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10章:HappyBirthday!
5話:HappyBirthday
お昼を食べて少し過ごし、ランバートは宿舎に戻った。空は少し赤くなり始めた。
「本当にお邪魔してもいいんですか?」
道すがら、酒の席に誘われた。そう珍しい事もない、時々ある。ファウスト達は基本ラウンジに降りてこないから部屋飲みが普通だ。
「あぁ、構わない」
一緒に三階のファウストの部屋についていく。そうしてファウストが扉を開けると、ポンッという軽いシャンパンの祝砲が聞こえた。
「え?」
「ランバート、お誕生日おめでとう」
ニコニコと笑うオスカルを先頭に、シウスとエリオット、ラウルやクラウルまでもがいる。ファウストの部屋はすっかり飾られ、なんだかファンシーな感じになっていた。
「お前ら、流石にこれはやり過ぎだ」
眉間の皺を深くした人が室内を見回して唸っている。ということは、知っていて連れ出されたのか。謀られた。
「良いではないか、このくらい」
「ここで寝るのは俺だぞ」
「ちゃーんと撤収するから安心して」
入り口で呆然状態のランバートの手を、ラウルがグッと引く。愛らしいライトブラウンの瞳を輝かせ、屈託のない笑みを浮かべた。
「入ってよ、ランバート。ほら!」
「あぁ、うん」
気後れしてしまうが、引かれるままに入っていく。それにしても凄い。殺風景とまではいかないが物の少ないファウストの部屋は、今や愛らしい物だらけだ。フワフワのクッションは定番の四角以外にも丸にハートにと様々。掛けられたテーブルクロスはウサギさん。花もちょこんと。
「うわぁ……」
この空間でファウストは寝るのかと思うと、気の毒になる。見るとやっぱり怖い顔だ。
テーブルの上には様々な料理が並んでいる。そのどれもが愛らしいのはなぜだろう。ハートや星の形にくりぬかれた野菜のサラダ、丸い器に入ったスープも色合いが綺麗だ。カットされた果物には動物の形をしたピンが刺さっている。ケーキはショートケーキのようだが、ピンクや白や赤の飴細工のバラが散っていた。
「可愛いでしょ?」
「うん、とても」
可愛すぎて食べるの勿体ないというか……酷だな。
「ほら、座って! ファウストもいつまで渋面作ってるのさ。ちゃんと片付けるから安心してよ」
招かれるまま座り、隣にファウストが腰を下ろす。ローテーブルを囲んで座った面々の前に、開けたシャンパンが注がれた。
「では改めまして、ランバートお誕生日おめでとう! かんぱーい」
テンション高くオスカルが音頭を取って、全員がそれに応える。やっぱりムズムズする感じがする。嬉しいんだと、昨日一日で気づいた。
「どうぞ」
「有り難うございます」
皿に取り分けられた料理を運び、やっぱり星形の人参にくすりと笑う。食べてしまうのが勿体ない。
「ほぉ、随分表情が柔らかくなったな」
クラウルに指摘されて途端に顔が熱くなる。そっぽを向くとシウスにまで「初奴じゃ」とからかわれてしまった。
「ケーキもどうぞ」
「有り難うございます」
エリオットが先ほどから給仕係のようになっている。申し訳なく、ランバートも率先して料理を取るようにした。そうでもしないと次々皿に料理がのりそうな勢いだ。
「エリオット様も召し上がってください」
「え? あぁ、勿論」
そう言って真っ先に口をつけるのがケーキだ。この人も多分、オリヴァーと仲良くなれる部類の人だ。
幸せそうな顔をして食べているエリオットを見るオスカルの目が細く柔らかくなる。そういうこの人はケーキなど一切無視。あまり甘味は好まないと、エリオットから聞かされている。
「それにしても、本当に二十歳前とはの。驚くばかりじゃ」
