特殊スキル「安産」で異世界を渡り歩く方法

凪瀬夜霧

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【アフターストーリー】スキル安産 おかわり!

【エッツェル留学日記】7話

 グランに告白された。しかも本気のやつ。

 寝ても覚めてもこればっかり。なのに忘れてってどういうこと? え、僕伴侶にとか言われたのに、それも忘れるの?
 やっぱり泣いたから誤解されたのかな? うれし涙だって言いそびれたから、拒絶とかに取ったのかな?
 それに、グランとても苦しそうだったし、困ってた。ううん、困惑してた? なんか、シーグル兄上が時々あんな顔をしてた気がする。

「エッツェル、どうした?」

 対面に座っているランス様が疑問そうにしている。僕はそれに、ぼんやりと答えた。

「グランに告白されたんだけれどさ」
「なに!」
「何か、ちっとも幸せそうじゃなくて悩んでる。僕が泣いたから誤解されたのかな」
「いや、ちょっと待て!」

 ランス様は僕の話を止めて、次に溜息をついた。困ったように額に手をあてて、一つずつ状況を確認していく。僕はそれに一つずつ答えて状況を説明した。

「……なるほど、それで焦ったのかあの馬鹿」
「僕、避けられているんじゃないかと思ったんだけど」
「誰にだ?」
「グランに」
「そんなわけがないだろ。あいつはお前に会って数日で、お前の事を好きになっていたぞ」
「えぇ!!」

 それはまったく聞いていない。ってか、気付かなかった。

「え? え! そんなの全然」
「くっつきたがっていただろ」
「だって、あんなの母上や姉上はわりといつもで、ロアール兄上も」
「お前……。家族がするのは親愛だろうが、他人がすると意味が違うだろ」

 考えた事なかった。あのくらいの距離はわりといつもの事で、人懐っこい性格なんだくらいしか考えてなかった。好きだって、そういう遠回しな接し方なんて、そんな。

 途端に、カァァと体が熱くなった。触れた手とか、背中に負ぶさるようにして話したのとか、一緒に抱きしめられて寝たのとか。

「お前は本当に、恋心というものに疎い」
「仕方ないじゃん、拗らせてたんだから」
「猪突猛進でそれしか見えなかったとしても、少しは気付いてやれ」

 難しいよ、直接言葉にしてくれないと。それに、僕は自分が好かれるなんて思わないんだから。僕だけを愛してくれる人なんているのかって、思っているんだから。

「自分への自信のなさから、余計に分からなくなったか」
「……うん。でもそれなら、どうして忘れてなの? 僕、避けられてなかった? 二人になると距離があったり、人前だと逆にベタベタしてみたり」
「人前での行いは牽制だな。まぁ、子供っぽい独占欲とも言える。二人の時に素っ気なかったのは、私達があいつに待てをかけていたから距離を取ったんだろう。近くなると我慢が出来なくなるからな」
「何それ!」

 そんなの知らない! っていうか、どうしてランス様がグランに待てをかけたの?

 ランス様は溜息をついている。そして、難しい顔をして話してくれた。

「あれに待てをかけたのは、変化が急激だったからだ。これまでまったく他人と関わってこなかった者が突然『好きになった』などと言えば驚くだろう」
「そんな感じしないけれど。グランは誰にでも穏やかっていうか、柔和? 他人と関わってこなかったなんて」
「……あれの出生に深く関わっているんだよ」

 ランス様はそう言うと、重く溜息をついた。

「あれは罪を背負って生まれてきた子だ」
「罪って」
「母殺しだ」
「え?」

 グランの母上はシキ様だ。そのシキ様は生きている。死んでないのに。
 ランス様は困った顔をして、丁寧に僕に説明してくれた。

「グランの父親、アルファードは天の神より呪いを受けてな。そのせいで子供を作らないどころか、長年恋人も作らなかった」
「呪いって?」
「あれの子供を産んだ母体は、子が生まれると同時に死ぬ呪いだ」
「な!!」

 何それ! そんな……だって、それはアルファード様だって苦しすぎる。そんな残酷な呪いをどうして天の神様はかけたんだ。

「天の神とアルファードは兄弟だ。アルファードは地の神。この世界はこの二柱によって作られた」
「そんな凄い人だなんて知らなかった」

 お会いしたけれどそんな凄い感じは……いや、雰囲気ある人だったけれど、僕もそれどころじゃなかったし。

「でも、シキ様生きてるじゃん」
「正確にはグランを産んだ事で死に、天の神が生き返らせた。兄弟喧嘩の間を取り持ったのがシキだ」
「シキ様って、何者」

 あのただならない迫力はそういう所からきているんだろうか。

 何にしても複雑な家庭環境や、出生がグランにはあったのは分かった。知って良かったのかは分からないけれど。

「グランが産まれてから、シキが生き返るまでに四年程あった。その間、アルファードはグランを大事にはしたが、気持ちは複雑だった。子は愛しいが、同時に愛した者と引き換えだ。どう接していいか、あれも分からない事があった」
「……だよね」
「更に城の者はこぞってグランを白い目で見た。アルファードも多少荒れたし、その責任がグランだと言ってな。そうした感情は幼子の方が感じ取る。いつしかあれは、話さなくなった」

