恋愛騎士物語アフター!

凪瀬夜霧

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【リー×ユーイン】ユーインの初恋

1話:デートのお誘い

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 新年二日目、ユーインは少しドキドキしながら待ち合わせ場所にきていた。それというのもリーから、ランチのお誘いがあったのだ。

 年末の女装大会で仲直りがしたい旨は伝えた。その際リーはランチに誘ってくれると言っていたのだが、昨日早速誘われたのだ。
 凄く展開が早くて心の準備ができていない。格好は可笑しくないか、なんだか不安になってくる。細身のズボンに白シャツ、それにキャラメル色のカーディガンを着て、上に薄手のグレーのコートを着ている。寒いのは苦手だ。でもこれも変ではないだろうか。コリーは大丈夫と言ってくれたけれど。
 不安いっぱいになって心臓がずっとドキドキしていて目が回りそう。そんなユーインの横合いから、わりと近い距離で声が掛かった。

「お待たせ、ユーイン」
「ひゃい!」

 思わず高い変な声が出て飛び上がってしまう。それだけでも恥ずかしくて顔を上げられないのに、その人はとてもかっこよかった。

 黒の細身のズボンに、白いVネックのシャツが逞しい体にとても似合っている。それに黒いロングコートを着たリーはシンプルなのにとてもオシャレに見える。
 こんなに素敵な人の隣に自分が立っていいのだろうか。そう思うとユーインの顔は自然と下を向いてしまう。嫌いな癖の一つだ。

「どうした?」
「あの、リーさんがその、かっこよくて」
「ん? ははっ、照れるな。ユーインも可愛いと思うぞ」
「かわ、いい?」

 おずおずと顔を上げる先で、リーはにっこりとお日様のように笑って頷いた。

「可愛いと思う。ユーインは派手な色味よりも柔らかい色が似合うと思う」
「ほん、とう?」
「あぁ」

 良かった。素直にそんな言葉が出てくる。
 リーの手がゆっくりと伸びて、俯いている顔を上げさせた。そしてとても優しい目でユーインを見つめた。

「メシの前に、ちょっと店に寄らないか?」
「え? あっ、はい」

 何処に行くのか分からないまま、リーの大きな手がユーインの手を包み込む。冷たかった手がゆっくりと、彼の温もりで温まっていった。


 リーが連れてきたのは、とても成人男性二人が入るにはハードルの高い雑貨屋だった。入る前から足が止まる。固まるユーインの手を引いたまま、リーは女の子の多いその店に入っていった。

「り……リーさん」
「ん? どうした?」
「あの、こにょ、このお店に何が」

 さっきから視線が痛い。凄く見られている感じがある。リーは背もあるから凄く目立つ。
 きっと、男二人で何しに来たんだとか思われている。そんな事で顔を上げられずギュッと目を瞑るユーインの頬にそっと、温かな手が触れた。

「すぐ終わるから、顔を上げていてくれ」

 凄く優しくて、ゾクゾクする声だった。低くて、いつもみたいに大きな声じゃなくて、囁くように甘くて。
 大きくて節のある手がそっと前髪に触れる。長くて顔を隠すみたいな髪を横に流したまま、そこに冷たい物が差し込まれた。

「うん、これがいいな」
「え?」
「鏡、見てみろよ」

 促され、小さな鏡を目の前に持ってこられる。そこに映るユーインは女の子みたいだった。
 元々肌の色が白く、髪色と合わせて寒々しい印象があった。他人からの視線も怖くて前髪を伸ばして遮って、俯いていたそこにオレンジ色のクロスしたピンが差し込まれている。左側の視界が開けて、表情が見えている。大きな青い目が戸惑いに揺れながら此方を見ている。

「似合うと思う。どうだ?」
「似、合います、か?」
「あぁ、可愛い」
「かわ!」

 心臓がドキドキする。肩にさりげなく置かれた手とか、熱とか、声とか。過剰反応に近い感覚に目の前が真っ白になりそうだ。

「ユーイン、いつも顔を隠すだろ? あれ、勿体ないと思っていたんだ」
「でも、僕なんて、べ、別に誰も見、てな……」
「俺が見てるよ」

 優しく言われて、優しい眼差しを向けられて、どうしようも無く苦しくなる。この人が好きだと自覚しているから余計に、この優しさが嬉しくて痛い。

「今日だけでも、こうしていてくれないか? 食事の時もこっちのが邪魔にならないだろ?」
「ひっ、ひゃい」

 絞り出すような返事はもの凄く震えていた。体は当然震えていた。そして心は完全ノックダウン状態だった。


 ピンはリーがプレゼントしてくれた。いつもよりも明るく明快な視界で見る王都はキラキラしている。新雪が積もる道を手を繋いで歩いている。……手?

