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32章:シヴの誕生
おまけ1:十字架を手に
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補佐官任命の翌日、ランバートは朝からきっちりと起きて真新しい制服を着た。
今日は休みではあるが、昨夜のうちにファウストと手合わせの約束をしている。それなら制服の動きやすさなども確かめたくてきっちりと着込んだのだ。
渡された剣を一撫でする。昨夜試しに抜いてみたが、確かに昔に使っていた物と同じだった。刃は薄く切れ味が良い。そして鞘の方まで丁寧に作られている。
コンコン
軽いノックの音に振り向き、声をかける。入ってきたファウストは休みに多い細身のパンツにチュニックという姿で首を傾げる。
「休みだぞ」
「はい。ですが手合わせをお願いしていたので、制服の感じも掴みたくて」
「なるほど。では、先に行くか。修練の時間と重ならないほうがいい」
今日は安息日ではなく、休暇最終日。外の隊員は訓練や日常業務があるのだ。
互いに剣を持って修練場へと降りて行く。朝の冷たい空気が全身を包んで気を引き締めてくれる。考えると西の戦い以降、ファウストと手合わせはしていない。
軽い様子で剣を抜いたファウストは、やはり大きく強く見える。踏み込むのを躊躇うような圧迫感に足が鈍る。敵になるとこれに殺気が上乗せなのだから、敵は相当恐ろしい思いだろう。
「抜かないのか?」
剣を抜いたままのファウストは疑問そうにランバートを見ている。ランバートは今も剣を収めたままだ。
「俺はこのままで構いません。お願いします」
互いに礼をし、ランバートは姿勢を落とす。片足を引き、柄を握り鞘を軽く持っている。
「いつでもこい」
「分かりました」
空気が緊張している。これはランバートの緊張ばかりではない。ファウストもまた、始めて見る武器を警戒している。それを証拠に間合いが広い。
剣の柄をしばし確かめるように握る。風で制服の裾がはためいた、その瞬間だ。
ランバートは一足飛びに間合いを詰め、剣を一気に鞘走らせた。それは鋭く速くそして正確に。あまりに一瞬だったのか、ファウストは目を見開いたまま剣で攻撃を防ぐのみだった。
響いた高い音。ランバートは僅かに体ごと引いてファウストの剣の表面を刃が撫でるように振り抜いた。
弱い物ではないが、それでもファウストの剣は強い。剣の強度として差があるのだから、出来るだけ刃こぼれの原因などは避けたかった。
ランバートが引くのを見て前に出たファウストの斬撃を、ランバートはかわし続ける。制服も動きやすい。
強烈な一撃を受けた剣が鳴るが、危なげがない。
いける。ランバートは笑みを深めた。
ファウストの剣が踏み込んだ斬撃。それをかわしたランバートは突撃を繰り出す。だが予想通り斬撃からの横薙ぎの一撃で剣は弾かれた。これは想定内の事。止めるのではなく受け流したランバートは身を反転させて勢いよく鞘を剣と同じように首めがけて走らせる。
ファウストの驚いた顔が近い。それでもまだだ。体を後ろに引く事で避けるのは想定している。だから更にもう一撃だ。
ファウストの目の前に、ランバートの綺麗に上がったつま先がある。三段構えの攻撃に、流石のファウストも手を止める。マジマジとみる彼の瞳を見て、ランバートは満足に笑った。
「俺の勝ち?」
「参った」
「やった!」
苦笑したファウストに、ランバートは子供のようにはしゃぐ。声を上げて喜び、その後で形式通り礼をする。すると周囲からドッと声が溢れた。
「え? え!」
「凄いぞランバート!」
「やったな!」
いつから見ていたのか、修練前の隊員が声をかけてくる。その前でファウストも苦笑して、ポンと頭を一つ撫でた。
「戦い方が変わったな。活き活きとしていて、動きも良くなっている」
純粋な賛辞に笑みを浮かべたランバートは、ふと視界に影が出来たのを感じる。そうして次には唇を塞がれたのだから、目を丸くしてしまった。
「ひゅー!!」
「おぉぉ! これは!」
「畜生! 悔しいが似合う!」
周囲からの声が黄色い悲鳴になり、ランバートは白黒している。ただ一人、目の前の男はもの凄く満足な顔をしているが。
「さぁ、遅めの朝食を食べて出かけるぞ」
殴られる前にさっさと体を離し前を歩くファウストを、ランバートは遅れて赤くなりながら追いかけていく。