 嫌だ、この話聞きたくない。どうしてグランがそんな扱いを受けなきゃいけなかったの。どうして、グランは何も悪くないじゃん。
 気付いたらまた泣いていた。ランス様が苦笑して、僕にハンカチをくれる。僕はそれで涙を拭きながら、睨み付けるようにランス様を見た。

「皆が悪いじゃん!」
「あぁ、そうさ。シキが戻ってきてあからさまにそのような態度を取る者はなくなった。アルファードも反省したし、シキは愛情持って育てた。だがどうしても城にいられなくて、十年以上を私の屋敷で過ごした。ここの者と接するようになって、ようやく人と話せるようになったんだよ」

 今のグランからは想像ができない。だって、普通に話してくれて、笑っていて、ちょっと可愛い部分とかもあって、僕の事気遣ってくれていたと思う。それにあの時は気づけなかったけれど、今思い出すとグランは優しくしてくれていた。

「僕には、普通にしていた」
「人前で話せないのは皆を困らせる。あれなりに長年かけて身につけたものだ。相手に合わせてそれとなく話をする。客人の情報があればそれを読み込み、シミュレーションもして。お前の場合はそういうことだ」
「そんな」

 とても自然だったと思うのに、グランはとても大変だったなんて。

「まぁ、それもあっという間に崩れたようだがな。お前はあれが接してきた者とはまったく違う。お前と知り合って数日で、グランが困ったように私に『エッツェルが気になる』としょぼくれて言ってきたのには笑った」

 楽しそうに笑うランス様は少し意地悪な顔をしている。でも、次にはちょっと困った顔をしていた。

「誰かに触れる事を初めは嫌った子だ、今もそれほど得意じゃない。ポーズはしても、本気ではない。それがお前と知り合って少しでこれだ。変化が急激でな」
「それで、待った?」
「ゆっくりと育んでいくなら止めはしなかったんだが。お前が行方をくらませた事があっただろ?」
「うん」
「あの後、グランが思い詰めて私の所に来た。『エッツェルの事が好きだ』と。だがその内容があんまりでな。流石に止めた」
「何?」
「エッツェルに触れた者皆を殺してやりたい。一年の留学が終わった後も返したくない。他の誰かがエッツェルを見るのが不快だ。誰の目にも触れさせず、エッツェルが触れる事もなく、側に置きたい」

 ……え、僕監禁される? ってか、グラン!!

 僕は呆然とした。だってこんなの、いいですよなんて言えないよ。うん、ランス様止めるの正解。こんな事されたら僕……あれ?
 意外と嫌じゃない。凄く病的な感じなのに、自由を奪われているのに、世界がグランで埋まっていく。激しく求められて、愛される事を考えると不思議と悪いと思えない。

 いや、駄目だよ! 僕しっかりしないと駄目だ! 流されるな!

「グラン自身、こんな自分がおかしい事に気付いて戸惑っていた。だからこそどうしていいか分からないと相談に来たんだ。それでシキに相談して、あいつに条件を出した」
「条件?」
「王太子としての責務をしっかり果たすこと」
「してるじゃん」
「不特定多数の前に出て話す事ができない」

 僕は驚いて、でも経緯を聞いたら納得もした。小さな時の傷は、誤魔化しただけで今も痛むんだ。

「王太子は次の王だ。多くの人の前に出て、言葉にする必要がある。グランはそれができない。知らぬ者達の注目を浴びると言葉が出ずに震えてしまう。それを克服し、お前の両親に挨拶が出来なければその想いは捨てろと言われている」
「もしかして、今もいないのは」
「王太子の仕事と、トラウマの克服の為に頑張っている」

 僕の為に、頑張っている。僕の事を、そこまで好きになってくれている?

 嬉しい。どうしよう、今どうしても会いたくなった。グランの顔を見たい。そして、ちゃんと言いたい。
 キスをされて、とても気持ち良くて嬉しかった事。好きだって言ってくれて嬉しかった。スキンシップ、気づけなくてごめん。気持ちに気づけなくてごめん。

 ランス様は僕を見て、困った顔で笑った。僕はボロボロに泣きながら笑っていた。

「幸せか? 少々重たいぞ」
「うん、嬉しい。僕、グランの特別になれる?」
「あぁ、なれるよ。お前だけだろうな」

 胸の内が凄く熱くなる。わき上がるように嬉しい。誰かの特別になりたかった僕は、たった一人にようやく巡り会った気がした。
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