪い。僅かに鼓動が早くなる。薄茶色の瞳は、案外笑っていない。
「憧れのようなものに触れられるのなら、触れてみたいと思うのが人間の性というものではありませんか?」
「憧れって。確かに入団テストの事はあったが、その後の接点はなかったはずだ。お前がそれほど俺に関心を寄せるような事はあったか?」
「理由がなければいけないなんて、クラウル様は野暮ですね」
呆れたような溜息をつくゼロスは、それでも面白そうにしている。機嫌良く食事と酒を楽しんでいて、クラウルのグラスにもワインを注いでいく。
「理由を問われると困ります。最初はハンカチを返した方がいいのだろうと窺っていましたが、次第にそれとは関係なく貴方を見るようになっていた。案外、笑うと優しい顔になるとか、熱血漢な部分があるとか」
「そんなこと」
「仲間や友人を大事にしている。ユーミル祭の前は元気がありませんでしたが、その後はむしろ表情がより穏やかになっていた」
そんな所まで見られていたなんて。思うとカッと体が熱くなって、思わず手で口元を隠した。どんな顔をしていいのか分からず困惑してしまう。
ゼロスはそんなクラウルを笑って、正面から見据えた。
「そんな貴方が頼もしい上官に見えたり、尊敬すべき人に見えたり、時々心配になり、ほんの一瞬可愛く見えたり。一応ノンケだと思っていたので多少困惑もしましたが、こういうものなんだろうと納得もしました」
清々しい様子には躊躇いや後悔はないように思う。これは、告白と取ってもいいのだろうか。受けるクラウルにとってこれは、人生における初めての告白に思えた。
「これという決定打も、理由もありません。ただ、貴方とは簡単に切れてしまいたくない。そう思う俺も確かに存在しています」
「ゼロス」
「貴方は、どうですか? その他大勢の隊員と同じなのか、そこよりも少し上に置いてもらえるのか。俺の希望では、その他大勢から頭一つでも特別になりたいのですが」
「特別は、どこまでだ」
「プライベートで、食事に行ってこうして話しが出来る程度か、もう少し先か」
挑む瞳が真剣な顔をしている。この目を前にすると、何故かドキドキする。次の言葉に迷っていると、今度は少し寂しそうに首を傾げてくる。
拒む気持ちがないのが今までとは違う。いや、今までこんな近くにくる者がいなかったのか。ファウスト達は仲間で友人だが、この距離ではない。もう少し離れていて、時々迫るように近い。常に、近くに感じるわけではない。
「やはり、嫌ですか?」
「いや、違う!」
寂しそうに言われて咄嗟に否定した。否定して、思った。クラウルもまた、手放しがたいのだと。
「嬉しいと思うんだ」
「嬉しい?」
「こうして、近くにいてくれることが。お前との会話や距離は心地よい。俺は……こんなに近く人を感じる事がなかった。だから、距離感に戸惑うんだ。踏み込んでいいのか、いけないのか。少し臆病なのかもしれないな」
人との距離を測るのが苦手だ。近づきたい相手には近づいてもらいたい。せめて、受け入れてほしい。最近……年始の頃から少しずつ、こんな気持ちを感じるようになった。仕事で疲れた時、思い悩む時、それを口に出せればどれほど楽になるか。誰かが一緒に背負ってくれればいいのにと。
そう思う時、必ず最初に出てくるようになったのがゼロスだ。彼は口外しないと信じている。それに、情けない時にはきっと叱るだろうと思った。だからこそ、求めたのだ。
ゼロスは立ち上がり、隣に腰を下ろす。そしてニッと笑った。
「この距離が、俺と貴方の距離です」
「!」
ほんの少し動けば触れられる、そんな距離だった。
「こんなに近くていいのか?」
「俺は構いません。なんなら、触れる距離でも」
「ノンケだったんだろ?」
「ですね。でも、抵抗とかはないので」
そんなに簡単な事なのだろうか。それとも周囲がそのような感じだからこそ、考えが変わったのか。それとも、元々が拘りのない性格なのか。
試しに手に触れてみる。まったくなんの抵抗もなく、逆に肩を震わせて笑っていた。
「そんなおっかなびっくり触れなくてもいいですよ」
「だが」
「……疑い深いですね」
そう言ったかと思えば、ゼロスは伸び上がってクラウルの唇に触れた。あの夜と同じような、触れるだけのキスだった。
「!」
体の内が僅かに熱くなる。それを感じながら、クラウルはゼロスの悪戯っぽい表情を呆然と見ていた。
「俺、一応外泊届出してきましたけれど、どうします?」
悪戯に、挑発的に誘うゼロスを見つめ、クラウルの心臓は僅かに煩く音を立て始めていた。
「すみません、お待たせしました」
「いや、大したことじゃない。行くか」
「はい」
ゼロスを隣に街へと降りていく。その心は、少しばかり軽やかだった。