「ランバートは大人っぽいですからね」
しげしげと見つめるシウスは「末恐ろしい」と呟く。これには苦笑するしかない。よく言われる言葉だ。
「そうでもないぞ」
隣で大人しく料理を運んでいたファウストと目が合う。ちょっと、ドキドキする。何かまずい事をいうのではないかと不安だが、浮かんだ鋭い笑みが正解だと物語った。
「拗ねたりいじけたり、案外子供っぽい部分もある。あと、悪戯に成功すると密かに得意そうに笑ったり」
「ちょっ、ファウスト様!」
「知ってるか? 嬉しい事があるとお前、隠していてもほんの少し口角が上がるんだ。笑うのをこらえるみたいにな」
「もう、恥ずかしいですよ!」
そんな顔をしていたなんて知らない。上手にやっていると思っていたのになんたる不覚。
恥ずかしくて真っ赤になって声を上げると、周囲からも大いに笑われた。
「可愛いねー、ランバート」
「オスカル様、俺はエリオット様から色々貴方のお話を伺っておりますよ」
「ちょっ、ランバート!」
「どんな話? 夜が素敵とか、案外優しいとか?」
「甘い物が苦手で、寒いのも苦手。寒いから外に出ないとだだを捏ねる事も多いとか」
「それだけ? 素敵な恋人が温めてくれるから平気だもんね。エリオットってさー」
「オスカル!」
ビシッと場が凍るような寒さがエリオットから吹き出すのに、ランバートもオスカルも口をつぐむ。この人は綺麗で穏やかでとても優しいが、同時に怒らせると恐ろしい。ファウストから、この人がイーノックにした事を聞かされた時には流石に寒気がした。
「じゃれるでない。オスカルも悪乗りがすぎようぞ。エリオットも、そう目くじらを立てるものではないぞ。恋人同士仲が良いのはいいが、独り身もおるのだから自重せよ」
「お前に言われても説得力がないな」
静かにいっているシウスだが、実はさっきからラウルを膝の上にのせて餌付けしている。ラウルのほうがいたたまれない顔で赤くなって俯いていた。
クラウルの指摘にもシウスは全く動じる様子がない。モジモジしているラウルを知らぬ顔で「愛い奴じゃ」と満足げだ。
「ごめんね、エリオット。つい自慢したくなって」
「もういいです。しばらく貴方とご一緒はしません」
「えぇ!」
「自業自得だ」
ファウストも無視状態でシャンパンを空けている。反射的におかわりを注ぐと、「気を使うな」と苦笑された。
「独り身も考え物か」
「クラウルは独身主義じゃないのにねー」
「俺に好かれたい奴なんているのか?」
「案外多いと思うよ。クラウル本当はとても優しくて面倒見がいいじゃん。顔が少し強面かもしれないけど」
いまいちピンときていない。そんな様子でクラウルは首を傾げて曖昧に笑った。
「さーて、美味しい料理はまだ残ってるけれど、ボチボチ渡す物を渡さないと」
半分くらいを食べ、ケーキが綺麗になくなったところでオスカルがおもむろにそう言って、脇にあった包みを出す。両手で持つくらいには大きく、少し重いものだった。
「僕とエリオットから。二人で選んでみたんだよ。開けてみてよ」
促されるまま包みを開けると、中から出てきたのは揃いのティーセットだった。白磁に金で繊細な染め付けをされたカップとソーサーは二組。同じデザインのポットと、ミルクポットもついている。当然、ティースプーンもだ。
「こんな高価なものを」
「ランバートはお茶を淹れるのが上手ですし、使ってもらえたらと思いまして」
「悩んだんだよ、たっくさん。ちゃんと使ってくれないと怒るからね」
嬉しそうに笑うエリオットと念押しするオスカルに笑い、素直に「有り難うございます」とランバートは返す。
「うむ、良い心がけじゃ。ではこれも、使ってくれ」