結局この人には敵わない。そんな悔しさを抱きながらも、口元には笑みを浮かべて。
今日は休みではあるが、昨夜のうちにファウストと手合わせの約束をしている。それなら制服の動きやすさなども確かめたくてきっちりと着込んだのだ。
渡された剣を一撫でする。昨夜試しに抜いてみたが、確かに昔に使っていた物と同じだった。刃は薄く切れ味が良い。そして鞘の方まで丁寧に作られている。
コンコン
軽いノックの音に振り向き、声をかける。入ってきたファウストは休みに多い細身のパンツにチュニックという姿で首を傾げる。
「休みだぞ」
「はい。ですが手合わせをお願いしていたので、制服の感じも掴みたくて」
「なるほど。では、先に行くか。修練の時間と重ならないほうがいい」
今日は安息日ではなく、休暇最終日。外の隊員は訓練や日常業務があるのだ。
互いに剣を持って修練場へと降りて行く。朝の冷たい空気が全身を包んで気を引き締めてくれる。考えると西の戦い以降、ファウストと手合わせはしていない。
軽い様子で剣を抜いたファウストは、やはり大きく強く見える。踏み込むのを躊躇うような圧迫感に足が鈍る。敵になるとこれに殺気が上乗せなのだから、敵は相当恐ろしい思いだろう。
「抜かないのか?」
剣を抜いたままのファウストは疑問そうにランバートを見ている。ランバートは今も剣を収めたままだ。
「俺はこのままで構いません。お願いします」
互いに礼をし、ランバートは姿勢を落とす。片足を引き、柄を握り鞘を軽く持っている。
「いつでもこい」
「分かりました」
空気が緊張している。これはランバートの緊張ばかりではない。ファウストもまた、始めて見る武器を警戒している。それを証拠に間合いが広い。
剣の柄をしばし確かめるように握る。風で制服の裾がはためいた、その瞬間だ。
ランバートは一足飛びに間合いを詰め、剣を一気に鞘走らせた。それは鋭く速くそして正確に。あまりに一瞬だったのか、ファウストは目を見開いたまま剣で攻撃を防ぐのみだった。
響いた高い音。ランバートは僅かに体ごと引いてファウストの剣の表面を刃が撫でるように振り抜いた。
弱い物ではないが、それでもファウストの剣は強い。剣の強度として差があるのだから、出来るだけ刃こぼれの原因などは避けたかった。
ランバートが引くのを見て前に出たファウストの斬撃を、ランバートはかわし続ける。制服も動きやすい。
強烈な一撃を受けた剣が鳴るが、危なげがない。
いける。ランバートは笑みを深めた。
ファウストの剣が踏み込んだ斬撃。それをかわしたランバートは突撃を繰り出す。だが予想通り斬撃からの横薙ぎの一撃で剣は弾かれた。これは想定内の事。止めるのではなく受け流したランバートは身を反転させて勢いよく鞘を剣と同じように首めがけて走らせる。
ファウストの驚いた顔が近い。それでもまだだ。体を後ろに引く事で避けるのは想定している。だから更にもう一撃だ。
ファウストの目の前に、ランバートの綺麗に上がったつま先がある。三段構えの攻撃に、流石のファウストも手を止める。マジマジとみる彼の瞳を見て、ランバートは満足に笑った。
「俺の勝ち?」
「参った」
「やった!」
苦笑したファウストに、ランバートは子供のようにはしゃぐ。声を上げて喜び、その後で形式通り礼をする。すると周囲からドッと声が溢れた。
「え? え!」
「凄いぞランバート!」
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「戦い方が変わったな。活き活きとしていて、動きも良くなっている」
純粋な賛辞に笑みを浮かべたランバートは、ふと視界に影が出来たのを感じる。そうして次には唇を塞がれたのだから、目を丸くしてしまった。
「ひゅー!!」
「おぉぉ! これは!」
「畜生! 悔しいが似合う!」
周囲からの声が黄色い悲鳴になり、ランバートは白黒している。ただ一人、目の前の男はもの凄く満足な顔をしているが。
「さぁ、遅めの朝食を食べて出かけるぞ」
殴られる前にさっさと体を離し前を歩くファウストを、ランバートは遅れて赤くなりながら追いかけていく。
結局この人には敵わない。そんな悔しさを抱きながらも、口元には笑みを浮かべて。
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