街は安息日前日とあって賑やかだ。人の通りも多いだろう。雑踏の中をゼロスは迷いなく歩いていく。どこか目的があるような足取りで、ゼロスはラセーニョ通りから少し入った場所へと向かっていった。
「店は決まっているのか?」
「えぇ、予約しました。少し行った所です」
そうなると、少し服装をミスったか。そう思うが、当のゼロスもさほど変わらない格好だ。間違いと言うわけじゃないんだろう。
そうして少し狭い道を進んだ先、小さな間口の店の前でゼロスは立ち止まった。
「ここです」
こじゃれた店は小さな扉だけで、他に出入り口がない。入って直ぐに階段があり、登っていくと受付の人がいた。名を告げて案内された個室は、温かな感じのする過ごしやすい場所だった。
「飲み物と料理を決めましょうか」
「コースじゃないのか?」
「えぇ、単品です。適当に頼んで構いませんか?」
「あぁ、構わない」
ゼロスがワインと数種類の料理を注文する。飲み物は比較的すぐに、簡単な料理も早い段階でテーブルに並び、クラウルは乾杯をしてワインを飲み込んだ。
「いいワインだな」
「料理も美味しいそうですよ」
柔らかなラグの上に直に座る席は、意外と距離が近い。楽しげに笑ったゼロスが焼き鳥を手にワインを飲んでいる。確かに料理も美味しい。
「よくこんな場所を知っていたな」
「レイバンが教えてくれたんですよ。あいつ、ジェイクさんと一緒にこうした店を回っているらしくて、穴場だと教えてくれました」
「ほぉ、意外だな。同室とはいえ、ジェイクは少し壁のある奴だ」
「付き合ってるみたいですよ」
「!」
驚いて、飲み込んだワインがおかしな方向へ流れ込んで咽せてしまう。立ち上がったゼロスが背中を軽く叩いて、なんとかこみ上げる咳を押さえ込んだ。
「そんなに意外でしたか?」
「意外だ。ジェイクはそうした話を聞かないし、料理馬鹿だから」
「結構前から、互いに少しは意識していたようですよ」
「そうだったのか」
美味しく栄養のある料理を提供してくれる、少しストイックな奴だと思っていた。とても色恋など無縁そうだったのだが……そうか。
だが、なんとなく似合いにも思える。レイバンは人懐っこい性格で相手を振り回す感じも見受けられる。一方のジェイクはストイックでどこまでも落ち着いているし、マイペースな奴だ。二人で丁度いいバランスかもしれない。
「まぁ、分かりづらいですよね」
「表では絡まないからな」
「主に部屋の中での事ですし、元々同室では分かりづらいですね」
「そうだな」
だが同時に、同室でそういう関係になる奴が多いのも事実だ。互いの性格や生活が見えるからだろうな。
「クラウル様は、いらしたことがあるんですか?」
「ん?」
「恋人」
正面に戻ったゼロスが、こちらをジッと見ている。窺うような視線であるのに、あまり興味がなさそうにも見える。話の流れで聞いている、そんな様子すらあった。
「ない」
「本当に?」
「ずっと仕事ばかりだった。あまり必要だとも思わなかったからな」
「そうですか」
ゼロスはそれ以上聞いてはこなかった。興味をなくしたように表情も変えずにいる。
少しは興味を持ってもらったのかと思った。もう少し何かの感情が見えるかと思った。思わせぶりなゼロスの反応は、ますますクラウルを困惑させた。
そしてそんな自分の感情にも困惑している。自分はどう反応してほしかったのか。安堵の表情か、それとも嬉しそうな反応か。それを見たいという気持ちは、クラウルこそがゼロスを求めるからじゃないのか。
「ゼロスは、いるのか?」
「え?」
思わず聞いた。そして聞いた後で、視線をそらした。求める答えは一つだが、違った時には僅かに痛む気がした。そもそもゼロスは後輩からも同期からも慕われている。徐々に頭角を現している。静かに、だがしっかりと面倒を見るし、付き合いもいい。そんな人物は大抵がモテるものだから。
ゼロスはマジマジとクラウルを見ている。窺うようなその視線と空気にどうしたらいいのかと少し後悔し始めていた。
「いませんよ」
「え?」
「少なくとも、愛を囁いたり誰かに執着するような事はありませんでした。体だけの関係というならそれなりに。恋人がいたこともありますが、今思えば簡単に別れて後腐れもないんです。浅かったか、そこまでの相手ではなかったか。何にしても今はそういう相手はいません」
なぜかほっとしたのは、そのままゼロスがフリーである事を確認出来たからだろう。自然とそういう感情が出ていたようだ。目の前でゼロスが笑う。
「そんなに気になりましたか?」
「あぁ、いや」
「それは、貴方は俺に少なからず気持ちがあると取っても、差し支えないのでしょうか?」
挑むような鋭い視線と、ニヤリと笑う口元。殊勝な顔をしていたのが嘘のようだ。数日間を一緒に生活していた時はこんな顔をしなかったのに、今はこれだ。どうにも楽しげで、試されているようだ。
