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25章:心の友
4話:裏切り(ハクイン)
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森を抜け、リオガンと二人順調に王都へ向けて進んでいた。足早にはなったが、無理はしなかった。休める場所に身を潜め、リオガンと二人抱き合って外套に包まった。
寒さはなかったし、不思議と眠れた。一人の時はあんなに不安で、苦しくて仕方がなかったのに。
「そろそろベルーニが近い」
立ち止まり、茜から紫、濃紺が近くなった空を見上げながらリオガンが呟く。それにハクインも頷いた。
「明るい間に通るのは避けたいね。視界のきかない夜の間に通り抜けよう」
街中を回避できるとはいえ、近い場所は通らざるを得ない。街道を使わないから一般人とすれ違う事はまずなく、姿を見られる危険も減らせるが絶対じゃない。周辺を騎士団が警備していれば見られる可能性もある。
ハクインの提案にリオガンも頷き、より慎重に王都への道を進み出した。
まさに、その時であった。
突如鋭い笛の音が響き渡り、二人はビクリと立ち止まった。
急ぎ武器を構えて見回せば、黒い制服姿の男達が進路を塞ぐようにして立ちはだかり、追い詰めるようににじり寄ってきていた。
「騎士団!」
黒の制服は見た事がある。防戦の構えを見せたハクインだったが、笛の音に気付いたらしい制服姿の男達が次々に集まってくるのを見て形勢の悪さを悟った。
「逃げる」
決断したリオガンは剣を収めてハクインの腕を掴み、踵を返して元きた道を走り出す。それを追うように制服姿の男達も走り寄ってくる。
リオガンの隣を連れられるように走りながら、ハクインはどこか違和感を覚えていた。何がとは言えない。けれど、何かが違う気がした。
暫く進むと違う道に出る。片方がベルーニの町に通じる街道への道。もう一方は途中街道を横切るがその後は再び姿を隠して進める道。
当然後者を進むよう進路を取って走り出そうとした。だがその方向からも笛の音と男達の怒声が聞こえる。
「やむなし」
「リオガン!」
腕を引き、走り出したのは街道へ出る道だった。
心臓が煩いくらいに鳴っている。不安と緊張に追い立てられていく。やっぱり何かがおかしいんだ。こんなだまし討ちのようなやり方を、騎士団は今までしてこなかった。
確かに仕掛けていたのはハクイン達だ。それでも、彼らは色んな意味で正々堂々としていた。こんな、獲物を狩る事を楽しむような陰湿さはなかった。
これは、むしろ……。
気付いてはいけない何かに気付いた。その時リオガンの足が止まった。
大きな街道。あと数メートル行けばベルーニの町の門前だ。だが、それかはなわない。二人が抜けたその前から黒い一団が出てくる。引き返そうにも後ろからも同じように出て来て挟み込まれてしまった。
「なんだ?」
「騎士団の捕り物か?」
夜の初め、道を行く一般人が突然の出来事に驚き目を丸くして声を上げる。巻き込まれないように遠巻きに。
「騎士団」
「リオガン、おかしい」
「分かっている」
睨みながらギリリと歯を食いしばったリオガンは剣を抜いた。それに通行人達が悲鳴を上げ、一部がベルーニを目指して逃げて行く。
ハクインも剣を抜いてリオガンと背中合わせになった。どうにか、これを抜けなければならない。
