恋愛騎士物語アフター!

凪瀬夜霧

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クシュナート王の帝国訪問

未来へ繋ぐ

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 翌日の午前は騎士団の視察ということで宿舎にジョルジュを伴って向かった。こちらの訓練を国に戻ってから活かせないかと思っての事だった。
 が、それはなかなか難しい事が判明した。

「まったく、これだけ人数が居て俺に一太刀入れる事もできないのか?」

 複数の隊員対ファウストという無茶苦茶な内容なのに、圧倒的不利なはずのファウストがピンピンしていて他の隊員がボロボロだ。体力のたの字も削れていない。

「はは……相変わらず化け物かあいつ」
「うむ、まさか味方にすらこのこれだけやるとは……くわばらくわばら」

 完全な死角っぽい方向からの攻撃すら弾いたぞ、こいつ。あと、一八〇を超える長身で動きが速すぎるのだが。
 帝国騎士団の練度が高い理由はこれだ。日々の訓練が既に命がけだ。

 そんな中、今日は城の外に出ないからと外したゼロスとボリス、そして同じ同期だというコンラッドの三人が前に出てグッと構えた。

「よし、やるかお前達」
「胸を借ります、ファウスト様」
「あぁ、こい」

 訓練用の木刀をしっかりと握ったファウストに三人が構えて正面からぶつかった。
 ゼロスは嫁と言うには体格がよくやはり力も強い。ファウストの打ち込みにしっかり耐えた。そこを横合いからコンラッドが攻めている。なかなか連隊の取れた動きに今日初めてまともな模擬戦を見た気がして期待してしまう。
 が、これにボリスはゆっくりとフェードアウトしている気がする。積極的な攻撃はあまりなく、なんなら存在を消して動いている。
 何かあるのか? そう思って注視しているとゼロスがボリスへアイコンタクトを送っている事に気づいた。その度にボリスはファウストから距離を置いている。
 重い攻撃を繰り返し、なんなら他の隊員よりも深く切り込んでくるファウストの攻撃を耐え抜くゼロスは疲れ始めている。だがその時には完全に、ボリスはファウストの視界から消えていた。
 そして、とうとうゼロスの剣が弾かれ押しに負けて倒れた時だった。パッと視界から現れたボリスはファウストの後頭部に向けて何かを弾く。

「?」

 それはその辺に落ちていた小石だ。指で弾いて飛ばせる程度の大きさのもので、こんなものでダメージなど与えられない。が、ファウストとしては集中を乱されるのだろう。酷く不快そうだ。
 そうなると狙いがボリスへと移るが、足が速く身が軽く動きに緩急があるせいかファウストもやりづらい感じがある。恐らくファウストは加減をしている。剣も心なしか短い。何より普段よりも軽い木刀だ。それとなくハンデを負っているのだろう。
 が、それでも剣はボリスに迫る。その鋭い切っ先がボリスを突き倒そうと狙う。が、ボリスはこれだけの闘気を前に逃げるどころか笑った。

 その顔を見た瞬間、アルヌールはゾクリと背に冷たいモノを感じた。
 以前、クシュナートで起こった事件の時もボリスは同じように笑った。目を大きく開き、口元は楽しげにニタリと。
 加虐癖ばかりではない。こいつはスリルを楽しむ。例えその対価が己の命であっても、きっと構わないんだろう。そういう狂気がこの男の中にはあるに違いない。

 ボリスは引くどころか加速した。思い切り突き入れたファウストの突きが肩を掠めた。が、構う事なくボリスは懐に入るとそのまま脇へと抜ける。それを視線で追うファウストの動きも当然そちらに流れる。
 が、この時既に温存していたコンラッドがファウストの視界から素早く近づいていた。
 そしてゼロスは更に先、コンラッドが失敗した時にファウストに一撃入れられる位置と距離に陣取っていた。
 ファウストもそれに気づいている。が、最も近い距離でボリスが剣を抜こうとすればそちらを無視はできない。目の前のボリスを掴み投げた所でコンラッドの一撃がファウスト脇腹へと当たった。

「よし!」
「ははっ、頑張ればどうにかなるもんだな」
「もぉ、俺の犠牲をねぎらって!」
「「ボリス最高だ!」」

 大きな目標に手が届いたのか、三人はとても嬉しそうに声を上げ、立ち上がったボリスを含めて肩を組み合って喜んでいる。それをファウストは苦笑しならが見ているが、その顔はとても嬉しそうに見えた。

「ボリスは強いですよ」
「あぁ、実感した。あれは強いな」
「貴国へ渡ったら、きっと兵の熟練度も上がるでしょう。まぁ、このような訓練を強いるとは思いますが」
「はは……」