「ふにゃん!」
「どうした!」
「手! 僕手繋いでる!」

 いつからだろう? えっ、いつ? 記憶にない。
 焦ってリーを見たら、彼は濃紺の目を驚きに丸くして、その後で楽しそうに笑った。

「おかしな奴だな。手ぐらい平気だろ?」
「平気で、すか? あの恋、人じゃなくても?」
「いいんじゃないか? 仲良しってことだろ?」
「仲、良しぃ……」

 頭の上からプスンプスンと音がしそう。仲良し……嬉しい。
 自然と顔が熱くなってしまう。開けた視界は顔を隠したくても隠れない。俯いても、繋いでいる手の熱さでばれてしまいそう。
 リーはとても優しく笑う。いつもの明朗快活で逞しく、声の大きな彼ではない。労るように柔らかく、声も落としてくれている。

「メシ」
「え?」
「何が食べたい?」
「あ……」

 そう、今日は仲直りのランチに来たんだ。
 でも、もう仲直りはできていると思う。恥ずかしいけれど繋いだままの手が、そう言っている気がするんだ。


 ランチは看板に誘われて洋食屋さんにした。
 美味しそうなオムライス(デミグラスソース掛け)に、小さなサラダとスープのセット。これだけでもユーインはお腹がいっぱいで食べきれるか心配になる。
 けれどリーはやっぱり沢山食べる。骨付きラム肉の香草焼きにサラダ、スープ。そして大盛りのガーリックライスだ。

 そういえば、リーは米が好きみたいだった。帝国ではパン食が多く、パスタも多い。勿論米も食べるが、頻度としてはそれほど多くない。

「リー、さんは」
「ん?」
「あの、お米、好きなのかな、って」

 遠慮がちな問いかけに、リーは食べる手を止めてマジマジと皿の米を見る。そして嬉しそうに頷いた。

「おう、米は好きだ」
「羊、も?」
「あぁ」

 とても綺麗なテーブルマナーで食べ進めるリーは、なんだかイメージとずれる。もっと豪快に食べそうなのにそうではない。ナイフの運びは勿論、食べ方も品がいい。むしろユーインの方がスプーンが食器に当ったりして少し恥ずかしくなる。ごく普通だと思うけれど。

「俺の生れた場所では、米食が多かったんだ」
「え?」

 とてもゆっくり、どこか懐かしそうな声と表情で話すリーを見ている。豪快でワイルドな人は今、静かな笑みを浮かべている。

「肉も食べるが、魚が多かったかな。牛や豚よりも、鶏や羊だ」
「そう、なんですか?」
「ユーインは?」

 問いかけられて、ユーインはほんの少し笑った。

「僕、は、羊のお肉はよく、食べました」
「同じだな」
「はい。北の方、で、羊を飼っていたんです。毛刈り、を、して、綺麗、に洗って、それを糸にしていました」

 領地貴族の中でも小さな家で、代々羊番をしていた。男は羊飼いをして、女は糸を紡いだ。そういう事を取り纏めて領主の補佐をする家柄だった。本来は貴族と呼ぶのもおこがましい男爵家だが、カールが押し進める一般人の騎士登用政策の為に門扉が広がり、ユーインのような家柄でも滑り込む事ができた。

「大事な仕事だな」
「はい。でも僕、は下手くそで、小さくて羊、も言うことをきかな、くて。役立たずだなって、思って」

 自然と表情が沈んだ。
 家族はいい人達だった。厳しくも大きな父に、ハキハキとした母に、優しい祖母。二人の兄は逞しい羊飼いで、妹は可愛くて器用で。その中でユーインだけが臆病で小さく、あまり器用でもなかった。

「家族、は皆いい人で、家にいていいって、言ってくれました。でも、厳しいのも知って、いた、ので……」
「騎士団にきたのか?」
「はい」

 この決断をした時、母は初めて泣いた。父は辛そうな顔をした。
 でも、ここにいてもやれる事がないと分かったときに虚しくなったのだ。気を遣われて、気を遣って過ごすのは辛く思えた。
 そんな時に心を過ぎったのが騎士だったのだ。憧れた物語の中。ほんの一瞬でもいい、そこに身を置けたなら。

 リーは少し複雑そうだった。でも、ユーインの決断を笑ったり、憐れんだりはしなかった。

「どんな事情でも、俺はユーインに会えて良かったと思ってるぞ」
「え?」
「ユーインの中にはちゃんとした正義がある。気は弱くても、正しくあろうとする心がある。俺は、そういうユーインが好きだ」
「!」

 「好き」という言葉に心臓が跳ね上がる。そして何よりも嬉しい。見ていてくれること、分かってくれること。弱いユーインだけれど、何かを成せたなんて思えないけれど、それでも誰かが見ていてくれる事が嬉しかった。
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