出された箱は大きくはない。手の平に乗る大きさで細長い。中から出てきたのは、ペンとインクのセットだ。ペンは黒に金で絵柄をつけたもので、綺麗な光沢がある。
「私とラウルからじゃ。最近ファウストの仕事を手伝っておるだろ? ペンくらい良い物を使ってもいい」
「有り難うございます」
さっそく胸ポケットに差してみると、身が引き締まるようだ。
「俺からはこれだ。色気はないが、実用的だ」
「有り難うございます」
受け取った物は少しずしりと重い。失礼して中を改めると、出てきたのは銀の細いナイフだった。
「得意だろ?」
「凄く実用的です。助かります」
多分、一番使う回数が多くなるだろう。苦笑して礼を言うと、クラウルは微妙な顔をしながら「使わないのが一番だが」と相反する事をいっていた。
「ファウストは何にしたの?」
隣の人を見ると、少し悩んだ顔をされる。散々よくしてもらっているのにこれ以上はと思うが、案外すんなり立ち上がって机の引き出しから何かを出してくるのを止める事はできない。戻ってきたとき、彼の手には小さな箱があった。
「ちゃんと使えよ」
ポンと手の平に置かれたそれを、そっと開けてみる。出てきたのは十字を模した剣のアクセサリー。中心についているのは小さめの真珠だ。
「ほぉ、剣帯のアクセサリーじゃの」
「剣帯のアクセサリー?」
遠乗りに出たままの格好だから、剣こそ持っていなくても帯はしたままだ。腰に剣を下げておくための皮のベルトをしているのだが、これはそれに着けるものらしい。
「これには魔除けの意味があるのだぞ」
「魔除け?」
「あぁ。十字は聖を現し、剣は断つ。聖なる剣で邪を切り裂く。悪意を断ち、魔を払う騎士に人気のモチーフじゃ」
「つけてみたら?」
と、いわれてもつけた事がない。剣帯を見てどこにつけるのかと見回していると、ファウストの手がアクセサリーを取っていくつか開いている穴の一つに端の金具をひっかけた。ぶら下がったそれは剣を抜くときにも邪魔にはならず、キラキラと光っている。
「お前は何かと良くないものに魅入られる傾向があるからな」
「好きで魅入られている訳ではないのですがね」
「だからこそのお守りだ。気休めだがな」
「それ、ファウストの戦用の剣についているのと同じ物ですよね?」
側で眺めていたエリオットが指摘するのに、ファウストの肩が震えた。それは間違いなく、肯定なのだろう。
「ほほぉ」
「へー」
悪い二人がニヤリと笑い、ジトリと好奇の瞳を向けたのは言うまでもない。
「いやだわぁ、自分とお揃いの物贈るんですって、シウスさん」
「素直じゃない男よの。本当に可愛げがない」
「もう、焦れったいよねー」
「お前ら!!」
赤くなったファウストが立ち上がるのに合わせて立ち上がった二人がわざとらしく逃げていく。こうなると団長の威厳などなく、昨日と同じようなものになっていく。
「あの、エリオット様」
「どうしました?」
「戦用の剣というのが、あるのですか?」
ふと気になって聞いてみる。ファウストが普段使っているのもそれなりに重い剣だ。身幅もある。だがそれとは別にあるのだろうか。
エリオットはのんびりと頷いた。
「普段の物より長いんです。ファウストが一番使いやすい大きさで、背負いの剣なんですよ」
「そんなにですか」
「あんなの宿舎や町で振り回されたらかなわぬでな。普段はもう少し大人しいのを使わせておる。間合いがずれると文句を言うがの」
「当たり前だ。自分の間合いに合う物を使わないといまいち感覚がずれるんだ」
「ファウストはそのくらいのハンデつけてやんなよ。ってか、戦場用のが化け物だからね!」
そうまで言う剣というのも見てみたい。純粋にそう思ってしまう。
腰の辺りで揺れるアクセサリーが、加減でキラキラ光っている。自然と頬が緩んで、手に取る。何よりも嬉しいプレゼントだ。そう思えて幸せで、ランバートはいつまでも微笑んでいた。