でもできるのだろうか。目の前には三十人以上の男達がいる。リオガンの方も同じかそれ以上だ。たった二人を殺す為に、これだけの人数を差し向けてきたのだ。
男達からの攻撃は強かった。走り寄った一人がハクインと切り結ぶ。その間に横合いからも斬りかかられる。前を押し、横に飛んで攻撃をかわすと別の方向からも。誇りだとか、そんなものを一切感じないなりふり構わぬ攻撃だ。
そして確信する。やっぱりこんなのは騎士団じゃない。彼らはもっと強かった。彼らはもっと潔かった。よってたかってなぶり殺しにするような方法は取らなかった。
リオガンを盗み見れば、彼は流石の剣捌きで次々に切り倒していく。戦闘能力において追い抜かされてしまっている。
ハクインも気合を入れ、まずは一人を切り倒した。だがその間に薄く傷をもらう。目は追いついているが体が追いついてないのだ。
「くそ!」
二人、三人……十人も倒せば体中に薄い傷ができる。その全てが細かく痛み血を流す。肩で息をしてリオガンを見れば、彼も無事ではない。圧倒的不利な状況に運動量の多さが祟って疲れ始めている。
「こっちだ!」
「!」
増援を呼ぶ声に反応して、ハクインはどうにか逃げる事を考えた。そして懐から数個の玉を投げると、リオガンへと走り込んだ。
「リオガン!」
側へと来たときには玉から煙が辺りを覆うくらい立ちこめ、視界を奪っていく。それでもここは屋外、風に流されてしまう。だがこれが限界だ。閃光弾はリオガンにもダメージがいく。火薬は一般人を沢山巻き込む。
リオガンの腕を引き、煙で視界が悪くなる中を逃げようとした。リオガンも直ぐにそれを察した様に動き出そうとしてくれた。
だが、そうはいかなかった。
ハクインの前に数人の男が走り込み、剣を構えていた。それはきっと狙ったわけじゃない。そもそも近い位置で戦っていたんだ、闇雲に振り下ろし、突き込んだのかもしれない。
だが視界の悪くなった煙の中を鋭い光だけが走るように映り込んだ時には、逃げ切れる距離じゃなかった。
「ハクイン!」
「っ!」
死ぬんだと思った瞬間に、固まったように体が動かなくなる。けれど腕を掴んで引き倒す動きに体は後ろへと引っ張りこまれ、その勢いのまま投げ出されて尻餅をついた。
そして、真っ赤な血しぶきが顔や体を濡らした。
「あ……」
ハクインと向かい合うようにリオガンは立っていた。守るように、盾となって。
その体を数本の剣が突き抜けている。血が溢れ出し、口元から溢れるように滴った。
「あ……あぁ!」
「ハク、イン……」
「うわぁぁぁ!」
崩れる様に倒れてくるリオガンを受け止めて抱き込んだ。斬られ、刺された場所から血が溢れ出てくる。目を閉じたリオガンは浅く薄く息をしているけれど、まだ体は温かいけれど、それだって直ぐに消えてしまいそうだった。
「殺せ!」
声が上がる。ハクインはリオガンを守るように抱き込んだ。
憎い、悲しい、辛い。こんな所で、主を助け出す事も出来ずに死ぬんだ。チェルルの死も確かめられず、裏切られて死ぬんだ。思うとたまらず、胸の奥から黒い感情が溢れていくようだった。
でも同時に思う。もしかしたらこの先に、皆いるかもしれない。チェルルが、主が、お疲れ様と言ってくれるかもしれない。隣には、リオガンが……。
一人で死なせない。一緒にいるから。ごめん、頼りない兄貴分で。ごめん、いつも助けてもらうばかりで。ごめん、無理に付き合わせて。ごめん、ごめん、ごめん!