 静かな様子で言うランバートも嬉しそうだ。
 そうか、こいつらは同じ時代、同じ困難をくぐり抜けてきた仲間なんだな。仲間の喜びはこいつの喜び。もう、そういうものなんだ。

「悪いな、ランバート」
「何がですか?」
「ボリス、もらっていっちまうからよ」

 なんだか申し訳なくなって言えば、ランバートはキョトッとした後で笑った。

「平気です。大事な部分ではちゃんと繋がっていると確信がありますから」
「……そっか」

 羨ましくも美しい友情はある。もう、そういう所に彼らはいるんだろうな。

◇◆◇

 軽く昼食後は奥院にある庭にカーライル親子と一緒にいるが、優雅なティータイムではない。アルヌールはずっとイライアスと一緒に遊んでいる。
 まだ二歳そこそこということで俊敏ではないが、それでも結構な運動量だ。これを毎日デイジーと乳母が相手しているのでは辛いだろう。

「イル、いつも母ちゃんとこんなに遊ぶのか?」

 アルヌールの手を引いて庭を案内している小さな子に問うと、イライアス少年はキョトッとした後で首を横に振った。

「少しだけ。母様、疲れちゃうの」
「だよな」

 子供の体力はある方向性に対して無尽蔵ではないかと疑う。大人しいリシャールですら夢中になって遊ぶとなかなかしぶとい。

「だからね」
「ん?」
「ルーが遊んでくれる」
「ルー?」

 はて、誰か? 思って首を傾げるとイライアスが指を差す。ランバートの隣で折り目正しくデイジーの側につき、完璧な所作でお茶を淹れ、周囲を警戒している金髪の男。近衛府副長ルイーズだった。

「…………」

 そりゃ、体力お化けができあがるよな!

 近衛府は騎兵府ほど厳しい訓練はしていない。が、それでも現役の騎士団員なのだ。体力や身のこなしについて子供の相手はおてのもの。

「まて~ってするの、面白いの」
「そうか……」

 追いかけっこか。そりゃ大変だな。
 でもまぁ、何にしてもこの子は沢山の愛情を色んな人から得て真っ直ぐに育っている。両親は勿論、側付の乳母や護衛のルイーズ、きっと他にも。
 くしゃりと頭を撫でると、イライアスは首を傾げながらも嬉しそうに笑う。その子を抱き上げ高く上げてやると、キャッキャとはしゃいだ声を上げた。

「アルヌール様!」
「イル、そのまま真っ直ぐ育てよ。そしていつか、俺の国にも遊びに来い。もっと広い世界がお前の前にはあるんだ。クシュナート、ジェームダルなんて国の境を超えて、お前の足で見たいものを見に行くんだぞ」

 そうして多くのモノを目にしてくれ。いい事だけじゃない、きっと見たくない世界もある。だが目をそらすな。見て、感じて、考えてくれ。その向こうにより良い世界があるんだと、信じて歩いていってくれ。
 願わくば、他の王子達も巻き込んで。
 まだ分からないという顔のイライアスと、少し離れて聞いていたカーライルとデイジーが真っ直ぐに笑って頷いて、ルイーズとランバートは苦笑しながらも頷く。

 帝国の未来は明るい。きっと次の世代も。ならば国に戻ってやることは、もっと王として頑張る事。人を育てていくこと。
 何よりも我が子リシャールを育てていこう。次の王とするために。

◇◆◇

 その日の夜はこぢんまりとしたパーティーが開かれ、縁のある帝国の貴族や政務官が挨拶をしていった。
 大きなパーティーは肩が凝ると言ったアルヌールの気持ちを汲んでくれたのだろう。

 そんな中で早速声をかけてきたのがリッツだった。

「アルヌール陛下、お久しぶりにございます」
「おぉ、リッツか。久しぶりだな」

 リッツ・ベルギウスは帝国四大公爵家の一つ、ベルギウス家の次男。独立したての頃に国に買い付けにきた。
 クシュナートは羊を多く飼っている。気候的に相性も良く毛は暖かな衣服の他、上等な敷物にもなる。更には肉にもなるのだ。
 冬の長いクシュナートでは羊の毛を刈って毛糸を作り、それをニット製品にして他国へ輸出している。他にも敷物織りに定評があり、これも冬の産業の一つなのだ。
 リッツはそこに目を付けて買い付けにくる。できるだけ自分の目で見て買っていく大商人というのは珍しいもので、何度か会って昼食を共にしていた。

「ご挨拶等、遅れて申し訳ありません。駆け出しの頃に目を掛けて頂いたというのに」
「気にするな、家の事業を体の不自由な兄と共に行っているのだろ? その報告はお前自ら丁寧にしていっただろう」
「商売の基本は誠実であると思っております」
「いい心がけだ」

