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【アフターストーリー】スキル安産 おかわり!

おまけ2 シーグルお兄ちゃんの幸せな苦悩

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 俺の母は特殊なスキルを持っている。その名も「安産」。子供ができず絶滅の危機にある種族のいるこの世界にあって、これほど魅力的なスキルは多分無い。
 心優しい母はこのスキルを最初「呪いだ!」と思っていたらしい。異世界人だった母にとっては、あまりに未知な分野だというのにそこが特化していたのは恐怖だったらしい。
 それでも今は「これで良かった」と言っている。愛情が一部過剰に溢れる父と出会い、大切に慈しんでいるからだろう。そんな両親は俺にとって未来の目標だ。
 でもそんな母は俺が産まれて違う悩みを持ったらしい。このスキルが父だけに使われる事に申し訳なさを感じているらしい。父は母に他の伴侶が出来る事を拒んでいるし、母も他の相手との間に子を設ける事を望んでいないからだ。だが竜人族に子が少ないのは今も同じ。心優しい母はそれを憂えている。
 そんな母の願いなのか、それともこの世界の神の思し召しか、本来ならあり得ない事が俺達兄弟には起こっている。スキル「安産」の継承だ。母ほどのレベルではないものの、俺にもこのスキルは継承された。そして他の弟妹にもレベルの差はあっても継承されている。
 母はこの事実を知ったときに「なんかごめん!」と半泣きになって謝っていたけれど、俺は謝られる覚えがないから疑問だった。だって、素敵な事だ。俺は将来の伴侶と幸せに生きられる。そしてその人との間に子を結ぶことができるのだから。

 それでも、今のこの状況はなんだろう?

「シーグル兄ちゃ~ん、抱っこぉ!」
「だめぇ! 兄ちゃんはアタシの!」
「兄ちゃん、一緒に木登りしよう」
「違う! 兄ちゃんは俺と一緒にかくれんぼするんだ!」
「違うもん! 兄様は私とおままごと!」
「うわぁぁぁん」
「ぴいぃぃぃぃ」

 なんたるカオスだ……。

 妹や弟が7人、何一つ要求が被らない。
 シーグルは頭が痛い気持ちだった。母と父が励んだ事と、母の特殊な高レベルスキルがこの状況を作っている。兄弟が一気に7人。そのお世話が俺の楽しみであり、苦悩だ。

「えっと……かくれんぼはお昼ご飯食べてからにしような。まずは……おままごとにしようか」

 とにかく要求が多いから、弟3を抱っこし、妹2をおんぶ。妹1とおままごとをしつつ、弟1&2が木登りをしているのを見守っている。俺は子育て真っ最中な父役をしているから、その間にまだ赤ん坊の妹3と弟4のおむつを取り替えて寝かせるようにトントンしている。母はこんな男性の事をなんて言ってたっけ……イクメン?

「あなた、子供にばかり構っていないで私の事も構ってくださいな」
「え? あぁ、ごめん」
「もう、困った人だわ」

 ……どこでそんなセリフを覚えたんだ妹1号。メイド達の間にいたから、そのどっかだな。

「兄ちゃん!」
「どうした? って、うわぁ!」
「おちたぁ!」

 弟1号と2号が泥だらけの擦り傷だらけでベソかいてる。俺が慌てて立ち上がると首に抱きついていた妹2号が泣くし、つられるように弟3号と赤ん坊達が泣き始める。もう、どうしろって言うんだこの状況!

「まった! 一つずつやるから待って!」

 まずは傷だらけの弟達を洗ってやらないと!
 庭先の蛇口に手をかざして水を出して、傷を洗ってやる。幸い全部軽いかすり傷だ。

「気を付けないとダメだろ」
「「うん」」

 グズグズと未だに泣いている弟達の頭を撫でながら、俺は微笑む。
 なんか、くすぐったい。困ってるけれど、全然困らない。嫌じゃない。
 他の妹も弟も可愛くて、大変で騒がしくて時々頭抱えたくなるけれど、全然嫌だとは思わない。おむつを替えるのも、遊ぶのも、一緒に寝るのも好きだ。

 と、思っているのもつかの間、俺は頭から冷たい水をひっかぶってびしょ濡れになった。見ると弟3号が蛇口の魔法石に触れている。年齢的にまだ魔力の調整など出来ない弟だ、なんとフルスロットルで水が出てる。

