上 下
2 / 3

2.ビジューの乱心

しおりを挟む
それで、不戦勝ということで私に大祭の歌唱という大役が回ってきた。

ーーーえ…でもこのままじゃ私が歌って、王子様と婚約することになるのでは??
私は戸惑った。

ビジューは「私は歌える!」と最後まで言い張ったが、このガラガラ声では神もお怒りになるだろうと流石の審査員もビジューの主張を退けたのだった。

私が歌うことに決まった後のビジューの目は血走っていて相当怖かった。皆んな、彼女の本性はこっちですよ…

そして大祭の当日に私は歌姫としての衣装を身につけた。
黒い髪の毛に合わせて、黄金色のドレスが用意されていた。
着せてくれた使用人も、髪を結ってくれた美容技師もきちんと装った私を見て驚いていた。

「とってもお綺麗ですわ、エイダ様」

引きこもりの私は人前に出るとき面倒くさくてちゃんとおめかししてなかったのよね。

お祭りのクライマックスに、私の出番が来た。
身を引くつもりでちゃんと練習していなかったけど、3日間なんとか寝る間を惜しんで練習して講師のお墨付きを得た。

神殿の近くにある舞台に上がり、私は歌った。
伸びやかな高音が円形劇場に響き渡った。
これまで私ではなくビジューにしか興味を持っていなかった民衆も、私の透き通った声に驚いていた。
皆が私の歌声に酔いしれ、歌い終えると共に拍手と大歓声が沸き起こった。

祭神も満足したようで、私の額には正当な歌姫の後継者であることを示す印が浮かび上がった。

そして、その後すぐにシリウス王子から正式な婚約の申し出があった。

それから数日後、シリウス王子と私の婚約お披露目パーティーが開かれた。
ビジューは、あの日から部屋に引きこもってあまり姿を見せなくなっていた。
パーティーの日も朝から姿が見えず、両親も出席を諦めて私達だけで開催しようということになった。

王子はあれから熱心に私に手紙を送ってくださり、愛の証にと色々な宝石やドレスや帽子を贈ってくれた。

パーティー当日、ほとんど初めて私は王子と顔を合わせて手を取り合った。
私たちはお互いの愛を確信した。

そしてパーティーで皆の前に2人で出たとき、物陰からビジューが現れた。
彼女の一番お気に入りのドレスを着て、珍妙な化粧を施し、まるでピエロのような顔になっていた。
白塗りの顔に、ピンクの濃すぎる頬紅、唇からはみ出した真っ赤な口紅…

「きゃっ!ビジュー?!どうしたの!?」

「エイダお姉様。あなたにシリウス王子は渡しませんわ!」

「え?何を言ってるの?」
しおりを挟む

処理中です...