振り下ろされる剣の青白い光に目を瞑る。リオガンに覆い被さるようにしたハクイン。
だがその視界の端に、彼は見た。黒い影が二つ、走り込むようにこちらに向かってくるのを。
振り上げられた剣が下りる事はなかった。ハクインを庇うように前に立った二つの影が、難なく弾き返したからだ。
「まったく、なに諦めた顔してんのさ。お前は俺の恨み言を一生聞き続ける義務があるんだぞ!」
「あ……」
凜々しい背中に、白に近い銀の髪。守るように立ちはだかる背中越しに声がする。
知っている、この髪の色。北の地で沢山見た。祖国を奪われ支配に抗い、戻らない地と思い出を求めて……バカだって思って利用した人達。
「お前の元上官に感謝することだ。お前も、他の者も救おうと慣れない頭を下げ通しだ」
「あ……」
黒い制服に流れる長い金の髪が揺れる。つい最近、斬り合ったばかりの相手だ。彼が軍神の恋人だと明かしたのはハクインなのに。
「やるよ、ランバート」
「あぁ、ハリー」
ランバートとハリーの二人はハクインを背に庇ったまま敵へと切り込んで行く。まったく危なげない足取り、身のこなし。鮮やかに鋭く、そして大胆に。一度に二人、三人を相手に大立ち回りをする彼らはあっという間に敵を追い払った。
「大丈夫か!」
ハクインの背後から声がする。男性にしては少し高い声を知っている。建国祭の日、城の前庭で大切な人の名前を必死に叫んでいた声だ。
ハクインへと近づいたエリオットが、腕の中のリオガンを見て眉根を寄せた。ハクインの服は彼の血でべっとりと赤く、リオガンの息はとても小さくなっていた。
「あ……たす、け……」
涙が頬を伝って止まらなくなる。虫のいい話なのは分かっている。エリオットをターゲットにして、オスカルを弱らせる事をしたのはハクインだ。二人の関係を調べあげ、オスカルよりはエリオットの方が狙いやすいと言ったのはハクインだ。
恨まれて当然だ。助けてなんて言える相手じゃないのも本当だ。でも、震えながらハクインは呟く様に繰り返す。「助けて」と、リオガンだけはと。
「ランバート、手伝って!」
リオガンの体を包んだエリオットは躊躇いもしなかった。止血するように数カ所をきつく縛った彼はリオガンを抱き上げてベルーニへと走っていく。その後をランバートがついていく。砦から人が駆け寄り、倒れている奴らを拘束していく。
その中でハクインは動けないまま震えていた。「有り難う」と、繰り返して。
「ほら、なにしてんのさ」
「え?」
「あいつ、助けたいんだろ。お前じゃないと分かんない事もあるでしょうが」
腕を引き上げたハリーが強引にハクインを砦へと連れて行く。呆然と見上げる彼の表情は硬く、色んな感情を押し込んでいるようにも見えた。
「ごめ……」
「許さない」
「ごめん……」
「……生きて、一生俺に恨まれるんだね。それが、お前のした事だ」
言いながら、それでも手を離す事はない。救おうとしてくれている。それを感じるとこみ上げる感情のまま涙が止まらなくて、泣きながら必死に走るのだった。
寒さはなかったし、不思議と眠れた。一人の時はあんなに不安で、苦しくて仕方がなかったのに。
「そろそろベルーニが近い」
立ち止まり、茜から紫、濃紺が近くなった空を見上げながらリオガンが呟く。それにハクインも頷いた。
「明るい間に通るのは避けたいね。視界のきかない夜の間に通り抜けよう」
街中を回避できるとはいえ、近い場所は通らざるを得ない。街道を使わないから一般人とすれ違う事はまずなく、姿を見られる危険も減らせるが絶対じゃない。周辺を騎士団が警備していれば見られる可能性もある。
ハクインの提案にリオガンも頷き、より慎重に王都への道を進み出した。
まさに、その時であった。
突如鋭い笛の音が響き渡り、二人はビクリと立ち止まった。
急ぎ武器を構えて見回せば、黒い制服姿の男達が進路を塞ぐようにして立ちはだかり、追い詰めるようににじり寄ってきていた。
「騎士団!」
黒の制服は見た事がある。防戦の構えを見せたハクインだったが、笛の音に気付いたらしい制服姿の男達が次々に集まってくるのを見て形勢の悪さを悟った。
「逃げる」
決断したリオガンは剣を収めてハクインの腕を掴み、踵を返して元きた道を走り出す。それを追うように制服姿の男達も走り寄ってくる。
リオガンの隣を連れられるように走りながら、ハクインはどこか違和感を覚えていた。何がとは言えない。けれど、何かが違う気がした。
暫く進むと違う道に出る。片方がベルーニの町に通じる街道への道。もう一方は途中街道を横切るがその後は再び姿を隠して進める道。
当然後者を進むよう進路を取って走り出そうとした。だがその方向からも笛の音と男達の怒声が聞こえる。