「本当にお邪魔してもいいんですか?」
道すがら、酒の席に誘われた。そう珍しい事もない、時々ある。ファウスト達は基本ラウンジに降りてこないから部屋飲みが普通だ。
「あぁ、構わない」
一緒に三階のファウストの部屋についていく。そうしてファウストが扉を開けると、ポンッという軽いシャンパンの祝砲が聞こえた。
「え?」
「ランバート、お誕生日おめでとう」
ニコニコと笑うオスカルを先頭に、シウスとエリオット、ラウルやクラウルまでもがいる。ファウストの部屋はすっかり飾られ、なんだかファンシーな感じになっていた。
「お前ら、流石にこれはやり過ぎだ」
眉間の皺を深くした人が室内を見回して唸っている。ということは、知っていて連れ出されたのか。謀られた。
「良いではないか、このくらい」
「ここで寝るのは俺だぞ」
「ちゃーんと撤収するから安心して」
入り口で呆然状態のランバートの手を、ラウルがグッと引く。愛らしいライトブラウンの瞳を輝かせ、屈託のない笑みを浮かべた。
「入ってよ、ランバート。ほら!」
「あぁ、うん」
気後れしてしまうが、引かれるままに入っていく。それにしても凄い。殺風景とまではいかないが物の少ないファウストの部屋は、今や愛らしい物だらけだ。フワフワのクッションは定番の四角以外にも丸にハートにと様々。掛けられたテーブルクロスはウサギさん。花もちょこんと。
「うわぁ……」
この空間でファウストは寝るのかと思うと、気の毒になる。見るとやっぱり怖い顔だ。
テーブルの上には様々な料理が並んでいる。そのどれもが愛らしいのはなぜだろう。ハートや星の形にくりぬかれた野菜のサラダ、丸い器に入ったスープも色合いが綺麗だ。カットされた果物には動物の形をしたピンが刺さっている。ケーキはショートケーキのようだが、ピンクや白や赤の飴細工のバラが散っていた。
「可愛いでしょ?」
「うん、とても」
可愛すぎて食べるの勿体ないというか……酷だな。
「ほら、座って! ファウストもいつまで渋面作ってるのさ。ちゃんと片付けるから安心してよ」
招かれるまま座り、隣にファウストが腰を下ろす。ローテーブルを囲んで座った面々の前に、開けたシャンパンが注がれた。
「では改めまして、ランバートお誕生日おめでとう! かんぱーい」
テンション高くオスカルが音頭を取って、全員がそれに応える。やっぱりムズムズする感じがする。嬉しいんだと、昨日一日で気づいた。
「どうぞ」
「有り難うございます」
皿に取り分けられた料理を運び、やっぱり星形の人参にくすりと笑う。食べてしまうのが勿体ない。
「ほぉ、随分表情が柔らかくなったな」
クラウルに指摘されて途端に顔が熱くなる。そっぽを向くとシウスにまで「初奴じゃ」とからかわれてしまった。
「ケーキもどうぞ」
「有り難うございます」
エリオットが先ほどから給仕係のようになっている。申し訳なく、ランバートも率先して料理を取るようにした。そうでもしないと次々皿に料理がのりそうな勢いだ。
「エリオット様も召し上がってください」
「え? あぁ、勿論」
そう言って真っ先に口をつけるのがケーキだ。この人も多分、オリヴァーと仲良くなれる部類の人だ。
幸せそうな顔をして食べているエリオットを見るオスカルの目が細く柔らかくなる。そういうこの人はケーキなど一切無視。あまり甘味は好まないと、エリオットから聞かされている。
「それにしても、本当に二十歳前とはの。驚くばかりじゃ」
「ランバートは大人っぽいですからね」
しげしげと見つめるシウスは「末恐ろしい」と呟く。これには苦笑するしかない。よく言われる言葉だ。
「そうでもないぞ」