「うわあぁぁ!」
「ご、ごめんなしゃいぃぃ!」
「うわぁ! 泣かなくていいから!」

 水を止めて、とりあえず他の弟妹も水をひっかぶっててみんなずぶ濡れ。悪戯をして怒られると泣いている弟3号を宥めながら、俺は風呂に入るべく全員を風呂場へと案内した。
 風呂で暖まって、ついでに俺は弟と妹を一列に並べて髪を洗ってやる。妹たちの髪はフワフワしてて母に似てる。弟達は少し堅くて父に似ている。

「兄様くすぐったい」
「にいちゃん、頭洗って」
「順番な」

 言って洗って湯をかけてやる。さてやれやれと俺も体を洗おうとしていると、弟妹達が手にスポンジを持って待ち構えている。

「ん?」
「にいちゃん、洗ったげる!」
「私背中!」
「俺は髪やる!」
「おわぁ!」

 押し寄せるように囲まれて、体のあちこちを洗われる。その顔はどれも楽しそうで、嬉しそうだ。
 ほっこりする。そして、愛されてるなって思う。俺は嬉しくて、されるままに洗われている。
 湯をかけて泡を流し、一緒に湯船に浸かった。必ず妹なり弟なりが膝に乗っている。そして嬉しそうに拙い言葉で話をしてくれる。それが嬉しかったりしている。

「兄様、お歌歌って~」
「歌? そうだなぁ」

 ふと、母が歌ってくれる歌を思い出す。母の歌は異界の歌で、ちょっと変わっている。でも気持ちよさそうに歌うから覚えている。それを鼻歌で歌っていると、弟妹達も合わせて歌う。浴室はいつの間にか大合唱になった。
 タオルで拭き上げて服を着せて、お昼を食べたら鬼ごっこにかくれんぼ。広い庭は遊ぶには最適だ。そうして遊んで、そのうちに下の弟妹は眠そうにする。

「寝ようか?」
「うん」

 兄弟を連れて子供部屋に言って、お話を読んでいる内にみんな眠ってしまった。

「やれやれだな」

 思いながら、それでも楽しい。でも、うん、やっぱり。

◆◇◆

「う……んぅ、もう兄弟はいらないよぉ」

 子供部屋で下の弟と妹に抱きつかれながら眠っているシーグルが、そんな事を言う。毛布を掛けに来た俺とユーリスは、その寝言を聞いて目を丸くした。

「ん……んぅ。7人なんて面倒みられないよぉ」
「ちょ! どんだけ産んだの俺!」

 流石にまだ7人なんていない。びっくりして言ったら、斜め後ろでユーリスが笑っている。

「シーグルはすっかりいいお兄ちゃんだな」
「ほんと、しっかりしてるよ。弟や妹の面倒見て、勉強や剣の稽古でしょ? ちょっと子供にしては遊びがないっていうか、もっと我が儘言ってもいいのに」

 しっかり者に育ったシーグルは小さな頃は違うけれど、弟や妹が産まれてからはあまり我が儘を言わなくなった。物わかりがいいのは助かるかもしれないけれど、我慢をさせているみたいで申し訳なくも思える。もっと甘えてほしい、そうも思う。

「ねぇ、シーグルと旅行に行かない?」

 親子3人の時間なんて、なかなか取れない。ユーリスには仕事もあるし、俺も下の子の面倒を見たり、ほんの少しお妃仕事をしたりしている。
 ユーリスは少し考えて、優しい笑みで頷いた。

「ロアールもエヴァも大きくなった。父や母のいる城に預けて、一ヶ月くらい旅に出ようか」
「いいね!」

 シーグルと旅行なんて初めてだ。俺も年甲斐もなくはしゃいで了承した。

「んぅ……7人全員お膝には」
「それにしても、7人か……」

 意外な多さに俺は苦笑だ。だが背後のユーリスはまんざらでもない顔で、俺の首に腕を回す。

「そのくらいいても、俺はまったく困らないよ」

 あ、これは今夜のお誘いだ。薬は……旅行の後にしてもらおう。

 でも、俺もまんざらじゃない。7人なんて、俺のスキルだとあっという間なのも間違いない。体力もてばの話だけれど。

 シーグル10歳、とある春のお話。
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