「俺は多少、貴方の事が気になります」
「え?」
不意の言葉は心臓に悪い。僅かに鼓動が早くなる。薄茶色の瞳は、案外笑っていない。
「憧れのようなものに触れられるのなら、触れてみたいと思うのが人間の性というものではありませんか?」
「憧れって。確かに入団テストの事はあったが、その後の接点はなかったはずだ。お前がそれほど俺に関心を寄せるような事はあったか?」
「理由がなければいけないなんて、クラウル様は野暮ですね」
呆れたような溜息をつくゼロスは、それでも面白そうにしている。機嫌良く食事と酒を楽しんでいて、クラウルのグラスにもワインを注いでいく。
「理由を問われると困ります。最初はハンカチを返した方がいいのだろうと窺っていましたが、次第にそれとは関係なく貴方を見るようになっていた。案外、笑うと優しい顔になるとか、熱血漢な部分があるとか」
「そんなこと」
「仲間や友人を大事にしている。ユーミル祭の前は元気がありませんでしたが、その後はむしろ表情がより穏やかになっていた」
そんな所まで見られていたなんて。思うとカッと体が熱くなって、思わず手で口元を隠した。どんな顔をしていいのか分からず困惑してしまう。
ゼロスはそんなクラウルを笑って、正面から見据えた。
「そんな貴方が頼もしい上官に見えたり、尊敬すべき人に見えたり、時々心配になり、ほんの一瞬可愛く見えたり。一応ノンケだと思っていたので多少困惑もしましたが、こういうものなんだろうと納得もしました」
清々しい様子には躊躇いや後悔はないように思う。これは、告白と取ってもいいのだろうか。受けるクラウルにとってこれは、人生における初めての告白に思えた。
「これという決定打も、理由もありません。ただ、貴方とは簡単に切れてしまいたくない。そう思う俺も確かに存在しています」
「ゼロス」
「貴方は、どうですか? その他大勢の隊員と同じなのか、そこよりも少し上に置いてもらえるのか。俺の希望では、その他大勢から頭一つでも特別になりたいのですが」
「特別は、どこまでだ」
「プライベートで、食事に行ってこうして話しが出来る程度か、もう少し先か」
挑む瞳が真剣な顔をしている。この目を前にすると、何故かドキドキする。次の言葉に迷っていると、今度は少し寂しそうに首を傾げてくる。
拒む気持ちがないのが今までとは違う。いや、今までこんな近くにくる者がいなかったのか。ファウスト達は仲間で友人だが、この距離ではない。もう少し離れていて、時々迫るように近い。常に、近くに感じるわけではない。
「やはり、嫌ですか?」
「いや、違う!」
寂しそうに言われて咄嗟に否定した。否定して、思った。クラウルもまた、手放しがたいのだと。
「嬉しいと思うんだ」
「嬉しい?」
「こうして、近くにいてくれることが。お前との会話や距離は心地よい。俺は……こんなに近く人を感じる事がなかった。だから、距離感に戸惑うんだ。踏み込んでいいのか、いけないのか。少し臆病なのかもしれないな」
人との距離を測るのが苦手だ。近づきたい相手には近づいてもらいたい。せめて、受け入れてほしい。最近……年始の頃から少しずつ、こんな気持ちを感じるようになった。仕事で疲れた時、思い悩む時、それを口に出せればどれほど楽になるか。誰かが一緒に背負ってくれればいいのにと。
そう思う時、必ず最初に出てくるようになったのがゼロスだ。彼は口外しないと信じている。それに、情けない時にはきっと叱るだろうと思った。だからこそ、求めたのだ。
ゼロスは立ち上がり、隣に腰を下ろす。そしてニッと笑った。
「この距離が、俺と貴方の距離です」
「!」
ほんの少し動けば触れられる、そんな距離だった。
「こんなに近くていいのか?」
「俺は構いません。なんなら、触れる距離でも」
「ノンケだったんだろ?」
「ですね。でも、抵抗とかはないので」
そんなに簡単な事なのだろうか。それとも周囲がそのような感じだからこそ、考えが変わったのか。それとも、元々が拘りのない性格なのか。
試しに手に触れてみる。まったくなんの抵抗もなく、逆に肩を震わせて笑っていた。
「そんなおっかなびっくり触れなくてもいいですよ」
「だが」
「……疑い深いですね」
そう言ったかと思えば、ゼロスは伸び上がってクラウルの唇に触れた。あの夜と同じような、触れるだけのキスだった。
「!」
体の内が僅かに熱くなる。それを感じながら、クラウルはゼロスの悪戯っぽい表情を呆然と見ていた。
「俺、一応外泊届出してきましたけれど、どうします?」
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