隣で大人しく料理を運んでいたファウストと目が合う。ちょっと、ドキドキする。何かまずい事をいうのではないかと不安だが、浮かんだ鋭い笑みが正解だと物語った。
「拗ねたりいじけたり、案外子供っぽい部分もある。あと、悪戯に成功すると密かに得意そうに笑ったり」
「ちょっ、ファウスト様!」
「知ってるか? 嬉しい事があるとお前、隠していてもほんの少し口角が上がるんだ。笑うのをこらえるみたいにな」
「もう、恥ずかしいですよ!」
そんな顔をしていたなんて知らない。上手にやっていると思っていたのになんたる不覚。
恥ずかしくて真っ赤になって声を上げると、周囲からも大いに笑われた。
「可愛いねー、ランバート」
「オスカル様、俺はエリオット様から色々貴方のお話を伺っておりますよ」
「ちょっ、ランバート!」
「どんな話? 夜が素敵とか、案外優しいとか?」
「甘い物が苦手で、寒いのも苦手。寒いから外に出ないとだだを捏ねる事も多いとか」
「それだけ? 素敵な恋人が温めてくれるから平気だもんね。エリオットってさー」
「オスカル!」
ビシッと場が凍るような寒さがエリオットから吹き出すのに、ランバートもオスカルも口をつぐむ。この人は綺麗で穏やかでとても優しいが、同時に怒らせると恐ろしい。ファウストから、この人がイーノックにした事を聞かされた時には流石に寒気がした。
「じゃれるでない。オスカルも悪乗りがすぎようぞ。エリオットも、そう目くじらを立てるものではないぞ。恋人同士仲が良いのはいいが、独り身もおるのだから自重せよ」
「お前に言われても説得力がないな」
静かにいっているシウスだが、実はさっきからラウルを膝の上にのせて餌付けしている。ラウルのほうがいたたまれない顔で赤くなって俯いていた。
クラウルの指摘にもシウスは全く動じる様子がない。モジモジしているラウルを知らぬ顔で「愛い奴じゃ」と満足げだ。
「ごめんね、エリオット。つい自慢したくなって」
「もういいです。しばらく貴方とご一緒はしません」
「えぇ!」
「自業自得だ」
ファウストも無視状態でシャンパンを空けている。反射的におかわりを注ぐと、「気を使うな」と苦笑された。
「独り身も考え物か」
「クラウルは独身主義じゃないのにねー」
「俺に好かれたい奴なんているのか?」
「案外多いと思うよ。クラウル本当はとても優しくて面倒見がいいじゃん。顔が少し強面かもしれないけど」
いまいちピンときていない。そんな様子でクラウルは首を傾げて曖昧に笑った。
「さーて、美味しい料理はまだ残ってるけれど、ボチボチ渡す物を渡さないと」
半分くらいを食べ、ケーキが綺麗になくなったところでオスカルがおもむろにそう言って、脇にあった包みを出す。両手で持つくらいには大きく、少し重いものだった。
「僕とエリオットから。二人で選んでみたんだよ。開けてみてよ」
促されるまま包みを開けると、中から出てきたのは揃いのティーセットだった。白磁に金で繊細な染め付けをされたカップとソーサーは二組。同じデザインのポットと、ミルクポットもついている。当然、ティースプーンもだ。
「こんな高価なものを」
「ランバートはお茶を淹れるのが上手ですし、使ってもらえたらと思いまして」
「悩んだんだよ、たっくさん。ちゃんと使ってくれないと怒るからね」
嬉しそうに笑うエリオットと念押しするオスカルに笑い、素直に「有り難うございます」とランバートは返す。
「うむ、良い心がけじゃ。ではこれも、使ってくれ」
出された箱は大きくはない。手の平に乗る大きさで細長い。中から出てきたのは、ペンとインクのセットだ。ペンは黒に金で絵柄をつけたもので、綺麗な光沢がある。
「私とラウルからじゃ。最近ファウストの仕事を手伝っておるだろ? ペンくらい良い物を使ってもいい」