「やむなし」
「リオガン!」
腕を引き、走り出したのは街道へ出る道だった。
心臓が煩いくらいに鳴っている。不安と緊張に追い立てられていく。やっぱり何かがおかしいんだ。こんなだまし討ちのようなやり方を、騎士団は今までしてこなかった。
確かに仕掛けていたのはハクイン達だ。それでも、彼らは色んな意味で正々堂々としていた。こんな、獲物を狩る事を楽しむような陰湿さはなかった。
これは、むしろ……。
気付いてはいけない何かに気付いた。その時リオガンの足が止まった。
大きな街道。あと数メートル行けばベルーニの町の門前だ。だが、それかはなわない。二人が抜けたその前から黒い一団が出てくる。引き返そうにも後ろからも同じように出て来て挟み込まれてしまった。
「なんだ?」
「騎士団の捕り物か?」
夜の初め、道を行く一般人が突然の出来事に驚き目を丸くして声を上げる。巻き込まれないように遠巻きに。
「騎士団」
「リオガン、おかしい」
「分かっている」
睨みながらギリリと歯を食いしばったリオガンは剣を抜いた。それに通行人達が悲鳴を上げ、一部がベルーニを目指して逃げて行く。
ハクインも剣を抜いてリオガンと背中合わせになった。どうにか、これを抜けなければならない。
でもできるのだろうか。目の前には三十人以上の男達がいる。リオガンの方も同じかそれ以上だ。たった二人を殺す為に、これだけの人数を差し向けてきたのだ。
男達からの攻撃は強かった。走り寄った一人がハクインと切り結ぶ。その間に横合いからも斬りかかられる。前を押し、横に飛んで攻撃をかわすと別の方向からも。誇りだとか、そんなものを一切感じないなりふり構わぬ攻撃だ。
そして確信する。やっぱりこんなのは騎士団じゃない。彼らはもっと強かった。彼らはもっと潔かった。よってたかってなぶり殺しにするような方法は取らなかった。
リオガンを盗み見れば、彼は流石の剣捌きで次々に切り倒していく。戦闘能力において追い抜かされてしまっている。
ハクインも気合を入れ、まずは一人を切り倒した。だがその間に薄く傷をもらう。目は追いついているが体が追いついてないのだ。
「くそ!」
二人、三人……十人も倒せば体中に薄い傷ができる。その全てが細かく痛み血を流す。肩で息をしてリオガンを見れば、彼も無事ではない。圧倒的不利な状況に運動量の多さが祟って疲れ始めている。
「こっちだ!」
「!」
増援を呼ぶ声に反応して、ハクインはどうにか逃げる事を考えた。そして懐から数個の玉を投げると、リオガンへと走り込んだ。
「リオガン!」
側へと来たときには玉から煙が辺りを覆うくらい立ちこめ、視界を奪っていく。それでもここは屋外、風に流されてしまう。だがこれが限界だ。閃光弾はリオガンにもダメージがいく。火薬は一般人を沢山巻き込む。
リオガンの腕を引き、煙で視界が悪くなる中を逃げようとした。リオガンも直ぐにそれを察した様に動き出そうとしてくれた。
だが、そうはいかなかった。
ハクインの前に数人の男が走り込み、剣を構えていた。それはきっと狙ったわけじゃない。そもそも近い位置で戦っていたんだ、闇雲に振り下ろし、突き込んだのかもしれない。
だが視界の悪くなった煙の中を鋭い光だけが走るように映り込んだ時には、逃げ切れる距離じゃなかった。
「ハクイン!」
「っ!」
死ぬんだと思った瞬間に、固まったように体が動かなくなる。けれど腕を掴んで引き倒す動きに体は後ろへと引っ張りこまれ、その勢いのまま投げ出されて尻餅をついた。
そして、真っ赤な血しぶきが顔や体を濡らした。
「あ……」
ハクインと向かい合うようにリオガンは立っていた。守るように、盾となって。
その体を数本の剣が突き抜けている。血が溢れ出し、口元から溢れるように滴った。
「あ……あぁ!」
「ハク、イン……」
「うわぁぁぁ!」
崩れる様に倒れてくるリオガンを受け止めて抱き込んだ。斬られ、刺された場所から血が溢れ出てくる。目を閉じたリオガンは浅く薄く息をしているけれど、まだ体は温かいけれど、それだって直ぐに消えてしまいそうだった。
「殺せ!」
声が上がる。ハクインはリオガンを守るように抱き込んだ。
憎い、悲しい、辛い。こんな所で、主を助け出す事も出来ずに死ぬんだ。チェルルの死も確かめられず、裏切られて死ぬんだ。思うとたまらず、胸の奥から黒い感情が溢れていくようだった。
でも同時に思う。もしかしたらこの先に、皆いるかもしれない。チェルルが、主が、お疲れ様と言ってくれるかもしれない。隣には、リオガンが……。
一人で死なせない。一緒にいるから。ごめん、頼りない兄貴分で。ごめん、いつも助けてもらうばかりで。ごめん、無理に付き合わせて。ごめん、ごめん、ごめん!