 この若い商人を懐に入れたのはこの心構えだからだ。なかなかあるものではない。金もお受けも大事だが、こいつは人を大事にしてくれる。買い叩いたなんて話は聞いた事がないくらいだ。

「今度とも頼むぞ、リッツ」
「こちらこそ、よいご縁を大切に励んで参ります」

 そう言って握手をした腕に琥珀の腕輪が見える。
 そういえばこいつとも一度遊んだ事がある。城に招いて夕食の後、妙に色っぽいから声をかけたら二つ返事だった。なかなか好みの体をしていたな。
 だが、こんな物を着けているということは誰かいい人ができたのだろうな。

「ところで、貴殿は良い相手が出来たのかな?」
「え!」

 目を丸くした後で琥珀の腕輪を見てパッと隠す。その後は赤くなって口をパクパクとは、なんとも可愛いものだ。
 ニッカと笑ったアルヌールは耳元でそっと囁いた。

「秘密は墓まで持っていくから安心しろ。幸せにしろよ。あっ、捨てられたらまた相手するが」
「あの、それは……もう、大丈夫です」

 言いながら湯気を上げそうなリッツを見て大いに笑って、アルヌールはその背中を叩いた。

「……うちの親友にも手を出しておりましたか」
「ん?」

 リッツが去った後、ランバートが溜息をついている。パーティーの護衛もしてくれているが、なかなか有能だ。それとなく飲み物を取ってくれたり、動きやすい場所に誘導してくれたり。
 だが、親友とは?

「お前はリッツと親友なのか?」
「えぇ、幼少の頃より」
「まぁ、おかしくはないか。ヒッテルスバッハもベルギウスも公爵家だしな」
「はい、そのようなご縁で。ところで」

 ジトリとした目を向けられてアルヌールは即降参。苦笑して頷いた。

「もう何年も前だな。酒を飲んであれこれ話をしている間に流れで」
「……まぁ、あいつもちょっとアレな時期があったので過去の事は良いのですが。どうか今度はお気を付けください。彼の恋人はうちのグリフィスですので」
「……うん、浮気は駄目だし他人のものに手は出さない主義だ」

 思い浮かぶのはゴツい体に癖の強い黒髪、金色の目をした大男だ。あんなのに決闘でも挑まれたら一発でアウトだろうな。恐ろしいったらありゃしない。

 そんな話をしていると、不意に近づいてくる気配に気づいた。なんというか、穏やかな笑みを浮かべながらも隙を突かんとしている様子は相変わらずだ。

「アルヌール陛下、ようこそ帝国へ。その節は我が息子がお世話になりました」
「ジョシュア、久しぶりだ。息災なようでなによりだ」
「寄る年波には勝てませんよ」

 なんて言っているがそれ程老け込んだ様子は見られない。いや、見た目に皺が増えたなとか、白髪あるなとは思うけれど気配などはまったく衰えていない。相変わらず食えない男だ。
 これの息子がランバート。異彩というなら納得の親子だ。

「この度はフェオドール殿下にお会いに来られたのですかな?」
「まぁ、それも一つだ。一番は久しぶりにカーライルの顔を見たかった。奥方や子にも会えないままだったからな」
「そういえば、お子さんも二人目がお生まれになって久しくでしたな」
「あぁ。お前からの祝いの品、確かに受け取った。娘もとても気に入っている」

 二人目は姫だった。その折、ジョシュアは誕生祝いにと姫の服を幾つか送ってきた。どれも女の子らしく可愛らしいデザインだが、子供が誤飲しそうなボタンなどはついていない。ゆったりとしたもので体を締め付けないからか妻も娘も気に入っている。
 礼を述べるとジョシュアは何処か誇らしい顔をして笑った。

「あれは我が妻のデザインでしてね。子供に合った可愛らしい服が少ないからと考案したものです」
「おぉ、それは凄い。そういえばお前の奥方は多才だったな」
「ありがとうございます。よろしければお土産に幾つかお持ちいたしましょう。作ったものを着てくれる事が嬉しい妻ですので、お気遣いは無用で」
「……では、一緒に販路を教えてくれ。サイズも合わなくなるからな、また購入を検討したい」
「有り難うございます」

 うん、やっぱ侮れん。しっかり買わせる流れになってしまったが……妻と子が喜ぶなら少しくらいいいか。

 その後も何人かと挨拶をして話を聞いて。じつに実りある時間を過ごす事ができた。

 明日は変装してお忍びでフェオドールの家に行く。勿論、ボリスと一緒にだ。
 楽しみなような、ちょっと気が重たいような。でも、必要な事でもあるから目をそらさない。
 その為にこの国に来たのだから。
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