「有り難うございます」
さっそく胸ポケットに差してみると、身が引き締まるようだ。
「俺からはこれだ。色気はないが、実用的だ」
「有り難うございます」
受け取った物は少しずしりと重い。失礼して中を改めると、出てきたのは銀の細いナイフだった。
「得意だろ?」
「凄く実用的です。助かります」
多分、一番使う回数が多くなるだろう。苦笑して礼を言うと、クラウルは微妙な顔をしながら「使わないのが一番だが」と相反する事をいっていた。
「ファウストは何にしたの?」
隣の人を見ると、少し悩んだ顔をされる。散々よくしてもらっているのにこれ以上はと思うが、案外すんなり立ち上がって机の引き出しから何かを出してくるのを止める事はできない。戻ってきたとき、彼の手には小さな箱があった。
「ちゃんと使えよ」
ポンと手の平に置かれたそれを、そっと開けてみる。出てきたのは十字を模した剣のアクセサリー。中心についているのは小さめの真珠だ。
「ほぉ、剣帯のアクセサリーじゃの」
「剣帯のアクセサリー?」
遠乗りに出たままの格好だから、剣こそ持っていなくても帯はしたままだ。腰に剣を下げておくための皮のベルトをしているのだが、これはそれに着けるものらしい。
「これには魔除けの意味があるのだぞ」
「魔除け?」
「あぁ。十字は聖を現し、剣は断つ。聖なる剣で邪を切り裂く。悪意を断ち、魔を払う騎士に人気のモチーフじゃ」
「つけてみたら?」
と、いわれてもつけた事がない。剣帯を見てどこにつけるのかと見回していると、ファウストの手がアクセサリーを取っていくつか開いている穴の一つに端の金具をひっかけた。ぶら下がったそれは剣を抜くときにも邪魔にはならず、キラキラと光っている。
「お前は何かと良くないものに魅入られる傾向があるからな」
「好きで魅入られている訳ではないのですがね」
「だからこそのお守りだ。気休めだがな」
「それ、ファウストの戦用の剣についているのと同じ物ですよね?」
側で眺めていたエリオットが指摘するのに、ファウストの肩が震えた。それは間違いなく、肯定なのだろう。
「ほほぉ」
「へー」
悪い二人がニヤリと笑い、ジトリと好奇の瞳を向けたのは言うまでもない。
「いやだわぁ、自分とお揃いの物贈るんですって、シウスさん」
「素直じゃない男よの。本当に可愛げがない」
「もう、焦れったいよねー」
「お前ら!!」
赤くなったファウストが立ち上がるのに合わせて立ち上がった二人がわざとらしく逃げていく。こうなると団長の威厳などなく、昨日と同じようなものになっていく。
「あの、エリオット様」
「どうしました?」
「戦用の剣というのが、あるのですか?」
ふと気になって聞いてみる。ファウストが普段使っているのもそれなりに重い剣だ。身幅もある。だがそれとは別にあるのだろうか。
エリオットはのんびりと頷いた。
「普段の物より長いんです。ファウストが一番使いやすい大きさで、背負いの剣なんですよ」
「そんなにですか」
「あんなの宿舎や町で振り回されたらかなわぬでな。普段はもう少し大人しいのを使わせておる。間合いがずれると文句を言うがの」
「当たり前だ。自分の間合いに合う物を使わないといまいち感覚がずれるんだ」
「ファウストはそのくらいのハンデつけてやんなよ。ってか、戦場用のが化け物だからね!」
そうまで言う剣というのも見てみたい。純粋にそう思ってしまう。
腰の辺りで揺れるアクセサリーが、加減でキラキラ光っている。自然と頬が緩んで、手に取る。何よりも嬉しいプレゼントだ。そう思えて幸せで、ランバートはいつまでも微笑んでいた。
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