振り下ろされる剣の青白い光に目を瞑る。リオガンに覆い被さるようにしたハクイン。
だがその視界の端に、彼は見た。黒い影が二つ、走り込むようにこちらに向かってくるのを。
振り上げられた剣が下りる事はなかった。ハクインを庇うように前に立った二つの影が、難なく弾き返したからだ。
「まったく、なに諦めた顔してんのさ。お前は俺の恨み言を一生聞き続ける義務があるんだぞ!」
「あ……」
凜々しい背中に、白に近い銀の髪。守るように立ちはだかる背中越しに声がする。
知っている、この髪の色。北の地で沢山見た。祖国を奪われ支配に抗い、戻らない地と思い出を求めて……バカだって思って利用した人達。
「お前の元上官に感謝することだ。お前も、他の者も救おうと慣れない頭を下げ通しだ」
「あ……」
黒い制服に流れる長い金の髪が揺れる。つい最近、斬り合ったばかりの相手だ。彼が軍神の恋人だと明かしたのはハクインなのに。
「やるよ、ランバート」
「あぁ、ハリー」
ランバートとハリーの二人はハクインを背に庇ったまま敵へと切り込んで行く。まったく危なげない足取り、身のこなし。鮮やかに鋭く、そして大胆に。一度に二人、三人を相手に大立ち回りをする彼らはあっという間に敵を追い払った。
「大丈夫か!」
ハクインの背後から声がする。男性にしては少し高い声を知っている。建国祭の日、城の前庭で大切な人の名前を必死に叫んでいた声だ。
ハクインへと近づいたエリオットが、腕の中のリオガンを見て眉根を寄せた。ハクインの服は彼の血でべっとりと赤く、リオガンの息はとても小さくなっていた。
「あ……たす、け……」
涙が頬を伝って止まらなくなる。虫のいい話なのは分かっている。エリオットをターゲットにして、オスカルを弱らせる事をしたのはハクインだ。二人の関係を調べあげ、オスカルよりはエリオットの方が狙いやすいと言ったのはハクインだ。
恨まれて当然だ。助けてなんて言える相手じゃないのも本当だ。でも、震えながらハクインは呟く様に繰り返す。「助けて」と、リオガンだけはと。
「ランバート、手伝って!」
リオガンの体を包んだエリオットは躊躇いもしなかった。止血するように数カ所をきつく縛った彼はリオガンを抱き上げてベルーニへと走っていく。その後をランバートがついていく。砦から人が駆け寄り、倒れている奴らを拘束していく。
その中でハクインは動けないまま震えていた。「有り難う」と、繰り返して。
「ほら、なにしてんのさ」
「え?」
「あいつ、助けたいんだろ。お前じゃないと分かんない事もあるでしょうが」
腕を引き上げたハリーが強引にハクインを砦へと連れて行く。呆然と見上げる彼の表情は硬く、色んな感情を押し込んでいるようにも見えた。
「ごめ……」
「許さない」
「ごめん……」
「……生きて、一生俺に恨まれるんだね。それが、お前のした事だ」
言いながら、それでも手を離す事はない。救おうとしてくれている。それを感じるとこみ上げる感情のまま涙が止まらなくて、泣きながら必死に走るのだった。
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